AIやIoTを活用した「スマート漁業」が全国で広がりを見せています。
しかし実際の現場では、“技術を使いこなせる人材がいない”という声が後を絶ちません。
最新のセンサーやAI分析システムを導入しても、運用やデータ活用を担う人がいなければ成果は出にくく、プロジェクトが止まってしまうケースも少なくありません。

いま水産業界で求められているのは、単なるデジタル人材ではなく、「現場×デジタル」をつなぐハイブリッド型人材です。
海や魚の知識を持ちながら、データを読み解き、AIを実務に生かせる——。
こうした人材をどう育て、どのように確保していくかが、スマート漁業の次の成長段階を左右します。

本記事では、スマート漁業に必要な人材像・求められるスキル・育成の仕組み・求人動向を整理し、SHIFT AIが提唱する“現場に根づく人材育成モデル”を紹介します。
「人材育成からスマート漁業を成功させる」ための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

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技術投資よりも「人材投資」が鍵|スマート漁業の次の課題とは

AIによる魚群探知、IoTセンサーを使った海洋データのリアルタイム収集、そしてドローンによる漁場監視など、スマート漁業の技術導入は年々拡大しています。
国や自治体の支援も追い風となり、多くの漁協や企業がデジタル化の波に乗り始めました。

しかし、その一方で現場からはこうした声も聞こえてきます。
「機器は導入したが、扱える人がいない」「データを見ても判断に活かせない」。
つまり、“技術”よりも“人”の課題が浮き彫りになっているのです。

スマート漁業の本質は、「テクノロジーの導入」ではなく「人の理解と活用」にあります。
いかに高度なAIを導入しても、現場が仕組みを理解し、データを判断材料として使いこなせなければ、成果は一時的にとどまり、継続的な改善にはつながりません。

本来、スマート漁業が目指すのは“データに基づく判断ができる現場文化”を育てること。
その文化を支えるのが、人材育成です。
今後の競争力を決めるのは「どのAIを導入するか」ではなく、「そのAIを現場で動かせる人をどれだけ育てられるか」に変わりつつあります。

関連記事:
スマート漁業(スマート水産業)とは?AI・IoTで進化する持続可能な漁業と導入ステップを解説

スマート漁業に求められる3タイプの人材像

スマート漁業の推進には、AIやIoTを理解する“デジタル人材”だけでは不十分です。
重要なのは、現場の経験とデータの知識をつなげる「ハイブリッド人材」の育成です。
ここでは、スマート水産業を支える3つの人材タイプを紹介します。

デジタル×現場をつなぐ「ハイブリッド人材」

もっとも需要が高いのが、現場の知識を持ちながらデジタル技術を扱える人材です。
センサーやドローンで得られるデータを理解し、漁獲判断に活かせるスキルが求められます。
たとえば、海水温や塩分濃度、魚群探知データをもとに、漁場の変化を予測できる力。
AIの出力結果を“漁の言葉”に翻訳し、チーム全体に共有する役割を担います。

この層は、現場リーダーや中堅層が中心となりやすく、“技術を現場に浸透させる橋渡し役”として不可欠です。

データ分析・AI運用担当

もう一つの柱は、漁業データの解析やAIモデル運用を担う技術担当者です。
漁獲記録・気象データ・海流情報などを統合し、漁場予測や効率化に役立てます。
現場の知見を数値化する“裏方”の役割を果たすことで、日々の判断をデータドリブンに変える推進力となります。

この層には、PythonやRなどの基礎分析スキル、IoT通信の理解、AIツール(画像解析・予測モデル)を扱う応用力が求められます。
とはいえ、最初から高度な専門知識は必要ではなく、リテラシー教育+OJTで育てることが現実的なステップです。

マネジメント層・リーダー層

最後に重要なのが、組織全体の変革をリードする管理職・経営層です。
AI導入を単発のプロジェクトではなく、継続的な仕組みとして運用できるかどうかは、この層の理解と支援にかかっています。

マネジメント層に求められるのは、
・AI導入の目的と成果指標を明確に設定する力
・現場と経営の間に立って推進を支える調整力
・“人材育成を経営課題として捉える”視点

これらを備えたリーダーが存在することで、技術導入が“点”ではなく“組織文化”として定着していきます。

💡要点まとめ

人材タイプ主な役割必要なスキル
ハイブリッド人材現場とデータを橋渡し現場知識+データ理解+共有力
データ分析・AI運用担当解析・モデル運用データ分析・IoT通信理解
マネジメント層推進・定着・文化形成経営視点・教育・評価設計

スマート漁業の成功は、この3層が連携し、学び合う体制を築けるかにかかっています。

人材不足の背景にある“3つの構造課題”

スマート漁業の拡大が進む一方で、現場からは「人が育たない」「定着しない」という声が聞かれます。
その背景には、単なる人手不足ではなく、構造的な3つの課題が存在します。

高齢化と担い手の減少

日本の漁業就業者の平均年齢は60歳を超え、若年層の新規参入は減少傾向にあります。
経験豊富なベテランが引退していく一方で、デジタル技術に強い若手が十分に育っていません。
結果として、現場の知識と技術の継承が途切れ、AI活用への橋渡しが難しくなっているのが現実です。

また、漁業は季節や地域によって業務が異なり、短期間でのスキル伝承が難しい産業でもあります。
“現場に根づくリーダー層”の高齢化が進むことで、教育体制そのものの維持も課題となっています。

地域間格差とデジタル教育の不足

都市部ではAIやIoTに触れる機会が増えている一方、地方の漁業現場では「パソコンに触れたことがない」「スマートフォン操作も苦手」といったケースが今なお多く存在します。
こうしたリテラシー格差が、スマート漁業の普及スピードを大きく分けている要因の一つです。

さらに、デジタル教育の多くは“単発の研修”にとどまり、現場でのフォローアップが行われないことも多いため、学んでも「翌日には元に戻ってしまう」構造が、定着を阻んでいます。

AI導入の「属人化」リスク

もう一つ深刻なのが、AIやIoTの運用が特定の担当者に依存してしまう構造です。
現場に理解者が少ないまま導入を進めると、担当者が異動・退職した時点で知識が途絶し、
システムが“形だけ残る”ケースも少なくありません。

属人化を防ぐには、現場全体が「なぜAIを使うのか」「どのように判断するのか」を理解しておく必要があります。
この“全員参加型のデジタル文化”をつくるには、教育を単なる研修ではなく、日常業務と一体化させる仕組みが欠かせません。

関連記事:
スマート漁業が進まない3つの課題とは?高齢化・導入コスト・データ連携の壁と解決策を解説

育成方法|“現場で使える人材”を育てる3ステップモデル

人材不足の背景が見えた今、次に重要になるのが「どう育てるか」です。
スマート漁業を成功させるには、単なる座学研修ではなく、現場で使える教育設計が欠かせません。
ここでは、SHIFT AIが推奨する「理解 → 実践 → 定着」の3ステップモデルで、育成の流れを整理します。

ステップ① リテラシー教育で「理解の壁」を超える

最初の段階では、“AIやIoTが何をしているのか”を理解するリテラシー教育が重要です。
特に漁業現場では「機械が勝手に判断しているように見える」という誤解が多く、技術の原理を知ることで初めて“使いこなせる意識”が芽生えます。

  • AI・IoTの基本概念を、漁業の実例に沿って学ぶ(魚群予測、環境データ解析など)
  • 既存の業務にどう影響するかを整理し、現場に合わせた理解を促す
  • 一方向の講義ではなく、「操作してみる」体験型研修が効果的

このフェーズは、学びのスタート地点です。
「理解できた人から変わる」構造を作ることで、現場の心理的ハードルを下げます。

ステップ② 実践研修で“データと現場”をつなぐ

次に重要なのが、現場でAIを活かす“実践トレーニング”です。
センサーやドローンを導入しても、現場で操作できなければ意味がありません。OJT形式の研修で、漁場のリアルデータを扱いながら学ぶことで、定着度が大きく変わります。

  • 海洋データをリアルタイムで分析し、操業計画を立てる実践型ワーク
  • データ分析担当と漁業者がチームを組み、共通言語で議論する場を設ける
  • 漁協・自治体・大学が連携した“共同育成モデル”を取り入れる

この段階では、「AIの仕組みを知って終わり」ではなく、「現場判断に使う」を徹底します。
成果を実感できる経験が、現場全体のモチベーションにつながります。

ステップ③ 継続教育×評価制度で定着を図る

AI人材育成は、一度の研修で終わるものではありません。
定期的な学びと評価を組み合わせることで、初めて「教育が仕組みになる」のです。

  • 教育→実践→評価→改善のサイクルを仕組み化
  • 各チームに「AI推進リーダー」を設け、現場での教育を継続
  • 成果を“AI活用度”や“業務効率化指標”として可視化し、成長を評価

この段階を経て、スマート漁業の技術は“特別な仕事”ではなく“日常の判断基盤”として定着します。

求人・採用動向から見る「水産DX人材」の今

スマート漁業の導入が進むなかで、今もっとも不足しているのが「デジタルを理解する水産人材」です。
従来の漁業では、経験や勘に頼る業務が中心でしたが、AI・IoTの普及により、“データを読み解き、判断を変える人”が新しい戦力として注目されています。

求人市場で増える「水産×IT」の職種

最近では、漁協や水産関連企業でも「データ分析」「IoT機器運用」「AI開発支援」など、従来にはなかった職種の募集が増えています。
特に、民間ベンチャーやスタートアップ企業では、AIモデルを活用した漁場予測や水産資源の可視化を担う人材が求められています。

  • データサイエンティスト(漁業データ解析・環境予測)
  • IoTエンジニア(センサー・通信・設備管理)
  • DX推進担当(現場とシステム部門の連携)

こうした職種はまだ希少であり、「海とデータの両方を理解できる人」が圧倒的に不足しています。

官民連携による“育成×採用”の動きも加速

一方で、各地では人材育成と採用を一体で進める動きも始まっています。
北海道や長崎、愛媛などの自治体では、大学や企業と連携してAIリテラシー教育を実施し、修了者をそのまま漁協や水産企業に採用する取り組みが進行中です。

これにより、若手が地域に根づき、現場のデジタル化を担う仕組みが少しずつ形成されています。
つまり、採用はもはや「人を探す」活動ではなく、「人を育てながら採る」戦略へと変化しているのです。

企業が採用で重視するのは“経験より姿勢”

近年の採用現場では、「AIスキルがあるか」よりも、「学びながら技術を使えるか」「チームで変化に対応できるか」が重視され始めています。
特に水産業界では、未経験でもAIやIoTに興味を持ち、現場で実装・改善に挑戦できる“適応力”を持つ人が歓迎される傾向にあります。

つまり、採用後に成長できる仕組み=社内教育・研修体制があるかどうかが、人材確保の成否を左右する時代に入っています。

関連記事:
スマート漁業・スマート水産業の補助金2025|採択のコツと申請手順を徹底解説

海外・国内の“人材育成モデル”から学ぶ成功の共通点

スマート漁業の人材育成は、日本だけでなく世界各国で重要テーマとされています。
特に北欧諸国やアジア太平洋地域では、教育・データ共有・地域連携をセットにした“持続的育成モデル”が成果を上げています。
ここでは、海外と国内の代表的な事例を見ながら、その共通点を整理します。

ノルウェー・デンマーク|教育×AI実践を一体化した北欧モデル

漁業先進国のノルウェーやデンマークでは、早くから水産教育機関がAIやデータサイエンスをカリキュラムに組み込んでいます。
高校・大学レベルで「デジタル海洋教育」が体系化され、学生が漁業データを分析しながら学ぶ仕組みが確立されています。

さらに、漁業企業と教育機関が連携して実地データを教育現場に提供しているのが特徴。
「学ぶ」と「使う」が常にセットになっており、卒業時には即戦力として現場で活躍できる水準に達します。

この仕組みが、ノルウェーの高いデジタル定着率を支えているのです。

日本国内|地域・大学・企業が連携した共同育成モデル

日本でも、北海道・長崎・宮城などを中心に、地域連携型の人材育成が進み始めています。
たとえば北海道では、大学・自治体・企業が協働でAIリテラシー教育を実施し、漁協の現場課題(燃料削減・漁場選定など)を題材にしたOJTプログラムを展開。

一方、長崎県では「スマート水産業人材育成コンソーシアム」が立ち上がり、AIを扱う専門人材と現場リーダーの両方を育てる二層構造の研修体系を整えています。

これらの取り組みはいずれも、教育→実践→地域定着の循環を意識して設計されており、単なる知識習得ではなく「地域の成長基盤を支える人材育成」として機能しています。

成功の共通点は“教育×データ共有×継続運用”

海外・国内の成功事例を比較すると、共通しているのは次の3点です。

成功要因内容効果
教育と実践の一体化教室と現場をつなぐ教育設計学びがすぐに行動へ変わる
データの共有・活用教育機関・企業間でデータを共有分析・改善が持続する
継続的な運用体制年次教育・評価制度の整備技術と人が共に成長する

この3要素が揃うことで、AI技術は一過性の導入ではなく、“組織文化としてのAI活用”に進化します。
つまり、人材育成とは「AIを教えること」ではなく、“AIを共に使う文化”をつくることなのです。

まとめ|“人が育つ仕組み”がスマート漁業の未来をつくる

スマート漁業の本当の価値は、AIやIoTそのものではなく、それを使いこなす人が現場にいることにあります。
どんなに優れたシステムも、運用する人の理解と意欲がなければ成果は続きません。
つまり、技術投資の次に必要なのは、“人材投資”です。

これまで見てきたように、成功している地域や企業には共通点があります。
それは、教育を一度きりの研修で終わらせず、「学ぶ→使う→改善する」サイクルを組織全体で回していること。
この仕組みがあることで、技術が定着し、現場が自律的に成長していきます。

スマート漁業は、海の上だけでなく、組織の中にも変化を求めています。
“AIを使う現場”から“AIと共に考える現場”へ。
人材育成こそ、漁業の未来を持続的に発展させる最大の原動力です。

あなたの地域のスマート水産業を、共に動かす人材育成から始めませんか?

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スマート漁業の人材育成・スキルに関するよくある質問(FAQ)

Q
スマート漁業に携わるには、どんな資格やスキルが必要ですか?
A

特別な国家資格は必要ありませんが、データリテラシーやICTの基本スキルが役立ちます。
たとえば、センサーやドローンの操作、海洋データの読み取り、AIツール(画像解析・予測モデルなど)の理解などです。
最近では自治体や大学が主催するスマート水産業人材育成講座も増えています。

Q
AIやIoTの知識がなくても、スマート漁業に関わることはできますか?
A

はい、可能です。
多くの現場では、漁業経験を持つ人がAI導入の現場リーダーを務めています。
技術は研修やOJTで学べるため、最初から専門知識がなくても問題ありません。重要なのは、「変化に挑戦できる姿勢」と「学び続ける意欲」です。

Q
スマート漁業とスマート養殖の違いは何ですか?
A

どちらもAIやIoTを活用した水産業の高度化を指しますが、
スマート漁業は海での漁獲(天然資源管理)を、スマート養殖は陸上・海面での養殖管理(育成プロセス)を対象としています。
両者は技術的には共通点も多く、人材育成の仕組みは共通して活かせます。

技術の全体像はこちら:スマート漁業(スマート水産業)とは?AI・IoTで進化する持続可能な漁業と導入ステップを解説

Q
自治体や企業が人材育成を始める際、利用できる支援制度はありますか?
A

はい、あります。
水産庁や各自治体が実施するスマート水産業推進事業や、AIリテラシー教育・実証実験を対象とした補助金制度が利用可能です。
人材育成・教育費も申請対象に含まれる場合があります。

詳しくはこちら:スマート漁業・スマート水産業の補助金2025|採択のコツと申請手順を徹底解説

Q
SHIFT AI for Bizの研修は、どのような業種でも参加できますか?
A

はい。漁業・水産業に限らず、製造・物流・自治体・教育機関など幅広い業種に対応しています。
AIリテラシー教育から現場定着までを一貫して支援しており、「現場でAIを活かす力」を育てたい企業・組織に最適です。

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