【金融DXの壁】なぜ証券会社だけが遅れているのか？進まない原因と打開策を解説

「証券会社のDX（デジタルトランスフォーメーション）は、もはや「待ったなし」と言われて久しい」

それでも現場では、口座開設や契約処理のデジタル化、営業支援ツールの活用が思うように進まない。システムを刷新しても運用が定着せず、経営陣からは「結局、何が変わったのか」と問われる。そんな停滞を感じている企業は少なくありません。

実際、金融DX全体が進むなかで、証券会社のDX化率は他業種に比べ約2〜3年遅れているとも言われます。原因は「レガシーシステム」や「規制対応」だけではありません。組織の構造、評価の仕組み、そして人材の動かし方まで含めた構造的な課題が存在しています。

本記事では、証券会社でDXが進まない本当の理由を分解し、実際に動かすための3つの打開策を提示します。属人的な慣習を抜け出し、再び成長を取り戻すための第一歩として、SHIFT AIが提唱する「進まないDXを動かすための実践フレーム」を徹底解説します。

なぜ証券会社のDXは進まないのか？5つの構造的要因

DXが進まない背景には、一見すると技術や予算の問題があるように見えます。けれど本質は「組織構造と人の意識」にあります。ここでは証券会社特有の5つの構造的な停滞要因を整理します。

レガシーシステムが「連携しない構造」を生み出している

証券会社のシステムは、長年の改修を繰り返した結果、勘定系・顧客管理・営業支援などがバラバラに存在しています。これがDX推進の最初の壁です。部門ごとにデータが閉じているため、どれだけ新しいツールを導入しても全体最適にはつながりません。

特に既存システムの刷新には高コストとリスクが伴うため、「動かさないこと」が無意識の選択肢になっている企業も多いのです。

項目	現状	DX阻害の影響
勘定系システム	レガシー化・改修困難	データ統合が遅れる
顧客管理(CRM)	部門単位で独立	営業・企画間の断絶
営業支援(SFA)	利用率が低い	現場でデータが回らない

紙文化と業務慣習が変革を拒む

「紙で残す」「印鑑を押す」「対面で確認する」。証券会社の文化には、ミスを避けるための仕組みが結果的に変化を阻む要素になっています。
一方で、法令遵守や顧客保護の観点から完全なデジタル化が難しい領域も多く、業務改革が中途半端になりがちです。

• 手続きの一部が紙ベースのまま残る
• 電子署名導入が一部部署で止まる
• データ入力を二重で行う慣習

こうした「半デジタル」状態こそが、DXのスピードを奪っています。
詳しい効率化の進め方については証券業務を劇的に効率化するDX戦略で解説しています。

DX推進責任者の権限が弱く、経営が本気で支援していない

多くの証券会社で、DX推進部門は「IT企画部門の延長」に置かれています。しかしDXはシステム導入ではなく、経営変革を伴う全社戦略です。経営層が本気で旗を振らない限り、他部門の協力は得られません。

一方で、経営側はROIが見えにくいDX投資に慎重になりがち。結果、DX推進責任者は「意欲はあるが権限がない」状態に陥ります。意思決定の階層を短縮し、トップダウンで推進できる体制整備が不可欠です。

人材育成が「ツール導入の後回し」になっている

「ツールを導入すればDXは進む」と考える企業は少なくありません。しかし実際には、ツールよりもそれを活用する人材の育成こそが鍵です。現場にデジタルリテラシーが浸透していないまま新システムを導入しても、活用率は低下し、逆に現場の負担を増やす結果になります。

進まない要因は以下の通りです。

• 研修や学習機会が単発で終わる
• 現場に「活用の目的」が共有されていない
• 成果を測定する指標がない

このように「仕組み」だけが整っても、使う人が動かなければ変革は進みません。SHIFT AI for Bizでは、証券会社向けにDX推進を担う人材育成研修を提供しています。

成果指標（KPI）が曖昧で、成功の定義が共有されていない

DXプロジェクトの多くが途中で失速するのは、「何をもって成功とするか」が決まっていないからです。「導入が終わった＝成功」とする企業もあれば、「コスト削減率」や「営業生産性向上」を指標にする企業もあります。

指標が曖昧なままでは、経営・現場・システム部門の方向性がずれ、最終的に「やっても意味がない」と感じる社員が増えてしまいます。目標を定量化し、成果を可視化できるKPI設計を行うことが、DXの定着を左右します。

金融業界全体でDXが進む中、証券会社だけが遅れている理由

銀行や保険業界では、オンラインバンキングや契約手続きのデジタル化が急速に進んでいます。しかし証券会社だけは依然としてアナログ業務が残り、業界全体でDX後進領域と見られているのが現状です。なぜ同じ金融業界でも差が生まれるのでしょうか。

銀行・保険に比べて「顧客接点のデジタル化」が遅れている

銀行はモバイルアプリやネットバンキングの普及で、顧客との接点をデジタルに置き換えることに成功しました。一方、証券会社は営業担当者による対面サポートが中心で、顧客体験をデジタルへ移行させる仕組みが十分に整っていないのが実情です。

オンライン口座開設やWeb面談などを導入しても、営業現場が「既存顧客との関係維持」を優先し、活用が定着しないケースが多く見られます。デジタルチャネルの整備だけでなく、「デジタルでも顧客を動かせる営業文化」への転換が求められます。

規制・コンプライアンスの重さがイノベーションを阻む

証券会社が扱うのは金融商品です。金融庁や取引所のルール、法令遵守の観点から、システム改修や業務フロー変更に慎重にならざるを得ない構造的事情があります。

たとえば、顧客データをAIで解析する取り組みでも、個人情報保護や営業行為の制限が壁となり、実証実験から本格導入までに長い時間を要します。結果として、変革スピードが他の金融業種に比べて遅れやすいのです。この課題を突破するためには、法令を理解した上で「安全に変革できる人材」を育てることが不可欠です。

本質的な課題は「収益モデルの変化への対応力」

銀行や保険業界は、手数料や利息といった比較的安定した収益構造を持ちます。対して証券会社は、市況や取引量に左右されやすい。つまり、ビジネスモデル自体が短期的な成果に偏りやすいため、中長期で投資が必要なDXが後回しにされがちです。

真のDXとは単なるシステム更新ではなく、「顧客が何に価値を感じるか」を再設計することです。顧客体験を中心に据え、データ活用・営業プロセス・組織文化を統合する視点が必要になります。

詳しくは証券会社のDX推進ロードマップで実践的な進め方を紹介しています。

証券会社で進まないDXを動かすには？今すぐ着手できる3つの打開策

ここまで見てきたように、証券会社がDXを進められないのは、単なる技術的問題ではありません。では、停滞を抜け出すために何から始めるべきでしょうか。ここでは「経営」「現場」「人材」という3つの観点から、すぐに取り組める打開策を紹介します。

DXを「経営課題」として再定義する

DXはIT部門だけのテーマではなく、経営の意思決定に直結する課題です。まずは経営層がDXを「成長戦略」として再定義し、経営指標（KPI）に組み込むことが重要です。たとえば、単なる業務効率化ではなく「顧客接点のデジタル比率」「営業活動の自動化率」など、収益構造に紐づいた目標設定を行うと、組織全体の動きが変わります。

さらに、経営層自らがデジタルリテラシーを高めることで、現場に本気度が伝わります。トップメッセージとして「DXは一過性のプロジェクトではない」と宣言することが、変革の第一歩です。

業務単位で「小さく始めて成功を見せる」

DXを全社で一気に進めようとすると、システム統合や人材調整で失敗リスクが高まります。重要なのは、「小さく始めて大きく育てる」こと。まずは1部門や1業務を対象に、デジタルツール導入やデータ連携の実証を行い、成果を数値化して社内に共有します。

この小さな成功が組織を動かす説得材料になります。特に、証券会社では営業現場やバックオフィスなど、業務領域ごとに文化が異なるため、現場の成功体験を可視化することが社内変革を促す鍵になります。

成功した取り組みを社内横展開し、「勝ちパターンの再現」を仕組み化できれば、DXは持続的に拡大します。

人材育成を中心に据え、「仕組みが回るDX」へ

ツールやシステムを導入しても、それを動かす人が育っていなければ定着しません。証券会社のDXが進まない最大の理由は、「現場を動かす人材」が足りないことにあります。

現場リーダーにデジタルの理解があり、経営の意図を翻訳できる人材を増やすことで、DXは自走し始めます。たとえば、データ分析の基礎や業務改善の進め方を研修で体系的に学ぶだけでも、現場の抵抗感は大きく減ります。

SHIFT AI for Bizでは、証券会社に特化したDX人材育成プログラムを提供しています。「ツールを使える人」ではなく「変革を進められる人」を育てることで、停滞を突破する組織力をつくります。
詳しくは証券会社のDX化はなぜ失敗するのかも参考にしてください。

事例で見る。DX停滞を突破した証券会社の実践モデル

「自社でもDXが止まっている」と感じる担当者は少なくありません。しかし、進まなかったDXを立て直し、再び動かし始めた企業も存在します。ここでは、証券会社が実際にどのように課題を乗り越えたのか、3つのケースから見ていきましょう。

データ連携の壁を越えた大手証券A社

A社では、顧客情報が複数システムに分散しており、営業部門と商品企画部門の連携が取れないことが長年の課題でした。そこで同社は、既存システムの全面刷新ではなく、データ連携基盤の整備に着手。全社共通の顧客IDを導入し、データの重複登録をなくした結果、営業効率が20％向上しました。また、CRMデータを営業活動のKPIに紐づけることで、経営層がリアルタイムに成果を確認できるようになり、組織全体の意思決定スピードも改善しました。

営業文化を変えた中堅証券B社

B社では、長年「顧客との関係は対面で築くもの」という文化が強く、デジタル営業の導入が進みませんでした。そこで経営層は「顧客接点の再設計」を目的に、オンライン商談ツールと顧客分析AIを組み合わせた営業支援体制を導入。

さらに、営業部門内にデジタルアンバサダーを設置し、若手社員が中心となって社内啓発を行いました。その結果、リモート面談率は導入から6カ月で60％を超え、新規顧客獲得数は前年比120％を達成。現場が成果で納得する成功事例となりました。

バックオフィスから変革を始めたC社

C社は営業現場ではなく、あえてバックオフィスからDXを始めました。事務処理の自動化（RPA）と文書管理のクラウド化を同時に進め、定型業務を標準化。これにより、年間約1,200時間の業務削減を実現しました。効率化で生まれた余力を使い、バックオフィス担当者がデータ分析や改善提案を行う仕組みを導入したことで、社員のモチベーションも向上。今ではC社のRPAチームが全社改革の中核を担っています。

このように、DXの突破口は必ずしも営業からとは限りません。小さくても確実に動く領域から始めることが、全社変革への現実的なアプローチです。
詳しくは証券会社のDXを成功させるツール戦略でも紹介しています。

DXが進まない状態から抜け出すための行動フレーム

DXが進まないまま時間だけが過ぎると、現場の士気は下がり、経営の関心も薄れていきます。だからこそ、今必要なのは「進め方を再構築すること」です。ここでは、停滞を抜け出すための具体的な行動フレームを紹介します。

DXを推進する人を社内に増やす

DXの推進は一部の専門部署だけでは回りません。最前線の営業や事務部門にまで、「デジタルで業務を変える」意識を持つ人を増やすことが肝心です。そのためには、トップダウンだけでなくボトムアップの仕組みを設計する必要があります。

たとえば、部署ごとにDXリーダーを任命し、社内で共有会を開くなど、情報交換を活性化させることでDXは自分ごとという意識を醸成できます。これにより、変革が一過性のプロジェクトではなく、組織文化として定着していきます。

評価制度とKPIで「継続する仕組み」を作る

DXを定着させるには、成果を正しく評価し、継続的に改善できる仕組みが必要です。「やったら終わり」ではなく「結果を測り、改善する」サイクルを組み込むことが重要です。たとえば、営業活動のデジタル比率や、顧客対応時間の短縮率など、現場が実感できるKPIを設定します。これにより、社員一人ひとりが変革の成果を見える形で感じ取れるようになります。さらに、KPIの達成度を評価や報酬制度に結びつけることで、DXが継続的に回る組織体質を作ることができます。

DXの「文化化」を目指す

最終的なゴールは、DXを単なるプロジェクトではなく「企業文化」として根付かせることです。デジタルツールを使うのが当たり前になり、データに基づいて判断し、改善し続ける。この文化が形成されて初めて、証券会社のDXは真の意味で完成します。

そのためには、経営層がビジョンを掲げ、現場が日々の業務で小さな成功を積み重ねていくことが欠かせません。SHIFT AIでは、こうした文化定着を支えるための実践型研修を提供しています。

詳しくは証券会社のDX推進ロードマップをご覧ください。

まとめ｜証券会社の進まないDXは、組織が変わるチャンス

証券会社のDXが進まない理由は、システムでもツールでもなく、「人と組織の在り方」にあります。レガシーな文化や複雑な承認フローの中で、変化を起こすことを恐れる空気が、静かに成長の足を引っ張っているのです。しかし、進まない状態は決して失敗ではありません。そこにこそ、組織を変革するヒントが隠れています。DXの停滞を正しく理解し、課題を可視化し、行動へとつなげる。このプロセスを踏むことで、変革はようやく実を結び始めます。

SHIFT AIでは、証券会社に特化したDX人材育成プログラムを通じて、現場の意識と行動を変える支援を行っています。ツール導入ではなく「人を動かす仕組み」から変えていく。それが、停滞を突破し、継続的な変革を実現する最短ルートです。自社のDXを一歩前へ進めたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
DXが進まない今こそ、変わるチャンスです。

証券会社のDX推進に関するよくある質問（FAQ）