税理士事務所でもAIの導入が進みつつあります。
「記帳や仕訳の自動化」「顧客対応の効率化」など、そのメリットは大きいものの、導入を検討する際に最も気になるのが「費用はどのくらいかかるのか」という点ではないでしょうか。
実際に検索すると、多くの事務所サイトや比較ページで「顧問料の目安」や「業務ごとの料金表」が公開されています。しかし、それらの情報は「従来型の税理士費用」にとどまり、AI導入によって費用構造がどう変化するのかまでは触れていないケースがほとんどです。
本記事では、
- 税理士業務にかかる従来の費用相場
- AI導入で追加発生する費用項目
- AI活用によるコスト削減のポイント
を整理し、導入検討に役立つ「具体的な費用感」を解説します。
記事を読み終えたときには、「自事務所がAI導入にいくらかかるのか」「その費用をどう回収できるのか」がイメージできるはずです。
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税理士がAIを導入する背景と「費用」が注目される理由
税理士がAIを導入する背景には、業界全体の構造的な課題があります。
特に「人手不足」「顧客からのスピード要求」「費用対効果への関心」は、多くの事務所に共通するテーマです。
ここからは、それぞれの要因を具体的に見ていきましょう。
税理士業界の人手不足・業務効率化ニーズ
近年、税理士業界では人材不足が深刻化しています。特に若手人材の採用難や定着率の低下は顕著で、既存メンバーに業務負荷が集中する傾向があります。
こうした状況で注目されているのが、AIによる記帳・仕訳・資料作成の自動化です。単純作業を効率化することで、限られた人員でもサービス品質を維持できる点が大きな導入理由となっています。
顧客からのスピード要求の高まり
企業経営における意思決定はますます迅速化が求められています。
「決算書を早く出したい」「税務相談に即日対応してほしい」といったニーズに応えるには、従来の人力中心の体制では限界があります。
AIを活用すれば、処理スピードを高めると同時に、夜間や休日でもシステムが稼働でき、顧客満足度向上にも直結します。
AI導入は「費用増」ではなく「費用対効果」の議論
一方で、AI導入にあたって「新たな費用が増えるのではないか」という懸念も少なくありません。
しかし本質的には、追加コストが発生するのではなく 「導入によってどの程度業務効率や売上に還元できるか」という費用対効果の視点 が重要です。
例えば、月額数万円のAIツールを導入しても、担当者の作業時間を毎月数十時間削減できるなら、トータルではむしろコスト削減につながります。
この点については、関連記事「税理士はAIに代替される?活用できる業務・できない業務」でも詳しく解説しています。導入対象業務を正しく見極めることが、費用対効果を最大化する第一歩となります。
税理士業務にかかる従来の費用相場
AI導入による費用を考える前に、まずは従来型の税理士サービスにどの程度のコストがかかるのかを押さえておく必要があります。
実際の料金は事務所の規模や提供範囲によって変動しますが、一般的な相場感は大きく「年商別」「業務別」「業種別」で示されることが多いです。
年商別の顧問料の目安
税理士報酬の基本は、企業の売上規模(年商)によって変動するケースが主流です。
売上が大きいほど処理する取引数や資料の量が増えるため、報酬も高く設定されます。
一般的な相場感(例)
- 年商5,000万円未満:月額 30,000円〜40,000円
- 年商5,000万〜1億円:月額 40,000円〜60,000円
- 年商1〜3億円:月額 60,000円〜100,000円
- 年商3億円以上:月額 100,000円以上
※あくまで目安であり、同じ年商でも「記帳代行込みか否か」「訪問頻度」などで差が生じます。
業務別の料金目安(法人税・所得税・相続税)
顧問契約以外にも、申告や特定業務ごとに費用が発生します。
代表的な業務と料金相場
- 法人税申告:150,000円〜
- 所得税申告:100,000円〜
- 消費税申告:100,000円〜
- 相続税申告:200,000円〜数百万円(遺産総額に応じて変動)
事務所ごとに報酬体系が異なるため、同じ「法人税申告」でも10万円台から30万円以上まで幅があります。料金の幅は「業務範囲の深さ」と「対応のスピード」に比例すると考えると分かりやすいでしょう。
業種別モデルケース
一部の税理士法人では、具体的な「業種別モデルケース」を提示しており、自社と比較しやすい形になっています。
モデルケースの例
- 建設業:年間 846,000円(顧問料+記帳代行+申告料などを含む)
- 医業:年間 1,362,000円(医療特有の会計処理を含む)
このように、業種によっては専門的な会計処理が必要なため、一般的な顧問契約より高額になることがあります。内訳を見ていくと、顧問料だけでなく 「システム利用料」「申告料」「記帳代行料」 など複数項目で構成されている点が特徴です。
税理士費用の相場まとめ表
区分 | 相場の目安 | 備考・特徴 |
年商別顧問料 | 年商5,000万円未満:月額 3〜4万円年商5,000万〜1億円:月額 4〜6万円年商1〜3億円:月額 6〜10万円年商3億円以上:月額10万円〜 | 取引量や資料数に比例して費用が増加。訪問頻度や記帳代行の有無で差が大きい。 |
業務別申告料 | 法人税申告:15万円〜所得税申告:10万円〜消費税申告:10万円〜相続税申告:20万円〜数百万円 | 相続税は遺産総額に応じて大きく変動。その他業務も「どこまで対応するか」で価格差が生じる。 |
業種別モデルケース | 建設業:年額 約84.6万円医業:年額 約136.2万円 | 顧問料+記帳代行+システム利用料+各種申告料を含む。専門性の高い業種ほど高額になる傾向。 |
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AI導入で追加発生する費用項目
従来の顧問料や申告料に加え、AIを導入する場合には新たなコストが発生します。ここでは代表的な項目を整理しておきましょう。
AIツール利用料
最も一般的なのが、クラウド型AIツールの月額利用料です。
多くはサブスクリプション型で提供されており、月額数千円〜数万円が相場です。
利用料は以下の要素で変動します。
- アカウント数(利用ユーザー数が多いほど割高に)
- 処理量(仕訳件数や処理データ量に応じた従量課金)
- 機能範囲(記帳自動化だけか、顧客対応・レポート機能まで含むか)
従来の「人件費」と比較すると安価に見えますが、継続的に発生するため長期利用を前提にした試算が必要です。
初期導入費用
AIツールは契約すればすぐに活用できるものばかりではありません。
既存の会計ソフトとの連携や事務所の業務フローへの組み込みが必要であり、その際に初期導入費用が発生します。
代表的な初期コストの例
- システム設定・環境構築
- 会計ソフトやCRMとの連携設定
- 初期教育(担当者へのトレーニング)
市販ツールであれば数万円〜数十万円程度で済みますが、カスタム開発を伴う場合は数百万円規模になるケースもあります。特に大規模事務所で独自システムを構築する場合は注意が必要です。
隠れコスト
見落とされがちなのが「隠れコスト」です。
- 社内研修・リテラシー教育
AIを導入しても、使いこなせなければ効率化にはつながりません。初期だけでなく継続的な教育コストが発生します。 - セキュリティ対策費用
顧客データを扱う以上、情報漏洩防止のセキュリティ体制が必須です。アクセス制限や監査ログ機能、外部監査対応などが追加費用につながります。
これらは料金表には明示されにくいため、導入前に必ず見積もりに含めて検討することが大切です。
AI導入でコストを抑えられるポイント
AI導入は「費用が増えるのでは?」と不安に思われがちですが、実際には工夫次第でトータルコストを抑えることが可能です。ここでは代表的な3つのポイントを解説します。
自動化による作業時間削減
AIが得意とするのは、繰り返し発生するルーティン作業の自動化です。
たとえば、
- 記帳や仕訳の自動化 → 手入力の削減
- 請求書・領収書の自動読取 → 書類整理の効率化
- 顧客からの定型的な問い合わせ対応 → チャットAIによる即時回答
これにより、スタッフが本来注力すべき高度な判断業務に時間を割けるようになり、人件費の圧縮につながります。AIの利用料を上回る効果が期待できるケースも少なくありません。
低価格モデルの出現(月額980円サービスなど)
近年では「AI活用で月額980円」という破格のサービスも登場しています(PR TIMES事例)。
なぜここまで安価にできるのかというと、
- AIを中心に業務を設計し直し、人件費を極小化
- クラウド型で提供し、運用・保守を集約化
- サービス対象を小規模事業者に限定することで標準化を徹底
といった工夫があるからです。
もちろんすべての事務所に適しているわけではありませんが、従来の「高額な顧問料しか選べない」という常識を覆す存在として注目されています。
クラウド型サービスで固定費削減
従来、システム導入にはサーバー購入や保守・更新費用が発生していました。
しかしクラウド型AIサービスであれば、
- サーバー購入不要
- アップデートも自動反映
- セキュリティ管理もベンダー側で実施
となり、固定費や管理負担を大幅に削減できます。
中小規模の税理士事務所にとって、導入ハードルが下がる大きな要因です。
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費用対効果を高める導入の進め方
AI導入は、単にツールを契約すれば成果が出るものではありません。
事務所の規模や業務内容に応じて最適な導入手順を踏むことで、費用対効果を最大化できます。ここでは具体的な進め方を整理します。
事務所規模に応じた選定
AIツールは「小規模事務所」と「大規模事務所」で選ぶべきタイプが異なります。
- 小規模事務所:低額のクラウド型AIサービスが有効。導入コストを抑えつつ、日常業務の省力化に直結します。
- 大規模事務所:顧客数や業務量が多いため、カスタム開発や既存システム連携型のAI導入が望ましい。初期投資は高くても、効率化によるリターンが大きい。
ポイントは「無理に最新・高額のシステムを入れるのではなく、自事務所の規模に合った選択をすること」です。
試験導入で効果測定
AI導入は「まず小さく試す」ことが成功の鍵です。
- 無料トライアルを活用
- 部署や案件を限定して導入
- 効果を数値化(処理時間短縮・人件費削減額など)
このステップを踏むことで、ROI(投資対効果)を確認しつつ、安全に全社展開へ移行できます。
いきなり全面導入して失敗するリスクを避けられる点も大きなメリットです。
補助金・助成金の活用
AI導入には公的な支援制度も活用できます。
- IT導入補助金:中小企業のデジタル化支援に広く利用可能。AIツールやシステム導入が対象になるケースも多い。
- デジタル化支援制度:自治体独自の補助金・助成金が設けられている場合もある。
補助金を利用すれば、初期費用の負担を大幅に軽減できます。導入を検討する際には、必ず利用可否を調べるのがおすすめです。
通常の税理士費用とAI導入後の費用比較
AIを導入すると「新しいツール代がかかる=費用が増える」と考えがちです。
しかし実際には、人件費削減や業務効率化によるコスト削減効果が大きく、トータルではむしろ抑制できるケース が多く見られます。
以下は、従来型とAI導入後の費用イメージを比較したものです。
費用比較表(例)
項目 | 従来型の税理士費用 | AI導入後の費用 |
顧問料 | 月額 5万円 | 月額 5万円(変わらず) |
記帳代行料 | 月額 3万円 | 0円(AI自動化で削減) |
人件費(補助スタッフ) | 月額 15万円 | 月額 5万円(補助スタッフ削減) |
AIツール利用料 | 0円 | 月額 2万円 |
システム保守費用 | 月額 3万円(サーバー・保守) | 月額 0円(クラウド型利用) |
合計 | 月額 26万円 | 月額 12万円 |
解説
- 顧問料は大きく変わらないケースが多い
- しかしAI活用により 「記帳代行料」「人件費」「システム保守」 が削減可能
- 代わりに AIツール利用料 が発生するが、トータルで見ればむしろ低コスト
- 特に人件費削減効果が大きく、ROI(投資対効果)が高い導入 になる
まとめ:費用を抑えつつAI活用を成功させるには
税理士費用は、「年商別」「業務別」「業種別」 といった切り口によって大きく幅があります。
また、相続税や特殊業種などのケースでは、さらに高額になることも珍しくありません。
一方で、AIを導入すると初期費用や月額の利用料は発生しますが、記帳や仕訳の自動化、顧客対応の効率化によって 総コストを下げる効果 が期待できます。
つまり「費用増」ではなく「費用対効果をどう最大化するか」という視点が重要です。
そのためには、導入前に自社の業務と費用構造を整理し、正しい費用対効果を把握すること が成功の鍵となります。
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- Q税理士にAIを導入すると、従来の顧問料は下がりますか?
- A
顧問料そのものが大幅に下がるケースは少ないですが、記帳代行や人件費などの周辺コスト削減 によって総額は下げられる可能性があります。導入前に「顧問料以外のコスト構造」を見直すことがポイントです。
- QAIツールの利用料はどのくらいが相場ですか?
- A
多くのクラウド型サービスは 月額数千円〜数万円程度 が相場です。ユーザー数や処理量に応じた従量課金制を採用している場合もあるため、導入前に利用規模を想定しておくと安心です。
- Q初期導入費用はどれくらい見込むべきですか?
- A
既存ソフト連携や初期教育のみなら 数万円〜数十万円、カスタム開発を伴うと 数百万円規模 になるケースもあります。補助金制度の利用で初期費用を軽減できる場合もあります。
- Q小規模な事務所でもAI導入は効果がありますか?
- A
はい。小規模事務所ほど限られた人員で多くの業務をこなす必要があるため、低額クラウド型AIツールの効果は大きい です。月額980円のような低価格モデルも登場しています。
- QAIを導入する際に注意すべき「隠れコスト」はありますか?
- A
代表的なのは 社内研修・リテラシー教育の時間的コスト と、セキュリティ対策の追加費用 です。これらは料金表に明記されにくいため、見積もり段階で確認しておくことをおすすめします。
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