「家庭の事情で退職します」
「キャリアアップを目指して転職します」
面談やアンケートで語られる“退職理由”が建前であることは、現場のマネージャーなら肌で感じているかもしれません。
実際、退職者の本音としてよく挙がるのが、業務過多による疲弊や限界。
「仕事が多すぎる」「常に手一杯で余裕がない」──そんな声が、辞めた後にやっと届くことも少なくありません。
ではなぜ、社員は退職前にその本音を口にしなかったのか?
そして、どうすれば“本音を引き出し、組織の改善につなげる”ことができるのか?
本記事では、退職者の声から浮かび上がる「業務過多による離職のリアル」と、
退職面談やアンケート設計の見直しポイント、業務可視化の実践策までを詳しく解説します。
社員の「忙しすぎたから辞めた」という言葉を、単なる過去に終わらせないために。
今こそ、組織が“本音”と向き合うときです。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /
「業務過多」が退職理由として表に出にくい3つの理由
退職者の本音が「業務過多だった」にもかかわらず、実際の退職理由として表に出にくいのはなぜなのでしょうか。
そこには、本人の心理的なハードルと、組織側の聴き方・仕組みの課題が隠れています。
1.人間関係を悪化させたくないという気遣い
「忙しすぎた」と伝えることで、直属の上司やチームメンバーとの関係が気まずくなるのではないか──
そう考える社員は少なくありません。
特に、退職日まで職場に顔を出す必要がある場合、あえて角が立たない理由を選ぶ傾向があります。
2.「自分が弱い」と思われたくない心理
「他の人も同じくらい忙しいのに、自分だけ音を上げるのは恥ずかしい」
「自分のキャパシティが足りなかったのかも」
このような自己責任バイアスから、退職理由に“業務過多”を挙げにくくなるケースがあります。
その結果、真の原因は組織に伝わらず、同じ問題が繰り返されてしまいます。
3.退職アンケートや面談の選択肢が表面的
よくある退職アンケートには、「一身上の都合」「キャリア形成」「人間関係」など大まかな項目しかなく、
「業務過多」や「業務設計に問題があった」といった具体的な項目がないことも少なくありません。
さらに、面談の聞き手が直属の上司である場合は、部下が本音を言いづらい構造が生まれてしまいます。
このように、「業務過多」は単に忙しかったという話ではなく、表面化しにくい構造的な問題でもあります。
退職を“貴重なフィードバック”として受け止めるには、聴き方・設計の見直しが不可欠です。
退職者の声から見えた“本当の業務過多”の実態
一言に「業務過多」といっても、その中身は人によって異なります。
しかし、退職者の面談やアンケートを丁寧にひもとくと、共通するパターンが浮かび上がってきます。
属人化:業務の“丸投げ”が常態化
- 「できる人」に仕事が集まりやすい構造
- 明確な役割分担やドキュメントが整備されていない
- 引き継ぎが属人的で、異動や退職のたびに混乱が起きる
属人化は、負担の偏りを生み出すだけでなく、退職の連鎖を引き起こす温床にもなります。
透明なOJT:「聞けば教える」スタンスの限界
- 新人や中堅社員に業務を任せつつも、十分なフォローがない
- 「とりあえずやってみて」と言われ、失敗を恐れて疲弊
- 教える側も忙しく、育成が後回しになってしまう
このような状態では、社員は「責任だけが重くなる」感覚に陥りやすく、それが蓄積して離職に至るケースも少なくありません。
“見えないタスク”の蓄積:上司に伝わらない負荷
- チャット対応や報告作業など、日々のこまごまとしたタスクが積み重なっている
- 評価に反映されにくい仕事ほど、精神的な負担が大きくなりやすい
- 「忙しそうに見えない」と言われることで、さらに声を上げづらくなる
こうした“見えない業務負荷”を放置すれば、上司や経営層との認識ギャップが拡大し、結果として「何も改善されない」という悪循環を生み出します。
関連記事:業務過多を本気で解消する方法|原因の見える化から改善・定着まで徹底ガイド
業務過多による退職を防げなかった企業の共通点
「人が辞めてしまったのは、個人の事情だった」
「忙しいのは今だけ」──こうした認識のまま改善を先送りにした結果、想定以上の離職と業務停滞に直面してしまう企業は少なくありません。
以下は、実際に退職が相次いだ企業に見られた共通点です。
上司や経営層が“表面的な働きぶり”しか見ていない
表面的に見える残業時間や業務量だけで「問題なし」と判断してしまい、実際の業務フローや負荷状況を見に行く仕組みがないケースは非常に多く見られます。
結果、「なぜ突然辞めたのかわからない」という事態につながります。
フィードバックの機会が機能していない
退職面談や1on1が「単なる儀礼」になってしまい、社員が本音を出せる雰囲気や信頼関係が築けていないと、業務過多のサインを組織としてキャッチできないまま手遅れになることも。
属人化や役割不明瞭な状態が放置されている
「○○さんに聞けばなんとかなる」「ベテランが頑張っているから大丈夫」
こうした属人的な仕事の進め方が常態化している企業では、後任が育たず、負荷の分散もできないまま、退職が引き金となってさらなる混乱を生みます。
社内コミュニケーションの断絶
「業務が多いです」と言っても、上司が「みんなそうだよね」と返して終わる。
こうした共感のない反応は、社員の“もういいや”という諦めを加速させます。
退職は、単なる個人の選択ではありません。
改善のヒントが詰まった「組織からのフィードバック」でもあります。
退職者の本音を拾うアンケート・面談の設計ポイント
「業務過多が理由だった」と退職後に判明するケースは後を絶ちません。
本音をその場で引き出せなければ、問題の再発を止める手がかりすら得られないのです。
ここでは、業務過多による退職の兆候を見逃さず、組織改善につなげるための面談・アンケート設計のポイントを解説します。
1.選択肢に「業務負荷に関する項目」を明記する
「キャリアアップのため」などの無難な選択肢だけでは、真の原因が埋もれてしまいます。
- 「業務量が適切でなかった」
- 「責任に対して支援が不十分だった」
- 「業務の属人化が進んでいた」
といった具体的な選択肢を用意することで、原因の特定が格段にしやすくなります。
2.「自由記述欄」を機能させるための設問設計
自由記述欄は本音を引き出す最大のチャンスですが、「ご自由にお書きください」だけではほとんど活用されません。
以下のように“具体的な誘導”を加えると、記載率と内容の質が上がります。
- 「業務量や内容に関して感じていたことがあれば、ぜひご記入ください」
- 「退職を決断するうえで、大きなきっかけとなったことは何でしたか?」
3.面談は第三者または“信頼できる上司”が実施
直属の上司が面談を行うと、部下は遠慮してしまいがちです。
心理的安全性を高めるには、人事担当や外部カウンセラーなど、“本音を出しやすい聞き手”の設定が有効です。
難しい場合でも、「事実だけを淡々と記録するスタンス」を貫ける上司を面談担当とするなどの工夫が必要です。
4.面談後の情報は“組織の改善”に確実につなげる
集めた声を単なる“参考意見”で終わらせるのではなく、実際の業務改善や仕組みの見直しに反映させることが不可欠です。
退職者からのフィードバックをもとに業務の可視化や業務整理を進めることで、「言っても変わらない」という職場の空気を変える第一歩になります。
業務過多の“予兆”を見逃さないために現場ができること
社員が退職を決断するまでには、必ず“サイン”があります。
それを見逃さず、早期に手を打てるかどうかが、離職を防ぐ分かれ道です。
ここでは、現場マネージャーやチームリーダーが日常業務の中で実践できる「業務過多の兆候」に気づくためのポイントをご紹介します。
1.発言や表情の変化に敏感になる
- 「最近、口数が減った」
- 「雑談に乗ってこなくなった」
- 「些細な指摘で落ち込むようになった」
こうした変化は、メンタルや業務負荷の高まりの兆候であることが多いです。
忙しそうに見えない社員ほど、無理をしている場合があります。
2.日報・週報の“行間”を読む
社員が書く日報・週報には、直接書かれていない「行間」の情報が潜んでいます。
- タスクの羅列だけで終わっている
- 成果は出ていても、達成感が見えない
- 「頑張ります」など無理な前向きワードが多い
このような傾向が続く場合は、支援が必要なサインと捉えるべきです。
3.チェックインミーティングの実施
1on1を毎週行うのが難しければ、週1回の10分チェックイン(調子どう?を聞くだけ)でも効果があります。
大事なのは、「何に一番時間を使っているか」「今の仕事で気になっていることは?」といった、業務の中身に踏み込む質問をすることです。
4.業務量を“体感”で把握しない
「残業が少ないから大丈夫」ではなく、実際のタスク数やボリュームを定量的に把握する仕組みが必要です。
タスク管理ツールや業務棚卸しワークを通じて、見えない業務の“見える化”を習慣化することで、早期の対応が可能になります。
関連記事:業務棚卸しのやり方を徹底解説|5ステップでムダを洗い出し改善につなげる方法とは?
社員の声を“辞めた後”ではなく“辞める前”に聞くために
業務過多による退職を防ぐ最大の鍵は、「辞める前」に声を拾う仕組みを持てるかどうかです。
すでに退職を決めたあとでは、手遅れになるケースも少なくありません。
本章では、事後対応ではなく“予防”につなげるための体制づくりについて、ポイントを整理します。
定期的な「声の吸い上げ仕組み」をつくる
社員アンケートを年1回だけ実施していても、実効性はありません。
理想は、業務量や働き方に関する簡易チェックを月1〜2回実施すること。
- 「最近、業務量は適切にコントロールできていますか?」
- 「業務を進めるうえで不安や負担を感じることはありますか?」
といった定点観測の設問を継続的に設けることで、小さな変化を拾いやすくなります。
部署間で“声の質と傾向”を比較する
全社アンケートやチェックイン結果は、個人単位での対応も重要ですが、部署・チーム単位で傾向を把握することも有効です。
たとえば、
- A部門:業務過多による負担感が高い
- B部門:人間関係に関する不満が多い
といったように、部署ごとの温度感の違いを可視化することで、業務設計や人員配置の見直しにも活用できます。
社員の「声」をアクションにつなげることが信頼を生む
もっとも大切なのは、「声を集めて終わり」にしないこと。
具体的なアクションにつなげることで、社員の側も「話しても無駄ではない」と感じ、
より率直な意見が集まりやすくなります。
結果として、“退職”が出てから慌てるのではなく、“予兆”の段階で手を打てる組織へと変わっていけるのです。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /
まとめ:退職理由が「業務過多」にならない組織づくりへ
社員が「業務が多すぎて辞めたい」と感じる背景には、単なるタスク量の問題だけでなく、仕組み・支援・対話の不足があります。
本記事でご紹介したように、
- 業務過多のサインを見逃さず
- 本音を引き出せるアンケート・面談を設計し
- 現場での予兆キャッチと全社的な声の吸い上げを仕組み化する
ことで、“退職につながる業務過多”を未然に防ぐ道筋は必ず作れます。
そして、これらの取り組みを本当に機能させるには、社員が安心して声をあげられる土壌と、実際に改善されていく体験が欠かせません。
その第一歩として、業務可視化や負荷の分散をテーマにした研修や支援施策の導入を検討してみてください。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /
- Q業務過多による退職を防ぐには、どこから着手すべきですか?
- A
まずは現状の業務量やフローを見える化し、社員の声を集めることが重要です。
属人化している業務や、過度な負荷がかかっているポイントを洗い出すことで、改善の具体策が見えてきます。
- Q社員アンケートで業務過多のサインを拾うには、どんな質問をすればいいですか?
- A
「最近、業務量は適切にコントロールできていますか?」「業務で困っていることはありますか?」など、
業務の質と心理的な状態の両面から問いかける設問が効果的です。月1回の簡易チェックでも予兆を把握できます。
- Q業務過多が退職理由として挙がるのはどのような職場環境ですか?
- A
属人化が進み、相談しにくい雰囲気のある職場では、業務過多が深刻化しやすい傾向にあります。
また、上司や経営層が現場の実態を把握できていないケースも注意が必要です。
- Q退職者面談やアンケートの内容を改善施策にどう活かせばいいですか?
- A
内容を部署別に集計・傾向分析することで、問題の構造的な背景を把握できます。
さらに、改善アクションを社内にフィードバックすることで、社員の信頼回復にもつながります。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /