自治体DXを進めたい――そう考えても、最初の壁になるのが「予算の確保と使い方」です。
国の方針としてDX支援は拡大しているものの、「補助金や交付金をどう活用すべきか」「限られた財源で成果を出すにはどうすればいいのか」と悩む自治体は少なくありません。
システム導入に偏った予算では、職員のスキルや運用体制が追いつかず、せっかくの投資が形骸化してしまうケースも見られます。

この記事では、2025年度の自治体DX関連予算の動向主要補助金・交付金の活用法を整理しつつ、費用を成果につなげるための予算設計のポイントを解説します。
最後に、予算を“消費”ではなく“人と仕組みへの投資”へ転換する実践的アプローチも紹介します。

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2025年度の自治体DX予算動向|国の方針と地方の実態

行政のデジタル化を加速するため、2025年度の国全体のDX関連予算は拡充傾向にあります。
内閣府・デジタル庁・総務省が連携し、自治体の標準化・共通化、AIやデータ活用、生成AIの業務実装支援など、「地域単位でのデジタル実装」を重点テーマに掲げています。
とくに「デジタル田園都市国家構想交付金」は、自治体DXの主要な財源として位置づけられ、実証から定常運用への橋渡しを支援する枠が拡大されました。

一方で、地方自治体のDX予算規模には大きな差があります。
大都市では年間数億円規模のDX推進費を確保できる一方、小規模自治体では年間数百万円にとどまり、補助金への依存度が高いのが実情です。
多くの自治体が「システム導入までは進んだが、人材育成や運用改善に回す予算がない」という課題を抱えています。

また、財政課や情報政策課など部門ごとに予算が分散し、DX関連費用の全体最適が見えにくいという構造的問題も指摘されています。
こうした背景から、2025年度は「単年度ごとの投資」ではなく、中期的なDX戦略を踏まえた複数年度型の予算設計が求められています。

予算は“取ること”が目的ではありません。
DXを進める上で本当に必要なのは、限られた財源をどこに、どの順番で投じるかという設計力です。

自治体が活用できる主要補助金・交付金(2025年度最新版)

DXを進める上で、最も現実的な財源となるのが国の補助金・交付金です。
2025年度も各省庁が自治体向けの支援策を拡充しており、計画段階から実証・定着まで、複数のフェーズを対象としたスキームが整備されています。

デジタル田園都市国家構想交付金

地方創生とデジタル実装を一体的に推進する代表的制度です。
採択件数は年々増加しており、特に「AI・データ利活用」「行政手続きのオンライン化」「地域産業DX」など住民サービスの質向上につながる取り組みが高く評価されています。
採択の鍵となるのは、単なるツール導入ではなく、地域全体への波及効果や自走モデルを明示できるかどうかです。

地域デジタル基盤整備推進交付金

クラウド化・ネットワーク統合・データ連携基盤の構築を支援する制度。
庁内システムの標準化やLGWAN対応など、DXの“土台”を整える目的で活用されています。
複数自治体による共同申請も可能で、広域連携によるコスト効率化が評価される傾向にあります。

総務省「自治体DX推進手法実証事業」

実証型の支援策で、生成AIやチャットボット導入、データ分析基盤の構築など、先進的な取り組みの試行に利用されています。
ポイントは、単発の実証で終わらせず、本格導入への移行計画(PoC→定常化)を明確に示すことです。

こうした補助金を最大限に活用するためには、単に申請書を整えるだけでは不十分です。
採択される自治体は例外なく、「成果指標(KPI/KGI)の設計」と「人材育成の計画」を組み込んでいます。
つまり、技術導入だけでなく、それを使いこなす職員をどう育てるかが、交付金活用の成否を分けているのです。

予算を成果に変える“費用配分”の設計法

DXの成否を分けるのは、「どれだけ予算を取れたか」ではなく、どの領域にどれだけ投資したかです。
多くの自治体では、システム更新やクラウド移行などハード中心の支出が占めていますが、これでは“使える職員”が育たず、運用定着に時間がかかる傾向があります。
真に成果を出すためには、人材・運用・改善サイクルに一定の比重を置くことが欠かせません。

失敗パターン:システム偏重で終わる「見かけのDX」

「補助金が使えるから」とツール導入を急ぎ、職員が使いこなせないまま稼働率が下がるケースが後を絶ちません。
この場合、運用改善費や研修費が予算計上されていないことが多く、結果的に業務フローが旧態依然のままになってしまいます。

成功自治体に見る配分モデル

成果を上げている自治体の多くは、費用配分を明確に設計しています。
たとえば、以下のようなバランスが理想的です。

  • システム・ツール導入費:40%
    → RPA・AI・クラウドなど基盤整備費用
  • 人材育成・研修費:30%
    → DX・AIリテラシー、データ活用スキル、リーダー研修など
  • 業務改善・運用費:30%
    → 現場ヒアリング、ワークショップ、評価・検証の仕組み化

このように“技術:人:運用”の3軸で配分することで、継続的な成果を生み出す仕組みが整います。
また、財政課・情報政策課・現場部署の3者で予算を横断的に設計することで、重複投資や運用ギャップを防ぐことも可能です。

人材投資を「コスト」から「戦略資産」へ

近年では、生成AIの導入を契機に「AIを使える職員」を育てるための研修費を戦略投資と位置づける自治体が増えています。
たとえば、AIチャットボット導入と同時に、職員向けのPrompt設計研修や業務改善ラボを設置し、運用を内製化することで外部委託費を削減した事例もあります。

DXの成果は、最終的に“人”によって生み出されます。
どんなに優れたシステムを導入しても、それを使いこなす人材がいなければ投資効果は半減します。

小規模自治体でもできる“賢いDX予算の立て方”

人口規模が小さく、予算が限られる自治体でも、戦略的な設計と連携の工夫によってDXは実現できます。
大きなシステム投資を前提とせず、スモールスタートで成果を積み上げる発想が重要です。

共同調達・共同運用でコストを抑える

近年注目されているのが、複数自治体による共同調達・共同運用モデルです。
同一ベンダーによるシステム構築やクラウド基盤を共有することで、初期費用・保守費の削減に加え、更新サイクルをそろえることで維持管理コストの最適化が可能になります。
広域連携の実績を積むことで、補助金採択率が上がる傾向もあります。

クラウド・SaaS活用による初期投資の圧縮

オンプレミス型からクラウド・SaaS型へ移行することで、サーバ購入費や保守費を抑えられます。
近年では、文書管理・勤怠・申請処理など自治体向けSaaSが増え、従量課金でスケールできる柔軟性も評価されています。
契約時には「ID単価」や「バックアップ費用」などを比較し、長期的コストを見据えた契約設計がポイントです。

民間連携・PPPによるリスク分散

予算や人員が限られる中で、すべてを行政内部で完結させようとすると負担が大きくなります。
民間事業者とのPPP(Public Private Partnership)を活用し、実証運営や研修などを共創型で進めると、初期リスクを抑えながら経験値を蓄積できます。
特にAI・データ分野では、民間のノウハウを早期に取り込むことが効率的です。

段階的導入で“成果を見せる”予算運用

いきなり全庁導入を目指すのではなく、1部署・1業務からの段階導入で効果を見える化します。
成功事例を作ることで、次年度以降の予算獲得にもつながります。「まずやってみる」姿勢こそ、持続的なDXの原動力です。

関連記事:
自治体DXコンサルの選び方ガイド|失敗しない比較ポイントと費用の目安

予算を“継続的成果”に変える評価と運用設計

DXを単年度の「事業」として終わらせてしまう自治体は少なくありません。
本来、DXは一度の導入で完結するものではなく、業務改善・評価・再投資のサイクルを通じて進化させる“運用型プロジェクト”です。
この観点から、予算を「使い切るもの」ではなく「成果を生み続ける仕組み」へ転換することが求められます。

KPI・KGIを明確化し、効果を可視化する

補助金や交付金を活用する場合も、事業効果を示す成果指標の明確化が重要です。
単なる稼働率や導入件数ではなく、職員の業務効率化率・住民満足度・処理時間短縮率など、定量化できるKPIを設定することで、次年度予算の説得力が高まります。
また、KGIとして「組織全体のデジタル文化醸成度」「データ活用件数」など中長期の指標を設けることで、単年度を超えた評価軸を確立できます。

モニタリングと改善を仕組み化する

予算を成果に変えるには、定期的なモニタリング体制が不可欠です。
四半期ごとの進捗レビューや、庁内横断のDX推進会議を設け、現場からの課題・提案を次期予算へ反映させるサイクルをつくると効果的です。
これにより「使い切り型予算」から「改善型予算」へと発想を転換できます。

職員の“自走力”を育てる仕組みを予算に組み込む

真のDXは、職員一人ひとりが“自分の業務を改善できる状態”を指します。
そのためには、研修費や人材育成費を継続予算として確保することが重要です。
AIリテラシー研修やデータ分析ワークショップを定常化することで、外部依存から脱却し、組織内で課題を発見・解決できる文化が生まれます。

このように、評価・運用・人材育成を組み合わせた設計こそ、“予算を成果へ変えるDXマネジメント”の核心です。

まとめ|予算の大小ではなく、“人と仕組み”がDXを動かす

自治体DXの推進において、最も大切なのは予算の額ではありません。
限られた財源の中でも、「人に投資し、仕組みを育てる視点」があるかどうかで成果は大きく変わります。

補助金や交付金は、あくまで“きっかけ”に過ぎません。
真に持続可能なDXを実現するには、職員自身が課題を発見し、改善を回す文化を根付かせることが不可欠です。
そのためには、ツール導入だけでなく、人材育成・運用改善・効果測定を含めた総合的な予算設計が求められます。

予算は「使い切る」ためではなく、「変化を起こす」ためにあります。
どんな自治体でも、“学びと実践の仕組み”を持つことで、DXを継続的に動かせます。

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自治体DXの予算・補助金に関するよくある質問(FAQ)

Q
DX関連の補助金と交付金は同時に活用できますか?
A

可能です。
ただし、同一事業に重複して補助を受けることはできません
事業の範囲を明確に分け、国・県・市それぞれの制度を適切に組み合わせることが重要です。
たとえば「デジタル田園都市国家構想交付金」でインフラ整備を行い、「自治体DX推進手法実証事業」でAI実装を試みる、といった形で段階的に活用する自治体も増えています。

Q
研修費や人材育成費もDX予算に含められますか?
A

含められます。
むしろ、人材育成はDX推進の中心要素です。多くの補助金では、職員研修やリスキリング費用を対象経費として認めています。
ツール導入と同時に職員研修を行うことで、投資効果を最大化し、運用定着率を高めることができます。

Q
小規模自治体でDXを進める場合、最優先すべき投資領域は何ですか?
A

まずは「共通基盤整備」と「人材育成」です。
大規模なシステム投資を行うよりも、クラウドやSaaSなどスモールスタート型の施策で基盤を整え、
それを運用できる職員を育てる方が長期的には効果的です。
次に、他自治体との
共同調達・広域連携によってスケール効果を生み出すことが理想です。

Q
DX予算の効果をどう評価すればよいですか?
A

単なる費用対効果ではなく、職員の行動変化や住民サービスの改善度を評価軸に含めましょう。
「窓口待ち時間の短縮」「職員の業務効率化率」「住民満足度アンケート結果」など、
定量・定性の両面で測定することで、次年度の予算説得力が増します。

Q
来年度の予算申請に向けて、今から準備すべきことは?
A

まず、現状課題の整理と目標KPIの設定です。
「どの業務を、どの水準まで改善したいのか」を明確にし、それを達成するための手段として補助金や交付金を選定します。
同時に、申請書に添付する「体制図」「研修計画」「効果測定指標」などを準備しておくと、採択率が高まります。