「ChatGPTを導入したが、誰も使っていない」
「PoCで終わってしまい、次の展開に進めない」
「情シス主導で進めたが、現場に定着しなかった」

こうした悩みは、生成AIを導入した企業の多くが直面している共通課題です。

その背景にあるのは、生成AI導入を“単なるツールの導入”と捉え、仕組み化の視点が欠けていること

生成AIは“導入しただけ”では成果につながりません。

本当に現場で活用され、成果を生み出すためには、「どのようなステップで導入を進めるか」をあらかじめ設計することが不可欠です。

本記事では、PoC止まりを回避し、現場に根づく生成AI導入を実現するための7ステップを詳しく解説します。

さらに、各ステップで活用できるチェックリストや内部リンクも豊富にご紹介。

「どこから着手すればよいかわからない」という方も、この記事を読み終えた頃には、自社に合った導入ロードマップのイメージが描けるはずです。

目次

【全体像】生成AI導入の7ステップ|まずは全体を俯瞰する

生成AIの導入を成功させるには、単発の施策ではなく一貫した導入ステップの設計が欠かせません。PoCで終わらず、全社展開・現場定着へとつなげるには、「いつ・誰が・何をするか」を具体的に描いたロードマップが必要です。

本記事では以下の7ステップで、現場で“使える”生成AI導入のプロセスを解説します。

生成AI導入の7ステップ

ステップ概要
Step 0目的の明確化とゴールの共有
Step 1業務の棚卸しと優先度設定
Step 2PoC設計と評価指標の定義
Step 3社内体制の構築と推進ハブの明確化
Step 4ルールとガイドラインの整備
Step 5教育・研修によるリテラシーの底上げ
Step 6成果共有と展開ロードマップの策定

これから各ステップを順を追って解説していきますが、すべてを完璧に整えてからスタートする必要はありません。

まずは「自社が今、どのステップにいるのか」を把握し、そこから必要なアクションを具体化していくことが重要です。

それでは、最初のステップである「目的の明確化とゴールの共有」から見ていきましょう。

Step 0:目的の明確化とゴールの共有

「生成AIを導入すべきだ」という声が社内で上がっても、導入の“目的”が曖昧なままでは、PoC止まりになるリスクが非常に高くなります。

生成AIの導入はあくまで「手段」であり、その先に解決したい課題や達成したい成果があるはずです。

にもかかわらず、「流行っているから」「他社がやっているから」という理由で導入が進むと、活用の方向性が定まらず、現場の混乱や形骸化につながります。

目的が曖昧だとどうなる?

  • ツール選定の軸が定まらず、PoCのテーマもバラバラに
  • 部門間で目指すゴールがズレて、推進が空中分解する
  • 「効果が見えない」と評価され、次の稟議が通らなくなる

明確にすべき目的の例(具体化パターン)

抽象的な目的明確化した目的例
業務効率を上げたい社内FAQ対応の所要時間を月20時間削減する
社内DXを推進したい月5件の業務改善提案を生成AI活用で創出する
属人化を解消したい属人業務マニュアルをAIと共同作成し、2ヶ月で20本整備

関係者とのゴール共有がカギ

推進担当者だけで目的を設定しても、現場の納得が得られなければ意味がありません。

経営層・情シス・現場部門との対話を通じて、「何を目的に、どのような状態を目指すのか」を共通言語化することが、導入成功の第一歩です。

👉 関連記事:
生成AI導入の効果が見えない?KPIの設計と“見える化”のポイントを解説

Step 1:業務の棚卸しと優先度設定

目的を明確にしたら、次に行うべきは「どの業務で生成AIを活用するか」を選定する作業です。

このステップが曖昧だと、効果が見えづらい業務に着手してしまい、PoCの段階でつまずく可能性が高まります。

まずは“棚卸し”からはじめよう

現場で日々行われている業務を洗い出し、「属人化している業務」「手作業が多い業務」「定型文が頻出する業務」などをリストアップしていきます。

目的とひもづけて「改善インパクトが大きい業務」を優先的に選ぶことがポイントです。

生成AIに向いている業務・向かない業務

向いている業務特徴
定型文の作成(メール、議事録、FAQなど)出力の型が決まっている/再利用しやすい
情報整理・要約テキスト量が多く、人手で処理すると時間がかかる
アイデア出し/案の比較人間の発想支援として有効に機能
社内ナレッジの検索社内FAQ・手順書が蓄積されている場合に特に効果的
向いていない業務理由
精度・正確性が絶対条件の業務出力ミスが大きなリスクに直結する(法務・契約など)
業務知識の属人度が極端に高い業務前提情報が少ないと生成AIが有効に働かない
システム操作が前提の業務RPAなど他ツールとの併用が必要なケースも

業務選定時の評価軸例(テンプレ化も可能)

  • 現在の作業時間/月
  • 業務の属人化度合い
  • データの有無・質
  • 目的との一致度(例:コスト削減・品質向上)
  • 社内ナレッジ化の可能性(再利用性)

導入初期は、「成果が見えやすく、現場に喜ばれる業務」を優先すると成功体験が得られやすく、社内展開への弾みになります。

👉 関連記事:
生成AI導入に向いている業務とは?PoCで成果を出す業務選定ガイド

Step 2:PoC設計と評価指標の定義

導入業務を絞り込んだら、次は小さく試して学ぶ「PoC(Proof of Concept)」のステージです。

ここで重要なのは、「なんとなくやってみるPoC」にしないこと

PoCの段階で成果を出せるかどうかが、次の展開(再稟議や他部門展開)につながるかどうかの分かれ目になります。

PoCの設計で押さえるべき3つのポイント

  1. 目的とゴールを明確にする

     → Step 0と連動。「このPoCは何を検証するためのものか?」
  2. PoC対象の業務フローを可視化する

     → Before/Afterでの変化を見える化。作業時間や手間の比較など。
  3. 評価指標(KPI)を定量・定性の両面で設定する

     → 数値だけでなく「現場の納得感」など感覚的な要素も重視する。

KPI例|PoCで設定すべき評価軸

指標項目説明
作業時間の削減率例:議事録作成にかかる時間が50%短縮された
出力精度例:人が修正する箇所が全体の30%以下だった
現場の納得度例:5段階評価で4以上が◯%を超えた
習熟時間例:操作理解までにかかった平均時間が10分以内だった

PoCの失敗例に学ぶ

  • 評価指標を設定せずに「なんとなく便利そう」で終わる
  • 成果が口頭でしか共有されず、他部門展開の材料にならない
  • 工数が削減されたのに、社内で“効果が伝わらない”

PoCを「一度きりの実験」にしないためにも、再稟議・拡大展開の“武器”となる評価指標の整備が必要です。

👉 関連記事:
生成AI導入の稟議書、なぜ通らない?“通す提案”に変える7つの視点

Step 3:社内体制の構築と推進ハブの明確化

PoCの実施に成功しても、それを組織に根づかせるには「推進体制の構築」が不可欠です。

特に中堅〜大手企業では、情シスやDX部門だけで完結させようとすると、現場の温度感とのギャップが生まれ、導入が形骸化しやすくなります。

ありがちな失敗パターン

  • 情シスがPoCを実施したが、他部署が「自分ごと化」できない
  • 各部門がバラバラに導入し、ノウハウが社内に蓄積されない
  • 推進担当者が“1人”で抱え、途中で疲弊・孤立してしまう

社内推進体制に必要な3つの役割

役割機能備考
導入リーダー(推進責任者)目的とロードマップを全社に共有・推進情シス・経営企画などが担うケース多し
現場アンバサダー(部門内推進者)実際の運用・定着活動を支援部門に1名以上配置が理想
伴走パートナー(外部支援含む)導入設計・ナレッジ整理・教育支援内製に限らず、研修会社の活用も有効

「社内ハブ」を意図的につくる

導入成功企業の多くが実践しているのが、「生成AI活用に関する相談窓口(ハブ)」の設置です。

これにより、現場の質問・成功事例・課題を一箇所に集約し、属人化を防ぎながらナレッジを蓄積していけます。

「うちはまだ体制が整っていない」と感じた場合も、まずは小さく「現場の1人をハブ化する」ことから始められます。

👉 関連記事:
AI導入担当者が孤立しない体制とは?巻き込み設計と社内ハブの作り方

Step 4:ルールとガイドラインの整備

PoCや導入体制が整い、現場での活用が始まると、次に浮上するのが「ルールがないまま使われ始める」という問題です。

生成AIは便利である一方、誤用や情報漏洩のリスクもあるため、利用ルールやガイドラインの整備は早い段階で必須です。

ルールがない現場で起きがちなトラブル

  • 機密情報をうっかり入力してしまう
  • 「何を聞いていいのか分からない」まま誤用される
  • 精度の低い回答を鵜呑みにして意思決定に使う
  • 部門によって使い方・判断基準がバラバラになる

ガイドラインに含めるべき主な要素

項目内容例
利用目的の明示生成AIをどの業務に使ってよいかの範囲指定
禁止事項の明確化個人情報・機密情報の入力禁止など
ログや記録の管理方法操作履歴や活用実績の保存方法(監査ログ)
誤用リスクへの注意喚起「生成された情報の二次確認」などの推奨ルール
責任の所在と連絡窓口問題が起きた際の対応ルートの明確化

「先回りして整備」することが組織を守る

ガイドラインは「問題が起きてから作る」のではなく、活用が本格化する前に“先回り”して設計することが重要です。

特に全社展開を見据えるなら、部門ごとの裁量に任せるのではなく、統一ルールと柔軟な運用指針のバランス設計が求められます。

👉 関連記事:
生成AIに抵抗感をもつ職場が抱える“5つの壁”とは|心理的バリアと克服の処方箋

Step 5:教育・研修によるリテラシーの底上げ

ルールを整備しても、それを正しく理解し、実践できる“人”が育っていなければ活用は定着しません

生成AIを活かす組織づくりにおいては、ツールよりも「人」の育成こそが成功の鍵です。

ありがちな落とし穴:「1回きりの研修」で終わる

  • 初回の研修は開催したが、その後の活用は現場任せ
  • 新人や異動者への教育設計が抜け落ちている
  • 使っている人と使っていない人の“二極化”が進行

研修をやっただけで「やったつもり」になっていないでしょうか?

学びを現場で実践し、継続的にリテラシーを育てる設計が求められます。

生成AIリテラシーを育てる3つの研修タイプ

研修タイプ対象内容の例
基礎研修全社員AIの基本概念、生成AIの仕組み、リスクと倫理など
業務別研修各部門プロンプト活用例、現場業務での応用パターン
プロンプト研修利用頻度の高い職種出力精度を高めるためのプロンプト設計・チューニング法

リテラシー=「使い方の知識」ではない

AIリテラシーとは、「ツールの操作方法」だけでなく、生成物の判断力やAIと協働する姿勢を育むことに重点があります。

一方通行の講義ではなく、ワークショップ型やOJTと組み合わせた実践的な研修が効果的です。

👉 関連記事:
AI研修が“1回きり”で終わってしまいやすい理由とは?現場に定着させる「継続の仕組み」を解説

Step 6:成果共有と展開ロードマップの策定

PoCが成功し、活用が定着し始めたら、次にすべきは「成果を社内に共有し、次の展開へとつなげること」です。

多くの企業がここでつまずきます。

せっかく成果が出ても、“伝わっていない”ことで稟議が通らない、他部門が動かない、予算がつかないといった課題に直面します。

成果が伝わらない組織の特徴

  • 定性的な「良さそう」ばかりで、判断材料に欠ける
  • 成果報告がExcelや口頭ベースで、広がりを生まない
  • 他部門が「それってうちに関係あるの?」と無関心

成果を“伝わる形”に変える3つのポイント

観点具体施策
見える化Before/Afterの数値、作業時間、満足度などをグラフで共有
言語化成功要因や使い方の工夫をシンプルな言葉でまとめる
汎用化他部門でも応用できるように、ユースケースやプロンプト例を整備

社内展開のためのロードマップ設計

PoCから定着、全社展開に至るまでには段階があります。

以下のようなフェーズ設計とアクションプランを可視化することで、組織全体に展開するための共通認識が生まれます。

  1. PoCフェーズ:効果検証/小規模活用/初期KPI設定
  2. 部門内定着フェーズ:研修展開/ルール策定/活用事例集積
  3. 他部門展開フェーズ:横展開準備/ナレッジ共有/ハブ整備
  4. 全社展開フェーズ:利用標準化/リテラシー強化/継続改善体制構築

👉 関連記事:
AI導入の効果が伝わらない?PoC止まりを防ぐ“成果の見せ方”テンプレート付き解説

チェックリスト付き】導入ステップの進捗をセルフ診断

ここまで紹介してきた「生成AI導入の7ステップ」は、すべてを完璧に整えてから進める必要はありません。

まずは、自社の状況を客観的に把握し、「どのステップが足りていて、どこに課題があるのか」を確認することが第一歩です。

以下のチェックリストを活用して、自社の進捗をセルフチェックしてみましょう。

✅生成AI導入ステップ進捗チェックリスト(7項目)

チェック項目YES / NO
導入目的や解決したい課題が明文化され、関係者と共有できている□ YES / □ NO
生成AIの活用が向いている業務を棚卸しし、優先順位を決めている□ YES / □ NO
PoC(試験導入)のテーマを設定し、定量・定性の評価軸を定めている□ YES / □ NO
社内での推進体制が整い、導入後の活用を支える“ハブ”が存在している□ YES / □ NO
情報漏洩や誤用を防ぐための利用ルール・ガイドラインを整備している□ YES / □ NO
社員向けの生成AI研修を実施し、継続的な学びの仕組みが設計されている□ YES / □ NO
成果を社内に共有する仕組みがあり、次の部門展開に向けた計画がある□ YES / □ NO

📝 3つ以上「NO」がついた場合は、導入設計を見直すタイミングかもしれません。

特に、「目的設計」「体制整備」「リテラシー研修」は、現場定着に向けた三本柱です。

導入ステップを組織に合わせて具体化したい方へ

以下の資料では、チェックリストの活用法から研修設計まで網羅的に紹介しています。

ぜひ自社導入の参考にご活用ください。

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まとめ|PoC止まりにしない生成AI導入のステップとは?

生成AIの導入で成果を出すためには、「とりあえず使ってみる」ではなく、目的・業務選定・PoC・体制・ルール・教育・展開までを一貫したステップで設計することが不可欠です。

本記事で紹介した7ステップを振り返ると、以下のような全体像になります。

  1. 目的の明確化とゴールの共有
  2. 業務の棚卸しと優先度設定
  3. PoC設計と評価指標の定義
  4. 社内体制の構築と推進ハブの明確化
  5. ルールとガイドラインの整備
  6. 教育・研修によるリテラシーの底上げ
  7. 成果共有と展開ロードマップの策定

このプロセスを描けてはじめて、PoC止まりを脱し、現場に定着するAI活用が実現します。

「うちはまだ準備が整っていない」と感じた方も、まずはできる範囲から着手してみてください。

そして、社内での推進に必要なノウハウや育成の仕組みづくりには、外部の力を借りることも有効です。

生成AI導入を“仕組み化”したい方へ

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  • 各ステップに対応した研修設計
  • 部門別ユースケースに応じた内容カスタマイズ
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サービス紹介資料

FAQ|生成AI導入ステップに関するよくある質問

Q
生成AIの導入はどの部署がリードすべきですか?
A

推進の起点は情シスやDX部門が担うケースが多いですが、実際の活用は現場部門が主役です。

そのため、全社的に展開するには「推進ハブ」役を明確にした上で、現場との共創体制を構築することが重要です。
👉 詳しくは:AI導入担当者が孤立しない体制とは?

Q
生成AI導入の効果はどうやって測定すればいいですか?
A

定量(作業時間・精度・出力件数)と定性(現場の納得度・改善実感)を組み合わせて評価するのがポイントです。

PoCの時点でKPIを設計しておくと、再稟議や展開判断がスムーズになります。
👉 関連記事:KPIの設計と“見える化”のポイントを解

Q
社員向けの研修はどのタイミングで行えばいいですか?
A

PoC前の基礎理解フェーズと、活用開始後の定着フェーズの2段階で研修を設計するのが理想です。

特に“1回きり”の研修で終わらせず、継続的な育成・プロンプト教育を取り入れることが成果に直結します。
👉 関連記事:AI研修が“1回きり”で終わる理由と継続の仕組み

Q
小さな組織・中小企業でも導入ステップは必要ですか?
A

むしろ中小企業こそ、限られたリソースを効果的に使うために、導入ステップの設計が重要です。

小規模PoCから始めて、部門単位で成果を積み上げていく方法が有効です。
👉 関連記事:PoC止まりを防ぐ7ステップ