新規事業の成功は、アイデアの斬新さだけで決まるわけではありません。
限られた予算、短い準備期間、そして何より「社内の承認」という高いハードルを越えなければ、どんなに魅力的な計画も実現には至りません。
特に製造業では、既存ラインの維持や品質基準の厳守といった制約が多く、新規事業の立ち上げは一層難易度が高まります。
社内の経営層からは「本当に採算が取れるのか」「現場に負担はないのか」といった厳しい視線が注がれ、現場からは「今の仕事で手一杯」という声が上がる…。このような状況で、再現性のある成功モデルと、説得力のある提案設計が不可欠です。
この記事でわかること
- 製造業特有の成功事例と失敗回避策
- 社内承認を突破するための計画書の作り方
- 2025年最新の補助金・資金調達情報
- 生成AIやDXを活用したスピードアップ事例
「明日から動ける」実務レベルの立ち上げロードマップを提供します。
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新規事業立ち上げの全体像と成功の条件
新規事業を成功に導くためには、行き当たりばったりではなく、全体の道筋を明確に描くことが欠かせません。
ここでは、一般的な立ち上げプロセスを押さえつつ、製造業特有の条件や、社内承認を得ながら進めるためのポイントを整理します。
立ち上げプロセス8ステップ
多くの成功事例に共通するのは、次の8つのステップを踏んでいることです。
- 事業領域の設定:自社の強みと市場動向を踏まえてターゲット領域を決定
- 顧客課題の特定:定量調査・現場ヒアリングで課題を抽出
- アイデア創出:ブレスト、生成AI、競合分析でアイデアを複数化
- コンセプト検証(PoC):小規模テストで市場の反応を確認
- 事業計画策定:収益モデル、KPI、投資計画を明確化
- 社内承認取得:計画書と数字で説得、反対意見を事前に処理
- 事業化準備:人員・体制・外部パートナーの確保
- 本格展開と改善:ローンチ後もデータに基づき改善を継続
この8ステップは直線的ではなく、検証と計画の往復が前提です。初期段階での方向修正が成功確率を高めるのがポイントになります。
製造業特有の成功条件
製造業の場合、一般的な新規事業プロセスに加えて次の条件が重要です。
- 既存ライン・品質基準との両立:既存業務の稼働率や品質保証体制に影響を与えない設計
- 設備投資の回収シナリオ:製造設備更新や新規導入のROIを事前に数値化
- 現場負担の最小化:新規事業が既存人員の過剰残業や品質低下を招かない工夫
これらを計画段階で盛り込むことで、社内からの抵抗を大幅に減らせます。
社内の巻き込みと承認を同時に進めるコツ
新規事業の立ち上げで失敗が多いのは、「計画が固まってから承認を求める」やり方です。製造業では、現場と経営層の両方に早期から関与してもらうことが成功のカギとなります。
- 早期ヒアリング:経営層・現場双方の関心ポイントを把握
- プロトタイプ共有:PoC段階の試作品やデモを見せ、意見を反映
- 反対意見の事前処理:影響範囲の説明と代替案提示で合意形成
成功事例から学ぶ「再現できるモデル」
製造業で新規事業を成功させるには、既存の技術や設備を活かしながら、新たな価値や顧客接点を創出した事例が参考になります。
ここでは、具体的な再現可能なモデルとして、一次情報または信頼ある出典から成功事例を厳選。自社の計画にも落とし込みやすいストーリーで紹介します。
事例①コマツの「Komtrax/スマートコンストラクション」
建設機械メーカーのコマツは、IoTを活用した遠隔稼働監視システム「Komtrax」と、それを起点にした現場全体の最適化「スマートコンストラクション」で成功しています。機械の稼働データをリアルタイムに可視化し、効率向上・故障予知・保守の最適化を実現しました。
再現のヒント
- 自社製品の稼働データ活用を起点に、サービス化の視点を加える
- サブスクリプション型モデルへの展開など安定収益化を目指す設計
事例②富士フイルムの素材転換型事業拡大
富士フイルムは、写真用フィルムから半導体製造用フォトレジストや研磨材などの先端素材へと事業を転換。AI需要を背景に、売上を拡大し、株価も最高値圏に推移しています。
再現のヒント
- 既存素材や技術の「用途転用可能性」を検討し、新規ニッチ市場に着目
- 技術と時代背景(例:AI・DX需要)を掛け合わせた事業設計
事例③中小製造業の「IoT機器予知保全」 秀和工業
東京都足立区の秀和工業は、IoTセンサー付きの次世代型研磨装置を開発し、遠隔監視と故障予知保全を実現。これによって現場負担を軽減し、安全性と効率性を向上させました。
再現のヒント
- 小規模・現場密着の課題(故障や技術者派遣コスト)解決にフォーカス
- IoT導入による運用負荷軽減が説得力のある新規事業提案につながる
出典:成功事例から紐解く製造業のDX : 後編「中小企業編」日本が誇る“中小企業のものづくり”その現場を支えるIoT活用事例
学びの共通点を図解で可視化
上記3事例に共通する成功パターンは以下の3つです。
成功パターン | 解説内容 |
既存資産の転用 | 技術、設備、素材など自社資源の別用途展開 |
データ活用・可視化 | IoTやデータ分析による効率改善・予知保全 |
市場ニーズとのマッチ | AI・DXなど時代トレンドとの掛け合わせ重視 |
これらを自社の新規事業立ち上げに転用すれば、再現性が高まり、投資の説得力も増します。
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社内承認を得るための提案設計
新規事業の立ち上げにおいて、社内承認は最初の難関です。特に製造業では、投資額や現場負担の懸念から経営層や部門間の合意形成が難しく、計画そのものが頓挫することも珍しくありません。
ここでは、実際に承認を勝ち取った企業の実例と、提案設計の具体的なステップを詳しく解説します。
事例①オムロンの「IoT×生産性向上プロジェクト」承認プロセス
オムロンはIoTを活用した生産ライン改善プロジェクトを社内提案する際、ROI試算と現場負担軽減策を盛り込んだ資料で承認を獲得しました。
ポイント
- 投資回収期間を数字で提示(例:1.8年)
- 現場工数削減の効果を動画で示し、経営層の理解を促進
事例②ダイキン工業の新規冷媒事業提案
ダイキンは環境規制強化に対応する新冷媒開発を提案する際、規制スケジュールと市場規模予測をセットで提示し、取締役会の承認を取得しました。
ポイント
- 社会的背景(法規制)+市場データの合わせ技
- 「やらなければならない理由」を強調し、反対余地を減らす
出典:統合報告書2024
承認を勝ち取る計画書3つの鉄則
- 数字で語る:ROI、コスト削減額、市場規模など定量データを必須化
- 現場負担を最小化:工数削減・安全性向上などの現場メリットを明示
- 反対意見の先回り:予想される懸念事項に対し、代替案やリスクヘッジ策を事前に記載
承認獲得を加速する「関係者マッピング」
提案前に経営層・現場・間接部門のキーパーソンを洗い出し、それぞれの評価軸を可視化します。
部門/立場 | 関心ポイント | 予想される懸念 | 対応策 |
経営層 | ROI・市場性 | 投資回収期間 | 数字と外部データで裏付け |
生産現場 | 作業負担 | 工数増加 | 自動化・省人化案を提示 |
品質保証部 | 品質基準維持 | 不具合リスク | 試験運用データで証明 |
社内承認に強い計画書テンプレートと、反対意見への対応例をまとめた資料を無料でご提供しています。この資料を活用すれば、あなたの提案も承認獲得まで一気に近づけられます。
関連記事:【2025年版】AIで業務を劇的効率化!部署別アイデアと成功事例・失敗回避法
補助金・資金調達の最新情報(2025年版)
新規事業をスムーズにスタートさせるには、補助金や公的資金を上手に活用することが肝心です。特に製造業では設備投資やシステム導入などの初期コストが高く、補助制度の有無が成功の成否を分けることも。
ここでは2025年に製造業が申請可能な主要補助金を一覧で整理し、活用のポイントを解説します。
メイン補助金一覧(2025年版)
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称「ものづくり補助金」)
設備投資や試作品開発、業務プロセス改善のための補助制度。次回の公募(第20次)は2025年7月1日から申請開始、締切は7月25日までです。2025年の申請期間は終了しましたが、毎年同じなので準備しておきましょう。
出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の第20回公募を開始します
中小企業新事業進出補助金(後継制度)
既存とは異なる新製品・新サービスで新市場へ進出する際に活用可能。補助率は1/2で、補助上限額は従業員規模により最大9,000万円まで。
大幅賃上げ特例適用もあり、条件によってはさらに上乗せが可能です。※下限は750万円
出典:中小企業新事業進出補助金
その他活用可能な補助制度
中小企業成長加速化補助金、大規模成長投資補助金、省力化投資補助金(一般型・カタログ型)など、設備投資・工場改修・自動化・省力化を支援する制度も活用可能です。
補助金制度ごとの特徴比較
補助金名 | 特徴・活用ポイント |
ものづくり補助金 | 生産性向上の取り組みに幅広く対応。電子申請の対応準備が鍵 |
中小企業新事業進出補助金 | 高付加価値・新市場進出型。最大9,000万円。賃上げ特例あり |
成長加速化・大規模投資系 | 大型設備や工場整備、設備刷新に対応。数億〜数十億規模の支援も |
活用戦略と成功のためのアドバイス
公募スケジュールを逆算した計画立案
例えば「ものづくり補助金」は7月末締切が予定されているため、申請書のブラッシュアップだけでなく、GビズID取得も早めの準備が必要です。
制度ごとの要件の明確化と併用検討
補助金ごとに対象経費や目的が異なるため、自社の事業フェーズや目的に合わせた選定が重要。併用可能な場合は、より大きな資金調達が可能。
補助対象と実施体制の整備
計画書にROIや実行体制、運用フェーズのビジョンを盛り込み、承認取得と補助金申請を同時に進める体制作りを。
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DX・生成AIを活用した事業スピードアップ法
新規事業の成否は「スピード」に大きく左右されます。特に市場の変化が早い今、立ち上げまでに1〜2年かけてしまうと競合優位性を失いかねません。そこで注目されているのが、DXと生成AIを組み合わせた事業開発プロセスの高速化です。ここでは、国内企業の最新事例と活用法を紹介します。
事例①日立:生成AI×計測ノウハウで「最適な製造プロセス探索」ソリューション
日立は、生成AIと計測機器の知見を組み合わせ、最適な製造プロセスを見つけ出す改善ソリューションの開発を発表。製造条件の探索や改善を支援するもので、同社のインフォマティクス事業強化にも位置づけられています。
再現ポイントはPoC段階から“条件探索をAI化”。実験パターンの網羅を短時間で進め、次フェーズ(小量産検証)に早く乗せることです。
出典:最適な製造工程の発見を支援する製造プロセス改善ソリューションの開発とインフォマティクス事業の強化
事例②パナソニックHD:生成AI(ディフュージョン)で“接触を伴うロボット動作”の学習効率化
パナソニックHDは、拡散モデル(Diffusion)をロボット制御に適用し、接触を伴う作業の学習効率・精度を高めるAI技術「Diffusion Contact Model」を公表。ロボットの高度作業の立ち上げ短縮に資する基盤技術です。
再現ポイントは新規事業でロボットを絡める場合、学習データ収集→動作最適化を生成AIで短縮。試作セルの立ち上げ時間を圧縮し、実証回転数を上げることです。
出典:パナソニックHD、生成AIを応用し接触動作を多用するロボット制御向けAI技術「拡散接触モデル」を開発
事例③オムロン:熟練スキル継承×生成AI(設計・立上げの知見を“使える形”に)
オムロンはIR説明資料で「Human Task Support Using Generative AI」を掲げ、現場の課題解決やスキル継承を加速する方向性を明示。さらに2025年3月にはSysmac Studio×NVIDIAで、工場の知見活用に生成AIを組み合わせたデモを発表しています。
再現ポイントは新規装置の立上げノウハウをプロンプト化し、チェックリストやパラメータ推奨を自動生成。要員依存を減らし、立上げのバラつきを抑制することです。
事例④日立:生成AIで“オープンデータから供給網を推定”=市場投入判断の迅速化
サプライチェーン強靭化の研究で、日立は企業サイト・ISO情報・地図情報など非構造データから、生成AIで製造拠点候補を抽出し、位置推定の高精度化を報告。新規事業の委託先・協業先の探索や調達戦略の初期設計を速められます。
再現ポイントは調達・品質・ESGの観点を含む相手先リスト化をAIで先行させ、社内承認用の外部調査リードタイムを短縮することです。
横断TIP|早く・安全に回すための実装手順
- ユースケースの粒度を1つに絞る(例:条件探索/動作学習/知見継承/供給網リスト化)
- 社内データ×公開データの分離設計(入力管理・ログ管理・モデル更新の責任範囲を明確化)
- PoC→標準手順化(成果指標=時間短縮、歩留まり、再現率/ドキュメントは承認稟議に直結する体裁で)
生成AI×DXの実装ユースケース集と、社内承認が取りやすい提案書テンプレを見たい方は下記をチェックしてください。
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明日から動ける!新規事業立ち上げチェックリスト
ここまで紹介したプロセス・事例・補助金・生成AI活用法を読んで「やってみたい」と思っても、実際の現場では何から始めるかで迷いがちです。
このチェックリストは、製造業の新規事業担当者が明日から動けるように作られています。自社の状況に当てはめながら確認してください。
準備フェーズ(事前調査・企画立案)
- 市場規模・成長性の一次データを入手(統計局、業界団体、特許情報など)
- 競合分析を実施し、自社の優位性を明文化
- 社内キーパーソン(経営層・現場・品質部門)の関心ポイントを把握
- 活用可能な補助金・資金調達スキームをリストアップ
実行フェーズ(PoC〜事業化準備)
- 小規模PoCを実施し、成果指標(ROI、歩留まり改善率など)を測定
- 反対意見の想定と対策案を計画書に盛り込む
- 必要な設備・人材の調達計画を作成
- 生成AI・DXの導入効果(時間短縮、精度向上)を試算
承認・展開フェーズ(社内承認〜本格展開)
- 投資回収期間とリスク低減策を数値で提示
- 補助金申請書・資金調達資料を経営層用に簡潔化
- 実施体制(責任者・KPI・改善サイクル)を明確化
- 本格展開のスケジュールとマイルストーンを設定
使い方のコツ
月1回、このチェックリストを更新し、進捗と未着手項目を可視化し、承認会議の前に、経営層の評価軸に沿って順序を最適化します。
まとめ:新規事業を「計画から実行」まで走らせるために
新規事業は、ひらめきや意欲だけでは成立しません。全体のプロセス設計 → 成功事例からの学び → 社内承認の突破 → 補助金・資金調達 → 生成AI・DX活用 → 実行チェックリスト
という一連の流れを押さえることで、再現性の高い立ち上げが可能になります。
製造業という厳しい環境でも、この記事で紹介した実例やテンプレートを活用すれば、社内の合意形成が早まり投資判断の裏付けが強化され、市場投入までのスピードが加速します。
次の一歩は、動くための資料を手に入れることです。新規事業をお考えの方はSHIFT AI for Bizまでお問い合わせください。
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新規事業に関するよくある質問(FAQ)
- Q新規事業立ち上げにはどのくらいの期間が必要ですか?
- A
一般的に企画〜市場投入までは6か月〜2年程度が目安です。製造業の場合、設備投資や試作工程が入るため1年以上かかるケースが多くなります。ただし、生成AIやシミュレーション導入により設計・検証期間を数か月短縮できた事例もあります。
- Q新規事業の失敗でよくある原因は何ですか?
- A
主な原因は「市場ニーズの誤認」「収益化までの計画不足」「社内の合意形成不足」です。特に製造業では、現場負担や品質基準への影響が承認を妨げるケースが多く見られます。
- Q補助金はどのタイミングで申請すべきですか?
- A
事業計画が一定レベルで固まった時点で申請準備を始めるのが理想です。公募期間は1〜2か月と短いため、GビズIDの取得や必要書類の事前準備が重要です。
- Q社内承認を得やすくする方法はありますか?
- A
ROIや市場規模など定量データを盛り込んだ計画書を提示することです。また、反対意見を想定し事前に代替案を用意しておくと承認確率が上がります。
- Q製造業以外の業種にもこの記事の内容は応用できますか?
- A
はい。市場分析や補助金活用、生成AIによる効率化などは業種を問わず活用可能です。ただし製造業向けに例示しているため、他業種では自社の特性に合わせたカスタマイズが必要です。
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