「社内で『経理DXを進めよう』と掲げてから、半年。ツールは導入した。マニュアルも整えた。けれど、現場はほとんど変わらない」

「前任者のやり方が一番確実だから」「今は忙しくて手を出せない」。そんな言葉が、経理部の会話に当たり前のように混じっていませんか。

多くの企業で、経理DXは止まっているのではなく、進んでいるように見えて止まっている状態です。原因はシステムや予算ではありません。人の心理、組織の構造、そして変え方の設計が欠けているのです。

この記事では、経理DXが進まない企業に共通する「3つの現実」と「構造的な3つの壁」を掘り下げながら、
どうすれば経理部門が本当の変革を起こせるのかを明らかにします。

経理DXを動かすカギは、ツールではなく「人」。現場が変わり、経営が変わる──その第一歩を、ここから見つけましょう。

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経理DXが「進まない企業」が多い3つの現実

経理DXに取り組んでいる企業の多くが、導入から半年経っても「成果が見えない」と悩んでいます。業務をデジタル化しても、日常のやり方は変わらず、経理部は依然として処理部門のまま。

なぜこんなにも多くの企業が同じ壁にぶつかるのでしょうか。それは、DXを「ツールの導入」だけで完結させてしまう構造にあります。ここでは、経理DXを停滞させる3つの現実を見ていきましょう。

ツール導入で止まる「表層的DX」

多くの企業が最初に着手するのは、RPAやクラウド会計などのツール導入です。しかし、ツールを入れただけでは根本的な変革は起きません。なぜなら、「業務設計」や「人の動き」が変わらないままでは、デジタル化しても旧態依然のやり方を再現するだけだからです。

たとえば経費精算システムを導入しても、承認ルートが複雑で結局紙やPDFを確認する運用に戻ってしまうケースは珍しくありません。ツール導入はあくまで手段であり、目的は業務全体の再設計にあります。ここを理解できるかどうかで、DXの成否は決まります。

関連記事:経理DXとは?導入から定着までのステップと成功のポイントを解説

属人化と「ブラックボックス経理」

経理業務の多くは長年の慣習で成り立っています。その結果、特定の人しか知らない業務が存在する状態=属人化が生まれます。この構造こそがDXの最大の敵です。属人化が強い職場では、システム導入に必要な業務棚卸しができず、そもそも改革の前提条件を欠いています。典型的な属人化パターンは次の通りです。

  • 特定の担当者しか仕訳ルールを把握していない
  • 手作業のExcelマクロが暗黙のルールになっている
  • 承認権限や決裁フローが文書化されていない 

下の表は、属人化度合いを可視化するチェック項目です。

チェック項目状況リスクレベル
業務マニュアルが1年以上更新されていない🔴
特定の人しか操作できないツールがある🔴
業務手順が担当者の記憶に依存している🟠
ルール化・標準化されている🟢

属人化を放置すると、「その人がいないと業務が止まる」構造が固定化されます。経理DXの出発点は、システム導入ではなく、こうした見えない属人化を可視化することにあります。

変化への「抵抗感」が根強い文化

もうひとつの壁は、人の心理による抵抗です。経理部門は「正確さ」「再現性」を重視する文化が強く、変化に対して慎重です。新しい仕組みが提案されても、「今のやり方が一番確実だ」と考える人が多く、結果としてDX推進が遅れます。

抵抗感は単なる怠慢ではありません。過去の失敗体験やITスキルへの不安が背景にあります。経理部門は間違いを恐れるため、「リスク回避=現状維持」を無意識に選びがちなのです。だからこそ、DX推進には「ツール研修」だけでなく、心理的ハードルを下げるための人材育成と対話の設計が必要になります。

経理DXを止めているのはツールではなく、現場の構造と文化。次の章では、それを生み出す「組織的な3つの壁」を掘り下げていきます。

経理DXを止めている「構造的な3つの壁」

経理DXが進まない背景には、現場だけでなく組織の構造そのものが変化を拒む仕組みが存在します。いくら現場が意欲的でも、意思決定の遅さや権限の硬直があれば、DXは絵に描いた餅になってしまいます。ここでは、経理DXを根本から止めている3つの組織的な壁を解き明かします。

権限構造の硬直

経理DXが動かない最大の理由のひとつが、「意思決定の遅さ」です。経理部門は多くの企業で承認文化が根付いており、新しいツール導入や業務改革には必ず複数の決裁プロセスが必要になります。その結果、企画から承認までに数ヶ月かかることも珍しくありません。こうした硬直した権限構造が、現場のスピード感を奪っています。

さらに、経営層が「経理DX=コスト削減」としか捉えていないケースも多く、投資判断が遅れる原因になります。DXを経営戦略として推進するには、経理部門を効率化部門ではなく、経営に貢献する情報中枢として再定義する必要があります。

関連記事:DX経営とは?意思決定を変える5ステップとAI時代の戦略

人材とスキルの非対称

もう一つの壁は、人材とスキルのアンバランスです。経理部門では、会計・税務などの専門知識を持つ人は多い一方で、データ分析やITリテラシーを備えた人材は限られています。DXを担う担当者が片手間でプロジェクトを進めるケースも多く、結果としてデジタルのわかる人がいない状態に陥ります。

たとえば、RPAの設定を外部に丸投げしてしまい、社内にノウハウが蓄積しないといった問題です。

経理DXを推進するには、部門横断での協働が欠かせません。経理、システム、経営企画がそれぞれの知見を持ち寄り、共通言語で議論できる環境を整えることが鍵になります。そのためにも、「デジタルを理解する経理人材」を育成する仕組みが必要です。

KPIが「業務効率」に偏りすぎている

DX推進の効果を測る指標が、業務効率化に偏っている企業は多く見られます。もちろん生産性の向上は重要ですが、経理DXの本質はそこではありません。経理部門がDXによって本当に果たすべき役割は、「経営に資するデータ提供」です。

たとえば、リアルタイムの原価管理やキャッシュフロー分析など、経営判断のスピードと精度を高める支援ができているかどうか。この観点をKPIに組み込まなければ、DXは単なる効率化プロジェクトで終わってしまいます。
以下のように、KPIを業務から価値創出へ転換することが求められます。

観点従来のKPIあるべきKPI
業務効率経費処理件数、処理時間の短縮自動処理率、入力削減率
経営貢献経営会議でのデータ活用回数、分析レポート提供件数
組織変革DXスキルを持つ人材比率、業務改善提案件数

経理DXを進めるためには、「効率化」だけでなく「価値創出」を指標に置き換える発想が不可欠です。KPIの設計が変われば、DXの進み方も変わる。それが経理部門の未来を左右します。

経理DXが進まないのは、ツールやスキルの問題ではなく、組織の構造に埋め込まれたルールと価値観の問題です。次の章では、この構造を変える鍵となる「人」の視点から、変革を進めるための考え方を見ていきます。

DXが進まないのは「人」が変わっていないから

経理DXの停滞要因を突き詰めると、最後に行き着くのは「人」です。どれほど優れたツールや体制を整えても、それを使う人の意識と行動が変わらなければ、DXは形だけで終わります。つまり、経理DXの本質はテクノロジーの導入ではなく、人の変化をどう設計するかにあります。ここでは、経理DXを本当に動かすために必要な「人」の視点から見た3つのポイントを掘り下げます。

技術よりも「行動変容」が先に来る

経理DXを成功させている企業の共通点は、ツール導入よりも先に人の動き方を変えていることです。つまり、システム導入を「目的」ではなく「行動変容を促す手段」として位置づけています。

たとえば、月次処理を自動化する前に、まずは月次決算を早めたい理由をチーム全体で共有し、行動の意味づけを行う。そうすることで、メンバーの動きが自然に変わり、ツールの定着率が高まります。DXの成功とは、ツールが業務に溶け込み、社員の行動が変わることなのです。

学びの場を「実務」と結びつける

多くの企業でDX研修が形骸化するのは、「研修=座学」で終わってしまうからです。経理DXでは、学びと実務を結びつける体験型リスキリングが効果的です。たとえば、実際にRPAを操作しながら自社の仕訳ルールを自動化してみる、クラウド会計データを使ってリアルな経営指標を作る。そうした実践が、社員の「使える知識」に変わります。

また、経理DXを進めるうえで重要なのは、経理と経営の共通言語を持つことです。数字の正確さだけでなく、データが経営にどのように活かされるのかを理解する視点が必要です。そのためには、経理人材自身がデータ分析・可視化・意思決定プロセスに触れる場を持たなければなりません。

「変化に強い人」を育てる組織設計

DXは一度で完了するものではなく、継続的に改善と変化を繰り返すプロセスです。そのため、単にスキルを学ばせるだけではなく、「変化に強い人」を育てる組織設計が求められます。

ここでのポイントは、DX推進を個人依存にせず、学びが連鎖する文化を仕組みとして作ることです。たとえば、経理部内で月1回の「改善共有ミーティング」を設け、ツール活用や効率化の成功事例をメンバー同士で発表する仕掛けを作る。小さな成功体験を積み上げることで、変化に前向きな空気が広がります。

さらに、経理DXを人材育成と組み合わせて推進する企業では、「現場主導の学習×外部専門家の伴走支援」が成果を出しています。SHIFT AI for Bizの法人研修もこの考え方に基づいており、実務に直結するDXスキルとマインドセットを同時に育てる設計になっています。

経理DXを止めているのは、ツールでも予算でもなく、人が変わっていないこと。DXの本当のスタート地点は、人が学び、動き、考え方を変える瞬間です。

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経理DXを動かすための「小さな一歩」

経理DXを進めるうえで最も難しいのは、最初の一歩を踏み出すことです。多くの企業は「完璧な計画を立ててから動こう」としがちですが、それがかえって動きを止める原因になります。

DXの本質は大規模なシステム導入ではなく、小さな変化を積み重ねて組織を変えていくことにあります。現場主導で小さな成功を生み出し、それを継続的な変化につなげていくことが、経理DXを進める最も確実な方法です。

業務の「見える化」から始める

DX推進の第一歩は、現状の業務を正しく把握することです。多くの経理部門は、自分たちの業務を体系的に可視化できていません。誰が、どの工程で、どんなツールを使っているのか──これを整理するだけで、属人化の根がどこにあるかが見えてきます。

まずは「業務フローの棚卸し」を行い、月次決算、経費精算、請求処理といった主要プロセスをマッピングしましょう。ここで重要なのは、「どの作業が手作業か」「どのデータが二重管理になっているか」を洗い出すことです。これにより、自動化やシステム導入の優先順位が明確になります。

業務の見える化はDXプロジェクトの土台です。システム選定よりも先に、全体像を俯瞰できる地図を持つことが、失敗を防ぐ最大のリスクヘッジになります。

「DXを止めている会話」を洗い出す

DXが進まない企業には、共通する言葉のパターンがあります。「今は忙しいから、あとでやろう」「そのツール、うちには合わないと思う」「誰がやるの?」──こうした発言は、変化を止める無意識のブレーキです。

これらを放置すると、組織全体に「やらない理由」が定着してしまいます。対策として有効なのは、会話のリフレーミング(言い換え)です。たとえば「忙しいからできない」ではなく、「忙しい中でも、どの作業を減らせばできるか?」と問いを変える。言葉を変えるだけで、思考ができない前提からできる方法を探す方向へ切り替わります。

DX推進リーダーがこの意識を持つことで、チームの空気が前向きに変わります。DXはツールの導入ではなく、組織の会話の質を変えることから始まるのです。

「成功体験」を共有する文化を作る

経理DXを継続的に進めるには、小さな成功をチーム全体で共有する文化が欠かせません。大きなプロジェクトの成功ではなくても、「この業務を自動化したら30分短縮できた」「請求書のチェックをクラウド化したら月末残業が減った」。

こうした日常の変化を見える化し、メンバー同士で共有することが重要です。たとえば部内で「今月の改善賞」を設定する、社内チャットにDX改善ノートを投稿するなど、ポジティブな変化を称える仕組みをつくると効果的です。人は「変化そのもの」よりも「変化が認められる経験」で動きます。小さな成功体験が連鎖すれば、チーム全体が変化に強い文化へと育っていきます。

経理DXの推進は、一夜で完結するものではありません。しかし、一歩を踏み出す勇気が組織の空気を変え、文化を変える。それが経理部門を経営のパートナーへと進化させる最初の一歩になります。

経理DXを動かすのは、あなたの部門から

経理DXは、ツール導入の話ではなく、経理部門が「会社をどう変えるか」を問う挑戦です。どれだけ仕組みを整えても、変化の意志がなければ前には進みません。属人化や抵抗感を超えて動き出すきっかけは、いつも現場から生まれます。

変化を他人任せにせず、まずは自分たちの業務と向き合う。その小さな一歩が、組織全体の動きを変えていきます。

SHIFT AI for Bizの法人研修は、そんな現場発の変革を支援する実践型プログラムです。経理部門が経営を動かす力を持つために、人と仕組みを同時に進化させることを目的としています。

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まとめ:経理DXの「停滞」を変革のチャンスに

経理DXが進まないのは、システムの問題ではなく、人と組織の在り方が変わっていないからです。属人化、抵抗感、権限の硬直。それらは一見ネガティブな要因に見えて、実は「変革すべき領域」を明確に示しています。DXの壁は、変化の方向を教えてくれるサインなのです。

経理部門がその壁に正面から向き合い、業務を見える化し、会話を変え、学びを行動に変えることができれば、企業全体の意思決定スピードは確実に上がります。経理が変われば、経営が変わる。その第一歩を踏み出す覚悟こそが、DXを本物にする力です。

経理DXのよくある質問(FAQ)

Q
Q1. 経理DXが「進まない企業」に共通する特徴はありますか?
A

あります。多くの企業では、DXを「IT導入プロジェクト」と捉えている点が共通しています。ツールを入れても業務設計や人の動きが変わらず、結果的に「デジタル化しただけ」で止まってしまうのです。また、属人化が強い環境では、変化を支える体制が整わず、担当者任せになりやすい傾向があります。

Q
Q2. 小さな企業や中堅企業でも経理DXは実現できますか?
A

もちろん可能です。むしろ、中堅・中小企業のほうがスピード感をもって動けるケースも多くあります。大規模な投資をせずとも、まずは経費精算や請求処理など「業務単位」での可視化と自動化から始めることで、十分に成果を出すことができます。大切なのはツールよりも、現場がなぜDXを進めるのかを共有することです。

Q
Q3. DX推進を社内で理解してもらうには、どうすればいいですか?
A

最初から全員を動かそうとせず、共感してくれる味方をつくることが効果的です。たとえば、小さな自動化や改善の成功事例を共有し、「これなら自分たちにもできそう」と思わせることが第一歩になります。その上で、経営層には数字や成果の形で説得する。SHIFT AI for Bizの法人研修でも、現場と経営の橋渡しをするリーダー層の育成を重視しています。

Q
Q4. 経理DXを進めるうえで最初にやるべきことは?
A

業務の棚卸しと可視化です。どの業務にどれだけ時間がかかり、どの工程がボトルネックになっているのかを整理すると、改善の優先順位が明確になります。そこから自動化やツール導入を検討することで、ムダな投資を防げます。最初にシステムから入るよりも、業務フローの再設計から着手するのが成功の近道です。
💡 参考記事:経理DXの進め方|経営に貢献する部門へ変わるための実践ステップと成功条件

Q
Q5. どんな研修が経理DXの推進に役立ちますか?
A

実務に直結する体験型研修が最も効果的です。ツールの使い方を学ぶ座学ではなく、実際の業務データを使って改善・自動化を体験するプログラムが、定着率を大きく高めます。SHIFT AI for Bizの研修は、経理DXを「人材育成」として捉え、変化に強い組織文化をつくるためのカリキュラムを提供しています。

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