社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速する中、多くの企業がクラウドサービスやリモートワークを導入し、業務効率化や新たなビジネスモデルの創出を目指しています。
しかし、DX推進と同時に見過ごせないのがセキュリティリスクの急増です。
従来のオフィス中心の働き方から、場所を問わないデジタル環境への移行により、サイバー攻撃の機会は格段に増加し、一度のセキュリティインシデントが事業継続に深刻な影響を与える可能性が高まっています。
本記事では、DX推進における情報セキュリティ対策の重要性から具体的な実装方法、予算確保のポイント、そして全社的な教育体制の構築まで、経営層が知るべき全ての要素を体系的に解説します。
安全で成功するDX推進のための完全ガイドとして、ぜひお役立てください。
DX推進でセキュリティリスクが急増する理由
DX推進により企業のセキュリティリスクは従来とは比較にならないほど急増しています。これは、デジタル化に伴うシステム環境の根本的な変化が原因です。
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クラウド活用でアクセスポイントが増加するから
DX推進では複数のクラウドサービス導入が一般的になり、それぞれが新たな攻撃の入口となります。
従来の社内サーバー中心の環境では、ファイアウォールで守られた限定的なアクセスポイントのみ管理すれば十分でした。しかし、クラウド活用により、従業員は様々なサービスに直接アクセスするようになります。
各クラウドサービスには個別のセキュリティ設定が必要で、一つでも設定ミスがあれば情報漏えいの原因となってしまいます。また、サービス間でのデータ連携も新たなリスク要因です。
リモートワークで社内外の境界が曖昧になるから
リモートワークの普及により、従来の「社内は安全」という前提が崩壊しました。
自宅やカフェなど様々な場所から業務システムへアクセスする環境では、ネットワークの安全性を企業側で完全に管理することができません。個人のWi-Fi環境や家族共用のデバイス使用など、予期しないリスクが発生します。
さらに、端末の紛失や盗難リスクも高まり、機密情報が社外に持ち出される可能性が格段に増加しています。
システム連携でデータ流通経路が複雑化するから
DXではシステム間の連携が不可欠ですが、これによりデータの流通経路が複雑になり、セキュリティホールが生まれやすくなります。
基幹システム、顧客管理システム、営業支援ツール、会計システムなど複数のシステムが相互に連携することで、一つのシステムへの侵入が他のシステムへの攻撃につながる可能性があります。
データがどこを経由してどのように処理されているかの全体像を把握することが困難になり、セキュリティ対策の漏れが発生しやすい状況です。
DXセキュリティ対策で企業が直面する課題
DXセキュリティ対策を進める際、多くの企業が共通して抱える課題があります。これらの課題を理解することが、効果的な対策立案の第一歩です。
対応範囲が急拡大して管理が追いつかない
DX推進により、セキュリティ対策が必要な範囲が従来の何倍にも拡大しています。
社内ネットワークのみを守れば良かった時代から、クラウドサービス、モバイルデバイス、リモートアクセス、パートナー企業との連携システムまで、管理対象が飛躍的に増加しました。限られた人員で全ての領域をカバーするのは現実的ではありません。
また、各システムで異なるセキュリティ要件や設定方法があり、統一的な管理が困難になっています。結果として、対策の抜け漏れや設定ミスが発生しやすい状況です。
サイバー攻撃が高度化して従来対策では防げない
現在のサイバー攻撃は従来のウイルス対策ソフトやファイアウォールだけでは防ぎきれないレベルまで進化しています。
標的型攻撃では、特定の組織に合わせてカスタマイズされた攻撃手法が使われ、既知のパターンでは検知できません。ランサムウェアも暗号化技術が高度化し、バックアップデータまで狙われるケースが増加しています。
さらに、AI技術を悪用したフィッシングメールは、人間が見分けることが困難なほど巧妙になり、従業員教育だけでは限界があります。
セキュリティ人材が不足して体制構築できない
セキュリティ専門知識を持つ人材の確保が企業にとって最大の課題となっています。
市場全体でセキュリティエンジニアが不足しており、採用競争が激化しています。仮に採用できても、DXに対応した最新のセキュリティ知識を持つ人材はさらに希少です。
既存の情報システム部門の担当者も、従来の社内システム管理とは異なるクラウドセキュリティやゼロトラストなどの新しい概念を学習する必要があり、スキルアップに時間がかかります。
DXセキュリティ対策を段階的に実装する方法
効果的なDXセキュリティ対策は一度に全てを導入するのではなく、段階的に実装することが重要です。優先度と企業の成熟度に応じた段階的アプローチを取りましょう。
基盤セキュリティから導入する
まずは基本的なセキュリティ対策を確実に実装することから始めます。
物理的セキュリティとして、サーバールームへの入退室管理、デバイスの持ち出し制限、機密書類の適切な保管を徹底します。技術的対策では、ファイアウォール、ウイルス対策ソフト、不正侵入検知システムの導入が必要です。
アクセス制御では、多要素認証の導入と強固なパスワードポリシーの策定を行います。これらの基盤が整っていなければ、どれだけ高度な対策を導入しても効果は期待できません。
ゼロトラスト型の次世代対策を追加する
基盤が整った後は、ゼロトラストセキュリティの概念に基づく対策を導入します。
従来の「社内は信頼できる」という前提を捨て、全てのアクセスを検証する仕組みを構築します。クラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB)により、クラウドサービスの利用状況を可視化し、適切な制御を行います。
エンドポイント検知・対応(EDR)システムにより、端末での不審な動作をリアルタイムで監視し、迅速な対応を可能にします。これらの対策により、攻撃を受けても被害を最小限に抑えられます。
組織的セキュリティ体制を構築する
技術的対策と並行して、組織としてのセキュリティ体制を整備します。
セキュリティインシデント対応チーム(CSIRT)を設置し、緊急時の対応フローを明確化します。定期的なセキュリティ監査と脆弱性診断により、対策の有効性を継続的に検証しましょう。
サプライチェーン全体のセキュリティ管理も重要で、取引先企業のセキュリティレベルを定期的に確認し、必要に応じて改善を要請する体制を構築します。
DXセキュリティ投資の予算確保と社内合意のポイント
DXセキュリティ対策には相応の投資が必要ですが、経営層の理解を得て適切な予算を確保することが成功の鍵となります。
リスクベースで投資効果を数値化する
セキュリティ投資の必要性を数値で示すことが経営層への説得には不可欠です。
想定される被害額を具体的に算出し、セキュリティ投資によるリスク軽減効果を定量化します。事業停止による機会損失、顧客情報漏えいによる賠償費用、ブランド価値の毀損による売上減少などを総合的に評価しましょう。
投資回収期間(ROI)や総所有コスト(TCO)を算出し、段階的な投資計画を策定します。一度に大きな投資を求めるのではなく、優先度の高い対策から順次実施する計画を提示することが重要です。
段階的導入で各部門の合意を得る
各部門の業務への影響を最小限に抑えながら、段階的にセキュリティ対策を導入します。
営業部門には顧客データ保護の重要性を、製造部門には生産システムの安定稼働の必要性を説明し、各部門のメリットを明確に示します。新しいセキュリティツールの導入時は、十分な研修期間を設け、業務効率を落とさない導入方法を検討しましょう。
変更管理プロセスを明確化し、各段階での効果測定と改善を継続的に行うことで、社内の信頼を獲得できます。
セキュリティ認証取得で信頼性を向上させる
ISMS認証やプライバシーマークなどの第三者認証取得により、対外的な信頼性を向上させます。
これらの認証は取引先からの信頼獲得につながり、新規顧客開拓や既存顧客との関係強化に効果的です。特に大手企業との取引では、セキュリティ認証の有無が契約の可否を左右するケースも増えています。
認証取得のプロセス自体が社内のセキュリティ体制の見直しと改善につながり、継続的な維持活動により組織全体のセキュリティ意識向上も期待できます。
DXセキュリティ推進に必要な全社教育の進め方
技術的な対策だけでなく、全社員のセキュリティリテラシー向上が DXセキュリティ成功の重要な要素です。組織全体でセキュリティ文化を醸成しましょう。
階層別に教育プログラムを設計する
役職や業務内容に応じて、最適化されたセキュリティ教育プログラムを提供することが効果的です。
経営層には、セキュリティリスクの経営への影響と投資判断の指針を中心とした戦略的な内容を提供します。管理職層には、部下の指導方法とインシデント発生時の対応手順を重点的に教育しましょう。
現場担当者には、日常業務で遭遇する具体的なリスクと対処法を実践的に学習できるプログラムが必要です。新入社員や中途入社者には、基礎的なセキュリティ知識から段階的に習得できるカリキュラムを用意します。
継続的に訓練と啓発活動を実施する
一度の研修では定着しないため、継続的な訓練と啓発活動が不可欠です。
標的型メール訓練やフィッシング詐欺の模擬体験を定期的に実施し、実際の攻撃への対応力を向上させます。最新のセキュリティ脅威情報を社内で共有し、常に最新の知識を維持しましょう。
セキュリティ月間の設定や社内勉強会の開催により、セキュリティへの関心を維持し続けることが重要です。成功事例や改善事例の共有により、前向きな取り組み姿勢を促進できます。
セキュリティを組織文化として定着させる
セキュリティが組織文化として根付くよう、仕組みとして組み込むことが必要です。
経営層自らがセキュリティの重要性を発信し、トップダウンでの意識改革を推進します。人事評価制度にセキュリティ関連の項目を組み込み、適切な行動を評価する仕組みを構築しましょう。
部門横断的なセキュリティ推進チームを設置し、各部門での課題共有と改善活動を継続的に行います。セキュリティ違反に対しては、処罰よりも再発防止と学習機会としての活用を重視することで、報告しやすい環境を作ります。
まとめ|DXセキュリティは経営戦略として継続的に取り組むべき重要課題
DX推進によりセキュリティリスクが急増する現在、企業にとってセキュリティ対策は単なる技術的な課題ではなく、事業継続に直結する経営戦略そのものです。
クラウド活用やリモートワークの普及により攻撃機会が拡大し、従来の対策では防ぎきれない高度な脅威が日々生まれています。しかし、段階的な対策実装と適切な予算確保、そして全社員のセキュリティリテラシー向上により、これらのリスクは確実に軽減できます。
重要なのは、経営層が主導して継続的に取り組む姿勢を示し、技術・組織・人材の三位一体で推進することです。まずは現状診断から始めて優先対策を明確化し、社内の推進体制を整備しましょう。
安全で成功するDX推進のために、専門的な知識とスキルの習得が不可欠です。

DXセキュリティに関するよくある質問
- QDXを始めたいのですが、まず何のセキュリティ対策から始めるべきでしょうか?
- A
基盤となるセキュリティ対策から段階的に導入することをおすすめします。まずは多要素認証、ファイアウォール、ウイルス対策ソフトなどの基本的な技術的対策を確実に実装しましょう。同時に、従業員へのセキュリティ教育も重要です。これらの基盤が整った後に、ゼロトラストやクラウドセキュリティなどの次世代対策を検討してください。
- QDXセキュリティ対策にはどの程度の予算が必要ですか?
- A
予算は企業規模や業種により大きく異なりますが、リスクベースでの投資効果を数値化して算出することが重要です。想定される被害額(事業停止、情報漏えい、ブランド毀損)と対策コストを比較し、段階的な投資計画を策定しましょう。一度に大きな投資をするのではなく、優先度の高い対策から順次実施することで、経営層の理解も得やすくなります。
- Q社内でセキュリティ人材が不足していますが、どう対応すればよいでしょうか?
- A
既存社員のスキルアップと外部リソースの活用を組み合わせることが現実的です。社内の情報システム担当者向けにセキュリティ研修を実施し、段階的にスキルを向上させましょう。同時に、専門性の高い領域については外部のセキュリティベンダーやコンサルタントを活用し、社内では対応困難な部分をサポートしてもらうことが効果的です。
- Qリモートワーク環境でのセキュリティ対策のポイントは何ですか?
- A
ゼロトラストの概念に基づき、社内外を問わず全てのアクセスを検証することが重要です。VPN接続の強化、端末の暗号化、クラウドサービスへのアクセス制御を徹底しましょう。また、従業員への継続的な教育により、自宅のWi-Fi環境や個人デバイス使用時の注意点を周知することも必要です。定期的なセキュリティ訓練で意識を維持させることも大切です。
