企業が持続的に成長し、投資家から信頼を得るためには、経営の透明性と説明責任をどこまで確保できるかが大きな鍵を握ります。
その指針となるのが「コーポレートガバナンス・コード(ガバナンスコード)」です。

2021年に改訂された現行コードでは、プライム市場の上場基準やESG(環境・社会・ガバナンス)対応、取締役会の多様性確保など、これまで以上に実務に踏み込んだ要件が示されています。
しかし、原典は金融庁や東京証券取引所がまとめた専門的な文書。初めて目にした担当者からは「何から手を付ければ良いのか分からない」という声が少なくありません。

本記事では、ガバナンスコードの基本原則から2021年改訂のポイント、そして企業が今すぐ着手すべき対応の考え方までを、一次情報を踏まえてわかりやすく整理します。

この記事でわかること一覧🤞
・ガバナンスコードの目的と役割
・2021年改訂で強化された要件
・5つの基本原則と補充原則
・実務で求められる対応と注意点
・中小企業が早期に備えるメリット

さらに、社内で理解を浸透させるための研修活用のヒントも紹介。
貴社の経営体制を一段と強固にし、投資家から選ばれる企業へと進化させる第一歩を、ここから踏み出しましょう。

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コーポレートガバナンス・コードとは何か

企業が長期的に成長し、株主や社会から信頼を得るためには、経営の透明性と健全な意思決定を体系的に確保する枠組みが欠かせません。その指針となるのが「コーポレートガバナンス・コード(ガバナンスコード)」です。ここでは、制定の背景や目的、そしてコーポレートガバナンス全体との違いを整理します。

制定の背景と目的

ガバナンスコードは2015年に東京証券取引所が策定し、2021年に改訂されました。背景には、株主や投資家からの説明責任強化、企業不祥事の防止、持続的な企業価値向上への要請があります。

このコードの目的は単なる規制ではなく、上場企業が「守る」か「説明する」かを選びながら、より良い経営体制を築くための実践的ガイドラインを示すことにあります。

  • 企業の経営判断を透明化し、投資家との信頼を築く
  • 社外取締役の活用など、取締役会の独立性と多様性を確保する
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に対応し、持続可能な成長を促す

これらの要素は単独ではなく、互いに影響し合うことで企業価値の持続的な向上を支えます。

コーポレートガバナンスとの違い

項目コーポレートガバナンスコーポレートガバナンス・コード
意味・役割企業が適正かつ透明に経営を行うための統治体制全般上場企業が取るべき具体的な原則と行動指針
位置づけ経営の目的や方向性を示す“考え方”その考え方を実務に落とすためのルールブック
法的拘束力会社法などの法体系と連動しつつ、概念としては法律外法的罰則はないが「コンプライ・エクスプレイン」で説明責任を求める
対象上場・非上場を問わず企業統治全体東証に上場する企業(ただし他の企業も参考にできる)
目的長期的な企業価値向上と利害関係者の信頼確保同目的を達成するために必要な具体的実践指針を提示

「コーポレートガバナンス」は企業統治全体を指す広い概念ですが、ガバナンスコードはその中で具体的な原則と行動指針を体系化したものです。
言い換えると、コーポレートガバナンスが「目的地」なら、ガバナンスコードはそこへ到達するための道しるべと言えます。

さらに詳しいガバナンスの基本概念については、ガバナンスとは?企業・IT・データまで理解する基本と強化のポイント も参考になります。
ここを理解しておくことで、ガバナンスコードが企業経営に与える意味をより立体的に捉えることができるでしょう。

2021年改訂の主要ポイント

ガバナンスコードは2015年の策定後、2021年に大きく改訂されました。市場構造の再編やESG投資の拡大など、企業を取り巻く環境が変化したことが背景にあります。ここでは、企業が押さえておくべき改訂のポイントを整理します。

プライム市場に合わせた新要件

東京証券取引所が2022年に導入した新市場区分(プライム市場など)に対応するため、上場企業にはより厳格なガバナンス体制が求められるようになりました。特に、プライム市場に上場する企業は以下のような取り組みが期待されます。

  • 独立社外取締役の比率を3分の1以上にするなど取締役会の独立性を高める
  • 投資家に対し、経営戦略やサステナビリティ方針をわかりやすく開示する
  • 中長期的な企業価値向上を目的とした指名・報酬委員会の設置を検討する

これらの新要件は単なる形式的な条件ではなく、市場からの信頼獲得と資本調達力の向上に直結します。

サステナビリティと多様性への対応強化

改訂では、環境・社会・ガバナンス(ESG)課題への対応が大きく強調されました。投資家や社会が企業に求める役割が「利益の最大化」から「持続可能な成長」へとシフトしているためです。企業に求められる主な対応は次の通りです。

  • 自社のサステナビリティ方針や気候変動リスクへの対応を明確にし、投資家に開示する
  • 経営層や取締役会において多様な人材の登用(性別・国籍・経歴)を進める
  • 長期的な視点で人材戦略とガバナンス体制を結び付ける

これらは企業文化の根幹にかかわるため、単なる宣言ではなく具体的な計画と実行体制の整備が不可欠です。

この改訂ポイントを理解しておくことで、ガバナンスコードが単なる規範ではなく、企業の持続的成長戦略を後押しする実践的なツールであることが見えてきます。

コードを理解するうえで押さえるべき基本原則

ガバナンスコードは単なる指針ではなく、上場企業が経営の質を高めるために守るべき基本原則を体系化しています。原則を理解することは、改訂内容を正しく実務に落とし込む第一歩です。

基本原則重点ポイント実務上の着眼点
株主の権利・平等性の確保すべての株主が平等に権利を行使できる環境を整える株主総会の運営改善や議決権行使の利便性確保
ステークホルダーとの協働従業員・取引先・地域社会との信頼構築サステナビリティや社会的責任を経営方針に反映
情報開示と透明性の確保財務・非財務情報を適切に開示ESG関連情報やリスク情報を定量・定性両面で説明
取締役会等の責務経営戦略の監督と独立性の強化独立社外取締役の活用、議論の質向上
株主との対話建設的な株主とのエンゲージメントIR体制を整備し、中長期的な企業価値向上を共有

5つの基本原則と補充原則の要点

ガバナンスコードは、企業が取り組むべき方向性を示す5つの基本原則を中心に、より詳細な補充原則がセットになっています。基本原則の理解は経営体制の根幹に関わるため、以下の視点を意識しましょう。

  • 株主の権利・平等性の確保:株主全員が適切に権利を行使できるよう、平等性を確保する
  • 株主以外のステークホルダーとの協働:従業員、取引先、地域社会との信頼関係を築き、持続可能な成長につなげる
  • 適切な情報開示と透明性の確保:財務・非財務情報を的確に開示し、投資家からの信頼を得る
  • 取締役会等の責務:経営戦略の立案や監督を担う取締役会の独立性と多様性を強化する
  • 株主との対話:株主と建設的な対話を行い、中長期的な企業価値向上を目指す

補充原則はこれらを実務に落とし込む具体的行動を定めており、「守るか、説明するか(コンプライ・エクスプレイン)」の考え方で柔軟に対応します。

これらの原則は相互に関連し、企業価値の向上と持続可能な成長を支える枠組みを形作ります。

法的拘束力と「守るか説明するか」方式の実務的意味

ガバナンスコードには法律のような直接的な罰則はありません。しかし、だからといって軽視できるものではありません。

上場企業は原則ごとに「遵守(コンプライ)」するか、または「遵守しない理由を説明(エクスプレイン)」するかを選択し、その内容を投資家に開示する義務があります。

この「コンプライ・エクスプレイン」方式により、企業は自社に最適なガバナンスを柔軟に設計できる一方、説明責任を怠れば市場からの信頼を失うリスクを抱えます。

ガバナンス体制を整える際は、単なる形式遵守ではなく、投資家との対話を通じて説明責任を果たす姿勢が不可欠です。

企業が直面する実務課題と対応の考え方

ガバナンスコードを理解したうえで、社内へ実装する段階になると具体的な課題が一気に浮かび上がります。ここでは特に重要な論点と、実務対応を検討する際に押さえておきたい視点を整理します。

取締役会の構成と社外取締役の役割

改訂コードでは、独立性と多様性を確保した取締役会の整備が求められています。プライム市場では独立社外取締役を3分の1以上配置することが推奨され、経営の監督機能を強化することが不可欠です。

まず社外取締役は、経営から独立した立場で監督や助言を行い、経営判断の透明性を高めます。さらに多様な経歴や専門性を持つ人材を加えることで、戦略的な意思決定の幅が広がり、投資家からの信頼を得やすくなります。
単に人数をそろえるだけでは不十分であり、議論の質を高めるために情報共有の仕組みや事前資料の整備など、実効性を支える環境づくりまで意識する必要があります。

指名委員会・報酬委員会の設置と運営ポイント

取締役の選任や報酬決定においては、独立性と透明性を確保することが市場から強く求められています。そのため、指名委員会や報酬委員会を設置して機能させることが推奨されます。

委員会には次のような役割があります。

  • 指名委員会:後継者計画や取締役候補者の選定を客観的かつ公平に進める。経営戦略と人材戦略を連動させる視点が欠かせない
  • 報酬委員会:企業価値向上に連動したインセンティブ設計を検討し、報酬決定プロセスを透明化する

これらを単なる形式的な組織として置くだけでは意味がなく、経営戦略を支える実効的なガバナンス基盤として運営することが求められます。

ESG投資時代に求められる開示・説明責任

投資家は短期的な利益だけでなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組みを企業評価の基準にしています。ガバナンスコードもサステナビリティに関する開示を重視しています。

具体的には次のような対応が重要です。

  • 気候変動リスクや人材多様性などの非財務情報を定量・定性の両面から開示する
  • これらの情報を経営戦略や取締役会での議論と一体化させ、持続的成長のストーリーとして示す

こうした開示は義務を果たすだけでなく、投資家から選ばれる企業ブランドを築く競争力にもなります。

ガバナンスコードを実務に落とし込むには、人材・仕組み・開示の三方向から体制を整えることが欠かせません。
社内研修や経営層への教育を体系的に進めることで、知識の属人化を防ぎ、実効性あるガバナンスを実現できます。

組織全体でガバナンスを強化する研修プログラムについては、SHIFT AI for Bizの法人研修LPを参考にすることで、改訂対応を加速できます。

中小企業・上場準備企業が今から備えるべき視点

ガバナンスコードは上場企業向けに策定された指針ですが、将来の上場や投資家対応を見据える企業にとっても早期準備は大きなメリットがあります。ここでは、中小企業や上場準備段階の会社が今から押さえておくべき視点を整理します。

将来の上場を見据えたガバナンス体制づくり

上場を目指す企業は、上場審査に向けて透明性と説明責任を確保する体制を段階的に整えることが重要です。初期段階から以下のような取り組みを進めておくと、後から一気に整備するよりもリスクを抑えられます。

  • 取締役会の運営基盤を早期に整える:少人数でも定期的に経営課題を議論し、議事録を残す習慣を持つ
  • 内部統制と情報開示のプロセスを確立:財務・非財務情報を正確に把握し、社外向け説明に耐えられる仕組みを整える
  • 株主や投資家とのコミュニケーション方針を策定:将来の資金調達やIR活動の基礎として、対話のガイドラインを明確化する

これらは将来の上場審査だけでなく、事業成長に伴うリスク管理や資金調達コストの低減にもつながります。

投資家・金融機関からの評価を高めるために

未上場企業であっても、金融機関や取引先からの信用を高めるうえで、ガバナンス体制の整備は有効です。
特に以下の視点は、中小企業にとって資金調達や事業提携の交渉を有利に進める助けになります。

  • 経営戦略とガバナンス方針の一貫性を示す:経営計画とガバナンス体制を連動させ、外部ステークホルダーに安心感を与える
  • ESG・サステナビリティへの姿勢を明確化する:環境や人材多様性への取り組みを言語化し、将来の投資家との対話の基盤にする

早期に体制を整えれば、金融機関からの融資条件改善や投資家からの評価向上といった実利も期待できます。

中小企業がガバナンスを強化する取り組みは、ITガバナンスやDX推進とも密接に関連します。
詳しくはITガバナンスとは?DX時代に必要な仕組みと実践ステップを紹介を参考に、経営全体での統治強化を進めてください。

このように、将来の上場準備や資本調達を見据えた早期対応は、企業価値の持続的な向上と外部からの信頼獲得に直結します。

SHIFT AI for Biz研修でコード対応を加速させる

ガバナンスコードを理解しても、社内全体に浸透させ、持続的に運用するには体系的な教育と仕組みづくりが欠かせません。ここでは、SHIFT AI for Bizが提供する法人研修を活用して、改訂対応を効率的に進めるためのポイントを紹介します。

改訂ポイントを実務に落とし込むカリキュラム概要

SHIFT AI for Bizの研修は、2021年改訂で強化されたプライム市場対応やサステナビリティ、取締役会の多様性確保など、実務に直結する内容を体系的に学べる構成になっています。
現場で必要とされる具体的な知識を短期間で習得できるため、経営層から実務担当者まで一貫した理解を社内に根付かせることが可能です。

経営層から実務担当まで効果的に浸透させる方法

研修では、経営層に求められる戦略的視点と、現場が日々直面するオペレーション課題の双方を扱います。これにより、単なる制度理解にとどまらず、組織全体が同じ目線でガバナンスを推進する土台を築けます。
また、実務での応用事例を交えた演習を通じ、理解を行動に変える力を育成できる点も大きな特徴です。

ガバナンスコードを「知っている」だけでは、投資家や市場からの信頼を守ることはできません。
SHIFT AI for Bizの研修を活用することで、最新改訂に即したガバナンス体制を組織全体で実現し、持続的な企業価値向上につなげる一歩を確実に踏み出せます。

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まとめ:ガバナンスコードを理解し実務に生かすために

コーポレートガバナンス・コードは、企業が持続的に成長し投資家から信頼を得るための経営指針です。
2021年改訂では、プライム市場に対応した取締役会の独立性強化サステナビリティ対応など、実務レベルで取り組むべき要素が一段と明確になりました。

基本原則や「コンプライ・エクスプレイン」方式を正しく理解したうえで、

  • 取締役会や委員会の実効性を高める
  • ESGを踏まえた情報開示を戦略と一体化する
  • 中小企業でも早期からガバナンス体制を整える

これらを計画的に進めることが、市場から選ばれる企業になるための鍵となります。

知識を社内に定着させるには、体系的な研修で共通認識を持つことが重要です。SHIFT AI for Bizの法人研修を活用すれば、改訂内容を自社に即した形で実装し、ガバナンス強化を成長戦略へとつなげる実践力を一気に高められるでしょう。

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ガバナンスコードのよくある疑問と誤解(FAQ)

ガバナンスコードは上場企業にとって必須の指針ですが、初めて関わる担当者がつまずきやすい疑問も多くあります。ここでは特に問い合わせの多いポイントをまとめ、実務対応のヒントを示します。

Q
ガバナンスコードを守らないと罰則はある?
A

ガバナンスコードには法律のような直接的な罰則はありません。しかし、上場企業は「コンプライ・エクスプレイン」方式に基づき、原則ごとに遵守か、遵守しない理由を投資家へ説明する義務があります。説明が不十分な場合、投資家からの信頼低下や株価への影響という形で市場からの評価が下がる可能性があります。

Q
スチュワードシップコードとの違いは?
A

スチュワードシップコードは投資家側が企業に対して持つ行動指針であり、企業統治を受ける立場のルールであるガバナンスコードとは対象が逆です。両者が相互補完することで、投資家と企業が対話を深め、持続的な成長を目指す仕組みが形成されます。

Q
非上場企業にも必要なのか?
A

法的義務は上場企業に限られますが、非上場企業でもガバナンスコードの考え方を先取りすることで、将来の上場準備や金融機関からの信用確保に大きな効果があります。早期に体制を整えることが、資金調達コストの削減や取引先からの信頼向上にもつながります。

Q
改訂内容は今後も更新される?
A

経営環境や国際的な投資動向が変われば、ガバナンスコードも定期的に改訂される可能性があります。2021年改訂ではサステナビリティや多様性が強調されましたが、今後もESGやデジタル領域など新たな要素が盛り込まれることが予想されます。最新の動向を継続的にウォッチし、自社の体制を柔軟に見直す姿勢が重要です。

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