DX推進は「誰が旗を振るか」で成否が決まります。経営層がリーダーシップを握れば全社戦略との一体化が進みますが、現場の温度感とのギャップが生まれるリスクもあります。

逆に業務部門が主導すれば課題発見や改善スピードは速まりますが、全社横断のスケールに壁が立ちはだかるでしょう。

いま、多くの企業が「DXをやれ」と上層部から指示を受けながらも、誰が主役になるべきかを決めきれずに足踏みしています。その背景には、

  • 経営・IT・現場のいずれがリーダーになっても一長一短がある
  • 権限や予算、評価指標が曖昧なままスタートしてしまう
  • 人材やスキルの不足が初動からボトルネックになる

といった構造的な課題があります。

本記事では、「DX推進は誰がやるべきか」という問いに正面から答えます。経営直轄・業務主導・IT主導・専任組織の4つの体制を比較し、判断基準・落とし穴・最初の90日間で何をすべきかまで、実務目線で解説します。

さらに、DX人材育成や体制強化に直結するリソースも紹介し、読後すぐに“自社の主役”を決められる状態まで導きます。

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まず結論:規模と目的で決まる「4つの主役」

DXの旗振り役は“セオリーで固定”ではなく、会社の規模・事業の性質・DXの到達目標で最適解が変わります。先に全体像を押さえ、迷いを減らしましょう。

<4タイプ早見(目安評価)>

主役タイプ決裁速度現場巻き込み技術妥当性横展開のしやすさこういう会社に向く
経営直轄(CEO/経営企画)△〜○変革の意思決定を素早く回したい/全社横断の再設計が必要
業務部門主導現場課題が明確/短期で業務KPIを動かしたい
IT部門主導(情シス/デジタル)セキュリティ・データ統合がボトルネック/全社アーキを整えたい
専任横断(DX推進室)事業数・拠点数が多い/横展開・標準化がカギ

上表はあくまで初期の傾向です。主役+副主役(例:経営直轄 × 業務PO、ITはアーキ担当)というハイブリッド設計が最も現実的です。

投資判断の説得材料にはこちら → 【DX推進のメリット10選】

経営直轄(CEO/経営企画)

経営直轄型は、全社の資源配分や優先順位を最短距離で変えられるのが最大の強みです。特に事業再構築や新規事業立ち上げなど、大胆な戦略転換を伴うDXでは効果を発揮します。

例えば、ある製造業ではCEOが自らDX推進会議の議長を務め、複数部門に跨るシステム刷新を半年で完了させました。経営トップが週次で“障害除去(Unblock)”に関わり、現場のボトルネックを即日解消する体制を構築したのです。

ただし、現場からは「やらされ感」が出やすく、机上の計画になりがちです。これを防ぐには、現場のプロダクトオーナー(PO)を併任させ、成果KPIを人事評価に連動させることがおすすめです。

業務部門主導

現場起点でのDXは、課題発見から改善までのサイクルが圧倒的に速いのが特徴です。物流企業A社では、現場リーダーがPOとなり、入出荷工程のボトルネックをIoTとAI解析で解消。結果、リードタイムが30%短縮され、即座に顧客満足度向上につながりました。

一方で、全社横断の標準化には壁があります。部門ごとのやり方が異なり、後から統合コストが膨らむことも少なくありません。そのため、IT部門と連携し共通APIやアーキテクチャ基準を最初に設定することが欠かせません。

IT部門主導(情報システム/デジタル)

IT部門主導は、セキュリティ・データ統合・全社最適を守る砦です。金融機関B社では、情報システム部門が全プロジェクトのデータ品質・権限設計を統一ルール化。PoCの乱立やセキュリティ事故を未然に防ぎ、監査コストを年間数千万円削減しました。

ただし、要件が「IT化」してしまい、現場のオーナーシップが薄れる懸念があります。回避策は明確で、業務側POがビジネス価値を定義し、ITは実装妥当性を担保する役割分担を徹底することです。

専任横断(DX推進室)

DX推進室は、部門横断の中枢としてベストプラクティスを全社に広げる役割を持ちます。多拠点を持つ小売業C社では、推進室が店舗ごとのDX成功事例をテンプレ化し、全国100店舗へ一気に展開。結果、在庫回転率の改善と顧客データ活用率向上を同時に達成しました。

一方で、権限や評価が曖昧だと「調整役」に終始してしまうリスクがあります。そのためには、経営直轄ミッション(権限・予算・人事)を明示し、KPIオーナーを現場に置き、推進室はメソッドと監査を担うという役割設計が重要です。

主役を決める3つの判断軸(迷いをなくすフレーム)

DXの旗振り役は“声の大きさ”ではなく、権限の実効性・価値の測定可能性・人材ケイパビリティという3軸で決めるとブレません。ここで腹落ちする基準を共有します。

軸① 権限とアカウンタビリティ(どこまで変えられるか)

DXは既存の業務・人・予算を動かす取り組みです。よって“主役”は、障害を取り除く権限結果責任を持っている必要があります。

たとえば「在庫最適化」を進めるなら、購買・生産・販売のKPIや在庫評価ルールに手を入れられることが条件です。権限が弱いまま進めると、設計は正しくても“止まる”か“戻る”。

例:確認したい論点

  • 予算:PoC〜ロールアウトの段階投資を主導できるか
  • 人事:必要スキル人材の配置転換・併任を意思決定できるか
  • 業務:部門をまたぐプロセス変更を承認できるか
  • データ/IT:標準・セキュリティに例外を設定できるか(期間付き例外も含む)

この4点のうち3つ以上を握れる主体が“主役”候補。足りない項目は副主役(例:IT部門・推進室)で補完する前提で設計します。

軸② 価値仮説とKPI(成果をどう測るか)

“誰がやるか”の前に、“何を成果とするか”が曖昧だと討論が空転します。ビジネスKGI→プロセスKPI→運用指標のツリーを先に決め、主役がそれを自分事で持てるかを見ます。

例:製造リードタイム短縮を狙うケース

  • KGI:納期遵守率+粗利率の改善
  • KPI:前工程→後工程の滞留時間-20%、段取り替え時間-30%
  • 運用指標:現場の手戻り回数、不良率、WIP(仕掛品)水準
  • 評価リズム:週次でKPIレビュー、月次で投資判断をゲート審査

“KPIを週次で見に行く覚悟”がある主体が主役に向きます。KPIレビューを人事評価や表彰制度と結びつけられるのは経営直轄/専任横断が強み。

関連記事:DX推進のメリット10選DX推進のデメリットと回避策(KPI設計の落とし穴)

軸③ 人材とケイパビリティ(できる体制を持っているか)

最後は“誰が実務を回せるのか”。プロダクトオーナー(業務)、アーキテクト/データ(IT)、チェンジマネジメント(推進室)の三点セットがあるかを見ます。足りない場合は、採用・育成・外部の三手で補う前提を最初から組み込みます。

例:主要ロールと求める強み

  • 業務PO:現場KPIを握り、優先順位とスコープを決め切る力
  • IT/データ:標準アーキとデータ品質を守る力(例外運用の設計も)
  • 推進室:RACI・ガバナンス・横展開のテンプレ化を進める力
  • 外部:不足スキルの短期ブースト(実装・教育・コーチング)

三点セットの2ロール以上を社内で担保できるなら、その側が主役に向く。足りないロールはSHIFT AI for Bizの研修や外部協業で“時間を買うのがおすすめです。

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簡易スコアリング(判断を早めるためのグリッド)

各軸を1〜5点で採点し、合計点と“凸凹”で主役を決めます。凸凹が大きいほどハイブリッド設計(主役+副主役)を選びます。

1点(弱)3点(中)5点(強)
権限/責任変更できる範囲が限定的主要KPIor予算のどちらかを握る予算・人・業務・ITの3領域以上を握る
価値/KPI成果の定義が曖昧KPIはあるがレビュー頻度が低いKPIが週次運用、投資ゲート連動
ケイパビリティ三点セットが欠ける一部内製+外部で補完三点セットを自社で運用できる

例:参考マッピング

  • 経営直轄:権限5/KPI5/ケイパ3 → 現場PO併任で補完
  • 業務主導:権限3/KPI5/ケイパ3 → ITのアーキ審査で補完
  • IT主導:権限3/KPI3/ケイパ5 → POを業務側に置く
  • 専任横断:権限4/KPI4/ケイパ4 → 経営直轄ミッションで押し切る

候補別のメリット・リスク・打ち手(深掘り比較)

DX推進の主役候補は、どれも強みと弱みがあります。ぜひ参考にしてください。

経営直轄(CEO/経営企画)

経営直轄は、DXを全社戦略の一環として最短距離で推進できるモデルです。大きな変革や複数部門にまたがる刷新を短期間で進める場合に特に有効ですが、現場との温度差が生じやすい側面もあります。

項目内容
背景全社戦略に直結し、意思決定とリソース配分を迅速に行える体制。事業再構築や大規模刷新に強い。
メリット・全社優先順位を即時変更可能・予算・人員配分が柔軟・経営KGIとDXKPIを直結できる
リスク・現場のやらされ感が強まる・技術・業務理解不足による机上化
打ち手・現場POを併任し双方向の意思決定・KPIを人事評価に連動・技術面はIT部門や外部が補佐
事例大手製造業A社:CEO主導で半年間の全社システム統合を実現。週次会議で障害除去リストを即時処理。

経営直轄型は意思決定力と実行力が魅力ですが、現場の納得感を得るための仕掛けが欠かせません。現場POの併任や評価制度への反映が成功のカギとなります。

業務部門主導

業務部門主導は、現場の課題に密着して改善を高速で回せるアプローチです。現場起点の施策は効果が見えやすく、短期成果につながりますが、全社標準化には注意が必要です。

項目内容
背景現場課題に密着し、改善サイクルを短期間で回せる。顧客接点が多い領域に有効。
メリット・課題発見から改善までが速い・成果が現場KPIに直結・小規模PoCから始めやすい
リスク・全社標準化が困難・後から統合コストが膨らむ可能性
打ち手・ITと共通基準を事前に策定・横展開テンプレを作成・KPIレビューに経営層も参加
事例物流企業B社:AI活用で入出荷プロセスを最適化、リードタイムを30%短縮し全拠点へ展開。

業務主導型はスピードと成果の可視化が魅力ですが、後の統合コストを見越して初期から標準化設計を組み込む必要があります。

IT部門主導(情報システム/デジタル部門)

IT部門主導は、セキュリティやデータ統合のガバナンスを維持しながらDXを進めるモデルです。全社最適の観点では強いですが、現場のオーナーシップを損なうリスクがあります。

項目内容
背景セキュリティ、データ統合、基盤整備を担い全社最適化を推進。
メリット・データ品質・セキュリティの統一・ツール乱立防止・法規制対応の容易化
リスク・要件がIT寄りに偏る・現場のオーナーシップが低下
打ち手・業務POが価値定義を主導・ITは妥当性・安全性担保に集中・PoCゲートで乱立防止
事例金融機関C社:データガバナンス統一で監査工数を年間数千時間削減しつつ顧客データ活用ROI向上。

IT主導型は基盤の安定性が強みですが、価値定義は業務側が担う設計にすることで現場の主体性を確保できます。

専任横断(DX推進室)

専任横断は、複数部門や拠点のDX施策を標準化・共有する組織モデルです。横展開のスピードは速いですが、権限が弱いと単なる調整役になりがちです。

項目内容
背景部門・拠点横断でベストプラクティスを共有し、全社標準化を進める専任組織。
メリット・調整効率化と標準化加速・成功事例の全社展開が速い・経営と現場の橋渡し役
リスク・権限不足で調整役止まり・成果が曖昧になりやすい
打ち手・経営直轄ミッションで権限・予算を明確化・KPIオーナーは現場に設定・推進室はメソッドと監査に特化
事例小売業D社:成功施策をパッケージ化し、全国100店舗へ展開。

推進室型は全社最適の推進力を持ちますが、実行力を保つために経営直轄の権限付与と評価制度の連動が不可欠です。

役割分担は“RACI”で詰める:誰が決め、誰が作り、誰が承認するか

DXプロジェクトは、1人のスーパーマンだけでは進みません。経営、業務部門、IT、推進室、外部ベンダーなど多様な主体が関わるため、「誰が最終責任者なのか」「誰が動くのか」「誰が助言をするのか」が曖昧だと、必ず停滞や手戻りが発生します。

ありがちな失敗例

  • 経営と現場が「お互いがやるだろう」と責任を押し付け合う
  • 外部ベンダーが実務を進めるが、承認者が不在で意思決定が滞る
  • 情報共有が遅れ、現場の動きと経営判断がズレる

こうした事態を防ぐために有効なのが、RACIチャートです。

RACIとは何か?

RACIは、タスクごとに役割を4種類に分け、責任と権限を明確化するフレームワークです。

  • R(Responsible):実行責任者(実務を遂行する人)
  • A(Accountable):最終責任者(成果の品質や意思決定を担う人、原則1人)
  • C(Consulted):相談先(専門知見や助言を行う人)
  • I(Informed):情報共有先(進捗や結果を知っておくべき人)

RACI設計の手順

以下の手順で進めると、混乱を防ぎながら合意形成ができます。

  1. プロジェクト単位でタスクを洗い出す
    例:「データ基盤刷新」「営業プロセスDX」など
  2. タスクごとにR/A/C/Iを割り振る
    実装、要件定義、テスト、教育、KPI管理など
  3. A(最終責任者)は必ず1人にする
    責任の所在を明確化
  4. RとAの関係を明文化
    誰が動き、誰が承認するのかを可視化
  5. 関係者全員でレビューして承認
    導入前に必ず合意を取り、後からの「そんなつもりじゃなかった」を防ぐ

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在庫最適化プロジェクトのRACI例

下記は在庫最適化をテーマにしたDXプロジェクトでのRACI割り振り例です。プロジェクト単位で役割を可視化すると、責任の所在や連携ルートが一目で分かります。

タスクR(実行)A(最終責任)C(相談)I(共有)
KPI設定業務部門PO経営企画部長IT部門長全管理職
データ収集基盤構築IT部門IT部門長外部ベンダー業務部門PO
AIモデル開発外部ベンダーIT部門長業務部門PO経営企画部長
現場運用トレーニング業務部門PO業務部門長推進室全現場責任者
KPIモニタリング推進室経営企画部長業務部門PO全社

RACIは単なる役割表ではなく、DXを止めないための仕組みです。特に、経営直轄型なら「A」は経営、業務主導型なら「A」は業務長とするなど、主役タイプに合わせて設計すれば、責任の空白を防ぎつつ、判断スピードと品質を両立できます。

運用中も定期的に見直し、実態と合わなくなったら即更新することが成功のカギです。

タイプ別:最初の90日実行計画(Day0–90)

DX推進は、責任者を決めた瞬間がスタートラインです。
しかし「まず何から手を付ければいいのか」が不明確だと、時間だけが過ぎてしまい、勢いが失われます。
そこで重要なのが、就任から90日間の“初動プラン”をあらかじめ設計しておくことです。

下記は、主役タイプごとの90日アクション例です。経営直轄、業務主導、IT主導、専任横断それぞれの強みを活かし、弱点を補いながら動くステップを整理しました。

<タイプ別90日計画表>

期間経営直轄業務部門主導IT部門主導専任横断(DX推進室)
Day0–30方向付けと現状把握– DXの目的・KGI/KPIを経営会議で明文化- 全社優先順位の調整- 主要プロジェクト候補を選定– 現場課題の棚卸しと優先順位付け- KPIを現場単位で設定- 改善テーマのPoC候補抽出– 全社ITアーキ・データ現状の棚卸し- セキュリティ/コンプライアンス要件確定- 技術制約の整理– 全部門のDX案件リストアップ- 共通課題・成功事例の収集- 標準化候補テーマ選定
Day31–60試行と学習– 優先度1位プロジェクトをPoC開始- ボトルネック除去を週次レビュー- 成果指標の初期値計測– PoCを小規模導入しKPI計測開始- 成功/失敗要因を現場で共有- IT部門と標準化条件を協議– 技術検証とPoC実施- データ品質・権限設定を確定- 業務側と価値定義のすり合わせ– 代表拠点/部門で標準プロセス試行- KPIと運用負荷の両面を検証- 標準化マニュアルのドラフト作成
Day61–90拡張準備と定着設計– 成果の出た施策を横展開計画化- 次の投資判断を実施- 評価制度とKPIの連動を決定– 成功施策をテンプレ化- 横展開先の優先度付け- 標準手順と教育計画を策定– 成果を踏まえ標準技術選定- 全社導入計画の策定- 運用ルールと監査プロセス定義– 全社展開スケジュール策定- 教育・サポート体制構築- 標準化の承認プロセス完了

90日間は、DX推進の「助走」ではなく勝ちパターンを固める本番です。最初の3カ月で成果の芽を見せることで、経営の後押しや現場の協力が一気に強まります。
逆に、この期間に動きが鈍いと「DXは掛け声だけ」とレッテルを貼られ、失速しかねません。

主役タイプごとの強みとリスクを意識しながら、Day0–90の計画をカレンダーに落とし込むレベルまで具体化してからスタートしましょう。

関連記事:DX人材育成は何から始める?初動90日で成果を出す3ステップと失敗回避法

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費用感と人材戦略:現実的な予算とチーム設計

DX推進は「旗振り役」さえ決まれば進むと思われがちですが、現実はそう単純ではありません。推進体制を動かすには予算人材という2つのエンジンが必要です。どちらかが不足すれば、計画は早晩失速します。

ここでは、主役タイプに応じた費用のかけ方、人材の組み合わせ方、そして長期的に持続させるための戦略を解説します。

1. 費用感の考え方

DXの費用は大きく3分類に分けて見積もります。重要なのは「初年度の単発予算」ではなく、3〜5年単位のライフサイクルコストを見通すことです。

  • 技術投資(CapEx)
    • システム開発、クラウド基盤構築、AIツール導入など
    • 経営直轄・IT主導型では特に初年度集中投資が発生しやすい
    • PoCと本格導入が並行するため二重コストの覚悟が必要
  • 人材コスト(OpExの一部)
    • 社内人件費、外部コンサル費、専門人材の採用・教育費
    • 専任組織を設置する場合、恒常的な固定費として組み込む必要あり
    • 1人あたり年600〜1,200万円が一般的なレンジ(管理職クラス)
  • 運用・保守コスト(OpEx)
    • サブスク利用料、保守契約、セキュリティ更新、データ管理
    • 年間予算の10〜20%を目安に「運用フェーズ」に回すと安定稼働しやすい

初年度の華やかな投資ばかりが注目され、翌年度以降の保守・改善・教育費が軽視されるケースが多い。回避策は「5年間の費用推移表」を経営会議で共有し、維持費も含めた意思決定を行うこと。

2. 主役タイプ別の費用傾向

主役タイプの費用傾向は以下のとおりです。

  • 経営直轄型
    大規模プロジェクトを一括決裁できるため初期投資は厚くなりがち。その分、短期間での成果提示プレッシャーが強い。
  • 業務主導型
    小規模PoCを多数回し、成功例を横展開するため投資は分散傾向。ROIの見せ方次第で追加予算を獲得しやすい。
  • IT主導型
    基盤整備や統合投資が初期に集中。回収は長期で見込む必要があるが、標準化により将来の維持費削減効果が大きい。
  • 専任横断型
    組織運営コストが継続的に発生するが、横展開によるスケールメリットで中長期的には投資効率が高まる。

3. 人材戦略の基本構造

DX推進は、業務(ビジネス価値)・IT(技術妥当性)・推進管理(ガバナンス)の三位一体が揃って初めて機能します。不足する領域は外部を使ってでも早期に補強することが重要です。

  • 業務担当(プロダクトオーナー)
    部門KPIのオーナーであり、現場の優先順位を決める役割
  • IT/データ担当(アーキテクト・エンジニア)
    技術的妥当性・データ品質・セキュリティを担保する役割
  • 推進管理(DX推進室・PMO)
    RACI設計、進捗監視、横展開の仕組みづくりを担う役割

 「穴埋め」ではなく期限付きの能力ブーストとして使うことが大切です。例えば、AIモデル開発を外部で半年間回し、その間に内部人材をシャドー参加させノウハウ移転できます。

4. 長期的に機能する体制を作るために

  • 初年度から教育プログラムを組み込み、内製力を高める
  • 成果連動の人事評価や表彰制度で現場の巻き込みを強化
  • 外部委託の割合は年々下げ、3年目以降は内部主導へ移行するロードマップを描く

DX推進は、予算と人材の設計を“現実的かつ持続可能”にすることが不可欠です。初年度のインパクトと、3〜5年後の安定稼働の両立を意識し、主役タイプごとに適した費用配分とチーム構成を設計しましょう。

まとめ:主役を決めた瞬間からDXは動き出す

DX推進は「何をやるか」より先に「誰がやるか」を決めることが出発点です。
この記事で紹介した4つのタイプと判断軸を使えば、自社に合った主役と推進体制を選べるはずです。

ただ、決めた瞬間からが本番です。主役を支える人材育成や仕組みづくりがなければ、計画は止まってしまいます。

SHIFT AI for Bizは、タイプ診断から90日間の実行支援まで一気通貫で伴走し、現場と経営を同時に動かします。

今こそ、動き出すタイミングです。まずは無料相談で、最適な推進モデルと初動計画を手に入れてください。

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DX推進に関するFAQ(よくある質問と回答)

Q
DX推進の責任者は必ず経営層でないとダメですか?
A

必須ではありませんが、経営層が強くコミットしていないと全社横断の変革は難しくなります。
経営層が「A(最終責任者)」を担い、実務の「R(実行責任者)」を業務やIT部門に任せるハイブリッド型が現実的です。

Q
DX推進室を作るには何人くらい必要ですか?
A

最小は2〜3人からでも機能しますが、役割の偏りがないよう業務・IT・推進管理の3要素を必ずカバーしてください。
規模拡大を見据え、外部人材や兼任者を含めた柔軟な設計が有効です。

Q
予算が少ない場合、どのタイプで始めるのが良いですか?
A

業務主導型がおすすめです。現場発の小規模PoCを繰り返すことで低コストでも成果を可視化できます。
ただし、成功事例を横展開するための標準化計画は初期から組み込みましょう。

Q
外部コンサルに丸投げしても良いですか?
A

丸投げは推奨しません。短期的な成果は出せても、知見が社内に残らず依存構造になります。「期限付き支援+内部人材のシャドー参加」でノウハウ移転を前提にしてください。

Q
DX推進の成果はどれくらいで出ますか?
A

施策によりますが、PoC段階の効果は3〜6カ月、本格導入による業績インパクトは1〜3年が目安です。初期の90日で“成果の芽”を見せることが、継続投資の鍵になります。

Q
人材不足の中でDXを進めるには?
A

採用・育成・外部活用の3手を同時に打つことが必要です。
関連リンク
DX人材育成ロードマップ
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