「生成AIの導入、うちはトップダウンで進めています」
近年、多くの企業が生成AIを業務に取り入れようとしていますが、その推進を「経営層主導」で進めるケースが増えています。判断のスピードや全社的な統制という点では、トップダウン型の導入は有効です。しかしその一方で、こんな声が現場から上がっていませんか?
- 「ツールは入ったけど、誰も使っていない」
- 「目的が分からず、現場が置き去りになっている」
- 「PoCは終えたが、全社展開にはつながっていない」
生成AIの活用は、単なるツール導入ではありません。現場業務に根ざし、関係者が納得して使いこなせる“土壌”があってこそ、初めて意味を持つものです。トップが旗を振るだけでは、AIは「使われない仕組み」のまま止まってしまいます。
では、どうすればよいのでしょうか?
キーワードは「対話」です。
本記事では、トップダウン型のAI導入が陥りがちな課題を整理し、それを乗り越えていくための「対話の仕組み」のつくり方を解説します。
“使われるAI”を実現するために、現場とともに育てる仕組みづくりの第一歩を考えていきましょう。もちろん、トップダウンで進めること自体が悪いわけではありません。問題は「現場との接続があるかどうか」です。
なぜ“トップダウンのAI導入”は失敗しやすいのか?
生成AIの導入は、「まずは試しに使ってみよう」というボトムアップ的な進め方よりも、経営層主導で進めるケースが多く見られます。
しかし、トップダウンで導入されたAI施策が現場で定着しないという課題も頻出しています。ここでは、その背景にある3つの典型的な原因を見ていきましょう。
① 意思決定と現場の課題が乖離している
経営層は、「生成AIを活用して業務効率化を図りたい」「競争力を維持したい」という意図をもって導入を決定します。
一方で、現場はその背景を十分に理解しておらず、「何のためにこのツールを使うのか」が腹落ちしていないケースが多いのです。
特に、
- 業務のどこにAIを使えばいいのか分からない
- そもそも現状業務に不満がない(変化の必要性を感じていない)
といったギャップが埋まらないままでは、AI導入は“経営層の一方的な施策”として捉えられてしまいます。
② 現場に“活用の想像力”が足りない
生成AIの可能性を正しく理解していなければ、活用のイメージを膨らませることはできません。
「ChatGPTって質問に答えてくれるツールでしょ?」という理解にとどまっている状態では、現場主導での活用提案や改善活動は起きづらいのが現実です。
結果として、導入しても“使い方が分からない”という理由で放置されてしまい、「導入したのに誰も使わない」という典型的な失敗パターンにつながります。
③ 共通言語がなく、議論が噛み合わない
経営と現場が同じ言葉で会話できていない――これはAI導入において極めて深刻な問題です。
たとえば、
- 「PoC(概念実証)」といっても、何を検証するのか目的が曖昧なまま進行
- 「プロンプトが大事」と言われても、現場には知識も経験もない
- 「業務効率化」と言っても、何を削減するか認識が一致していない
こうした“リテラシーのズレ”が蓄積されると、AI施策の会議自体が建設的に進まなくなってしまいます。
こうしたギャップを放置したままPoC(概念実証)を進めると、成果が曖昧なまま頓挫するリスクも。
👉 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ
トップダウンの強みと限界|どう設計すれば“共創型”になるか?
AI導入をトップダウンで進めること自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、経営層の意思決定によってスピード感を持って推進できる点は、ボトムアップでは得られない大きなメリットです。
ただし、「トップダウン=指示命令型」のままで進めてしまうと、現場との間に大きな断絶が生まれ、活用が定着しないというリスクも伴います。
ここでは、トップダウンの強みと限界を整理したうえで、どうすれば“共創型のAI導入”に転換できるかを考えていきましょう。
■ トップダウンの強み
強み | 内容 |
意思決定が速い | 現場の合意形成に時間をかけずに着手できる |
リソース投下がしやすい | 予算や人員を戦略的に割り当てられる |
全社視点で動ける | サイロ化を防ぎ、横断的な施策が実現できる |
特に、PoCから本格導入に進むタイミングでは、経営層の関与が不可欠です。
「どの部門にどう拡大するか」「評価軸をどう設計するか」といった全社的な判断が必要になるからです。
■ トップダウンの限界
一方で、以下のような“現場との断絶”が起きやすいのも事実です。
- 現場に目的が伝わらず、主体性が生まれない
- 導入したツールが現場業務と合わず、使われない
- 成果が見えないまま「なぜやってるのか」が曖昧になる
こうした状況を放置すると、「また上から何か言ってきた」と現場の信頼を損ない、導入自体が形骸化してしまいます。
■ どうすれば“共創型”に転換できるのか?
キーワードは、「共通目的」と「対話の仕組み」です。
トップがビジョンや方向性を示すだけでなく、「なぜ導入するのか」「自社にとって何を解決したいのか」を、現場と一緒に言語化していくことが不可欠です。
そのためには、以下のような仕掛けが重要になります。
- 現場の声を聞くワークショップの設計
- リテラシーギャップを埋める研修の導入
- 実際の業務にひもづいたユースケースの検討
こうした仕組みがあってはじめて、「経営の意思決定」×「現場の納得感」が一致し、組織としての実装力が生まれていきます。
成功する企業が導入している「対話の仕組み」とは?
では実際に、AI導入をうまく進めている企業は、現場との「対話」をどのように設計しているのでしょうか?
ここで重要なのは、“一方通行の説明会”ではなく、双方向の共創の場をつくっていることです。
成功企業は、AI活用を単なるテクノロジー導入ではなく、「業務と組織の再設計プロジェクト」と捉え、以下のような対話の仕組みを取り入れています。
① 活用ユースケースを“共に発見”するワークショップ
たとえば、ある企業では「業務棚卸し × AIアイデア出し」をセットで行うワークショップを設計。
現場のメンバー自身が、自分たちの業務の中から「AIが活きそうなポイント」を発見していくスタイルです。
- 「この工程、実は手作業が多くて非効率なんです」
- 「この資料作成、毎回コピペが多くて…」
- 「こういうチェック作業、AIに任せられるかも」
こうした“現場発”の気づきは、自分ごと化の第一歩になります。
押しつけではなく、「自分たちがつくるAI活用」の視点が育っていきます。
② “対話の場”を仕組みとして継続運用
単発のヒアリングや説明会では、継続的な改善にはつながりません。
成功企業は、「対話」を一時的なイベントではなく、定常的な仕組みとして運用しています。
- AI活用に関するフィードバック会(隔週)
- 生成AI活用アイデア共有スレッド(Slackなどで常設)
- 業務部門ごとの“導入推進チーム”の設置
こうした“見える場所”“開かれた場所”での対話があると、現場の温度感や課題も浮かび上がりやすくなります。
③ 評価・成功体験を“言語化”して社内に展開
「AIを使ったら少し楽になった」「1時間かかっていた作業が10分に短縮できた」といった、小さな成功体験の共有も、対話の一部です。
そのために必要なのは、「効果を可視化し、伝える仕組み」です。
成功事例を言語化・数値化して社内に展開することで、他の部門への展開がスムーズになります。
このように、導入の目的・課題・効果を「対話」で可視化していくことが、生成AIの全社活用を成功に導く鍵となります。
「対話」が機能する組織に共通する3つの条件
「対話の重要性は理解した。でも、うちの会社でうまくいくのか?」
そんな不安を持つ方も多いかもしれません。
実際に、AI導入が成功している企業には、“対話が自然に機能する”ための共通点があります。ここでは、特に重要な3つの条件を紹介します。
① 共通言語としてのAIリテラシーがある
まず前提として、「そもそもAIとは何か」「何ができて何ができないのか」という基本的なリテラシーの共有がなければ、対話は成立しません。
たとえば、
- 「プロンプトって何?」
- 「LLMって、何かの略語ですか?」
- 「ChatGPTって正確なんですか?」
こうした前提のバラつきが大きい状態では、同じテーブルについても議論が噛み合わないのです。
🟩 対策:まずはリテラシー研修で土台を整える
AIのスキル以前に、考え方や活用視点、注意点などを共有する「リテラシー研修」が必要不可欠です。
研修によって共通の“言語”を持つことが、全ての出発点となります。
② 上司・部下の垣根を超えたフラットな場がある
形式的な“報告会”や“承認フロー”の延長では、本音は出てきません。
重要なのは、上下関係に左右されずに自由に発言できる場をつくることです。
- 意見の正しさより「使ってみたい」「困っている」の共有を優先
- 参加者の役職や部署を混ぜる
- 失敗もポジティブに評価する文化を意識
🟩 対策:心理的安全性を前提としたワーク設計
たとえば「こういう作業、実は面倒で…」といった現場の声が、AI活用のヒントになります。
これを引き出せるかどうかが、成功の分かれ道です。
③ 自社の業務とAI活用を結びつける視点がある
「AIで何ができるか」ではなく、「自分たちの業務のどこに活用余地があるか」という視点で考えられるかどうかがポイントです。
- 業務を構造化して捉える力
- 手作業や属人化のボトルネックに気づく力
- 生成AIに任せる・補完させるという発想の転換
🟩 対策:業務棚卸し×AI発想トレーニングの導入
日々の業務を言語化し、業務プロセスのなかで「AIが使えそうな余地」を見つけるセッションが効果的です。
これらの条件が揃ってはじめて、「対話」は組織の中で持続的に機能する仕組みとして定着していきます。
「リテラシー研修+対話設計」で進める導入ロードマップ
ここまで見てきた通り、AI導入を“使われる仕組み”にするには、現場との共創=対話の設計が不可欠です。
そしてその対話を成り立たせるためには、共通言語=リテラシーの土台づくりが欠かせません。
この2つを軸にした導入ステップは、以下のような流れで進めるのが効果的です。
ステップ①:経営層と現場の“前提”を揃えるリテラシー研修
AI導入の初期段階で、「全社的にリテラシーを揃える」ことは極めて重要です。
単なるツールの使い方ではなく、生成AIの仕組みや可能性・リスクを理解し、共通の視点で会話できる状態を目指します。
- ChatGPTとは?LLMとは?といった基本知識の整理
- 実務での活用シーンとその効果の例
- 情報漏洩やハルシネーションなど、リスクに対する理解
🟩 この研修が、対話の“スタートライン”を揃える役割を果たします。
ステップ②:業務選定とユースケース発見のための対話設計
研修を通じて共通理解をつくったうえで、次に行うべきは業務を棚卸ししながら、活用の可能性を現場と一緒に探るプロセスです。
- 「属人化している業務はどこか?」
- 「繰り返し作業や判断基準の曖昧な業務はないか?」
- 「生成AIに置き換えられる余地はないか?」
この段階では、ワークショップ形式で実務担当者を巻き込むことがポイントです。
“使う人自身が考える”からこそ、納得感と実行力が生まれます。
ステップ③:PoCと評価軸設計で「小さな成功体験」をつくる
最後に、PoC(概念実証)を通じて効果の可視化と改善のサイクルを回していきます。
この段階で重要なのは、「どの指標で成果を測るか」「どう報告・共有するか」を決めておくことです。
- 工数削減効果(例:月30時間の短縮)
- 質の向上(例:ミス率低下、対応速度UP)
- 主観的評価(例:「楽になった」「業務が整理された」)
これらを社内に展開することで、「AI活用って本当に意味があるんだ」と感じる人が増え、全社的な展開に弾みがつきます。
✅ 生成AI活用を“現場で使える仕組み”にするには?
現場と一緒に活用を考える「対話の設計」と、その前提となる「リテラシーの底上げ」はセットで考えるべきです。
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トップダウン施策が失敗する現場あるあるとその処方箋
「上からの指示で始まったAI導入。現場では正直、あまり使われていません」
そんな声が、推進担当者のもとに届いていませんか?
トップダウン型の施策が現場でうまく機能しないとき、そこにはあるあるの失敗パターンがあります。ここでは、よくある現場の反応と、それに対する具体的な打ち手を紹介します。
① 「ツールは入ったが、誰も使っていない」
背景のあるある
- 使い方が分からない
- 業務のどこで使えばいいのか分からない
- そもそも目的が分からない
処方箋
- リテラシー研修を導入し、活用の前提を揃える
- 「何のために使うのか」を対話の中で明確化する
- トライアル活用の場を設け、「試していい空気」を醸成する
② 「一部の人だけが使っていて、展開が広がらない」
背景のあるある
- 情報システム部門や一部のデジタル人材だけが活用
- 他部署には知らされていない、理解されていない
- 属人化し、異動や退職でノウハウが消える
処方箋
- 全社共通のリテラシー研修で土台を整備
- 活用ユースケースを“現場ごと”に発掘し、展開計画を設計
- 成果やナレッジを「見える化」して、横展開の流れをつくる
③ 「“やらされ感”が強く、活用の意欲が湧かない」
背景のあるある
- 「どうせまたすぐ別のツールが入るでしょ」という冷めた反応
- 意見が聞かれていない、選択肢が与えられていない
- 既存業務が忙しく、使う余裕がない
処方箋
- 対話の場を設け、「なぜ導入するのか」を共有する
- ユーザー主導のPoCやアイデア募集で自発性を引き出す
- 既存業務の削減とセットで導入を設計し、“時間の余白”を生む
これらの現場あるあるは、単なるツール導入では解決できません。
“なぜ導入するのか”を現場と一緒に考える仕組みがなければ、浸透も活用も進まないのです。
導入の目的を“現場と共に考える”ことが最大の成功要因になる
生成AI導入を本当に意味のあるものにするには、単に「使わせる」ことを目的にしてはなりません。
大切なのは、「なぜ導入するのか?」という問いを、現場と一緒に考えるプロセスを持つことです。
「PoC前の目的共有」がAI導入を成功に導く
多くの企業では、PoC(概念実証)を「とりあえずやってみよう」とスタートします。
しかし、目的やゴールのすり合わせがないまま始めると、現場ではこう思われがちです。
- 「何を検証したかったのか分からない」
- 「とりあえず使ったけど、評価基準が曖昧」
- 「やってみたけど“で?”と言われて終わった」
これでは、せっかくのPoCも“作業”で終わってしまいます。
逆に、導入の目的を事前に言語化・共有しておけば、現場の視点が加わり、具体的な成果につなげることができます。
現場の“創造力”を引き出す土壌を整える
AI活用が成功する組織には、ある共通点があります。
それは、「現場の創造力が自走し始めていること」。
- 「こう使ったら便利かも」と自発的な提案が生まれる
- 他部署の事例を見て、自部門でも応用してみようという動きが出る
- ツール導入がゴールではなく、“使いながら改善する”文化が根づく
このような状態を生むには、目的を共有し、考える余白をつくる設計が不可欠です。
トップダウンの力で方向性を示しつつ、現場とともに育てる姿勢が、最終的な成果につながります。
“指示”から“共創”へ。AI導入の在り方を変える
AI導入は、もはや「ツールを入れれば終わり」の時代ではありません。
本当に成果を出す企業は、経営と現場が同じ目線で語り合い、ともに仕組みを育てていく体制を持っているのです。
だからこそ、導入の最初の一歩として、共通言語を持ち、対話が生まれる土台づくり=AIリテラシー研修が重要になります。
\ 「使われるAI導入」を実現する第一歩からはじめませんか? /

よくある質問(FAQ)
- QトップダウンでAI導入を進めたが、現場の反応が薄いです。どうすれば巻き返せますか?
- A
まずは「なぜ導入するのか?」を現場と共有し、対話の場を設けることが重要です。
PoCを実施する場合でも、目的や評価軸を事前にすり合わせておくことで、現場の納得感が高まり、活用意欲にもつながります。
- Q経営層からの指示で進めていますが、現場にAI活用のイメージがありません。
- A
AIの活用イメージを持ってもらうためには、まずリテラシーの底上げが欠かせません。
「何ができるのか」「どんな業務に向いているか」などを具体的に知ることで、現場からも活用アイデアが生まれやすくなります。
\ 「使われるAI導入」を実現する第一歩からはじめませんか? /
- Q対話の仕組みって、具体的に何をすればいいのですか?
- A
一例としては、以下のような仕組みが効果的です:
- 業務の棚卸しとAI活用アイデア出しを組み合わせたワークショップ
- 部門横断の「AI活用共有会」や「活用相談会」
Slackなどでアイデア共有スレッドを常設する など
ポイントは、“参加型”の場を設計し、現場が自発的に関わる余地をつくることです。
- 業務の棚卸しとAI活用アイデア出しを組み合わせたワークショップ
- Q社内のAIリテラシーにバラつきがあり、導入に不安があります。
- A
導入初期の段階で、全社での共通理解を得ることが成功の鍵です。
生成AIの仕組み・可能性・リスクを正しく学ぶ機会として、リテラシー研修の導入をおすすめします。
SHIFT AIでは、実務で使えるリテラシー教育を重視した法人向け研修をご用意しています。
\ 「使われるAI導入」を実現する第一歩からはじめませんか? /
- Qトップダウンのメリットはないのですか?
- A
あります。特に導入初期の意思決定やリソース投下、全社的な舵取りには、トップダウンが欠かせません。
大切なのは、その後の“現場との共創”をどう設計するかです。「トップダウンで旗を振る+現場で活用を育てる」の両輪が揃ってこそ、成果が定着します。