近年、病院経営の現場ではAI(人工知能)の導入が加速しています。人手不足や業務の煩雑化が深刻化するなか、AIは業務効率化と医療の質向上を同時に実現する重要な選択肢として、多くの医療機関で注目されています。

本記事では、実際にAIを導入して成果を上げている病院の事例を9つ厳選してご紹介します。電子カルテの自動入力や画像診断支援、事務作業の効率化など、それぞれの病院が直面していた課題と、それに対してどのようにAIを活用したかを具体的に解説します。

「AIに興味はあるが、実務にどう取り入れればよいかがわからない」
そんなお悩みを抱える院長・事務長・経営層の方にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

さらに、SHIFT AIでは医療機関向けのAI研修・導入支援も行っています。「導入にあたって何から始めればいいのか知りたい」といったご相談にも無料で対応しています。他院の事例を参考に、自院に合ったAI活用のヒントを探したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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目次

病院でAI導入が進む背景とは?

医療の現場では、AIを導入する動きが加速しています。その背景には、現場の人手不足や業務量の増加だけでなく、国をあげたDX(デジタル化)推進の流れも関係しています。

ここでは、病院でAI導入が求められる主な理由をみていきましょう。

医師・看護師・事務の業務過多

病院では、診察や検査だけでなく、カルテの記録・紹介状の作成・患者への説明など、さまざまな業務が発生します。これらを限られた人数でこなすのは大きな負担となっており、現場では「人が足りない」「残業が多い」といった声が増えています。

そこで注目されているのが、AIの活用です。AIに一部の業務を任せることで、医師や看護師が本来の診療に集中しやすくなり、業務の効率化にもつながります。

DX推進・厚労省のAI活用促進方針

近年、国は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」を積極的に進めています。医療DXとは、デジタル技術を使って医療の質を上げたり、業務を効率化したりする取り組みのことです。

厚生労働省もAIの活用を後押ししており、補助金や支援制度が整備されつつあります。こうした政策も、医療機関でAI導入が進む大きなきっかけになっています。

病院でAIを導入することで得られる5つの効果

AIは、単に作業を自動化するだけの技術ではありません。医療現場では、診断の正確さを高めたり、スタッフの負担を減らしたりと、多くの面で役立っています。

ここでは、病院でAIを導入することで得られる主な5つの効果について、具体的にみていきましょう。

診断精度の向上と早期発見の実現

AIは、レントゲンやCT画像を読み取り、病気の兆候を見つけるサポートが可能です。たとえば、がんや肺炎のような病気を画像から見つけ出すことで、医師の見落としを防ぎます。

AIが問診情報を整理することで、短い診察時間の中でも正確な判断がしやすくなります。これにより、早期発見につながり、患者さんの治療の選択肢も広がるでしょう。

事務作業の自動化による業務効率化

診察後に作成するカルテや紹介状、請求書など、医療現場では多くの事務作業が発生します。AIを使えば、音声をもとにカルテを自動で作成したり、診療データをもとに書類を整えたりすることが可能です。

AIは人の手よりも迅速かつ正確に処理できるため、スタッフの負担を大きく減らせます。結果として、医療従事者が患者対応に集中しやすくなるでしょう。

患者の安全性向上とスタッフ負担の軽減

AIは、カメラやセンサーと連携して、患者さんの動きをリアルタイムで見守ることができます。たとえば、ベッドからの転落や体調の急変などをすばやく検知し、スタッフに通知します。

これにより、事故を未然に防げるだけでなく、夜間などスタッフ数が限られる時間帯でも安心して対応できる体制構築が可能です。それだけではなく、スタッフの精神的・肉体的な負担も軽くなり、安全性と働きやすさの両立が期待されます。

病状悪化や再入院リスクの予測と予防

AIは、過去の診療データや検査結果をもとに、患者さんの体調変化を予測できます。「このままだと再入院の可能性が高い」といったリスクを早い段階で知らせてくれるため、予防的な対応が可能です。

病気の悪化を防ぐことで、患者さんの生活の質を守れるだけでなく、医療費やベッドの空き状況にも良い影響を与えます。

在庫管理の最適化と医療資源の有効活用

薬や医療用品の在庫を適切に管理することは、病院経営にとって重要です。AIは、薬の使用頻度や過去のデータを分析し、どれだけ在庫を持てばよいかの予測が可能です。

これにより、余分な仕入れを減らし、使い切れずに廃棄する無駄も減らせます。資源の有効活用だけでなく、医療費の適正化にもつながるでしょう。

病院の現場で活用されているAI事例9選

ここでは、病院の現場で実際に導入されたAI活用事例を9つ厳選してご紹介。それぞれの課題に対してどのようなAIが使われ、どのような効果が得られたのかをわかりやすく解説します。

自院のAI導入を検討するうえで、実践的なヒントが得られるはずです。

事例1.画像診断AIを活用したがん検出(国立がん研究センター)

国立がん研究センターでは、X線やCT画像をAIで解析する技術を活用し、がんの早期発見に取り組んでいます。このAIは、過去のがん患者の画像データを学習しており、医師と同じように画像からがんの兆候を検出できる可能性があります。特に、小さな影や見逃されやすい微細な変化をAIが示すことで、医師の診断を補助し、見落としの防止が期待されているのです。

AIが「ここに異常があるかもしれません」と指摘することで、医師の注意が向きやすくなり、より正確な診断につながります。実際、この技術により診断精度が向上し、がんの早期発見率も高まっていると報告されています。

高精度な画像診断AIは、多忙な医師のサポートとして役立つだけでなく、患者にとっても命に関わる重大な病気の早期治療へと結びつく、重要な活用方法です。

出典:国立がん研究センター「国立がん研究センターと日本電気株式会社が共同開発した内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」医療機器承認」

事例2.看護業務の見える化・効率化(聖路加国際病院)

聖路加国際病院では、AIとデジタルツールを活用して、看護師の業務効率化に取り組んでいます。その一環として導入されたのが、患者説明をサポートするタブレットアプリ「ポケさぽ」です。

「ポケさぽ」は、手術や検査、入院に関する説明をイラストや動画でわかりやすく伝えるツールです。患者への説明の質を保ちながら、看護師の業務負担を軽減できます。

さらに、説明内容の記録や進捗管理も自動化されるため、「誰が・いつ・どこまで説明したか」がひと目でわかり、申し送りミスや二重対応の防止が可能です。このようなデジタル活用により、看護業務の「見える化」と「標準化」が進み、業務の効率化と患者サービスの向上の両立が実現しています。

この取り組みは高く評価され、「看護業務の効率化先進事例アワード2023」にて最優秀賞を受賞しました。看護現場の人手不足や属人化した業務に課題を抱える病院にとって、非常に参考になる先進事例です。

出典:PR TIMES「患者説明をDXする「ポケさぽ」を活用し、聖路加国際病院が「看護業務の効率化先進事例アワード2023」にて最優秀賞を受賞」

事例3.生成AIによる医師のナレッジ共有支援(順天堂大学病院)

順天堂大学医学部附属順天堂医院では、医師に蓄積された経験や知見(ナレッジ)をAIで体系化し、医局全体で共有・活用する取り組みが進められています。2024年11月から、生成AIを活用したアプリケーションのプロトタイプによる機能検証(PoC)が開始されました。

このAIは、診療における専門的な判断基準や対応ノウハウを可視化し、属人化を防ぐことで、若手医師や他診療科との連携にも役立ちます。

生成AIを通じた知識の標準化は、医療の質向上と組織全体の意思決定の迅速化に貢献する新たな手段といえるでしょう。

出典:PR TIMES「順天堂大学とアビームコンサルティング、AIを活用した医師の働き方改革に向けた共同研究を推進」

事例4.外来問診の自動化(筑波記念病院)

筑波記念病院では、初診患者の問診作業にAIを導入しています。患者はタブレット端末を使って、症状や既往歴などの情報を入力し、AIがその内容を整理して医師にわかりやすく要点をまとめて提示します。

これにより、医師は短時間で必要な情報を把握できるようになり、より的確な診察が可能です。また、受付や問診票の記入にかかる時間が減ることで、患者の待ち時間も短縮されました。

特に、感染症が流行する時期には、対面でのやり取りを最小限に抑えられる点も評価されています。業務の効率化だけでなく、安全性の向上にも貢献する取り組みです。

出典:筑波記念病院「AI問診システムを導入しました」

事例5.高齢患者の転倒予測AI(藤田医科大学)

藤田医科大学では、FRONTEO社と共同で、転倒や転落のリスクをAIで予測する共同研究を進めています。この取り組みでは、電子カルテや看護記録の文章をAIが解析し、「Coroban®」と呼ばれるAIが転倒リスクの高い患者を評価・表示します。

研究は2019年からスタートし、2020年4月に正式に発表されました。Coroban®は既存のリスク評価シートと同等の精度で予測できるとされており、現在はリハビリテーション医学講座と連携し、精度向上や機能拡張に向けた検証を続けています。

医師や看護師が文字入力するだけで、AIが定量的に転倒リスクを判断できるしくみは、忙しい現場でもスムーズに活用できる点が強みです。このようなAI支援は、転倒事故の予防のほか、医療スタッフの負担軽減にも寄与する実用性の高い取り組みといえます。

出典:FRONTEO「藤田医科大学とFRONTEO、人工知能を用いた転倒転落予測システムに関する共同研究を開始」

事例6.医療費適正化のための予測分析(第一生命)

第一生命グループの「Healstep」では、健診および保険請求のデータをAIで分析し、生活習慣病を中心とした将来の疾病リスクや医療費の予測結果を提供しています。これらの分析結果は保険者や健康保険組合に共有され、保健指導や生活習慣改善プログラムの計画に活用されます。

さらに、予測結果に基づくデータヘルス計画の策定や施策の実行支援、効果検証などをワンパッケージで提供しており、医療費の適正化や予防医療強化に貢献している取り組みです。

出典:Healstep「将来医療費予測AIを活用したデータ分析レポート」

事例7.心電図解析の高精度化に貢献するAI技術の導入(東大病院)

東京大学医学部附属病院では、AIを活用した心電図解析の高度化を実現しています。従来の心電図解析は、医師の目視による確認や経験に頼る部分が大きく、判断が難しいケースもありました。

そこで導入されたのが、他施設から集めた約23万例のデータをAIに学習させた解析システムです。このAIは、心房細動や心筋梗塞の兆候を高精度で捉えることができ、医師の判断を強力にサポートします。実際、多施設の臨床現場で検証され、安定した解析精度を発揮しています。

忙しい外来や救急の現場でも、スピーディかつ信頼性の高い解析が可能です。そのため、心疾患の早期発見・治療に貢献しています。

出典:東大病院「心電図解析に画期的なAI技術を導入、多施設データで高精度を実現」

事例8.病院送迎・介護施設支援におけるAI実証実験(恵寿総合病院)

恵寿総合病院では、介護保険施設と病院間の送迎業務にAIを活用する実証実験が行われました。この取り組みでは、病院・介護施設・患者・送迎ドライバーの間で情報を共有し、AIが最適な送迎ルートやスケジュールを提案します。

これにより、無駄な待機時間や空走(空車移動)を削減でき、送迎業務の効率化が実現しました。さらに、送迎希望の入力や確認もデジタル化され、スタッフによる調整作業の負担も軽減されています。

医療・介護の連携が重要になる中、こうした送迎業務の最適化は、患者サービスの質を保ちつつ人手不足を補う有効なアプローチです。

出典:恵寿総合病院「AIを活用した介護保険施設・病院送迎サービスの実証実験を実施」

事例9.対話型疾患説明生成AIの運用開始(大阪国際がんセンター)

大阪国際がんセンターでは、AIを使って患者に疾患説明を行う新しい取り組みを始めています。これは、「AI創薬プラットフォーム事業」の一環として開発されたもので、医師の入力情報をもとに、患者向けのわかりやすい病気説明文を自動生成する仕組みです。

AIが生成する説明は、専門用語を避けてやさしい言葉でまとめられており、患者が自身の病状や治療方針を理解しやすくなります。説明内容は画面や紙で提示され、家族との共有や今後の治療の意思決定にも役立ちます。

医師の説明負担を軽減しつつ、患者満足度を高めるこの取り組みは、今後の医療コミュニケーションのあり方に新しい可能性を示してくれるでしょう。

出典:大阪国際がんセンター「「AI創薬プラットフォーム事業」の共同研究において、患者への対話型疾患説明生成AIの運用を開始」

病院でAI導入する際に注意すべき4つのポイント

AIの導入は多くのメリットをもたらしますが、成功させるにはいくつかの注意点があります。特に、病院のように安全性や正確さが求められる現場では、導入前の準備や導入後の運用体制が非常に重要です。

ここでは、病院がAIを取り入れる際に意識しておきたい4つのポイントをご紹介します。

初期コスト・運用コストの把握

AIを導入する際は、システムやサーバーなどの初期費用に加え、保守・更新にかかる運用コストも発生します。すぐに費用対効果が得られるとは限らないため、中長期的な視点で導入目的を明確にし、予算計画を立てることが重要です。補助金制度の活用も検討するとよいでしょう。

医療データの取り扱いとセキュリティ対策

AIは患者の個人情報を扱うため、高いレベルの情報管理体制が求められます。データの保存方法や外部サービスの信頼性、法令遵守の体制などを事前に確認し、安全な運用体制を構築することが不可欠です。便利さだけでなく、情報保護の視点も忘れてはいけません。

スタッフ間のITリテラシー格差への対応

AIの導入には、現場スタッフのスキル差への対応が欠かせません。操作方法に不安を感じるスタッフもいるため、導入前の研修やマニュアルの整備が重要です。誰でも使いやすい設計と、質問しやすい体制を整えることで、スムーズな現場定着が実現します。

運用フローとの整合性の確保

AIを導入する際は、既存の業務フローとどう組み合わせるかが重要です。タイミングや担当者が曖昧なままでは、現場の混乱を招くおそれがあります。導入前に業務全体を見直し、現場と連携して使い方を設計することで、AIの効果を最大限に引き出せます。

SHIFT AIでは、医療現場の実情に合わせたAI研修や導入支援を行っています。課題や目的に合った活用方法について、まずは無料相談からお気軽にご利用ください。

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病院におけるAI導入を成功させる4つのステップ

AIの導入を効果的に進めるためには、技術選定だけでなく、導入までのプロセスも重要です。「導入して終わり」ではなく、現場にしっかり根付かせてこそ本当の成果が得られます。

ここでは、病院がAIを導入する際に押さえておきたい4つのステップをご紹介します。

ステップ1:課題を明確にする

AIを導入する前に、自院がどんな課題を抱えているのかを明らかにすることが大切です。たとえば「カルテ作成の時間が長い」「看護師の業務負担が大きい」など、改善したい業務を具体的に洗い出すことで、AIの導入目的が明確になります。

目的が明確になると、どのAIツールを選ぶべきか、どのような効果が期待できるかも見えてきます。

ステップ2:スモールスタートでの実証

AIは最初から全体に導入するのではなく、一部の部署や業務から小さく始めるのが効果的です。たとえば、外来の問診だけに導入し、現場での使い勝手や効果を検証することで、リスクを最小限に抑えながら導入が進められます。

問題があればその段階で調整できるため、本格導入前の実証実験として非常に重要です。

ステップ3:スタッフ教育とマニュアル整備

AIが導入されても、現場で使いこなせなければ意味がありません。そのため、職種ごとに合わせた丁寧な操作説明や、使い方を記載したマニュアルの整備が必要です。

導入初期には不安の声も出やすいため、質問しやすいサポート体制や、実際の活用事例の共有などが、安心して使える環境づくりにつながります。

ステップ4:効果検証と継続的改善

AIを導入した後は、「業務時間が短くなったか」「スタッフの負担が軽減されたか」など、数値や現場の声をもとに効果を検証する必要があります。

課題が見つかれば、設定や運用方法を見直し、改善を重ねていくことが大切です。継続的なチューニングこそが、AI活用の成果を左右します。

まとめ|病院で進むAI導入。活用事例から学び医療現場の未来を支えよう

AIは、医師や看護師の業務を支援するだけでなく、患者サービスの向上や医療の質の維持・強化にも貢献できる技術です。実際に、多くの病院で導入が進み、人手不足や業務負担といった喫緊の課題に対する有効な打ち手となっています。

しかし、単にAIを導入するだけでは十分とはいえません。目的の明確化、現場との連携、そして継続的な改善があってこそ、AIの真価が発揮されます。医療の質と効率を両立し、持続可能な医療体制を実現するうえで、AIの活用は今後ますます重要な選択肢となるでしょう。

SHIFT AIでは、病院や介護施設など医療・福祉分野でも活用できるAI研修プログラムをご提供しています。AIの基礎知識から事務作業の効率化まで、現場に適した事例をもとに学べる実践型の内容です。

「自院にとって本当に必要なのか」「どこから始めればよいのか」といったお悩みに、具体的な視点でアドバイスいたします。AI導入の第一歩として、まずは無料相談をご活用ください。

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