ヒューマンエラーは、製造現場の不良品や医療の入力ミス、サービス業での顧客対応漏れなど、あらゆる職場で繰り返し発生します。多くの場合「注意不足」で片づけられますが、それでは再発を防げません。

根本原因を追究し、仕組みそのものを改善するために有効な手法が「なぜなぜ分析(5 Whys)」です。

本記事では、なぜなぜ分析の基本的な考え方から具体的な進め方、失敗しやすいポイント、そして研修やAIを組み合わせた最新の活用法までを解説します。現場で実践できる再発防止策を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

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ヒューマンエラーはなぜ繰り返されるのか

ヒューマンエラーは偶発的な出来事のように見えて、必ず背景に「繰り返される仕組み」が潜んでいます。大きく分けると、個人要因組織要因が重なり合うことでエラーは再発します。

まず個人要因としては、注意力の低下、知識や経験の不足、疲労やストレスによる判断力の鈍化などが挙げられます。たとえば夜勤明けの作業員が単純ミスを起こすのは典型例です。しかし、それを「本人の不注意」で終わらせてしまうと、本質的な改善にはつながりません。

次に組織要因です。マニュアルが不十分で手順が曖昧、教育が行き届いていない、職場に心理的安全性がなく「間違えた」と言い出せない――こうした環境が、同じエラーを温存します。つまり、ヒューマンエラーは個人の資質ではなく、組織の仕組みに根ざしているのです。

だからこそ有効なのが、真因を追究する「なぜなぜ分析」です。表面的な責任追及から一歩進み、仕組み改善へとつなげる姿勢が、再発防止の第一歩となります。

なぜなぜ分析とは?|基本の考え方と目的

なぜなぜ分析(5 Whys)は、問題が発生したときに「なぜ?」を繰り返して原因を深掘りしていく手法です。もともとはトヨタ生産方式の一部として体系化され、今では製造業だけでなく医療やサービス業、オフィス業務など幅広い分野で使われています。

最大の特徴は、表面的な原因ではなく「真因(root cause)」を特定することにあります。たとえば「部品の欠陥が出た」という現象に対して、「なぜ?」を一度だけ問うと「検査漏れだった」という答えで終わってしまうかもしれません。しかし「なぜ?」を繰り返すことで、「検査工程の基準が曖昧だった」「教育不足で作業者が判断できなかった」といった根本原因にたどり着けます。

似た手法に「特性要因図(フィッシュボーン図)」や「FMEA(故障モード影響解析)」がありますが、これらが複数要因を体系的に洗い出すのに対し、なぜなぜ分析はシンプルに原因の連鎖を追う点が特徴です。だからこそ現場で取り入れやすく、日常的な改善活動の入口として有効です。

つまり、なぜなぜ分析の目的は「誰が悪いか」を突き止めることではなく、仕組みやプロセスに潜む真因を明らかにし、再発防止策を打つことにあります。

なぜなぜ分析の進め方|手順とテンプレート

なぜなぜ分析はシンプルな手法ですが、正しく進めないと表面的な原因で止まってしまいます。ここでは基本の流れを整理し、すぐに活用できるテンプレートの形も紹介します。

STEP1:問題を明確化する

まず「どんな事象が起きたのか」を事実ベースで書き出します。感情的な表現や推測は避け、日時・場所・状況などを正確に記録することが重要です。

STEP2:「なぜ?」を繰り返す

発生した事象に対し「なぜ?」を問い、出てきた答えにさらに「なぜ?」を重ねます。目安は4〜5回程度ですが、真因に到達するまで柔軟に繰り返します。

STEP3:真因を特定する

「人の不注意」「確認不足」といった曖昧な答えで終わらず、組織の仕組みやルールの欠陥に行き着くかどうかを確認します。

STEP4:具体的な対策を立案する

真因に基づいて、再発を防ぐための仕組み改善策を考えます。教育・マニュアル改訂・仕組みの自動化など、実行可能な形に落とし込むことが大切です。

STEP5:効果検証と標準化

実施後に効果を測定し、うまくいった対策は標準化して継続します。形だけで終わらせず、改善のサイクルを回すことがポイントです。

なぜなぜ分析の簡易テンプレート(例)

現象なぜ①なぜ②なぜ③なぜ④真因対策
部品に不良が出た検査で見落とした検査基準が曖昧だった基準書の更新がされていなかった更新を管理する仕組みがなかった更新管理の欠如基準書管理システムの導入

このように表形式で整理すると、分析過程が一目で分かり、チーム内での共有もしやすくなります。

ケース別で見るなぜなぜ分析の実践例

なぜなぜ分析は、特定の業界に限らず幅広い現場で応用できます。ここでは代表的なケースを取り上げ、どのように「真因」へ到達できるのかを具体的に見ていきましょう。

製造業のケース:部品不良の再発

ある工場で特定の部品に不良が繰り返し発生していました。最初は「作業者が見落とした」とされましたが、なぜを繰り返すと「検査基準が不明確」「基準書の更新が滞っていた」「更新管理の仕組みがなかった」という真因が判明。結果として、基準書の管理システムを導入し、教育を徹底する対策が打たれました。

医療現場のケース:カルテ入力ミス

病院で診療記録の誤入力が頻発していました。原因を探ると「医師が忙しかった」ではなく、「入力画面の設計がわかりにくい」「確認プロセスが1人に依存していた」といった構造的な問題が明らかに。真因に対応するため、画面UIの改善やダブルチェック体制の導入が進められました。

サービス業のケース:顧客対応の抜け漏れ

コールセンターで顧客への折り返し連絡が抜けるケースが発生。調査すると「担当者の失念」ではなく、「顧客対応の記録フォーマットが統一されていない」「タスク管理が個人任せ」という仕組みの欠陥が原因でした。そこで、CRMシステムを導入し、対応履歴を一元管理する仕組みに改善しました。

このように、なぜなぜ分析は業界を問わず「個人の不注意」から「組織の仕組み改善」へ視点を転換させるのに役立ちます。事例を参考にすれば、読者自身の現場にも当てはめやすくなるはずです。

なぜなぜ分析でよくある失敗と注意点

なぜなぜ分析はシンプルで強力な手法ですが、進め方を誤ると形だけの活動になり、再発防止にはつながりません。特に次のような失敗は多くの現場で見られます。

「人の不注意」で止まってしまう

分析の途中で「担当者の注意不足だった」と結論づけてしまうケースです。これでは真因にたどり着けません。背景にある教育や仕組み、環境要因まで掘り下げることが不可欠です。

主観的な思い込みに偏る

「たぶんこうだろう」という推測だけで進めると、根拠の薄い対策に終わります。データや記録、関係者のヒアリングをもとに客観的な事実を積み重ねることが大切です。

対策が抽象的すぎる

「再度教育する」「注意喚起を徹底する」といった曖昧な表現では実効性がありません。**「教育マニュアルを更新し、全員に共有」「システムに自動チェック機能を追加」**など具体的な行動に落とし込む必要があります。

標準化・レビューが不十分

せっかく改善策を導入しても、継続的に見直さなければ形骸化してしまいます。効果を定期的に検証し、成功事例は標準手順として全社に展開することが重要です。

ポイントは「責任追及ではなく仕組み改善」。これを徹底することで、なぜなぜ分析は初めて再発防止につながります。

ヒューマンエラー研修を成功させるポイント

ヒューマンエラー対策を現場に浸透させるには、単に「知識を教える」だけの研修では不十分です。成功させるポイントは、実際の業務課題を題材にして演習を行うことです。自分たちの作業手順や事例をもとに「なぜ?」を繰り返すことで、単なる理論ではなく「自分ごと」として捉えられるようになります。

また、研修は一度きりで終わらせず、定期的な振り返りや実践の共有を取り入れることも重要です。研修後に現場で試した取り組みを持ち寄り、成功や失敗を共有することで、改善文化が根づきやすくなります。

さらに、経営層やマネジメントが積極的に関与し、「責任追及ではなく仕組み改善」という姿勢を示すことが、現場の安心感を高め、継続的な改善を可能にします。

関連記事:
ヒューマンエラー対策を教育で実現!製造現場の研修手法と効果測定を徹底解説

再発防止に効く!なぜなぜ分析の実行サイクル

なぜなぜ分析は一度きりの調査で終わらせてしまうと効果が薄れます。再発防止につなげるには、分析から標準化までを一連のサイクルとして運用することが欠かせません。

1. 分析

発生した事象を事実に基づいて洗い出し、「なぜ?」を繰り返して真因を特定します。

2. 対策立案

真因に基づき、実行可能で具体的な改善策を検討します。個人への注意喚起ではなく、仕組みやプロセスを変えることを重視します。

3. 実行

現場で実際に改善策を導入します。システム改修やマニュアル更新、教育研修など、行動ベースで実施することがポイントです。

4. 効果測定

導入した対策が機能しているかを定期的に確認します。定量データ(エラー件数の減少)や現場の声をもとに検証します。

5. 標準化

効果が確認できた改善策は標準手順として文書化し、全社で共有します。これにより属人的な対応ではなく、仕組みとして定着させることができます。

6. 継続改善

環境や人員が変われば、新たなエラーが生じることもあります。定期的に見直しを行い、サイクルを回し続けることが重要です。

なぜなぜ分析を全社展開するステップ

なぜなぜ分析は、個人や一部署で取り組むだけでは効果が限定的です。再発防止を組織全体の仕組みにするためには、全社展開のステップを踏むことが欠かせません。まずはパイロット部署で実践し、効果を検証した上で成功事例を社内に共有します。

次に、標準手順としてマニュアル化し、全社的に研修や教育プログラムに組み込むことで、属人的ではない仕組みとして浸透させます。
また、展開の過程では「現場の声」を拾い上げ、柔軟にルールを改善していくことが重要です。

一方的な導入では形骸化しやすいため、各部署のフィードバックを反映させることで自律的な改善活動へとつなげられます。最終的には、効果測定とレビューを継続的に行い、PDCAサイクルを全社的に回すことで、ヒューマンエラー対策が企業文化として定着していきます。

研修とAIで強化するなぜなぜ分析

なぜなぜ分析を組織に根づかせるには、単に手順を知るだけでは不十分です。現場の全員が「なぜを掘り下げる習慣」を持つことが求められます。そのために有効なのが、研修とAIを活用した仕組みづくりです。

研修で身につける「思考の型」

ワークショップ形式の研修では、参加者が実際に自分たちの業務課題を題材にして「なぜ?」を繰り返す演習を行います。これにより、表面的な原因で思考を止めず、真因を探る思考プロセスを実感的に学べます。また、チームで行うことで「個人攻撃を避ける」「仕組みを改善する」という文化を共有できる点も大きなメリットです。

AIが支援する原因追究と対策立案

生成AIを組み合わせることで、なぜなぜ分析はさらに効率的になります。たとえば、

  • 類似事例の検索や比較
  • 見落としがちな要因の提示
  • 多様な対策案の発想支援

といったプロセスをAIが補完することで、分析の精度とスピードを高められます。特に多拠点や大規模組織では、AIを活用することで属人性を排し、組織全体で知見を共有できます。

関連記事:
ヒューマンエラーが減らない理由は?AI活用と研修で持続的に削減する方法

まとめ|ヒューマンエラー対策は「真因の追究」から始まる

ヒューマンエラーは「人の注意不足」で片づけてしまうと、何度でも繰り返されます。重要なのは、表面的な原因にとどまらず、なぜなぜ分析で真因を突き止め、仕組みを改善することです。

  • 個人要因と組織要因が重なってエラーは起こる
  • なぜなぜ分析は「真因」を特定し、再発防止につなげる手法
  • 成功には手順だけでなく、失敗を避けるコツや継続的な実行サイクルが欠かせない
  • 研修やAIを活用すれば、属人的で終わらず、組織全体に浸透させられる

再発防止を実現するには、分析を一度きりで終わらせず、継続的に改善の仕組みに組み込むことが必要です。

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よくある質問(FAQ)

Q
なぜなぜ分析は何回「なぜ」を繰り返すのが理想ですか?
A

一般的には5回と言われますが、必ずしも回数にこだわる必要はありません。重要なのは「人の不注意」で止まらず、仕組みや環境などの真因に到達できるかどうかです。

Q
個人の注意不足や確認ミスでも、なぜなぜ分析は有効ですか?
A

はい、有効です。表面的には「注意不足」であっても、深掘りすると「教育不足」「確認ルールの曖昧さ」「システムの設計不備」など組織的な要因が見つかります。

Q
ヒューマンエラー対策を定着させるにはどれくらい時間がかかりますか?
A

組織規模や業務内容によりますが、現場に根づくまでには数か月〜1年程度を見込む必要があります。短期研修で型を学び、定期的な振り返りを通して文化として定着していきます。

Q
なぜなぜ分析をオンライン研修で実施することはできますか?
A

はい、可能です。オンラインでもグループワークや事例演習を行えるツールを使えば、対面と同等の効果を得られます。SHIFT AI for Biz でもオンライン形式に対応しています。

Q
AIを使ったなぜなぜ分析にはどんなメリットがありますか?
A

AIを活用することで、類似事例の検索や見落としやすい要因の提示が可能になります。また、複数の対策案を効率的に比較でき、属人性を排して分析の精度を高める効果があります。