建設現場では、いまも紙図面やFAX、口頭連絡が中心の業務が少なくありません。
人手不足や技術継承の難しさ、そして2024年問題――こうした課題が積み重なり、「生産性向上」と「働き方改革」が業界共通のテーマとなっています。
その解決策として注目されているのが建設業DX(デジタルトランスフォーメーション)です。
しかし実際には、「何から手をつければいいのか分からない」「システムを入れても成果が出ない」といった声も少なくありません。
この記事では、建設業DXを成功に導く5つのステップを整理し、現場・経営・ITが一体となって“成果が続くDX”を実現するための実践ロードマップを紹介します。

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目次

なぜ今、建設業でDXが必要なのか

業界を取り巻く構造的課題

建設業は、長年にわたり人手不足・高齢化・長時間労働といった構造的な課題を抱えています。
国土交通省の調査では、建設業就業者の約3割が55歳以上であり、技能継承の担い手が減少している現状があります。
さらに、現場・設計・管理などの業務が縦割り化しており、情報共有の遅れや二重入力といった非効率が常態化しています。

紙図面・FAX・電話中心のやり取りが残る背景には、「これまで通りが一番安全」という慣習や、現場起点でのデジタル導入ノウハウ不足もあります。
その結果、労働時間の増加やミスの発生、若手離職といった副作用が拡大しているのが現状です。

今後、2024年の時間外労働上限規制が本格化する中で、“人手に頼らない仕組みづくり”――すなわちDXの加速が避けられなくなっています。

国土交通省が推進する「建設DX」政策

こうした課題を受け、国土交通省は「i-Construction」や「BIM/CIMの義務化」といったDX政策を段階的に進めています。
これらは単なるデジタル化ではなく、設計から施工、維持管理までのプロセスをデータでつなぐ取り組みです。

たとえば、BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)は、 3Dデータを活用して設計・施工情報を一元管理し、工期短縮やコスト削減を実現する仕組みです。
また、国交省や自治体は、DX加速に向けた補助金・交付金制度も拡充しており、中小建設会社でも活用できる支援策が増えています。

つまり今は、「DXを進めるかどうか」ではなく、「どう進めるか」が問われるフェーズです。
経営層がリーダーシップを取り、現場・管理・ITが連携できる仕組みを構築することが、これからの競争力を左右します。

関連記事:
建設業DXの現状と課題|“ツール導入止まり”を防ぐ5つの成功ステップ

建設DXを成功に導く5つのステップ

“ツール導入”ではなく、“仕組みづくり”へ。
DXは、現場・経営・ITが一体となって進める「組織変革のプロジェクト」です。

ステップ1|現状把握と課題の可視化

DXの第一歩は、現場の実態を正しく把握することです。
紙・エクセル・FAXなどアナログな運用がどこに残っているのか、情報がどこで分断しているのかを洗い出します。

この段階では、

  • 現場ヒアリングによる課題抽出
  • 業務フローの見える化(As-Is分析)
  • データの所在・重複管理の棚卸し

 などを行い、「ボトルネックを可視化する」ことが重要です。

可視化によって、ツール導入の優先順位やコストインパクトも明確になります。まずは“課題の地図”を描くことが、DX成功の出発点です。

ステップ2|DX戦略とKPIを設定する

次に行うのが、DXの目的と指標(KPI)の明確化です。
「効率化」「利益率向上」「人材育成」など、ゴールを曖昧にしたままでは改革が長続きしません。

建設業の場合、戦略設計では以下のような観点が鍵になります。

  • 経営層のコミットメントとビジョン共有
  • どの領域(施工管理/設計/調達)から変えるか
  • 定量KPI(工数削減率・ミス削減率など)+定性KPI(現場満足度・育成度)
  • 成果を“見える化”する仕組み(ダッシュボード・BI活用)

特にKPIは「全社共通」と「現場固有」の両輪で設計することで、経営と現場の目線が一致し、“自走するDX”に近づきます。

ステップ3|デジタル基盤の整備

戦略が定まったら、データを流通させる基盤づくりに着手します。
現場・設計・管理・経理など部門ごとにバラバラだった情報を、クラウド上でつなげることがDXの要です。

主要なデジタル基盤には次のようなものがあります。

  • BIM/CIM:設計・施工情報を3Dデータで統合管理
  • クラウド施工管理ツール:進捗・品質・安全情報をリアルタイム共有
  • IoTセンサー/ドローン:作業状況・稼働・安全データを自動収集
  • RPA/AI:見積・請求・日報などの事務処理を自動化

重要なのは、「技術を導入する」ではなく「業務が変わる」ことを設計することです。
複数ツールを導入する場合は、将来の拡張性やAPI連携の容易さも検討ポイントになります。

ステップ4|業務プロセスの再設計と自動化

DXの目的は効率化だけではなく、“働き方そのものを再構築する”ことです。
既存プロセスを単にデジタル化するのではなく、「この作業はそもそも必要か?」「別の方法で成果を出せないか?」を問い直します。

たとえば、

  • 紙の工程表をクラウド共有に置き換え、関係者が同時に更新
  • AIによる工期シミュレーションでスケジュール調整を最適化
  • RPAを使って請求処理・原価入力を自動化

このように、“置き換え”から“再設計”へ発想を変えることで、現場の負担を減らし、付加価値の高い業務にリソースを振り向けられます。

ステップ5|人材育成と文化変革

DXを長期的に成功させる最大の鍵は、“人”をどう育てるかです。
技術は導入すればすぐに動きますが、使う人が変わらなければ成果は続きません。

  • DX推進リーダーの明確化(経営層+現場代表+情報部門)
  • 管理職・職長層へのAI/デジタルリテラシー研修
  • 若手社員の育成・アイデア提案制度の整備
  • 外部パートナーやコンサルとの連携体制づくり

これらを組織文化として根付かせることで、「DX=一部のIT担当者の仕事」から「全員が取り組む経営戦略」へと進化します。

建設業DXを支える主要デジタル技術

DXを成功させるには、「何を導入するか」よりも「どう使い、どんな価値を生むか」が重要です。
ここでは、建設業で実際に導入が進んでいる代表的な技術と、その活用による変化を紹介します。

BIM/CIM ― 設計・施工をデータでつなぐ

BIM(Building Information Modeling)は建築、CIM(Construction Information Modeling)は土木分野で使われる3次元データ活用の仕組みです。

図面・構造・工程・コスト情報をひとつの3Dモデルで管理することで、

  • 設計と施工の手戻りを削減
  • 協力会社間の連携強化
  • 完成イメージの共有による合意形成の迅速化

といった効果が生まれます。
特に公共工事では国交省がBIM/CIM活用を推奨しており、今後は全ての施工プロセスでの標準化が見込まれています。

IoT・ドローン ― 現場の「見える化」と安全管理

IoTセンサーやドローンを活用すれば、これまで人の目に頼っていた現場管理をリアルタイムに可視化できます。

  • 作業員や重機の稼働状況を自動記録
  • 温度・湿度・騒音・振動など環境データの取得
  • ドローンによる進捗・出来形の自動測量
  • 危険エリアへの立ち入り検知による安全対策

これにより、遠隔地からでも現場の状況を把握でき、安全性と生産性の両立が可能になります。
特に人手不足の現場では、「少人数で現場を管理できる」仕組みとして注目されています。

AI・RPA ― 定型業務を自動化し、判断を支援する

AI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)は、建設業務の事務・管理領域を効率化します。

  • 見積・積算の自動化
  • 図面や仕様書から数量を自動算出
  • 契約書・請求書・日報の自動入力・転記
  • AIによる工期予測やリスク検知

特に近年は、生成AIを活用したドキュメント作成・要約・レポート生成など、ホワイトカラー領域での省力化が急速に進んでいます。
これにより、現場管理者はより付加価値の高い判断・改善業務に集中できるようになります。

クラウド・モバイル ― 現場とオフィスをつなぐ共通基盤

施工管理アプリやクラウド共有ツールの普及により、現場・設計・本社間の情報共有スピードは大きく変わりました。

  • 図面・写真・報告書をクラウドで即時共有
  • スマートフォン・タブレットで現場記録を入力
  • 関係者全員がリアルタイムで最新情報を確認

「現場に戻ってから報告する」作業が減り、移動・待機といったムダ時間を削減できます。
また、クラウド上にデータを集約することで、将来的なデータ分析やAI活用の基盤にもなります。

BI・データ分析 ― 経営判断をデータで支える

デジタル化で蓄積したデータは、経営判断の精度を高めるための資産になります。
BIツール(Business Intelligence)を活用すれば、

  • 現場ごとの原価率や工期を可視化
  • KPIをダッシュボードでモニタリング
  • 将来の需給やリスクをデータで予測

といった形で、経営層・現場・営業の意思決定をスピードアップできます。これが、「感覚経営からデータ経営へ」移行する鍵です。

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DX推進が進まない“4つの壁”と解決策

DXを進めようとしても、途中で停滞してしまう建設会社は少なくありません。
その多くは、ツールやシステムの問題ではなく、組織の仕組みや意識の壁に原因があります。
ここでは、DXを阻む4つの代表的な壁と、その乗り越え方を整理します。

時間の壁|現場が多忙でDXに手が回らない

現場は常に納期と安全のプレッシャーの中にあります。
「デジタル化の必要性は分かっているけれど、今は忙しくて…」という声は、どの会社にも存在します。
この“時間の壁”を超えるには、スモールスタートの発想が有効です。

  • まずは1現場・1業務単位で小さく始める
  • 定型作業(報告書・日報など)から効率化する
  • 成果が出たら横展開する

最初から全社導入を目指すのではなく、小さな成功を積み重ねることで社内理解を得ることが、結果的に最短ルートになります。

意識の壁|“DX=現場には関係ない”という誤解

DXが進まない最大の要因の一つが、現場の「自分ごと化」不足です。
システムは導入されても、使う人の意識が変わらなければDXは動きません。

この壁を超えるには、以下の2点がポイントです。

  • DXによる現場の具体的なメリット(時間短縮・作業ミス減少など)を“見える化”する
  • 成果を共有し、「誰が得をしたか」を実感させる仕組みを作る

トップダウンではなく、現場から「これなら便利だ」と感じてもらう。それがDX文化を根づかせる第一歩になります。

体制の壁|部門間が縦割りで連携しない

建設業では、設計・施工・管理・経理など部門ごとの分断が顕著です。
DX推進を特定部署に任せきりにすると、システム導入だけで終わってしまいます。

解決の鍵は、横断的なDX推進チームを立ち上げること。

  • 経営層がスポンサーとなり方向性を明確化
  • 現場代表・情シス・人事が連携する体制づくり
  • 定例会やダッシュボードで進捗を“見える化”

こうした「役割と責任の可視化」によって、“誰が何を進めるのか”を明確にし、停滞を防げます。

技術の壁|複雑なシステムが定着しない

せっかく導入したシステムも、操作が難しければ使われなくなります。
現場にとっては「管理が増えた」と感じる瞬間が、一番の離脱ポイントです。この壁を越えるには、「誰でも使える設計」×「教育の仕組み」が欠かせません。

  • ノーコード/ローコードツールの活用
  • モバイル中心のUI設計
  • 操作教育を1回で終わらせず、継続サポートにする
  • 現場の声を取り入れて改善する

「システムに人を合わせる」ではなく「人にシステムを合わせる」発想が重要です。

中小建設会社でもできる“スモールDX”の始め方

DXは、大企業だけの取り組みではありません。
「予算も人手も限られている中小建設会社」こそ、スモールスタートで成果を出すチャンスがあります。
ここでは、初期費用を抑えながら現場改善につなげる実践ステップを紹介します。

まずは“紙業務のデジタル化”から始める

多くの中小企業が最初につまずくのは、「どこから手をつけるか」という段階です。
おすすめは、紙やエクセルで行っている業務のデジタル化です。

たとえば、

  • 現場日報をクラウド入力に変える
  • 紙図面をスキャンし、クラウドストレージで共有
  • 見積書や請求書を電子化して転記作業をなくす

これらは無料または低コストのツール(Google WorkspaceやNotionなど)でも始められます。
“まず一歩進める”体験を全員で共有することが、DX定着の第一歩です。

効果を数値で示す“小さな成功”をつくる

スモールDXでは、「見える成果」を早期に出すことが重要です。
1つの現場や部門に限定して取り組み、“業務時間を○時間削減できた”など定量的に効果を出すことで、社内に広がりが生まれます。

  • 効果をレポート化し、社内で共有
  • 成果発表を通じてモチベーションを高める
  • 現場が主導で改善提案を出せる仕組みを整える

この小さな成功体験が、「DX=自分たちでもできる」という自信につながります。

補助金・交付金を活用して負担を抑える

DX導入にかかるコストを理由に、取り組みを先送りにしてしまう企業も少なくありません。
しかし、国や自治体では建設業DXを対象とした補助金・助成制度が整備されています。

  • IT導入補助金
  • 中小企業等事業再構築補助金
  • DX推進補助金(自治体独自制度)

これらを活用すれば、クラウドツール導入や人材育成研修の費用を最大1/2〜2/3まで補助できる場合もあります。
申請には計画書が必要ですが、外部支援サービスを活用すれば負担を軽減できます。

外部パートナーと協働し、現場に合った設計を

自社だけでDXを完結させようとすると、ノウハウ不足で止まることがあります。
このとき、建設業の業務構造を理解した外部パートナーと連携するのが効果的です。

  • 現場課題のヒアリングから伴走するDX支援会社
  • IT導入支援事業者によるツール選定サポート
  • DX研修・AI研修による社内定着支援

外部の視点を取り入れることで、“現場にフィットした仕組み”を短期間で構築できます。

経営層が“旗振り役”となり、現場を支える

スモールDXを定着させるうえで欠かせないのが、経営層のリーダーシップです。
「DXを進める」と言葉で発信するだけでなく、現場の時間確保や評価制度の見直しなど、経営レベルでの支援が必要です。

  • DX推進を人事評価に反映する
  • 成果を発信し、社内全体で称賛する
  • 失敗しても挑戦を評価する文化を育てる

経営が旗を振り、現場が実践する――この両輪がかみ合って初めて、DXは組織に根づきます。

まとめ|DXは導入ではなく“育てる”もの

建設業におけるDXは、最先端技術を導入することが目的ではありません。
現場の知恵とデジタル技術を融合させ、持続的に改善していくことが本質です。

DXを“育てる”とは、

  • 現場の声を起点に課題を見つけ、
  • データを活かして改善を繰り返し、
  • それを組織文化として根づかせていくこと。

この循環が生まれたとき、ツールやシステムは“使われるもの”から“成長を支える仲間”へと変わります。

小さく始めても構いません。重要なのは、一度始めたDXを止めないことです。
今日の一歩が、明日の競争力を生み出します。

現場人材のデジタル活用力を高め、組織の自走型DXを実現しましょう。

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建設業DXの進め方でよくある質問(FAQ)

Q
建設業DXとは具体的にどんな取り組みを指しますか?
A

建設業DXとは、デジタル技術を活用して業務や組織の仕組みを根本的に変革する取り組みを指します。
単に紙書類をデジタル化するだけでなく、BIM/CIM・IoT・AI・クラウドなどを活用し、設計から施工・維持管理までの情報を連携させ、生産性と安全性を高めることが目的です。

Q
DXを進めるには、まず何から始めればいいですか?
A

最初のステップは、現状の課題を可視化することです。
どの業務にムダが多いか、どこで情報が滞っているかを洗い出すことで、優先的に取り組む領域が明確になります。
そのうえで、小規模な現場や特定の業務からスモールスタートし、成功事例を横展開していくのが効果的です。

Q
中小建設会社でもDXは進められますか?
A

はい、十分に可能です。
まずは現場日報のデジタル化やクラウド共有など、コストをかけずに始められる業務から着手すると良いでしょう。
国や自治体の補助金制度を活用すれば、初期投資を抑えながらツール導入や人材育成を進められます。

Q
DX推進に使える補助金制度にはどんなものがありますか?
A

代表的な制度には以下があります。

  • IT導入補助金(クラウドツール導入支援)
  • 中小企業等事業再構築補助金(業務転換・デジタル化支援)
  • 地方自治体のDX支援補助金(地域限定)
    申請要件や募集時期は年度によって変わるため、最新情報は各自治体や経済産業省のサイトを確認してください。
Q
DXを推進する担当者に求められるスキルは何ですか?
A

DX推進担当には、現場理解・ITリテラシー・コミュニケーション力の3要素が求められます。
特に、技術よりも「現場課題を正確に把握し、社内を巻き込む力」が重要です。
生成AIなどの新しいツールを理解し、業務改善に応用できる知識を持つことで、DXの実行力が高まります。