自治体の広報DX完全ガイド｜AI×SNS活用で変わる発信戦略

自治体の広報は、いま大きな転換点を迎えています。
これまでのように、紙の広報誌や庁内掲示板、記者クラブへの情報提供だけでは、住民の暮らしに届かなくなりつつあります。
若年層はSNSやスマートフォンを中心に情報を得ており、高齢層もデジタル媒体への抵抗感が薄れています。
それにもかかわらず、「広報誌は出しているけれど読まれない」「SNSを開設したが運用が続かない」といった悩みを抱える自治体は少なくありません。

こうした課題の背景には、単なる発信手段の問題ではなく、“広報の仕組みそのものが時代の変化に追いついていない”という構造的な原因があります。
情報の届け方、データの扱い方、そして発信に関わる職員のスキル――。
それらを根本から見直すことが、これからの「広報DX」の第一歩です。

本記事では、紙中心からデジタル中心へと移る自治体広報の現状を踏まえ、AIやSNSを活用して“伝わる広報”を実現するための実践的ステップを解説します。
体制づくり、人材育成、AI活用までを体系的に整理し、広報担当者がすぐに動き出せるヒントをまとめました。

自治体広報DXとは｜紙からデジタルへ、“伝わる広報”への進化

自治体における「広報DX」とは、デジタル技術を活用して、情報発信の仕組み全体を再構築することを指します。
単に「広報誌をPDF化する」「SNSアカウントを開設する」といった表面的なデジタル化ではありません。
広報の目的・プロセス・人材・評価のすべてを見直し、“より多くの人に、より的確に情報を届ける仕組み”を整えることがDXの本質です。

従来の自治体広報は、「広報誌を作る」「記者発表を行う」など、発信者主導の“一方通行型”でした。
しかし、今求められているのは、住民の反応を踏まえて内容や媒体を改善していく“双方向の広報”です。
SNSやWebサイトのアクセスデータ、アンケート結果などを分析しながら、「誰に」「どんな情報を」「どのように届けるか」を設計できる体制を整えることが不可欠です。

また、DXの推進には3つの要素が欠かせません。

1. デジタル技術の導入：CMSやSNS連携、チャットボット、AI要約ツールなど、発信の効率化と自動化を実現する仕組み
   
2. データ活用の定着：アクセス解析・閲覧データをもとに、効果を“感覚ではなく数値”で判断する文化の醸成
   
3. 人材スキルの強化：広報担当だけでなく、全庁的にデジタル・AIを扱える職員を増やす仕組みづくり

これらを段階的に整えることで、紙中心の発信から脱却し、住民との距離を縮める広報DXが実現します。

広報DXの導入によって期待できる効果は、単に情報発信の効率化にとどまりません。
届く層の拡大、住民との信頼関係の強化、行政サービスへの理解促進など、自治体全体のブランド力向上にもつながります。
つまり、“広報を変えることが、自治体の信頼を変える”のです。

関連記事：
自治体DXを成功に導く5ステップ｜現場課題とAI人材育成の実践法

自治体広報が“届かない”理由｜SNS・AI時代の情報ギャップ

「広報誌を発行しても反応が少ない」「SNSを始めたがフォロワーが増えない」――
多くの自治体が感じているこの“届かない感覚”には、明確な理由があります。
それは、情報の届け方・受け手の変化・組織体制の3つのギャップが埋まっていないためです。

紙中心の発信では“届かない世代”が拡大

自治体広報の中心にある紙媒体は、依然として重要な情報源です。
しかし、若い世代を中心に、情報収集の主軸はSNS・Web・アプリへと完全に移行しています。
一方、高齢者層もスマートフォンを利用し始めており、「紙＝高齢者、デジタル＝若年層」という単純な区分は通用しなくなっています。

それでも多くの自治体が、紙中心の体制から抜け出せずにいます。
紙の制作・印刷・配布に人的リソースを割きすぎており、デジタル広報の設計・運用に時間をかけられない構造的問題が根強く残っています。
結果として、情報は発信されても“読まれない”状態に陥ってしまうのです。

SNS運用の属人化と「一貫したトーン」の欠如

次に課題となるのが、SNS運用の“属人化”です。
担当者が交代するたびに投稿内容が変わり、トーンが不統一になってしまうケースは少なくありません。
また、運用ガイドラインが整備されていないため、誤解を招く投稿や炎上リスクへの不安から、発信が慎重になりすぎる傾向も見られます。

本来SNSは、自治体が住民とつながるための重要な対話ツールです。
投稿の目的・対象・トーンを組織全体で共有する「共通ルール」を整備しない限り、持続的な運用は難しくなります。
さらに、AIを活用すれば、SNS分析や反応傾向の把握も可能です。
感覚で判断するのではなく、データに基づいた運用改善が求められています。

成果測定ができない広報は改善が進まない

広報業務では、「どれだけ多く発信したか」ではなく、「どれだけ届いたか」「どう行動につながったか」が重要です。
しかし、紙媒体には効果測定の仕組みが乏しく、SNSやWebでもデータ分析を行う体制が整っていない自治体が多く存在します。

DXの観点では、発信後の行動データを活用して改善を重ねる「PDCA」が不可欠です。
開封率・クリック率・閲覧時間などの指標を基に、“伝わった”かどうかを可視化できる環境づくりが求められます。
データをもとに戦略を磨くことで、広報は「報告の手段」から「住民との関係構築の仕組み」へと進化します。

広報DXを成功に導く5つのステップ｜ツール導入で終わらせない実践法

広報DXは、システムやツールを導入しただけでは成果につながりません。
紙中心の体制からデジタル中心へ移行するには、段階的な仕組みづくりと職員の意識変革が欠かせません。
ここでは、広報DXを定着させるための5つのステップを紹介します。

STEP1　現状分析と課題の可視化（媒体・人材・データ）

最初のステップは、現在の発信状況を“見える化”することです。
どの媒体で、どんな情報を、どれだけの頻度で発信しているのか――。
さらに、担当者のスキルや工数、閲覧データの有無などを整理することで、課題の全体像が浮かび上がります。

多くの自治体では、広報誌やSNS、庁内報などが部署ごとに分断されているため、全体最適が図られていません。
まずは「広報の現状台帳」を作成し、情報発信のフローとリソース配分を棚卸しすることから始めましょう。
これがDX推進の基礎データになります。

STEP2　目的設定とKPI設計（“量”ではなく“反応”で評価）

広報活動では、「何のために発信するのか」を明確にしないと、施策が続きません。
目的が曖昧なまま情報発信を行うと、“発信のための発信”に陥ってしまいます。

DX時代の広報では、KPI（重要指標）を「量」から「質」へと転換することが重要です。
たとえば、

• SNSの投稿数 → 反応率・保存率・シェア数
  
• 広報サイトのPV数 → 訪問後の行動（申し込み・問い合わせ） 

といったように、住民の“行動変化”を重視した評価設計へと変えることで、成果が可視化されます。

STEP3　基盤整備（CMS・SNS統合・運用ルール整備）

発信の土台となるデジタル基盤を整えることが、DX推進の中核です。
具体的には、

• CMS（コンテンツ管理システム）による記事管理・自動更新
  
• SNS連携ツールによる一元投稿・分析
  
• ガイドライン整備による統一トーン・安全運用 

などを通じて、誰でも・いつでも・安全に情報発信できる環境を整えます。

また、職員の異動が多い自治体では、マニュアルやチェックリストの標準化が欠かせません。
「属人化を防ぐ運用設計」こそが、広報DXを継続させる最大のポイントです。

STEP4　人材育成（AIリテラシー・データリテラシー強化）

広報DXを支えるのは、ツールではなく“人”です。
AIを活用した原稿生成やデータ分析、ビジュアル作成などのスキルを持つ職員が増えれば、組織全体の発信力は格段に高まります。

ただし、専門職を新たに雇用する必要はありません。
重要なのは、既存職員のリテラシーを底上げする「仕組み化された学び」です。
職員がAIツールを安全に使いこなし、発信内容を改善できるようになることで、業務効率と発信品質の両立が実現します。

STEP5　PDCA＋AIによる改善サイクルの確立

DXの真価は、「導入」ではなく「継続と改善」にあります。
発信後の反応データをAIで分析し、改善ポイントを抽出することで、広報の質は着実に向上します。
たとえば、AIを使えば「どの投稿が最も反応されたか」「どんな時間帯に読まれているか」を自動で可視化できます。
それらを踏まえて、投稿内容やタイミングを調整することで、“勘ではなくデータで運用を磨く”文化を育てることができます。

AIと人の力を組み合わせた改善ループを回すことで、
広報は単なる情報発信の役割を超え、住民と行政をつなぐ戦略的コミュニケーションへと進化します。

AIで変わる自治体広報の現場｜生成AI×デザイン×SNS運用

広報業務におけるAI活用は、もはや“特別な取り組み”ではなくなっています。
限られた人員で、より多く・より質の高い情報を発信するために、生成AIや画像生成ツールの導入が進んでいます。
AIは単なる自動化のツールではなく、職員の発想を広げ、発信の質を底上げする“共創パートナー”として活躍し始めています。

AIによる広報文・SNS投稿の下書き生成

生成AIを活用すれば、広報誌やSNS投稿、庁内報の原稿案を短時間で作成できます。
トーンや語調を指定すれば、「親しみやすい文」「正式な告知文」「SNS向けの短文」など、目的に応じた文章を瞬時に生成可能です。
これにより、「文案作成に時間がかかる」「語尾の表現が統一できない」といった課題が解消され、発信スピードと一貫性が高まります。

ただし、AIが出力した文章は“たたき台”にとどめ、最終的な確認と責任は職員が担う必要があります。
AIの活用＝職員の判断を補助する仕組みとして捉えることが重要です。

キャッチコピー・タイトル・画像案の自動提案

広報紙やSNS投稿で目を引くタイトル・見出しを考えるのは、多くの担当者にとって難しい作業です。
生成AIは、複数の候補を瞬時に出し分けできるため、比較検討が容易になります。
さらに、画像生成AIを活用すれば、イメージ写真やアイキャッチを著作権を侵害せずに自前で作成できます。

これにより、外注コストを抑えながらも、ビジュアルクオリティの高い広報を実現できます。
「文字中心の広報」から「見て理解できる広報」へ――AIは、その転換を支える力となります。

AI×デザインツールによるビジュアル作成の効率化

CanvaやAdobe ExpressなどのクラウドデザインツールとAIを組み合わせることで、
テンプレート選定・レイアウト提案・フォント調整までを自動でサポートできます。
職員が専門知識を持たなくても、短時間で整ったデザイン資料やSNS画像を制作できるため、現場の負担を大幅に軽減します。

また、AIは“修正指示”にも対応できるため、上司や他部署からのフィードバックを反映しやすくなります。
属人化しがちなデザイン業務を、チームで共有できる“ナレッジ資産”に変えることが可能です。

チャットボットによる問い合わせ対応の自動化

問い合わせ対応にAIを活用する自治体も増えています。
たとえば、広報で紹介したイベントや手続きについての問い合わせを、AIチャットボットが一次対応することで、職員の負担を軽減できます。
これにより、住民が24時間いつでも情報を得られる環境を整えながら、職員は企画・改善などの高付加価値業務に集中できます。

AI活用時のリスクとガイドライン整備

AIは強力な支援ツールですが、誤情報やデータ漏洩のリスクも伴います。
特に自治体業務では、機密情報・個人情報・政策データを扱うため、適切なガイドラインの整備が欠かせません。

AIの利用ルールとして、以下のような基本方針を明確化することが重要です

• 外部公開前に職員による確認を必須とする
  
• 個人情報や非公開データは入力しない
  
• 使用するAIツールを庁内で承認・管理する
  
• AIが生成した内容には出典・確認フローを明記する

これらを整えることで、AIを「安全に」「持続的に」活用できる体制が生まれます。

広報DXを支える組織と人材戦略｜“広報担当だけ”にしない仕組みづくり

多くの自治体では、広報DXを「広報担当課の業務」として限定的に進めています。
しかし、デジタル化やSNS運用、データ分析は、広報課だけでは完結しない全庁的なプロジェクトです。
「広報＝発信」ではなく、「広報＝コミュニケーション戦略」と捉え直すことで、庁内全体を巻き込んだDXが実現します。

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横断的な推進チームの設計（広報×情報政策×人事）

まず必要なのは、部門を越えた“推進チーム”の設置です。
情報政策課や人事課など、DX関連部署と連携することで、技術・人材・評価の面から広報DXを支えられます。

• 広報課：コンテンツ企画・発信管理
  
• 情報政策課：デジタル基盤・システム管理
  
• 人事課／研修担当：スキル育成・評価制度設計

このように役割を分担することで、広報DXが個人依存ではなく“組織としての取り組み”へと進化します。
とくに情報政策課が持つセキュリティ知識やクラウド管理ノウハウは、AI活用時にも大きな支えになります。

役割分担とナレッジ共有の仕組み化

自治体では人事異動が頻繁に行われるため、「人が変わっても進む仕組み」を整えておくことが重要です。
マニュアル、運用ガイドライン、チェックリストなどを整備し、経験を属人化させないことがDX定着の鍵となります。

ナレッジ共有のために、

• 発信テンプレートや事例のデータベース化
  
• 広報担当者同士の情報共有会・勉強会
  
• SNS運用ログや分析データの共有フォルダ化

といった“知識が蓄積し続ける仕組み”をつくりましょう。
これにより、異動後もスムーズに引き継ぎが行え、広報活動の質を保つことができます。

スキル標準化による属人化の防止

広報DXの成否は、職員のスキル差をどれだけ埋められるかにかかっています。
AIやデジタルツールを扱える人とそうでない人の差が大きいと、業務が停滞してしまいます。
そのため、全庁的な“スキル標準”を定義することが欠かせません。

たとえば、

• SNS投稿や画像作成ができる「発信スキル」
  
• アクセス解析やAIツール操作ができる「データスキル」
  
• 発信内容をわかりやすく表現できる「編集スキル」

といったスキルを共通指標として定め、職員全員が一定水準を目指せる体制を整えることが理想です。
これは広報課だけでなく、各課が自ら発信する文化を育てる第一歩にもなります。

庁内研修によるスキルの底上げ

スキル標準化を現実的に進めるには、研修が欠かせません。
特に生成AIやデータ分析は、書籍やマニュアルよりも実践型の学びが効果的です。

職員向け研修では、以下のような内容を組み合わせると効果的です

• 広報文・SNS投稿文のAI生成体験
  
• データを用いた効果測定と改善ワーク
  
• AIツールを安全に使うための情報管理ルール

職員が「自分の業務に使える」と実感できる研修を設計することで、学びが行動に変わり、組織としての広報力が底上げされます。

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広報DXを始めた自治体の多くが、最初の数カ月で停滞してしまう――。
「SNSを始めたのに更新が止まった」「AIを導入したけれど、誰も使いこなせない」。
こうした課題は、個人の努力不足ではなく、仕組みの欠如によって起こります。
ここでは、広報DXが“続かない”典型的な理由と、その乗り越え方を整理します。

上層部の理解・支援が得られない

DXは現場発では進みにくいテーマです。
広報DXを推進するには、庁内の意思決定層が「広報を戦略の一部」として認識していることが不可欠です。
しかし、実際には「SNSは若手に任せればいい」「紙で十分」といった認識が根強く、現場が孤立するケースもあります。

この壁を乗り越えるには、数値と住民の声を示して説得することが有効です。
SNSの反応率、Webサイトのアクセス数、アンケート結果などをデータで可視化することで、上層部が「変化の必要性」を理解しやすくなります。
DX推進は、熱意よりも成果を見せる仕組みで支援を得ることが大切です。

KPI設定が曖昧で効果が見えない

多くの自治体では、「どれくらい成功しているのか」を測る基準が明確でないまま広報DXを進めています。KPIがあいまいだと、施策の方向性がぶれ、結果として継続が難しくなります。

解決策は、「小さな指標」から始めて徐々に拡張することです。
たとえば、

• SNS投稿の平均反応率を1.5倍にする
  
• 広報誌QRコード経由のWebアクセスを月100件増やす

といったように、現実的かつ測定可能な指標を設定します。
これにより成果が見えやすくなり、職員のモチベーション維持にもつながります。

人材の異動によるナレッジ喪失

自治体の特徴として、担当者の異動サイクルが短いことが挙げられます。
せっかく整えた運用体制やノウハウも、異動のたびにリセットされてしまう――これはDX定着を阻む大きな要因です。

この課題を防ぐには、「人ではなく仕組みで運用する」という発想が欠かせません。

• ガイドライン・テンプレート・チェックリストの標準化
  
• 発信計画やKPIを共有するナレッジボードの整備
  
• 庁内でAIを活用した自動記録・報告フォーマットの導入

これらを整備することで、担当者が変わってもDXの“型”が維持できるようになります。
人に依存せず、組織として継続できる体制こそが、真のDX推進力です。

成功の鍵は“小さく始めて成果を見せる”こと

広報DXは一度に大きく変えようとすると失敗します。
重要なのは、スモールスタートと早期の成功体験です。
まずは一つのSNS運用やAI文案作成など、狭い範囲で取り組み、成果を共有しましょう。
職員や上層部がその効果を実感できれば、自然と庁内の理解と協力が広がります。

DXを“特別なプロジェクト”ではなく、“日常業務の改善”として位置づけること。
それが、長期的に続く自治体広報のDX文化をつくる第一歩です。

まとめ｜広報DXは「伝える」から「共に創る」コミュニケーションへ

自治体広報のDXは、単に紙をデジタルに置き換えることではありません。
住民に一方的に「伝える」広報から、住民と共に価値を創る“共創型コミュニケーション”へと進化する取り組みです。

SNSやAIツールを活用することで、情報発信のスピードと質は格段に向上します。
しかし、真に重要なのはツールそのものではなく、職員一人ひとりが「どうすれば伝わるか」を考え続ける文化を育てること。
DXとは、技術導入ではなく「思考と仕組みの変革」そのものです。

情報を“発信する側”から、“共に対話する側”へ。
自治体の広報が変われば、住民との関係性も大きく変わります。
そして、その変化を持続させるためには、AIリテラシーと人材育成の仕組み化が不可欠です。

自治体広報DXに関するよくある質問（FAQ）