Copilot の導入が進む中、小規模な組織ほど「本当に情報漏洩は起きないのか?」という不安が大きくなっています。
実際、Copilot 自体は社内データを学習・保存せず、テナント境界内で動作するよう設計された極めて安全な仕組みです。
しかし、中小企業で最も多い情報漏洩は、Copilotの仕組みではなく人と運用ミスが引き起こすものです。
SharePoint の共有設定が全社公開のまま放置されていたり、社員が個人アカウントの Copilot Pro を勝手に使い始めたり、契約書や顧客情報をそのままプロンプトに貼り付けてしまったり。
こうしたよくある操作が、意図せず社外秘を引き出すきっかけになります。
特に情シスが一人の企業では、「設定ミス=即トラブル」という構造になりやすく、ヒューマンエラーの影響が大きくなりがちです。
そこで本記事では、中小企業で実際に起きやすい情報漏洩の4大シナリオを具体的に整理します。
・従業員に徹底させるべき運用ルール
・安全に使うためのチェックリスト
・Copilot Pro と M365 Copilot の安全性の違い
この記事を読み終える頃には、情報漏洩の懸念がどこから生まれ、何を整えれば事故を防げるのかが明確になり、安心して導入を進めるための判断軸が手に入ります。
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Copilotは安全設計でも運用ミスがあれば情報漏洩は起こる
Copilotの仕組みそのものは高度に守られていますが、実際に中小企業でトラブルを生むのは「技術」ではなく「使い方」です。共有設定・権限管理・個人アカウントの混在といった日常的な運用のほうがリスクを高めるため、まずは運用ミスで起こる漏洩の実態から整理します。
Copilotは社内データを学習しないが、社員が閲覧できる範囲は出力される
Copilotはテナント外へのデータ送信や学習利用を行わない安全設計です。しかし社員が閲覧できる情報はCopilotの参照対象にもなるため、SharePointやTeamsのフォルダが全員閲覧可能になっていると、機密情報まで要約・抽出されてしまう危険があります。技術的に安全であっても、共有範囲が整理されていない企業ではリスクが一気に高まります。
中小企業では設定ミス=事故発生になりやすい構造がある
情シスが一人の企業では、権限管理・共有設定・デバイス運用をすべて1人が担うため、どこか1つの設定漏れがそのまま情報漏洩に直結します。また社員のITリテラシー差が大きいことにより「貼ってはいけない資料を貼る」「個人アカウントでCopilot Proを使う」といった誤操作が起きやすいのも特徴です。人的エラーを前提としたルール設計が不可欠です。
中小企業で実際に起きやすい情報漏洩の4大シナリオ
Copilotの利用によって起こる情報漏洩の多くは、仕組みそのものではなく日常の運用で起こる小さなミスが引き金になります。ここでは、中小企業で実際に発生しやすい4つの典型的なシナリオを挙げ、どこにリスクが潜んでいるのかを具体的に整理します。
共有フォルダが全員閲覧可能のままで重要情報が引き出される
共有設定のミスは、中小企業で最も多いトラブル要因です。SharePointやTeamsでフォルダが全員閲覧可能になっていると、本人が気づかないまま機密文書がCopilot経由で要約され、他部署の社員でも内容を引き出せてしまうケースが発生します。退職者フォルダが放置されている企業では、古い資料がそのまま参照対象となり、意図しない情報公開につながる場合もあります。
個人アカウントのCopilot Pro利用でビジネスデータが混在する
社員が個人で契約したCopilot Proを業務で使い、会社の資料を入力してしまうケースもリスクの大きいパターンです。個人アカウントでは企業側の管理が効かず、アクセス権確認やログ追跡ができません。
本人の意識に依存するため、社外秘資料を誤って貼り付ける、デバイス紛失時に情報が残るなど 統制不能な領域 が生まれます。中小企業ほどこのケースが多く、漏洩リスクは想像以上に高まります。
契約書・顧客データをそのまま貼り付けてしまう入力事故
現場では、書類チェックや文章の整え作業をそのままCopilotに任せることがよくあります。ここで起きやすいのが、契約書全文・見積書・取引先情報を丸ごと貼り付けてしまう入力事故です。社員としては業務効率化のためのつもりでも、貼り付ける情報が社外秘であることを理解していないことが多く、意図せずセンシティブな内容がAIに流れる危険があります。
リテラシー差によって生じる意図しない情報の取り扱いミス
中小企業では社員のITリテラシー差が大きく、「何が機密情報なのか」「どこまでなら入力していいのか」という判断も人によってバラつきがあります。これにより、メモ感覚で書いた情報が機密に該当してしまうケースや、社内チャットの内容をそのまま要約依頼してセンシティブ情報が含まれるケースが発生します。こうした判断の迷いは、統一したルールがなければ防ぎきれません。
Copilot Pro と Microsoft 365 Copilot|中小企業が安全に使えるのはどちらか
Copilotを導入する際に最も悩むポイントが「どのプランなら情報漏洩リスクを最小化できるのか」です。価格や使える機能だけで判断すると、セキュリティ面で見落としが生まれます。ここでは、中小企業が特に注意すべき安全性の観点での違いに絞って整理します。
| 項目 | Copilot Pro(個人版) | Microsoft 365 Copilot(法人版) |
|---|---|---|
| アカウント管理 | 個人Microsoftアカウント(企業管理不可) | Entra IDで企業が一元管理 |
| データの参照範囲 | 個人OneDriveの範囲のみ | 企業テナント内の権限に完全準拠 |
| ログ・監査 | 追跡ほぼ不可 | 監査ログ・利用状況を管理可能 |
| 情報漏洩リスク | 高い(勝手利用が多い) | 低い(統制が効く) |
| 推奨利用シーン | 個人の学習・趣味 | 中小企業の業務利用全般 |
| 情報統制のしやすさ | × ほぼ制御不能 | ◎ ルール・管理・教育と連動可能 |
アクセス制御・ログ管理・テナント境界の安全性はM365 Copilotが有利
Microsoft 365 Copilotは企業テナント内で動作するため、社員ごとの権限設定やアクセス範囲がそのままCopilotにも反映されます。「誰がどの情報を扱えるか」を企業側がコントロールできる点が最大の強みです。
操作ログや利用状況の監査も可能で、何かあったときに原因を追跡できます。一方で個人利用のCopilot Proには企業側のコントロールが効かず、データ境界も個人アカウント単位でしか管理できません。組織として情報を守る基盤が弱いため、業務利用には不向きです。
中小企業では勝手にProを契約されるリスクが最も危険
M365 Copilotを導入していない企業でよく起こるのが、社員が個人判断で月額契約し、Pro版を利用し始めるケースです。個人アカウントでは資料の扱いが企業側から見えず、「どの情報を入力したか」「どのデバイスから利用したか」の把握ができません。
さらにデバイス紛失や退職時のアカウント残留など、運用上のリスクが積み上がっていきます。中小企業ほど統制が難しいため、勝手利用は大きな事故に直結します。
社員に必ず守らせるべき中小企業のCopilot運用ルール(テンプレ付き)
技術的な安全性をどれだけ整えても、日常の使い方がバラバラだと情報漏洩リスクはゼロになりません。中小企業で最も重要なのは、「社員全員が守るべきルールを明文化し、共通認識を作ること」です。ここでは、最低限おさえておきたい運用ルールを、中小企業向けに整理しました。
【禁止ルール】プロンプトに入力してはいけない情報の明確化
社員が何を入力してよくて、何を入れてはいけないかを正しく理解していないと、意図せぬ漏洩を招きます。特に以下は明確な禁止項目として周知し、文書として残しておく必要があります。
・顧客リスト、契約書全文、個人情報、金額が特定できる見積書
・社内限定の戦略資料や経営会議の内容
・機密度の高いメール内容をそのまま貼る行為
禁止項目は企業によって異なるため、初期段階での棚卸しとルール化が欠かせません。
【共有ルール】SharePoint・Teamsのアクセス設定で外せないポイント
Copilotは社員がアクセスできる情報を参照するため、共有設定の乱れはそのまま漏洩ポイントになります。特に中小企業は部署横断でフォルダを共有しているケースが多く、アクセス範囲の整理が後回しになりがちです。「特定ユーザーのみに限定する」「不要フォルダを閉じる」「退職者フォルダを必ず削除する」など、権限管理の基本を徹底することで、Copilotが参照する情報範囲を安全に保てます。社内マニュアルの整備手順は、AI経営総合研究所のガイドに詳しくまとめています。
【プロンプトルール】役職・業務別に使っていい表現をテンプレ化する
社員のITリテラシー差が大きい企業では、「どう書けば安全なのか」という判断基準が揃っていないことがトラブルの原因になります。そこで、営業・総務・管理部門など、部署ごとの推奨プロンプトテンプレを用意しておくと、誤操作を防ぎながら業務効率化も両立できます。テンプレは1度整備すれば何度も使えるため、情シスの負担を最小限に抑えつつ、全社的に安全な利用を広げられます。
情報漏洩をゼロに近づける中小企業特化の初期設定チェックリスト
中小企業でCopilotを安全に運用するためには、日常のルールづくりだけでなく、導入初期の設定段階でどれだけ「危険な穴」を塞げるかが重要です。特に情シスが一人の場合、設定漏れはそのまま事故につながるため、チェックリスト化して確実に実行する仕組みを作ることがリスク低減の第一歩になります。
アクセス権の棚卸しを月1で定例化する
Copilotは社員がアクセスできる範囲をそのまま参照するため、アクセス権の乱れは重大な漏洩ポイントになります。部署異動や採用・退職のたびに権限が曖昧になる企業は特に注意が必要です。
月1回の棚卸しを定例化し、「誰がどのフォルダにアクセスできるのか」を一覧で確認できる状態にしておくことで、参照範囲を意図せず広げてしまうリスクを大幅に抑えられます。
BYOD利用の制限とデバイス管理の一元化
個人デバイス(BYOD)をそのまま業務利用している企業では、デバイス紛失や個人環境での誤操作がそのまま情報漏洩に直結します。
IntuneやEntra IDによるデバイス管理を導入し、業務データは必ず管理された環境で扱う仕組みを作ることで、デバイス側のリスクを最小化できます。特にスマホからの入力ミスや個人アカウントの混在を防ぐうえでも、デバイス統制は効果的です。
個人Microsoftアカウントの業務利用を完全禁止にする
Copilot Proの勝手利用問題は、中小企業で最も多く見られる事故原因の一つです。個人アカウントでは企業側の監査ログが残らず、「何を入力したのか」「どのデバイスで使ったのか」が把握できません。組織内では、個人アカウントの利用禁止を明文化し、社内ネットワーク上で業務アカウント以外のログインを防ぐ運用が必須です。
推奨セットアップ:Intune × Entra IDで参照範囲と操作ログを守る
中小企業において、最も現実的かつ安全な構成が「Intune × Entra ID」の組み合わせです。デバイス管理、条件付きアクセス、ログ監査を一元化できるため、誰がどこまで見られるのかと何を入力したのかという2つの根幹を守る体制を実現できます。初期設定の負担はありますが、一度整えることで情シスの負荷は大幅に低減します。
情シス1人でも回せる社内教育の仕組み化:研修 × マニュアル × 権限管理
中小企業では、情シス担当が一人で「設定管理」「社員教育」「トラブル対応」のすべてを担うケースが多く、運用ルールを浸透させるだけでも大きな負担になります。長期的に安全なCopilot運用を続けるには、教育を仕組み化することが不可欠です。ここでは、情シス1人でも回せる現実的な仕組みづくりを紹介します。
社員教育のボトルネックは属人化と判断のばらつき
多くの企業で起きる問題は、教育内容が情シス担当に依存し、社員ごとに理解度がバラバラになることです。「この情報は入力していい?」「これは貼っても大丈夫?」と都度質問される状態では、教育効果が安定しません。社員の判断基準が揃っていないと、運用ルールがあっても守られるかどうかが個人次第になってしまいます。
Copilot教育はテンプレ化することで一気に楽になる
情シスが忙しい中でも安全運用を維持するためには、説明内容や手順をテンプレート化し、誰でも同じ基準で学べる状態をつくることが最も効果的です。具体的には、「貼ってはいけない情報の例」「推奨プロンプト」「共有設定の注意点」をまとめたマニュアルを整備し、定期的な振り返りができるようにしておくと、情シスが毎回説明する負担を大幅に削減できます。
SHIFT AI for Bizの研修ならルール設計+教育まで一括で整備できる
中小企業では、ルール作成と社員教育を自力で行うには時間も専門知識も不足しがちです。SHIFT AI for Bizでは、安全に使うための社内ルール設計、業務に合わせたプロンプトテンプレ、教育資料までワンセットで提供しているため、情シス担当者が1人の企業でも短期間で安全運用を実現できます。導入後の定着支援もあるため、「作った後に形骸化する」というよくある問題も防げます。
まとめ:中小企業がCopilotで情報漏洩を防ぐ鍵は技術ではなく運用と教育
Copilotは高度な安全設計によって守られた仕組みを持っていますが、実際に中小企業で起こる情報漏洩の多くは、システムの問題ではなく日常の運用ミスに起因します。共有設定の乱れ、個人アカウントの混在、入力してはいけない情報の判断ミス──こうしたヒューマンエラーは、情シスが一人の企業では特に発生しやすく、技術面だけでは防ぎきれません。
安全な利用を実現するためには、社員全員が同じ基準で利用できるようにルールと教育を仕組み化することが欠かせません。禁止すべき入力情報の明確化、共有フォルダの整理、プロンプトのテンプレート化、初期設定のチェックリスト化など、記事内で紹介した対策を整えるだけでも、漏洩リスクは大きく下げられます。
もし自社だけで運用ルールづくりや社員教育を進めることが難しい場合は、専門的な支援を活用することで、短期間で安全な土台を整えることができます。SHIFT AI for Bizの研修では、社内ルール設計・プロンプトテンプレ・社員教育プログラム・運用の定着支援まで包括的にサポートしており、情シスが一人の中小企業でも確実に運用が回る状態を構築できます。
Copilotは正しく使えば大きな生産性向上をもたらすツールです。技術と仕組みの二つを整え、安心してAI活用を進められる環境づくりを目指していきましょう。
Copilotのセキュリティに関するよくある誤解Q&A
Copilotの安全性については、実際の仕組みとユーザーのイメージにギャップがあり、その誤解が運用ミスや不安の原因になることが多くあります。ここでは、中小企業から特に質問の多い項目を整理し、誤解しやすいポイントを明確にしておきます。
- QCopilotは社内データを学習するのでは?
- A
Copilotは社内データを学習データとして保存・利用しません。あくまでテナント内のアクセス権を踏まえて一時的に参照するだけであり、外部サービスに情報が送られることもありません。誤解が生じるのは「入力したらAIに学習されるのでは」という一般的なイメージによるもので、Copilotの仕組みはこの点で他のAIサービスと大きく異なります。
- QSharePointの非公開フォルダまで参照されるのでは?
- A
Copilotが参照できる範囲は社員本人がアクセス可能な領域のみです。非公開フォルダやアクセス権が付与されていない領域はCopilotでも利用できません。ただし、共有設定が誤って全員閲覧可能になっているフォルダは参照対象となってしまうため、フォルダ構造や権限設定の整理が不可欠です。
- QCopilot Proの勝手利用をどう防ぐ?
- A
最も効果的なのは、個人Microsoftアカウントの業務利用を明確に禁止するルールづくりと、社内ネットワークでのアカウント制御です。IntuneやEntra IDを使うことで、業務アカウント以外での利用を防ぎやすくなり、社員が個人判断でPro版を利用するケースを抑制できます。情シスの負担を減らすためにも、導入初期から統制を設計しておくことが重要です。
- Q万が一情報漏洩が疑われた場合はどうすればいい?
- A
まずはアクセスログの確認と、誰がどの情報を利用したかの把握が必要です。次に、共有フォルダの設定見直しや、問題となったデータの参照範囲の制限を即時実施します。中小企業の場合は、初動フローをマニュアル化し、社員全員が「トラブル発生時に何をすべきか」を把握しておくことで、被害の拡大を最小限に抑えられます。

