自治体におけるDX推進は、いまや「国策」から「現場課題の解決」へと段階が移りつつあります。
しかし、多くの自治体では――「デジタル化の必要性は理解しているが、職員が思うように動かない」「ツールを入れても使いこなせない」といった声が後を絶ちません。
本質的な課題は、仕組みではなく“人”にあります。
DXを自ら考え、実践できる人材をどう育てるか――その鍵を握るのが「自治体DX研修」です。
本記事では、自治体職員に求められるスキルと研修内容、実施の進め方、そして民間・公的機関によるプログラムの比較までを整理。
さらに、生成AIを活用した最新のリスキリング型研修という新たなアプローチも紹介します。
自治体の現場を変えたい担当者が、「どのようにDX研修を設計し、成果を出していくか」が明確になる内容です。
自治体でDX研修が求められる背景
近年、行政分野のDXは「政策テーマ」から「現場課題の解決手段」へと変化しています。
総務省が掲げる「自治体DX推進計画」では、自治体のデジタル化を支える3つの柱として
①業務改革、②データ利活用、③人材育成 が明示されました。
しかし、現場ではこうした方針があっても――
- システムは導入したものの、使いこなせていない
- 担当職員のスキルに差があり、DX推進が属人化している
- 「デジタル化=IT導入」と誤解されている
といった課題が多くの自治体で残っています。
この“最後の壁”を突破するには、単なるIT講習や操作研修ではなく、「職員一人ひとりが業務を再設計できる力」=DXリテラシーの育成 が不可欠です。
つまり、DXを“理解する”から“活かせる”段階へと進めるための「研修」が、変革の中心に位置づけられつつあるのです。
AIやデータ活用などの先進技術も、それを使う人材の理解と行動変化が伴わなければ成果に結びつきません。一過性の学びではなく、継続的なスキルアップと組織文化の変革が求められています。
こうした背景を踏まえ、自治体DXを成功に導くには「どのような研修を、どのように設計すべきか」を整理することが第一歩です。
関連記事:
自治体DXを成功に導く5ステップ|現場課題とAI人材育成の実践法
自治体DX研修で学ぶべき内容とは?
自治体のDX研修というと、「デジタルツールの操作方法を学ぶ」といった印象を持たれることがあります。
しかし、真に求められるのは“自ら課題を見つけ、テクノロジーを使って業務を改善できる人材”を育てることです。
総務省のガイドラインでも、DX推進の中心に「人材育成」を据え、単なる知識習得ではなく“行動変容を促す学び”を重視しています。
ここでは、DX研修で押さえておくべき3つの領域を紹介します。
デジタルリテラシー研修|AI・データの基礎理解
DXの出発点は、データやAIを理解し、業務にどう活かすかを考える力です。
具体的には以下のようなテーマが中心となります。
- 生成AI(ChatGPTなど)の活用基礎
- データの収集・整理・可視化の基礎
- デジタルツールの選び方とセキュリティの考え方
特に近年は、生成AIを活用した業務効率化研修への注目が高まっています。
職員がAIを“触れるだけ”で終わらせず、“自分の仕事に置き換える”ための演習形式が効果的です。
実践型ワークショップ|業務課題を可視化・改善する演習
自治体のDXを進めるうえで欠かせないのが、現場課題を自ら整理し、改善案を形にする力です。
研修では、以下のような実践型演習を取り入れると効果が高まります。
- 自部署の業務フローを見える化し、課題を抽出する
- “紙・ハンコ・対面”を前提とした業務をデジタルに再設計する
- チームで課題を共有し、改善施策を検討・発表する
このようなワークショップ形式を通じて、職員同士の意識が変わり、「自分たちでDXを進める」文化が生まれます。
マネジメント層研修|DXを推進する組織設計と評価
DXを持続的に進めるには、現場任せにせず管理職・リーダー層の理解と支援が欠かせません。
マネジメント層向けの研修では、以下のようなテーマを扱うケースが増えています。
- DX推進におけるリーダーの役割と意思決定
- 予算・人材の確保、評価制度との連動
- 組織文化の変革と風土づくり
現場職員のスキルと同時に、管理職が「変化を受け入れ、後押しできる組織」をつくることで、研修効果が定着していきます。
研修の実施方法と進め方|小さく始めて定着させるステップ
自治体のDX研修では、いきなり大規模なプログラムを組むよりも、“小さく始めて、継続的に育てる”アプローチが効果的です。
限られた人員・予算の中でも成果を上げるためには、段階的な設計が欠かせません。
ステップ① 現状把握と対象者設定
まず行うべきは、職員の現状把握とターゲット層の明確化です。
「どの職員が、どのレベルのデジタルスキルを持っているか」を可視化し、対象を階層別に整理します。
たとえば、
- 一般職員層:業務効率化・デジタルツール活用
- 中堅層:部門内の改善・チーム推進力
- 管理職層:組織変革・リーダーシップ
といった形で階層を分けると、研修内容を最適化しやすくなります。
この段階で、「研修の目的=組織の課題解決」に直結させることが重要です。
単発で終わる講習ではなく、職員が“自分ごと”として受け止められる設計が成果を左右します。
ステップ② ハイブリッド型の研修設計
次に、オンラインと対面のハイブリッド型研修を組み合わせることで、効率と定着を両立します。
- eラーニングで基礎理解を習得
- 対面ワークショップで課題発見・改善演習
- 生成AIツールを活用した“実務型トレーニング”
- 終了後のアンケート・意見交換で改善点を収集
特に、ChatGPTなどの生成AIを活用した業務改善演習は、短期間でも成果が見えやすく、参加職員のモチベーションを高めます。
この段階で“DXの成功体験”を作ることが、組織全体の変革につながります。
ステップ③ 効果検証とフォローアップ
研修を実施したあとに重要なのが、「やりっぱなしにしない」仕組みです。
- アンケートやレポートで研修効果を定量化
- 現場での行動変化・成果事例を共有
- 次年度の研修計画に反映するループを構築
さらに、研修受講者が自部署で“ミニ研修”を開催するなど、学びを横展開する取り組みも効果的です。
このようにして、DX研修は単なる一過性のイベントから、組織文化の変革プロセスへと発展していきます。
DX研修を提供する主な機関と比較
自治体でDX研修を検討するとき、多くの担当者が悩むのが「どこに依頼すればいいのか」という点です。
現在、自治体職員向けのDX研修は、公的機関・公共団体・民間企業の3つに大きく分けられます。
それぞれの特徴を理解しておくことで、自団体の課題に合った研修を選びやすくなります。
| 区分 | 提供機関 | 特徴 | 対応テーマ | 備考 | 
| 公的機関 | 総務省/全国市町村研修所(JIAM) | 無料で受講できる基礎講座中心。政策背景やDX方針の理解を重視。 | DX概論/基礎リテラシー | 参加枠が限られる場合あり | 
| 公共団体・協会 | 日本経営協会(NOMA)/各自治体研修所 | 行政マネジメント・組織変革の研修が中心。企画職向け。 | 人材育成/組織改革 | 理論中心で実務寄りの内容は少なめ | 
| 民間企業 | SHIFT AI/キカガク/インソースなど | 実務・生成AI活用・業務改善までを含む。現場職員向けに特化。 | 業務改革/AIリテラシー/データ活用 | オーダーメイド設計・オンライン対応可 | 
公的研修と民間研修の違い
公的機関の研修は、方針理解や基本スキルを学ぶには最適ですが、実務での変化や成果に直結する設計が難しいという課題があります。
一方、民間研修では、職員の業務内容やスキルレベルに合わせたカスタマイズ設計が可能です。
特に近年は、生成AIを活用した「業務改善型DX研修」へのニーズが急速に高まっています。
AIを行政文書作成・住民対応・データ整理に応用する演習を通じて、受講直後から効果が実感できる点が大きな特徴です。
成功する自治体DX研修の設計ポイント
DX研修を成功させるために最も重要なのは、「一度やって終わり」ではなく、組織に浸透させる仕組みを持つことです。
多くの自治体では、研修実施後に時間が経つと現場が元の業務に戻ってしまう、という課題を抱えています。
この“定着の壁”を越えるためには、研修設計の段階から次の3つのポイントを意識することが欠かせません。
研修後のフォローアップ体制を設ける
DX研修は、学んだ内容を実践につなげて初めて意味があります。
研修後のフォローアップ体制を整えることで、学びを現場に戻したあとも継続できます。
- 定期的なフォローアップ研修や勉強会を開催
- 職員が成果を共有できる社内コミュニティの運営
- 成果や失敗事例を共有し、横展開できる文化の醸成
こうした「継続の仕掛け」を持つことで、研修が文化に変わる段階へと進みます。
管理職を巻き込む評価・仕組みづくり
現場の意識を変えるには、管理職の理解と支援が不可欠です。
上層部がDXの目的や効果を理解していなければ、現場の取り組みも続きません。
研修設計の段階で、管理職に「何を評価すべきか」「どんな行動を促したいか」を共有し、
- DX推進を人事評価・組織目標に反映
- 成果発表や改善提案の場を設ける
といった形で組織的な後押しを作ることが大切です。
伴走支援・外部メンターの活用
DXを推進する過程では、どうしても専門知識や経験の壁が立ちはだかります。
そのため、研修と並行して外部の専門家やメンターによる伴走支援を導入する自治体も増えています。
- 外部アドバイザーによる定期的なレビュー
- 生成AIやデータ活用に関する技術サポート
- 各部署での改善プロジェクトに対する個別支援
このような伴走体制を整えることで、研修内容が実務に落とし込まれ、“成果が見えるDX”へとつながります。
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自治体DXを成功に導く5ステップ|現場課題とAI人材育成の実践法
生成AI時代の自治体職員に求められるスキルとは
ChatGPTなどの生成AIの登場により、行政の業務スタイルは大きく変わろうとしています。
住民対応、文書作成、データ整理といった定型業務の多くが、AIと協働する時代に入りました。
こうした環境変化のなかで、自治体職員には次のようなスキルが求められています。
1. AIを“使う”だけでなく、“活かす”発想力
生成AIは、使い方を知っているだけでは十分ではありません。
たとえば、庁内文書の要約、議会資料の草案、アンケート結果の分析など、AIの出力を業務改善や意思決定につなげる発想力が必要です。
「どの仕事をAIに任せ、どこを人が判断するか」を見極める力が、これからの自治体職員の価値になります。
2. データを理解し、政策や業務に反映する力
データ活用は、行政サービスの質を高めるための基盤です。
単にデータを集めるだけでなく、
- 数値を読み解き、課題の傾向を把握する
- 改善施策を立案・検証する
- 結果を住民や議会へわかりやすく伝える
といった一連のスキルが不可欠です。これらは「AIリテラシー」と並んで、DX研修で重点的に学ぶべき領域です。
3. AI倫理・情報ガバナンスへの理解
生成AIを業務で扱ううえで忘れてはならないのが、情報管理・倫理の観点です。
住民データや内部文書をAIに入力する際のリスクや、出力結果の正確性・説明責任など、行政ならではの配慮が求められます。
そのため、研修ではAI活用と同時にガバナンス・リスク管理もセットで学ぶ必要があります。
4. 学び続ける力(リスキリング)の定着
AIやデジタル技術は、日々進化しています。
研修を一度受けて終わりではなく、職員が自主的に学び続けるリスキリングの文化づくりこそが、自治体の持続的な変革を支えます。
小さな学びを積み重ね、庁内全体で共有できる仕組みを作ることで、DXは加速していきます。
まとめ|DXは“人材育成”から始まる自治体変革
自治体DXの本質は、最新のシステムを導入することではありません。
デジタルを活かして課題を見つけ、解決の道筋を描ける“人”を育てることこそが、行政を変える第一歩です。
どれだけ優れたAIツールを導入しても、現場の職員が活用できなければ効果は限定的です。
逆に、職員一人ひとりがデジタルを味方につけ、業務をより良く変える発想を持てば、組織全体が自走するDXへと進化します。
そのために必要なのは、「一度きりの研修」ではなく、“学びを現場に定着させる仕組み”を持つこと。
理解→実践→改善のサイクルを繰り返し、組織全体でDXを文化として根付かせることが重要です。
AI経営総合研究所は、職員一人ひとりの変化を起点に、組織全体が自走できるDXを支援しています。

自治体DX研修に関するよくある質問(FAQ)
- QDX研修の実施期間はどのくらいかかりますか?
- A目的や対象職員の範囲によって異なりますが、一般的には1日〜3か月程度が目安です。 
 基礎理解を目的とする場合は1日完結型でも可能ですが、業務改善やAI活用まで踏み込む場合は、数回シリーズでの実施やフォローアップ研修を組み合わせるケースが増えています。
- Q小規模自治体でもDX研修を導入できますか?
- Aはい、可能です。 
 小規模自治体では、全職員を対象としたオンライン型や合同実施形式を採用することで、費用や人員負担を抑えながら実施できます。
- Qオンラインだけで完結する研修もありますか?
- Aあります。ZoomやTeamsなどのオンラインツールを使い、講義と演習を組み合わせる形式が主流になっています。 
 また、eラーニングによる事前学習とオンライン演習を組み合わせることで、場所や時間の制約を受けずに実施可能です。
- Q生成AIを扱う研修では、どのような内容を学べますか?
- AChatGPTなどの生成AIを行政業務に応用する方法を中心に、 - 文書作成・要約・住民対応への活用
- プロンプト設計(AIへの指示方法)
- 情報ガバナンスとリスク管理
 などを実践的に学びます。 庁内で安全にAIを使うためのルール作りも重要なテーマとして扱います。 
- 文書作成・要約・住民対応への活用
- Q研修の効果をどう測定すればよいですか?
- Aアンケートだけでなく、行動変化や業務改善の成果を可視化することが重要です。 
 たとえば、研修後に「業務プロセスの見直し提案数」や「ツール利用率」などをKPIとして設定し、改善のサイクルを継続的に回すことで効果が定着します。
- Qどのような職種の職員が対象になりますか?
- ADX推進に関わる情報政策課・企画課・人事課などの担当者をはじめ、住民対応や窓口業務など現場職員も対象としています。 
 職層や職種に応じて研修内容をカスタマイズすることで、全庁的なDXリテラシーの底上げが可能です。

