「業務効率化を進めよう」。そう提案しても、現場や上層部の反応は今ひとつ。 「それって具体的に何が良くなるの?」 「どれくらい効果が出るの?」

こうした問いに明確な答えを持たなければ、社内の理解も、行動も動きません。

特に最近では、「とりあえずツールを入れてみたが、誰も使っていない」「導入後の成果が曖昧で次の施策に繋がらない」といった、絵に描いた餅で終わる業務効率化が多発しています。

だからこそ今、求められているのは、単なるアイデアやツールの紹介ではなく、「業務効率化によって、どのような定量的な成果が生まれ、どうすれば組織に定着させられるのか」という、実践的で再現性のある解像度です。

本記事では、

  • 業務効率化で本当に得られる成果は何か
  • 上司や他部門を動かす“説得材料”としてどう語るべきか
  • ツールに頼らず、教育・設計を含めた仕組み化はどう進めるべきか

を軸に、成果につながる業務効率化の本質を徹底的に解説していきます。

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目次

なぜ今業務効率化なのか?背景にある3つの構造変化

業務効率化が単なる改善施策ではなく、経営レベルの優先課題として注目されているのには、明確な背景があります。その根本には、現場と組織を取り巻く「3つの構造的な変化」が存在しています。

これらの変化を理解せずに効率化を進めようとしても、ピントのずれた施策になり、結果として「うまくいかない」状態に陥ります。

人手不足と定型業務の肥大化!価値を生まない業務が時間を奪う

慢性的な人手不足が続くなか、多くの企業で「回すだけの業務」に時間を奪われています。特にルーティン化した定型業務が増え、本来リーダーが向き合うべき考える仕事に割ける時間が激減しています。

例えば、以下のような場面に心当たりはないでしょうか。

  • メールチェックや定型資料の作成に、午前中が消える
  • 営業報告や面談記録が、毎回一から入力されている
  • Excelが「人が操作する業務ツール」として放置されている

こうした業務は、小さな時間の積み重ねが全体のパフォーマンスを削ぎ、戦略的思考やイノベーションの余地を奪っていきます。

属人化と分断が進むマネジメント現場!業務改善のボトルネックに

業務効率化を進めるうえで、大きな壁となるのが「属人化」と「分断」です。担当者ごとのやり方に依存していたり、情報が共有されず暗黙知のまま放置されていたりする現場では、効率化の余地はあっても手が出せません。

さらにマネジメント層が日常業務に埋もれてしまい、「改善を仕組み化する」余裕がなくなっている企業も多いのが実情です。こうした状態を打破するには、マネジメント能力の再設計と支援が不可欠です。
👉参考記事:マネジメント能力とは?管理職に必要な7つのスキルと鍛え方を実践的に解説

DXが進む一方で、使いこなせない現場が増えている

多くの企業がDX推進を掲げ、さまざまなITツールを導入しています。しかし、実際には「現場が使っていない」「定着しない」「逆に工数が増えた」というケースも少なくありません。

その原因は明確です。ツール導入が目的化し、現場の業務フローやスキルと噛み合っていないのです。

こうしたミスマッチを防ぎ、ツールの効果を最大限に引き出すためには、導入前後の設計・教育・運用体制の構築がセットで必要になります。

業務効率化で得られる5つのメリット【数値とともに理解する】

業務効率化の必要性が高まっている今、多くの企業が“とにかく何かを改善しなければ”と動き出しています。しかし、実際のところ「何がどう改善されたのか?」を明確に数字で語れる企業は、まだ多くありません。

業務効率化の効果を正しく伝え、社内を納得させ、施策を継続的に定着させるためには、感覚的な成果ではなく、定量的なメリットを把握することが重要です。

ここでは、業務効率化によって得られる5つのメリットを、それぞれの測定軸や実例とともに解説します。

1. 時間の削減:定型業務の自動化で月50〜100時間の余力が生まれる

もっとも実感しやすい効果が、日々の業務時間の削減です。特に、報告書作成やデータ集計、会議資料作成といったルーチン業務の自動化・テンプレ化によって、毎月数十時間単位の時間が浮くケースも珍しくありません。

たとえば、営業日報を手入力から音声入力+自動変換に切り替えた企業では、月間60時間以上の削減を実現しています。

こうした“見えづらい時間”を可視化し、削減余地を特定することで、本来注力すべき業務への時間投資が可能になります。

2. コストの圧縮:工数×人件費で“見える化”すれば、年間数百万円の改善も

時間の削減は、すなわち間接コストの削減にも直結します。たとえば、一人あたり月20時間の削減を10人規模の部署で実現できれば、年間で2,400時間=約300万円相当の工数削減に匹敵します(時給2,500円換算)。

ここで重要なのは、効率化によるコスト削減を“なんとなく”ではなく、計算式で説明できるようにすることです。

これにより、施策の投資対効果(ROI)がクリアになり、経営層や他部門への説得材料として強い武器になります。

👉参考記事:業務効率化の目標設定、間違っていませんか?

3. 品質の向上:ミスや手戻りの削減で、再発防止と顧客満足度が改善

人の手で行う作業には、どうしてもミスやバラつきが発生します。しかし、業務を標準化し、ツールでプロセスを統一・自動化することで、ミスの発生確率を大幅に抑えることが可能です。

たとえば、ある経理部門では経費精算プロセスをRPAで自動化した結果、確認漏れによる差し戻し件数が半減。再確認や再提出にかかる工数が減ったことで、業務のスピードと信頼性が同時に向上しました。

属人性の排除は、品質改善だけでなく、顧客対応の均一化や業務の再現性という観点でも大きな意味を持ちます。

4. 従業員の満足度向上:ムダな業務を減らすことで、働きがいと定着率を支える

非効率な業務に日々追われている状態では、従業員のモチベーションや満足度は低下しやすくなります。

特に、やらなくてもいい仕事に追われて残業が増えたり、改善の声が届かなかったりする環境では、「自分の仕事に意味がある」と感じにくくなるのです。

反対に、業務効率化によって雑務が削減され、「考える時間」「対話の時間」「学ぶ時間」が確保されると、職場の雰囲気・人間関係にもポジティブな変化が現れます。

従業員満足度の向上は、離職率の改善や、採用・育成コストの削減にもつながる、中長期的な経営メリットです。

5. 意思決定スピードの向上:情報が整理され、判断が加速する

業務の効率化は、情報整理と可視化の強化にも直結します。たとえば、各部門の数字がダッシュボードで一元化されていれば、報告・確認・判断のスピードは飛躍的に向上します。

特に、定型レポートを自動生成する仕組みを整えれば、マネジメント層が「報告を待つ」のではなく、「自ら必要な情報を瞬時に取得」できる体制が築けます。

これは単にスピードが上がるだけでなく、意思決定の質・納得感・再現性といった組織力全体の底上げにもつながります。

このように、業務効率化は単なる「作業スピードの改善」にとどまりません。コスト、品質、人材、判断──あらゆる面で経営全体に波及する効果を持っているのです。

他社事例に学ぶ!業務効率化が成果に変わった企業のケース

「ツールを導入したのに使われなかった」「効率化のはずが、手間が増えた」。このようなよくある失敗を避け、業務効率化を実際の成果に繋げた企業には、いくつかの共通点があります。

それは、現場に合わせた運用設計・丁寧な教育・定着支援まで含めて取り組んでいるという点です。ここでは、そうした取り組みで成果を出している実名企業の成功事例を紹介します。

三井住友海上火災保険|RPAと柔軟な働き方改革で年間14万時間を削減

三井住友海上火災保険では、全社的な働き方改革と業務効率化を両輪で推進。その一環として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やExcel VBAの活用により、月1,200時間、年間で14万時間の労働時間削減を実現しました。

また、社員一人ひとりの力を引き出す施策として、柔軟な勤務制度の整備在宅勤務の全社展開を進め、延べ1,800名以上が在宅勤務を活用。人事部では、全社員が使いやすい業務ツールの開発も独自に行い、現場レベルでの定着にも力を入れています。

出典:最優秀賞 厚生労働大臣賞(大企業部門)三井住友海上火災保険株式会社 

日本航空(JAL)|IT部門の統合でDX推進を加速、グループ全体の業務基盤を再設計

日本航空(JAL)は2025年、グループ全体のDX推進と業務効率化を加速するため、IT体制の再編を実施。これまで分かれていたJAL本体のデジタルテクノロジー本部と、IT子会社であるJALインフォテックを、新会社「JALデジタル」へ段階的に統合し、IT戦略・開発・運用を一元化する体制へと移行しました。

統合の完了後は、1000人を超えるIT人材が1組織に集約される見込みであり、情報基盤の安定稼働と同時に、組織横断の業務改善・標準化の推進が可能に。従来の個別最適な体制から、全社最適・全体設計による業務改革へと舵を切っています。

また、この再編では、DX戦略を現場に実装できる体制を整えることが重視されており、開発だけでなく運用・保守・改善までのPDCAをワンストップで回す仕組みとして機能しています。

出典:JALがIT部隊をJALインフォテックに集約、1000人超の「JALデジタル」4月始動

ツールだけでは成果が出ない|業務効率化を定着させる3つの仕組み

業務効率化に向けてツールを導入したのに、「誰も使わなくなった」「結局、前のやり方に戻った」という声を聞いたことはありませんか?

その原因は、ツールや仕組みそのものではなく、運用を支える設計や教育が不十分だったことにあります。

ツールはあくまで手段であって、それを活かす仕組みや習慣が整っていなければ、成果にはつながりません。ここでは、業務効率化を一過性で終わらせず、「組織の文化」にまで定着させるための3つの仕組みを解説します。

1. 業務フローの見直しとルール設計:現場を置き去りにしない「再設計」

効率化を定着させる第一歩は、「誰が、いつ、どのように」業務を進めるのかを明確にすることです。多くの現場では、既存のやり方が惰性で続いており、「なぜこの業務がこうなっているのか?」に答えられる人がいない状態になりがちです。

まずは、業務を以下のステップで再設計する必要があります。

  • 現状(AS-IS)の棚卸し:ムダ・属人化・重複を可視化
  • あるべき姿(TO-BE)の設計:再配置・統合・削減・自動化
  • ルールの明文化と運用設計:誰が・どう判断し・どう報告するかまで明示

特に「現場の声」が反映されていない設計は、どんなに精緻でも使われません。だからこそ、現場巻き込み型の設計プロセスが必須です。

👉参考記事:業務効率化とDX連携を成功させる方法

2. 教育・研修による理解浸透:「ツールの使い方」だけでは足りない

業務効率化が“現場に根付くかどうか”は、初期の研修設計にかかっているといっても過言ではありません。

多くの企業が「ツールマニュアルを配る」「初回の使い方説明会をする」だけで終わってしまいますが、それでは実践レベルでの定着は難しいのです。

重要なのは以下の3点です。

  • 背景を含めた目的理解(なぜ効率化が必要か?)
  • 具体的な業務に落とし込んだ操作習得(日常業務でどう使うか?)
    継続的なフィードバックとOJTの仕組み(定着させるには?)

特にマネジメント層にも研修を行い、効率化を支える側としての意識改革を促すことで、全体への波及効果が高まります。

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3. KPIの設定と「成果の見える化」:改善の実感が、習慣化を生む

どれほど丁寧に業務を設計し、教育を行っても、成果が可視化されなければ、人は元のやり方に戻ってしまいます。

そのため、業務効率化には以下のような指標の設計が不可欠です。

  • 削減された作業時間(月◯時間)
  • ミス件数の減少(前年比◯%減)
  • 書類処理スピードの改善(平均◯日→◯日)
  • 従業員満足度アンケートの変化

このようなKPIは、経営層への報告・現場へのフィードバック両面で活用でき、効率化施策を「続ける理由」へと変えてくれます。

👉参考記事:業務効率化の目標設定、間違っていませんか?

まとめ|業務効率化は「仕組み」と「教育」で成果が決まる

業務効率化は、「便利なツールを入れれば終わり」という話ではありません。本当に成果を出す企業がやっているのは、以下のような地道な取り組みです。

  • 現場の業務を見える化し、ムダを構造的に取り除く
  • 属人化や情報の分断を再設計で解消する
  • 教育とKPIで、現場に定着させる仕組みを整える

効率化とは、単なるコスト削減ではなく、組織の力を底上げするための再設計です。人がより価値ある仕事に集中できるようになり、判断が早くなり、職場全体の空気も変わっていきます。

その変化を起こすために必要なのは、「部分最適なツール導入」ではなく、全体最適を支える仕組みと教育の設計です。

SHIFT AI for Biz では、業務効率化を「仕組み」として定着させる法人研修を提供しています。

  • 効率化に必要な業務フローの再設計支援
  • 現場の理解を深める実践的な研修プログラム
  • AIやDXツールの活用を続けられる仕組みに変える設計支援

など、単なる「導入支援」ではなく、“実行と定着”を支える一貫体制をご用意しています。

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よくある質問(FAQ)

Q
業務効率化って、まず何から手をつければいいのでしょうか?
A

まずは現状の業務フローの「見える化」から始めましょう。
どの業務にどれだけ時間がかかっているのか、誰が担当しているのか、属人化している業務はないかを整理することで、改善の優先順位やボトルネックが見えてきます。
👉おすすめ記事:業務効率化の目標設定、間違っていませんか?

Q
ツールを導入したけど、現場が使ってくれません…
A

ツールが使われない原因の多くは、「なぜ導入したか」が共有されていない/日常業務への落とし込みが甘いことにあります。
操作説明だけでなく、業務フロー全体の再設計と研修による定着支援をセットで行うことが、現場活用のカギです。
👉参考記事:業務効率化を“定着”させる方法

Q
効果をどう測ればいいか分かりません…
A

業務効率化の効果は、「定量」と「定性」の両面で評価するのがポイントです。

  • 削減された作業時間(例:1人あたり月20時間)
  • ミスや手戻り件数の減少
  • 従業員満足度の向上や、離職率の低下

こうした数値をあらかじめKPIとして設定しておくことで、施策の成果が見えるようになります。

Q
管理職が非協力的で、効率化が進みません…
A

業務効率化は、現場だけでなくマネジメント層の意識改革が不可欠です。特に、「現場が困っていないように見えるから」「今のやり方で十分」といった思い込みが、改善の足を引っ張ることがあります。
SHIFT AIでは、管理職向け研修やマネジメントスキルの底上げもサポートしています。
👉おすすめ記事:マネジメント能力とは?管理職に必要な7つのスキルと鍛え方

Q
小さな部署でも効率化の意味はありますか?
A

もちろんです。むしろ小規模な部署ほど、1つの改善がチーム全体に与えるインパクトが大きい傾向にあります。
「まずは1チームで成功→他部門に展開」というアプローチが、全社展開の王道パターンです。

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