生成AIの業務活用が進む中、「どの業務から始めるべきか」で立ち止まっている企業は少なくありません。
実は、PoC(Proof of Concept:概念実証)で成果が出ない原因の多くは、“ツール選定”ではなく“業務選定ミス”にあります。
PoCとは、導入前に小さな単位で実用性を検証するステップのこと。生成AI導入においても、このフェーズは極めて重要ですが、検証する業務を間違えると、「効果が見えない」「現場に定着しない」といった“PoC止まり”のリスクが高まります。
この記事では、生成AI導入を成功させるために欠かせない「業務選定」の考え方を、PoCに適した業務の特徴や、選定ステップ、チェックリスト形式の判断基準まで含めて具体的に解説します。
導入に向けた第一歩を確実に踏み出したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
導入にあたっては、活用のメリットや社内展開を解説している次の記事もおすすめです。
▶︎ 生成AI導入で何が変わる?メリット・効果を部門別に可視化|社内展開のポイントも解説
なぜ“業務選定”でPoCの成否が決まるのか?
PoCがうまくいかない原因として、「生成AIの性能が不十分だった」「ツール選定を間違えた」といった声があがることがあります。
しかし実際には、成果が出ない最大の要因は“業務選定”にあることがほとんどです。
たとえば、以下のようなケースはPoC失敗の典型例です。
- 効果が見えづらい業務を選んだため、成果が数値で評価できなかった
- 関係者が多すぎる複雑な業務で、PoCのスコープを絞りきれなかった
- 属人的な判断が多く、AIが適応しきれなかった
PoCはあくまで「小さく始めて、大きく展開する」ためのステップです。
にもかかわらず、最初の“業務の選び方”を誤ると、現場に定着させるどころか検証すら不発に終わってしまいます。
AI導入においては、ツールよりも先に「どこで使うか」を見極めること。
この視点を持てるかどうかが、PoCを“やってよかった”で終わらせず、“成果につなげる”鍵になるのです。
PoCに向いている業務・向かない業務の違いとは?
PoCで成果を出すには、「業務の選び方」がすべてと言っても過言ではありません。
ここでは、生成AIのPoCに向いている業務と、そうでない業務の違いを整理していきます。
PoCに適した業務の特徴
以下のような業務は、PoC対象として非常に適しています。
- 定型業務である
→ 業務フローが明確で、AIによる再現がしやすい - 判断ルールが明文化されている/単純である
→ AIが処理できる形での入力・出力が可能 - 成果が“見える”
→ 作業時間の短縮や品質の向上など、導入効果を定量的に評価しやすい - 関係者が少なく、巻き込みハードルが低い
→ 承認や調整に時間がかからず、スピーディにPoCを回せる
このような条件がそろっていれば、PoCの設計や評価がしやすく、その後の全社展開にもつながりやすくなります。
PoCに不向きな業務の特徴
一方で、以下のような業務はPoCの対象としては注意が必要です。
- 属人的な判断が多く、AIに委ねにくい業務
→ 判断基準が曖昧なため、出力の品質が担保しづらい - 業務フローが頻繁に変わる/例外処理が多い
→ 安定した精度が出にくく、検証結果が一過性になる可能性が高い - インパクトが大きすぎる“基幹業務”
→ 失敗が許されないプレッシャーからPoC実行が萎縮する - 評価指標が曖昧/成果が定量化できない業務
→ 成功・失敗の判断が主観的になりがちで、意思決定が進まない
このような業務をPoCに選んでしまうと、せっかくの生成AIのポテンシャルが評価されず、PoC止まりになるリスクが高まります。
PoCでは“いきなり難しい業務に挑む”のではなく、小さく確実に成果を出せる業務から始めることが、結果的に社内の信頼を得て導入を広げる近道となります。
PoCに適した業務選定の進め方|成功する3ステップ
PoCに適した業務の特徴がわかったところで、次に重要なのが実際にどのように業務を選定していくかというプロセスです。
ここでは、現場に生成AIを導入するうえで失敗しないための業務選定の3ステップを紹介します。
① 業務の棚卸し:全体像を可視化する
まずは、部門横断で日々の業務を洗い出し、定型/非定型、属人度、業務量、重要度などの観点で整理します。
このとき、単にリスト化するだけでなく、「誰が」「どのくらいの頻度で」「何のために」実施しているのかまで把握することが重要です。
👉 よくある棚卸しの落とし穴
- 特定の部署だけに偏っている
- “本当に困っている業務”が棚卸しに含まれていない
- 業務の粒度がバラバラで比較しにくい
② 業務の評価・分類:PoC向きかを見極める
棚卸しした業務を、「PoCに向いているかどうか」の視点で評価・分類していきます。
たとえば、以下のような軸でスコアリング・マトリクス評価するのがおすすめです。
評価軸 | 視点 |
再現性 | 業務フローが明確か?例外処理は多くないか? |
定量性 | 成果を数値で測れるか?効果が見えるか? |
工数負荷 | 業務時間・担当人数が多く、効率化効果が高いか? |
拡張性 | 他部署でも展開できそうか?スケーラビリティはあるか? |
このような視点で分析することで、PoCに適した業務が自然と浮き上がってきます。
③ 優先順位づけとPoC対象の決定
分類が終わったら、PoCに適した業務群の中から「最初の1本」に選ぶ業務を決めましょう。
ここで重視すべきポイントは、「成果が出やすく、社内説得力が高い業務」です。
よくある失敗は、将来的な理想を見据えて「一番難しい業務」に挑んでしまうこと。
PoCは“現場で使える手応え”を得るためのフェーズです。成果が出やすく、周囲にわかりやすく伝えられる業務からスタートすることで、その後の全社展開への流れがスムーズになります。
「どの業務がPoCに適しているのかわからない…」
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PoCを“導入フェーズ”につなげる業務選定の工夫
PoCを実施するだけなら難しくはありません。
しかし、PoCを「やって終わり」にせず、実導入→全社展開へとつなげるには、業務選定の段階から“その先”を見据える必要があります。
ここでは、PoCの成果を最大化し、導入フェーズへスムーズに移行するために押さえておきたい3つの視点を紹介します。
再現性のある業務か?社内展開の“伸びしろ”を見極める
PoCで扱う業務が「その部署だけの特殊な業務」だった場合、成功しても横展開が難しくなります。
たとえば、営業部の報告書作成にAIを活用したとしても、そのプロセスが他部門では再現できないなら、導入効果は限定的になります。
理想は、他の部署でも応用できる“汎用性のある業務”をPoCに選ぶこと。
こうすることで、PoCの成功がそのまま全社展開の土台となります。
現場が“使いたくなる業務”か?体験価値を重視する
どれだけ技術的に実現可能でも、現場が「使いたくならない」業務では定着しません。
逆に、PoC段階で「これは便利」「もっと使いたい」と感じられる業務であれば、ユーザー側の熱量によって導入が自然と進みます。
PoCで得るべきは、技術検証だけでなく“現場の納得感”です。
そのためにも、業務選定の際は「業務改善インパクト」だけでなく「使われる可能性」も評価軸に入れておきましょう。
経営と現場、どちらから見ても“価値が伝わる業務”を
PoCがうまくいっても、社内での評価が得られなければ実装に進めません。
その原因の多くは、“成果が伝わらない業務”を選んでしまったことにあります。
PoCの対象は、「時間削減」「品質向上」など経営層にも説明しやすい成果が出せる業務にすることが大切です。
現場だけで盛り上がっても、最終判断者を納得させられなければ、PoCはそこで止まってしまいます。
このように、PoCで扱う業務を選ぶ際には「目の前の改善」だけでなく、スケーラビリティ・ユーザビリティ・説明可能性の3視点を持つことが、導入成功の鍵となります。
業務選定に使える!PoC向き業務チェックリスト
ここまで読んで、「結局、うちの業務はPoCに向いているのか?」と感じた方もいるかもしれません。
そこで本セクションでは、PoC向き業務かどうかを判断するためのチェックリストをご紹介します。
部署ごとに異なる業務内容にも対応できるよう、生成AI導入の視点で汎用化されたチェック項目です。
該当する項目が多いほど、PoCに適している業務といえます。
✅ PoC向き業務チェックリスト(全15項目)
- □ 業務手順がマニュアル化・明文化されている
- □ 業務フローが属人化していない
- □ 入力情報の形式が安定している(例:テキスト、CSVなど)
- □ 判断ルールが一貫しており、例外が少ない
- □ 他部門でも類似の業務が存在する
- □ 現状、月10時間以上の工数がかかっている
- □ 人的コストや残業の要因になっている
- □ 現場担当者から「負担が大きい」との声がある
- □ 業務時間の削減や自動化によるメリットが大きい
- □ 成果物が定量的に評価しやすい(例:要約精度、時間短縮)
- □ ITリテラシーが高めのメンバーが関与している
- □ 導入にあたり関係者が限定的(巻き込みが少ない)
- □ PoC期間が1~2か月で収まる範囲である
- □ システムやセキュリティ上の制約が少ない
- □ 成果を社内報告しやすいインパクトがある
🔍 チェック結果の見方
- 10項目以上該当:PoC対象として非常に適している業務
- 6~9項目該当:PoC候補として検討可能(一部設計が必要)
- 5項目以下:PoC実施の前に業務整理・条件調整が必要
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まとめ|業務選定こそがPoC成功の第一歩
PoCは、生成AIを業務に導入する際の重要な“テストフェーズ”です。
しかしその成否を分けるのは、ツール選定やアルゴリズムではなく、「どの業務を選ぶか」という最初の判断にかかっています。
PoCに適した業務には、定型性・評価のしやすさ・スケーラビリティなどの共通点があります。
一方で、判断が属人的だったり、成果が見えづらかったりする業務は、PoCでの評価が難しく、実装につながりにくくなります。
だからこそ、最初の業務選定こそがPoCを“やって終わり”にしないための鍵です。
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合わせて読みたい:
▶︎ 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ
FAQ|PoC業務選定に関するよくある質問
- QPoCでは、どの程度の業務範囲を対象にするべきですか?
- A
PoCでは、フルスケールの業務全体を対象にする必要はありません。むしろ、1~2か月以内に完結するスモールスケールな範囲に絞ることで、評価しやすく、現場にも負担が少ない形で実施できます。
- Q「成果が見える業務」とは具体的にどういう業務ですか?
- A
たとえば、作業時間の短縮が定量化できる業務や、アウトプットの品質が比較しやすい業務(例:要約、文案作成など)は、成果が見えやすくPoCに適しています。
- Qまだ業務の棚卸しができていないのですが、PoCは実施できますか?
- A
業務の棚卸しはPoC成功の第一歩です。SHIFT AIでは、業務可視化からPoC対象の選定までを支援するプログラムをご用意していますので、ぜひご相談ください。
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- Q自社にAI活用のノウハウが全くないのですが、研修で対応できますか?
- A
はい、対応可能です。SHIFT AIの法人研修は、AIリテラシーが不安な企業向けに基礎から設計されています。業務選定やPoC設計だけでなく、社内で活用を広げるための考え方や定着支援まで含めてサポートします。
- QPoCと本番導入はどう切り分けるべき?
- A
PoCは“現場で使えるか”を短期間で検証する工程です。本番導入では業務システムとの連携や全社展開を見据え、セキュリティや運用ルールの整備が求められます。
- Q生成AIをPoCで試す場合の注意点は?
- A
評価指標の設定が曖昧なまま始めると、効果検証が困難になります。PoC前に「何をもって成功とするか」を明確に定義しましょう。