「ChatGPTに情報を入力したら、外部に漏れるのでは?」
「セキュリティ担当から“利用NG”と言われてしまった」
「便利なのは分かるが、情報漏洩が怖くて現場に展開できない」
――こうした声は、生成AIの導入を検討する企業で日常的に聞かれます。
実際、Samsungや国内大手企業の「情報漏洩事故」が報じられたことで、社内の慎重派や情報システム部門が“ブレーキ役”となってしまうケースは少なくありません。しかしその一方で、すでに多くの企業が「使うことを前提にしたセキュリティ設計」へと舵を切っています。
本記事では、生成AIを安全に活用するために押さえておくべきセキュリティの基本的な考え方・リスク・具体的な対策ポイントをわかりやすく整理します。
「やらない理由」ではなく、「進める条件」としてのセキュリティへ。社内説明や稟議にも活用できる“実務的な観点”を持ち帰っていただけるはずです。
そもそも、なぜ生成AIのセキュリティが問題視されているのか?
生成AIの導入にあたって、「セキュリティリスクが心配」と感じる企業は少なくありません。とくにChatGPTなどの対話型AIを業務で活用しようとすると、「入力情報が漏洩するのでは?」「社外にデータが送信されるのでは?」といった懸念が出てきます。
しかし、これらの不安の中には誤解に基づいたものも少なくありません。ここでは、よくある誤解と、実際に懸念すべきリスクを整理しておきましょう。
よくある誤解と実際のリスク
❌ 誤解:「ChatGPTに入力した情報はすべて外部に流出する」
→ 実際には、OpenAIの無料プランでは学習に使われる可能性がある一方で、法人向けのAPI版やChatGPT Enterpriseでは、入力情報が学習や共有に使われないように設計されています。
❌ 誤解:「すべての生成AIは危険」
→ ツールや契約形態によってセキュリティレベルは大きく異なります。むしろ業務利用を前提とした法人向け生成AIの方が、従来のSaaSより厳格な情報管理設計がされていることも多いのが実情です。
実際に発生した“事故”から見るリスクの本質
2023年には、Samsungの社員が社内の機密情報をChatGPTに入力し、それが社外流出したと報じられました。このケースでは生成AIそのものの問題ではなく、社内ルールや教育不足が原因でした。
つまり、「生成AIだから危ない」のではなく、“使い方次第でリスクが顕在化する”という点こそが、本質的な課題なのです。
生成AIならではのセキュリティリスク
生成AIの特性上、これまでのITツールとは異なるリスク構造もあります。代表的なものを紹介します。ただし、こうしたリスクは、ツール選定・利用ルール・体制整備によって“予防可能”なものです。
リスク | 内容 |
プロンプトインジェクション | 意図しない情報漏洩や挙動を引き出すための攻撃。外部ユーザーが悪意あるプロンプトで内部情報を取得するケースなど。 |
モデル逆推論(Model Inversion) | 出力から学習データを逆算する手法。セキュリティ対策が不十分なモデルでは、機密情報が抜き出される可能性も。 |
著作権・プライバシー問題 | 生成物に第三者の知的財産や個人情報が含まれてしまうケース。リスク認知のないまま公開されると法的トラブルにつながる。 |
リスクを抑えるには?押さえておくべき3つの対策視点
「リスクがあるから使わない」のではなく、「リスクを管理しながら使う」という視点が、今後の生成AI活用では不可欠です。
ここでは、企業が生成AIを導入するうえで押さえておくべき、実務的な3つのセキュリティ対策視点を紹介します。
① 利用ルールと教育
生成AIの情報漏洩事故の多くは、「使ってはいけない情報を入力してしまった」「社外で共有してはいけない生成物を使ってしまった」など、ルールと現場の理解のギャップが原因で起きています。
そのためには、次のような対応が必要です。
- 機密情報・個人情報の入力禁止ルールの明文化
- 利用可能な業務範囲(業務選定)と禁止行為のガイドライン化
- 新入社員や利用者向けの研修・チェックリストの整備
- 定期的なリテラシー研修やE-learningの活用
単に「ルールを作った」で終わらせず、“現場が理解し、守れる仕組み”として定着させることが重要です。
👉 関連記事:
🔗 生成AI研修を“1回きり”で終わらせないための仕組み設計
② ツール選定と設定の見直し
生成AIのセキュリティリスクは、どのツールを、どういう設定で使うかで大きく変わります。以下の観点でツールを評価しましょう。
- ChatGPT(無料版・Team・Enterprise)やMicrosoft Copilotなど、法人利用を想定したプランの利用
- API版を活用することで「データが学習に使われない」構成に
- ログ非保存/社内ネットワーク制限/アクセス制御など、セキュリティレベルのカスタマイズ可否
また、利用規約・プライバシーポリシーの確認や、法務部門との契約書レビューもあわせて行うことが望ましいです。
③ 社内体制と責任の明確化
生成AI導入は、情シスやセキュリティ部門だけの問題ではありません。法務・情報システム・現場部門が一体となったガバナンス体制が求められます。
具体的には・・・
- 各部署の役割を明確化(例:ルール作成は法務、ツール運用は情シス、業務適用は現場)
- 横断プロジェクト(AI推進室など)の設置や、定期的なレビュー会議の開催
- 社内での窓口やFAQ、相談フローの整備
“誰が・どこまで”を明確にしないと、「誰も責任を取らない導入」になり、結果として失敗します。
これら3つの視点は、単体ではなく連動して機能する必要があります。
「セキュリティが不安」で止まる会社が見落としている視点
「リスクがあるからやめておこう」
「情シスが反対しているから進まない」
──そんな声はよく聞かれますが、実はその判断の裏側に、“見落としているリスク”が潜んでいます。生成AIを前向きに活用している企業との差は、こうした「思考の枠組み」から生まれています。
「使わないこと」自体がリスクになる時代
今や、ChatGPTやCopilotなどの生成AIは、情報収集・文書作成・報告書作成・業務マニュアル整備など、ホワイトカラー業務の生産性を大きく変えるツールになりつつあります。
しかし、セキュリティを理由に導入を後回しにしている企業は、
- 非公式な「勝手利用(シャドーAI)」が社内で進んでしまう
- 生産性・競争力で他社に差をつけられる
- “やっていない”ことがリスクとして経営に跳ね返る
といった、新たな損失リスクを抱えることになります。「使わないことによるリスク」にも、正面から向き合う必要があるのです。
「ゼロリスク志向」が足を引っ張る理由
「すべてのリスクを消してから導入する」という発想は、生成AIのように急速に進化する技術分野では非現実的です。
重要なのは、
- 「想定されるリスクに対して、どこまで備えられているか?」
- 「リスクと引き換えに、どんな価値(生産性向上・競争優位)を得られるか?」
といった“現実的な落としどころ”を見極めることです。
そのためには、セキュリティを“ストップ要因”ではなく、“運用前提”として設計・調整することが求められます。
「セキュリティ=止める」から「セキュリティ=進めるための条件」へ
これまでの企業におけるセキュリティ対策は、「何をしてはいけないか」を定める“禁止ベース”のルールが中心でした。
しかし、生成AIにおいては、「いかに安全に使うか」を主眼に置いた“設計ベース”のガバナンスへと移行する必要があります。
「セキュリティで止める」のではなく、「セキュリティで進められる」ようにルールと体制を整える。この発想の転換が、生成AI活用を成功させるための分岐点になります。
安全に導入を進めるための“実務チェックリスト”
「導入したいけど、何から始めればいいか分からない」
「セキュリティ担当に相談しても、判断材料が足りないと言われる」
──そんな企業に向けて、セキュリティ観点で生成AIを導入する際のチェックポイントを整理しました。情シスや法務との連携時、社内説明資料を作る際のベースとしても活用できます。
✅ 最低限押さえるべきチェック項目
観点 | チェック内容 |
情報分類 | 機密情報・個人情報など「入力禁止情報」の定義は明確か? |
ツール選定 | API版/法人プランなど、データ保持・利用規約を確認しているか? |
社内ルール | 入力ルール、ログ管理、利用目的が明文化されているか? |
利用者教育 | 利用時の注意点・禁止事項をユーザーが理解しているか? |
ガバナンス体制 | 情シス・法務・現場で役割分担がされているか? |
PoC設計 | 小さく試して評価できるPoC体制があるか? |
モニタリング | 利用状況を監視・レビューする仕組みがあるか? |
「とりあえず導入」は危険。PoCから始めよう
セキュリティ不安がある場合、いきなり全社展開を目指すのではなく、小さく始めてリスクと効果を可視化する“PoC(概念実証)”がおすすめです。
- 検証用の利用部門と業務を限定
- KPIや評価指標を事前に設定(例:工数削減率、誤生成率)
- セキュリティ担当と連携し、ログや入力内容を記録・分析
合わせて読みたい:
🔗 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ
社内説明資料・稟議にも使えるチェックリストに
上記チェック項目を踏まえて社内向けの資料を作成すれば、以下のような場面で有効に使えます。
- ✅ 情報システム部門との合意形成
- ✅ 稟議書への添付資料・参考資料としての活用
- ✅ 社内説明会・展開時のガイド資料として利用
セキュリティリスクを「管理できる形」で可視化し、“判断できる状態”をつくることこそが、導入推進の鍵です。
情報システム・情シス部門が担うべき“生成AI導入後の守り”
セキュリティ対策は、「導入前にチェックして終わり」ではありません。
導入後にどれだけ安全に運用を継続できるかが、生成AI活用を社内で定着させるためのカギとなります。
とくに、情報システム部門は“守りの司令塔”として、次の2つの役割を担うことが求められます。
① セキュリティと生産性の“両立”を支援する
AI活用が現場で広がると、従来の「使わせないための制限」だけでは限界がきます。
情シス部門には、“リスクを抑えつつ、使わせる”ための設計と支援が求められます。
具体的には
- 利用可能なツール・機能・業務範囲を社内で明文化
- 安全な利用手順(手引きやFAQ)を整備
- 「この条件であれば使用OK」といったポジティブルール設計
- 社員からの問い合わせに応じる“AI活用サポート窓口”の設置
「セキュリティのために止められた」ではなく、「セキュリティのルールがあるから安心して使える」状態を目指す必要があります。
② 「シャドーAI(勝手利用)」を防ぐための仕組みをつくる
セキュリティルールが未整備な状態では、現場で独自に生成AIを使い始めてしまう“シャドーAI”が発生しやすくなります。これを防ぐには、
- 社内で公式に使えるツール・利用条件の整備
- 非公式利用を抑止するためのルール明示と教育
- ログ監視・アクセス制御などの仕組みづくり
- 利用状況の定期レビューや改善の仕組み構築
シャドーITと同様に、「禁止する」だけでは野良利用は止まりません。
「正しく使える環境」を先に整えることが、最大の抑止力になります。
情シスが担うのは「監視」ではなく「安心の提供」
情シス部門は、生成AI時代において“リスク管理の番人”から“活用支援のパートナー”へと進化することが求められます。
セキュリティを担保しながら、現場の生産性を最大化する設計力こそ、これからの情シスの真価です。
まとめ|“怖いからやらない”ではなく、“リスクを管理して進める”発想へ
生成AIの活用は、もはや一部の先進企業だけの話ではありません。
大手企業だけでなく、自治体・教育機関・中堅企業でも導入が進み始めており、「どう使いこなすか」が競争力の差につながる時代に入っています。
一方で、セキュリティリスクがゼロになることはありません。これは生成AIに限らず、メールやクラウド、スマートフォンなど、あらゆるIT活用に共通する構造です。
重要なのは、次のような姿勢です。
- リスクの正体を理解し、誤解と切り分けて考えること
- ツール選定・ルール設計・体制整備の3点セットで管理すること
- 「止める」から「活かす」セキュリティ運用に変えていくこと
そして何より、社内の不安を“説明できる言葉”に翻訳できることが、推進役に求められるスキルです。
セキュリティを理由にAI導入が止まっているなら、まずご相談を
「社内に説明できる資料がない」
「情シスや法務の納得を得られない」
「教育の重要性はわかるが、設計が難しい」
そんな担当者のために、生成AI導入や利活用を支援するのが私たちSHIFT AIの法人向け生成AI研修です。
SHIFT AIの法人向け生成AI研修は、社内の生成AIを導入だけにとどめず、活用して成果をあげる体制を作ることを目的にご提供しています。
- ✅ 生成AI活用を前提としたセキュリティ設計のポイント
- ✅ 社内ルールづくり・利用ガイドラインのテンプレート案
- ✅ 情報システム・法務・現場を巻き込む導入ステップ
- ✅ セキュリティ不安を払拭するための研修・教育コンテンツ設計例
企業の課題やお悩みに応じて内容をカスタマイズしていますので、少しでも気になった方はぜひとも無料の資料をダウンロードください。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /

よくある質問(FAQ)
- QChatGPTに入力した情報は外部に漏れますか?
- A
無料版では、入力情報が学習データとして利用される可能性があります。ただし、ChatGPT EnterpriseやAPI版、Microsoft Copilotなど法人向けプランでは、デフォルトでデータは学習に使用されず、セキュリティ対策も強化されています。ツール選定と設定がポイントです。
- Q生成AIを業務で使うには、どんなルールが必要ですか?
- A
最低限、以下のルール整備が必要です。
- 入力禁止情報(個人情報・機密情報)の明確化
- 業務範囲と使用目的の明示
- ログ管理やアクセス権限の整備
利用ガイドラインの策定と教育の実施
これらは法務・情シス・現場が連携して設計することが重要です。
- Q情シス部門の反対で生成AIの導入が進みません。どうすれば?
- A
セキュリティ観点の懸念を整理し、「どう使えばリスクを管理できるか?」を示すことが有効です。PoC(概念実証)を通じて、小さな範囲で効果とリスクを可視化し、情シスと合意形成するステップを踏むと前に進みやすくなります。
- Qセキュリティ教育はどのように進めればよいですか?
- A
社員向けの「入力禁止情報チェックリスト」「プロンプト作成の注意点」など、業務で実際に使える形式の研修資料・eラーニング・ミニガイドの提供が有効です。形式的な研修ではなく、現場が“納得して使える”状態をつくることが鍵です。
- Q社内に“勝手に使う社員”が出ないようにするには?
- A
いわゆる「シャドーAI(正式な承認を得ずに生成AIを使う行為)」を防ぐには、禁止するだけでなく“正しく使える環境”を整えることが最も有効です。以下のような対策が推奨されます。
- 公式に使えるツールやプランを明示する(例:ChatGPT Enterprise/Copilot など)
- 利用ガイドラインや入力ルールを社内に展開する
- FAQ・手引き・問い合わせ窓口など“使ってよい条件”を整備する
- ログ監視やアクセス制御などの技術的対策を講じる
- 定期的な利用状況のモニタリングと現場ヒアリングの実施
「使ってはいけないから使わせない」ではなく、「この条件なら使っていい」というポジティブルールの設計が、結果的に“野良利用”の最大の抑止力になります。