生成AIを導入したものの、「本当に効果が出ているのか分からない」――。

そんな悩みを抱える企業が急増しています。

ChatGPTなどの生成AIは、文書作成や情報整理、社内ナレッジ活用といった幅広い業務で注目を集める一方で、導入後の「成果の見える化」がうまくいかず、PoC(概念実証)止まりになってしまうケースも少なくありません。

なぜ、そのような事態に陥るのでしょうか。

背景には、KPI(重要業績評価指標)の設計不備や、現場とのズレがあります。そもそも、KPIはKGI(重要目標達成指標)とセットで設計することが不可欠です。「業務効率を30%改善する」といったKGIに対して、「提案書作成時間を◯%削減」などのKPIを紐づける形が理想です。

「使うこと」が目的になり、「何に効いているのか」「どこが変わったのか」を説明できない――そんな“空中戦”になっていないでしょうか?

本記事では、生成AI導入の成果を最大化するために不可欠なKPI設計とその“可視化”の仕組みについて、以下のような視点で詳しく解説していきます。

  • よくあるKPI設計の失敗パターンとその原因
  • 現場業務に紐づくKPIの立て方(部署別に解説)
  • KPIを可視化・運用するための評価・改善フロー
  • AIリテラシーや育成と連動させた実践設計の考え方

導入後に“使われないAI”で終わらせないために。KPI設計の見直しから、定着・活用につながる運用設計まで、一緒に考えていきましょう。

関連記事:
ChatGPTの社内活用、なぜ定着しない?“使われない理由”と活用文化を育てる3ステップ
Copilotが使われない本当の理由とは?社内活用を広げるリテラシーと育成設計

目次

よくある“失敗KPI”のパターンとその落とし穴

生成AIの導入が進んでも、「結局、何がどう良くなったのかがわからない」と感じる企業は少なくありません。

多くの場合、その原因はKPIの設計段階における“落とし穴”にあります。以下では、特にありがちな4つの失敗パターンを紹介します。

PoC時のKPIがそのまま本導入に流用されている

PoCでは「技術が動くかどうか」「使ってもらえるかどうか」が重視されるため、活用率や初期反応などをKPIに設定することが一般的です。

しかし、そのまま本導入フェーズに移行しても、同じKPIでは業務成果につながったかどうかが測れません。

✅【対策】
本導入では「業務上の成果(工数削減、品質向上、スピード改善など)」をKPIに切り替える必要があります。

「使っているかどうか」だけの活用率KPIに終始している

「週に◯回使われている」「全社員の◯%がログインした」――こうした利用率だけをKPIにするのも危険です。

利用頻度は高くても、“活用されている実感”や“業務改善”が伴っていなければ、本質的な効果は得られていません。

✅【対策】
活用率+業務変化の指標(作業時間・品質・ナレッジ蓄積など)を組み合わせて評価することが重要です。

技術KPI(精度や処理速度)しか測っていない

生成AIは「精度◯%」「レスポンス時間◯秒」などの技術指標がわかりやすいため、そこばかりに目が行きがちです。

しかし、経営層や現場が本当に知りたいのは、「業務や成果にどう影響したのか」。

✅【対策】
技術KPIはあくまで“前提条件”。ビジネスKPI(業務効率・コスト削減・成果物の質など)との橋渡しが不可欠です。

業務と紐づいていない「なんとなくの目標」になっている

例えば、「AIで業務を変革する」「イノベーションを起こす」といった抽象的なゴールが設定されていると、現場で何をすればいいのか分からなくなります。

このような状態では、KPIが形骸化し、成果測定もままなりません。

✅【対策】
KPIは「誰が」「どの業務で」「どう変化させるか」を具体的に描き出すことが重要です。

KPI設計に必要な3つの視点

KPIの失敗を避けるには、闇雲に数値を設定するのではなく、業務や目的に紐づいた論理的な設計が欠かせません。

ここでは、生成AI導入においてKPIを設計する際に押さえておきたい「3つの基本視点」を紹介します。

業務プロセスから逆算する

KPIは「業務のどこに生成AIを組み込むのか」という視点から設計する必要があります。

「AIで効率化したい業務」が何かを明確にし、その前後でどのような変化が期待できるのかを出発点に考えるのが基本です。

例えば、提案書作成業務にAIを活用する場合であれば、

「作成時間」「作成件数」「品質評価」「フィードバック回数」などが指標の候補になります。

KPIは目的ではなく、“成果の変化を測る手段”であることを忘れてはいけません。

誰が何に使うのか?ユーザー起点で考える

KPI設計は「使う人」を明確にしなければ、現場との乖離が起きます。

たとえば、営業部門とバックオフィスでは、期待される成果も活用目的もまったく異なります。

そのため、ユーザー(部署・職種)別に「何のために生成AIを使うのか」を具体的に定義したうえで、その目的に応じたKPIを設定することが重要です。

「誰が」「何に」「どのように使うか」が明確になれば、測定すべき指標も自ずと見えてきます。

定量化できる“変化”にフォーカスする

KPIとして有効なのは、「成果の変化を数字で捉えられるかどうか」です。

特に生成AIの場合、「作業スピード」「作業時間」「工数削減」「出力品質」などの“前後比較が可能な変化”を指標にするのが有効です。

逆に、「便利になった」「アイデアが出やすくなった」といった主観的な感想に留まってしまうと、経営層や他部署に成果を伝える際の説得力に欠けます。

もちろん、すべてを数値で測るのが難しい場面もありますが、まずはできる限り“定量化”する視点を持つことが、KPI設計の第一歩です。

業務別に見る、生成AI活用KPIの具体例

生成AIのKPIを設計する際には、業務内容に応じた目的と評価指標のすり合わせが欠かせません。

ここでは、部門・職種ごとに代表的なKPI例を紹介します。

すでに導入済みの企業でも、「KPIの見直しポイント」として活用いただけます。

営業部門|提案・商談活動の効率と質を可視化

  • 商談準備にかかる時間
  • 提案資料の作成工数・品質評価
  • 顧客ヒアリング情報の整理スピード
  • ChatGPTによるFAQ生成の活用率
  • 商談後の報告書作成時間

カスタマーサポート|応答速度とナレッジ活用の可視化

  • 問い合わせ対応の平均時間
  • 回答の正確性(誤回答率)
  • ナレッジDB生成・更新件数
  • 自動応答ツール(例:ChatGPT)経由の解決率
  • オペレーター1人あたりの対応件数増加率

バックオフィス|定型業務の効率化指標

  • マニュアル・文書作成時間
  • 会議議事録の自動生成率
  • 社内申請書類の作成工数削減
  • 定型対応の自動化率(e.g. 請求書チェック)
  • 月次処理タスクの時短割合

マーケティング|コンテンツ生産性とアウトプット品質の指標

  • コンテンツ制作時間/件数(記事・SNS・広告文など)
  • 生成AIを使った案出しから本稿作成までのリードタイム
  • 作成コンテンツに対する反応率(CTR/CVR)
  • コンテンツ案のバリエーション数(AI起点)
  • 校正・レビュー工程の短縮時間

経営企画・情報システム部門|全社展開・利用促進の定着指標

  • 部署別の生成AI利用率
  • 利用頻度(週次/月次単位)
  • 社内AIポータルのアクセス数
  • 生成AI研修受講率
  • 利用後アンケートによる活用満足度
  • 活用事例の社内共有数

👉 全社展開を成功させるための設計ステップは、以下の記事でも詳しく解説しています。
生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ

KPIを“見える化”する仕組みづくり

KPIは、ただ設定しただけでは意味がありません。

本当に重要なのは、それを継続的に観測・共有し、改善アクションにつなげる仕組みがあるかどうかです。

ここでは、KPIを「見える化」し、組織内で運用していくために必要なポイントを解説します。

評価フローの設計(誰が・いつ・どうやって測るか)

KPIは数値だけでなく、「誰が/どのタイミングで/どう集計・評価するか」をあらかじめ設計しておく必要があります。

特に生成AIは導入部門や活用目的が分散しやすいため、評価の責任主体や観測頻度のルール化が欠かせません。

たとえば以下のような設計が有効です。

  • 評価者:各部署のAI活用推進担当 or 情シス部門
  • 評価タイミング:月初 or クォーター単位
  • 評価方法:テンプレート化された報告シート+フィードバックMTG

ダッシュボードやレポートのテンプレート化

KPIを可視化する手段としては、ダッシュボードや定期レポートの整備が効果的です。

手作業での集計や個別報告に頼ると運用コストが高くなるため、あらかじめテンプレートを設けることで継続しやすくなります。

よく使われる項目例

  • 生成AI利用件数・利用部門別グラフ
  • 工数削減時間の積み上げ
  • アウトプット数・品質評価スコアの推移
  • 定性フィードバック(「どう変わったか」)

VoC(現場の声)を定性KPIとして組み込む

すべてを数値で測ることが難しい生成AIの活用においては、定性的な指標(ユーザーの声)も貴重な評価材料です。

以下のような観点はKPI補完として有効です。

  • 活用後アンケートのコメント分析
  • 週報・日報への生成AIに関する記述
  • 利用者の「困りごと」「気づき」を集約するSlackチャンネルの活用

このような声を定期的に集めて可視化し、次の改善施策に反映させることで、KPIも“生きた指標”になります。

週次・月次レビューでの「改善アクション」とセットにする

KPIは、測って終わりではなく「変化を促す」ためのものです。

そのためには、週次・月次でのレビュー機会を設け、現場との対話の中で以下のようなアクションを議論できる場が必要です。

  • KPIが達成できた背景は何か?
  • 達成できなかった場合、何が阻害要因か?
  • 指標が現状に合わなくなってきた場合の調整ポイントは?

このような運用ルールを整えることで、「KPIを見える化→行動を変える→成果が出る」のサイクルがまわりはじめます。

KPIを機能させるには、現場の“リテラシー”も鍵になる

KPIを設計し、可視化の仕組みを整えたとしても、それだけでは不十分です。

実際の現場でKPIが「使える指標」として機能するためには、現場のAIリテラシーが大きなカギを握っています。

以下のような場面で、リテラシー不足がボトルネックになることがあります。

  • 「KPIの意味がよく分からず、ただ数値を追っているだけ」
  • 「生成AIをうまく使えないため、KPIの前提となる活用がそもそも進まない」
  • 「使った実感がないまま評価され、現場での反発が起きている」

このような状態では、KPIをいくら設計しても現場が“受け止める力”を持っていなければ成果につながりません

そこで重要になるのが、生成AIに関する実践的なリテラシー研修です。

単にツールの使い方を学ぶだけではなく、業務にどう活かすか、活用の成果をどう評価するかといった観点まで含めて、「活用できる人材」を育てることがKPIの効果にも直結します。

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KPI設計〜可視化のために踏むべき5ステップ

ここまで、KPI設計の考え方や業務別の具体例、可視化・運用のポイントについて解説してきました。

しかし実際に自社で取り組む際、「どこから手をつければいいのか分からない」という声も少なくありません。

そこで最後に、生成AIの活用成果を“見える化”するためのステップを5段階で整理しました。

この手順に沿って進めることで、KPIが現場で機能し、改善へとつながる運用が可能になります。

Step 1|目的を明確にする(PoC/定着/全社展開のどのフェーズか)

最初に確認すべきは、「いま何のためにKPIを設けるのか」という目的です。OKR(Objectives and Key Results)のような目標管理フレームワークでも言われるように、「目的(O)」と「結果指標(KR=KPI)」の整合性が重要です。

PoC段階であれば技術的な評価軸が必要ですが、定着フェーズでは業務成果、全社展開では活用の広がりがKPIの主眼になります。

目的が曖昧なままでは、評価軸もぶれてしまいます。

Step 2|対象業務・ユーザーを洗い出す

次に、生成AIをどの業務で、誰が活用するのかを明確にします。

この「業務×ユーザー」の整理が不十分だと、実態に合わないKPIになってしまい、現場からの反発や形骸化を招きます。

利用部門や職種別に、活用シーンと目的を一覧化するところから始めましょう。

Step 3|KPI案を出す → 定量/定性で絞り込む

業務や目的に応じて、考えられるKPI候補を洗い出します。

このとき、定量データだけでなく、アンケートや利用者の声といった定性データも組み合わせることで、より実態に即したKPIになります。

その上で、評価が現実的にできる指標に絞り込みます。

Step 4|可視化と評価の仕組みを整える

KPIは設定しただけでは機能しません。

ダッシュボードや報告フォーマットなどの仕組みを整え、誰がどう集計・評価し、どのタイミングで改善するかまでをセットで設計します。

週次/月次での共有会やフィードバックの場も、この段階で整えておくとスムーズです。

Step 5|運用・レビュー・改善のサイクルを回す

最後に、KPIを“使える指標”として運用していくには、継続的なレビューと改善が欠かせません。

1回の測定で終わらせるのではなく、現場の声を吸い上げ、数値と定性情報を統合しながら、指標そのものをアップデートしていく意識が重要です。

この5ステップを踏むことで、「KPIを設定しただけで終わる」状態から脱し、組織に根付くKPI運用サイクルを構築できます。

まとめ|生成AI活用の“効果”を見える化するために

生成AIを導入した企業が直面する共通の課題——それが「効果が見えない」という状態です。

その背景には、業務に紐づかないKPIの設計や、活用状況を可視化できていない体制があります。

本記事では、KPIを単なる数字ではなく、業務改善と現場定着を加速させる“仕組み”として機能させるためのポイントを解説してきました。

  • よくあるKPI設計の失敗とその回避策
  • 部門別・業務別の具体的なKPI例
  • KPIを可視化し、活用につなげる評価運用の設計
  • リテラシーとの連動による“機能するKPI”の実現方法
  • 実践のための5ステップ

KPIは、「成果を測るもの」であると同時に、「行動を変えるための道具」です。適切な指標設定とその運用サイクルを設計することが、生成AI活用の成功可否を大きく左右します。

導入の先にある定着・活用・成果の実現に向けて、自社のKPI設計と運用フローを見直すことが、今求められています。

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FAQ|生成AI導入とKPI設計に関するよくある質問

Q
生成AI導入においてKPIはなぜ重要なのですか?
A

KPIがないと、生成AIの導入効果を客観的に測ることができません。

その結果、「なんとなく便利」「成果がある気がする」といった曖昧な状態になり、現場の納得感も経営判断も得づらくなります。KPIは、活用状況と業務成果を“見える化”するための必須要素です。

Q
どのようにKPIを設定すればよいか分かりません。
A

まずは「何の業務を、誰が、どう変えるのか」を明確にし、その変化を測れる指標を考えることが出発点です。

たとえば「提案資料の作成時間」「対応件数」「ナレッジ共有数」など、業務プロセスに紐づく具体的な変化をKPIに設定しましょう。

Q
活用率などの定量指標しか思いつかないのですが大丈夫ですか?
A

活用率も有効なKPIですが、それだけでは不十分です。

「使った結果、業務がどう変わったか」まで評価できる指標(工数削減、品質向上など)を加えることが重要です。

また、定性評価(ユーザーの声)との併用もおすすめです。

Q
定量化できない業務には、どんなKPIを設定すればいいですか?
A

完全な定量化が難しい場合は、アンケートやヒアリングなどを活用し、「使いやすさ」「満足度」「気づきの有無」などの定性情報をKPIとして活用する方法があります。

主観的な声も、蓄積と構造化によって有効な判断材料になります。

Q
KPIを設計しても、現場で活用されません。どうすればいいですか?
A

KPIが現場で機能するには、AIリテラシーの底上げと連動した設計が不可欠です。

使い方が分からない、目的が共有されていないといった状態では、どんな指標も形骸化してしまいます。

研修などを通じて、“なぜこのKPIを追うのか”を現場と共有することが第一歩です。

Q
生成AI導入のKPIをダッシュボードで可視化するには?
A

ExcelやBIツール(Looker Studioなど)を活用し、利用件数・工数削減効果・満足度などを定点観測する仕組みを整えることが重要です。