自治体DXを進めたい──そう考えても、実際に動かすのは“人”です。
ツールや仕組みを整えても、現場で活用できる人材がいなければ変革は続きません。
多くの自治体ではいま、「DXを担う人をどう育てるか」が最大の課題になっています。
本記事では、国の方針やスキルモデルを踏まえながら、自治体DX人材の育成体系・研修設計・定着のポイントを体系的に解説。
現場で成果を生み出す“自走型人材”を育てるための具体策を紹介します。最後には、実践と定着を支援する生成AI研修プログラムもご案内します。
なぜいま自治体に「DX人材育成」が必要なのか
行政のデジタル化は、もはや選択ではなく“前提”となりました。
しかし、DX推進計画を立てても、実際に動かす人材がいなければ変革は進みません。
総務省が示す「デジタル人材の確保・育成」の方針でも、“職員一人ひとりが自ら業務を見直し、改善を図る力”が重要とされています。
一方で、現場では「ツールの使い方に慣れない」「リテラシーの差が大きい」「研修をやっても続かない」といった声が多く、組織全体での意識とスキルの底上げが課題です。
特定の職員や部門だけにDXを任せるのではなく、“全員がデジタルを理解し活用できる状態”を目指すことが、持続的な行政運営の基盤になります。
国の政策で掲げられる「デジタル田園都市構想」や「自治体DX推進計画」も、人材育成を軸に据えています。つまり、DXの出発点はテクノロジーではなく“人の成長”にあるということです。
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自治体DX人材のスキルモデル|役割別に見る育成の方向性
DX推進に必要な人材は、単一の職種ではありません。
自治体の組織全体を支えるためには、役割に応じた3層の人材モデルを意識することが重要です。
まず、全体戦略を描く「推進リーダー層」。
この層は、政策や組織の方向性を理解し、デジタルを活用した業務改革のビジョンを提示します。
次に、現場で改善を実行する「実務リーダー層」。
データを活用しながら業務設計や業務プロセスの再構築を担い、チームを動かします。
そして、日常業務のなかでツールを使いこなす「一般職員層」。
彼らが基礎的なデジタルスキルを身につけることで、全体の生産性が底上げされます。
求められるスキルは、デジタル基礎力・データ活用力・業務変革力・共創力の4つ。
全員が専門家になる必要はなく、それぞれの役割で「変革に貢献できる力」を持つことが大切です。
チーム全体でスキルを補完し合うことが、自治体DXの推進力を生み出します。
育成の全体像|理解→実践→定着の3ステップ
DX人材育成の目的は、単に「知識を教えること」ではありません。
学びを現場での行動変化につなげ、継続的に成果を生み出せる人材を育てることです。そのためには、知識のインプットから実践、そして定着までを段階的に設計する必要があります。
ここでは、「理解」「実践」「定着」の3ステップで育てる効果的なアプローチを紹介します。
理解フェーズ|全職員が共通の言葉でDXを語れるように
まず最初に取り組むべきは、「DXとは何か」を共通認識として浸透させることです。
多くの自治体では、部門ごとにデジタル活用の温度差があり、目的が共有されていないことが課題です。
この段階では、全職員が同じ言葉でDXを語れる状態をつくることを目指します。
- DX・AI・データ活用などの基礎を学び、共通の理解を形成する
- 「なぜDXが必要なのか」「自分の業務にどう関係するのか」を具体的に示す
- eラーニングや集合研修などを活用し、学びの場を全庁的に整備する
こうした基礎理解があることで、次の「実践」フェーズでの行動変化がスムーズになります。
実践フェーズ|学びを業務改善につなげる
理解を深めたあとは、実際の業務に落とし込む「実践フェーズ」です。
この段階では、職員一人ひとりが自部署の課題を自ら見つけ、小さな改善を試みることが重要です。
デジタルツールを使いこなす“体感”を通して、変革への意識が高まります。
- 部署単位での業務改善ワークショップや課題解決プロジェクトを実施
- 改善アイデアを共有し、成功体験を組織全体に広げる
- 成果を「可視化」して、職員のモチベーションを維持する
“実践”を通して得られた成功体験は、次の「定着フェーズ」で文化へと変化します。
定着フェーズ|仕組みとして継続できる状態をつくる
最後のステップは、学びを仕組みに変え、継続的に改善が続く状態をつくることです。
ここでは、OJT・伴走支援・成果共有の仕組みを整え、DXを一過性のプロジェクトではなく「組織文化」として根づかせます。
- OJTやペア学習による現場支援を制度化する
- 成果共有会・ナレッジ共有会を定期的に開催し、学びを可視化
- 改善提案制度や評価制度に反映し、挑戦を促す環境を構築
継続的な学習の仕組みが整えば、DXは「特別な取り組み」ではなく、「日常業務の一部」として定着していきます。
自治体DX人材育成の課題と解決のヒント
多くの自治体でDX人材育成が進まない背景には、共通する4つの壁(時間・体制・意識・評価)があります。
ここでは、それぞれの課題と具体的な解決策を整理します。
時間の壁|研修が後回しになり、学びが続かない
自治体職員は日常業務が多忙で、研修を計画しても「時間が取れない」ことが最大のハードルになります。
その結果、知識が断片的になり、学びが定着しないまま終わってしまうケースも少なくありません。
- オンライン学習(eラーニング)と集合研修を組み合わせる「ハイブリッド型研修」に切り替える
- 短時間で完結するマイクロラーニングを採用し、隙間時間で学べる仕組みをつくる
- 定期的に“学び直しの時間”を組織として確保する
学びを業務の一部としてスケジュール化することが、継続の第一歩です。
体制の壁|研修部門と現場が分断されている
研修を企画する部門(人事・情報政策など)と、現場職員の間に連携不足があると、「学びが実務につながらない」という課題が発生します。
結果として、研修が“やりっぱなし”になりがちです。
- 人事・情報政策・企画など、複数部門による横断的推進チームを設置
- 研修設計段階から現場代表者を巻き込み、“現場課題起点”でプログラムを構築
- 研修後に現場で成果を共有する報告会を開催し、連携を習慣化
組織を超えたチーム設計により、育成が「全庁的な取り組み」として機能します。
意識の壁|一部職員に任せきりで、文化が変わらない
「DXは特定部署の仕事」と捉えられると、全体の意識が上がらず推進が止まります。
現場が自分ごととして捉えるには、管理職層のコミットメントと評価制度の連動が欠かせません。
- 管理職が率先して学び、メッセージを発信する「トップダウン型支援」を導入
- DX研修の受講や改善提案を人事評価に反映する仕組みを構築
- 成果を共有・称賛する文化(例:業務改善アワード)をつくる
「誰かがやる」ではなく、「みんなで変える」文化を育てることが重要です。
評価の壁|成果が見えず、取り組みが継続しない
研修の成果が可視化されないと、モチベーションが下がりやすくなります。
「どれだけ効果があったのか」が見えないままでは、次の予算確保も難しくなります。
- KPI(定量指標)を設定(例:改善提案件数・業務時間削減率・ツール利用率など)
- アンケートやヒアリングで「行動変化」を測定し、定性評価も併用
- 成果を庁内にフィードバックすることで、“学びの循環”をつくる
数字とストーリーの両面から成果を可視化することで、継続的な改善が進みます。
育成を成功に導くポイント|仕組みで人を育てる
DX人材育成を成功させる鍵は、「人に依存しない仕組み」を整えることです。
優れた研修プログラムを導入しても、仕組みがなければ知識はすぐに風化してしまいます。
重要なのは、学びを組織全体で支え、継続的に育てていく環境づくりです。
まずは、学びを業務と結びつけること。
研修で学んだ内容を現場で試し、その成果を共有する場を設けることで、知識が“使える力”に変わります。
次に、組織全体で支援する仕組みです。
管理職が率先してデジタル活用を推進し、職員が挑戦できる雰囲気をつくることが欠かせません。
また、改善提案や成果を発表する機会を設けると、前向きな循環が生まれます。
そして、継続学習の文化を根づかせること。
eラーニングやナレッジ共有会を定期的に行うことで、学びが途切れず続いていきます。
このように“研修→実践→共有→改善”が回る仕組みを整えることで、DX人材は組織の中で自然と育っていきます。
外部研修・伴走支援を活用した人材育成の進め方
自治体のDX人材育成を進めるうえで、自前の取り組みだけでは限界があります。
特に、専門知識の不足や時間的制約、実践の場づくりといった課題は、外部リソースをうまく活用することで補うことができます。
まず意識したいのは、「一方的な座学型」ではなく、“実践と定着”を重視した研修を選ぶこと。
現場での課題解決を題材に、職員が自ら考え行動できるように設計されたプログラムほど、成果が長く続きます。
また、研修後のフォローアップや伴走支援があるかどうかも重要です。
知識のインプットだけでなく、実際に使いながら定着させるプロセスがなければ、DXは現場に根づきません。
外部パートナーを選ぶ際は、単なる研修会社ではなく、組織変革を支援できる伴走型の専門機関を選定しましょう。
現場の課題発見から改善提案までを一貫して支援できるパートナーがいれば、育成のスピードと効果が格段に高まります。
まとめ|DXの本質は“人の成長”にある
自治体DXの本質は、システム導入やツール活用そのものではありません。
それらを使いこなし、業務をより良く変えていく“人の成長”こそが、DXを持続的に進める力になります。
職員一人ひとりがデジタルを理解し、自分の仕事を見直す視点を持つことで、組織全体の変化が加速します。
そして、その力を定着させるには、学びを繰り返し実践できる環境が欠かせません。
研修を“受けて終わり”にせず、“行動を起こすための仕組み”として設計することで、DXは特別な取り組みではなく、日常業務の一部として根づいていきます。

自治体DX人材育成に関するよくある質問(FAQ)
- QDX人材とはどのような人を指しますか?
- ADX人材とは、必ずしもITの専門家を意味するわけではありません。 
 自治体の場合、業務を理解し、デジタルを活用して改善を進められる人を指します。
 政策立案を担うリーダー層から、日々の業務でツールを使う一般職員まで、全員がDX推進の担い手です。
- QDX研修は全職員が受ける必要がありますか?
- A全員が同じ内容を受ける必要はありませんが、全職員がDXの目的を理解することは必須です。 
 そのうえで、役職や担当業務に応じて「基礎リテラシー研修」「業務改善研修」「データ活用研修」など、階層別に設計するのが効果的です。
- QDX人材育成を担当する部署はどこが適していますか?
- A多くの自治体では情報政策課や企画部門が中心になりますが、人事部門との連携が不可欠です。 
 研修を人材育成方針や評価制度と結びつけることで、単発ではなく継続的な取り組みとして機能します。
- QDX研修の効果はどのように測定できますか?
- AKPIとして、「改善提案件数」「業務時間削減率」「デジタルツール利用率」などを設定します。 
 また、研修後のアンケートや現場ヒアリングで“行動変化”を確認することも重要です。数値と感覚の両面から成果を把握することで、育成効果を継続的に高められます。

