DX人材育成に着手したものの、現場は思ったように動かない。「研修は実施したが業務のやり方は変わらない」「新しいツールの導入も腰が重い」「経営の期待と現場の温度差が埋まらない」。

こうした声は、多くの企業のDX推進担当者から日々聞かれます。経済産業省の調査でも、「DX推進の最大の障壁は人材不足と現場の理解不足」とされています。

育成施策が進まない背景には、単なるスキル不足だけでなく、役割定義の曖昧さや評価制度、社内文化の壁といった構造的な課題が潜んでいます。

本記事では、

  • DX人材育成が進まない5つの原因
  • 原因ごとの打開策とすぐ使える施策
  • 成功企業の事例と、実務に落とし込むステップ
    を、現場を動かす視点で解説します。

そして最後に、短期間で現場を変えるDX人材育成の設計方法をまとめた無料資料もご案内します。 「研修をやっただけ」で終わらせないために、今からできる一歩を踏み出しましょう。

SHIFT AI for Biz 法人研修資料ダウンロード

なぜDX人材育成は進まないのか?7つの構造的な原因

多くの企業でDX人材育成が停滞するのは、単なるスキル不足や研修内容の問題だけではありません。

そこには、経営・現場・組織構造の間に潜む「目に見えにくい壁」が存在します。ここでは、現場担当者からの声や実際の企業事例を交えながら、その正体を明らかにします。

1. DX人材像の不明確さと認識のズレ

DX研修の初回オリエンテーションで、参加者からこんな質問が出ることがあります。

「結局、DX人材って何をする人なんですか?」

経営は「データ分析ができる人」を思い描き、現場は「業務のデジタル化を手伝う人」と考えている。このズレが埋まらないまま研修が進むと、内容も成果もバラバラになります。

ある製造業では、経営が想定していた役割と現場の理解が食い違い、半年後にはプロジェクトが立ち消えになりました。人材像の定義と共有は、育成の出発点であり、これが曖昧だとスタート前からゴールがぼやけてしまうのです。
👉 DX人材スキルマップの作り方と活用法

2. 経営層の関与不足とメッセージの弱さ

研修の場に経営層が顔を出すだけで、現場の空気は一変します。しかし、多くの企業では「研修開始の号令」を出した後は経営が姿を見せず、現場は「本気度が低い」と感じてしまうのです。

IPAの調査では、経営層が研修やDXプロジェクトに直接関わらない企業は、人材定着率が約30%低下するという結果も出ています。

現場にとって、経営の姿勢は何よりのメッセージ。参加と発言は“動機付けの最後の一押し”になります。

3. 業務設計と研修設計の不連動

「学んだことは良かったけど、実務で使う機会がない」。これは受講者から最も多く聞く不満です。営業部門で生成AIの文章作成研修を受けても、実際の営業プロセスに組み込まれなければ活用は進みません。

研修と業務が別物として扱われる限り、学びは現場で生きず、成果に結びつきません。

育成は業務の設計変更とセットでなければ、本当の変化は起きないのです。
👉 時間がない現場でもできるDX人材育成


4. 継続的フォローアップの欠如

人は忘れます。エビングハウスの忘却曲線が示す通り、1か月後には学んだ内容の7割以上を忘れてしまうと言われます。単発の研修では、その効果は時間とともに急速に薄れます。

ところが多くの企業では「研修後のフォロー体制」がなく、やりっぱなしになってしまうのです。社内コミュニティやマイクロラーニングなど、継続学習の仕組みがあってこそ、研修内容は血肉になります。

5. 評価制度と報酬体系のミスマッチ

DXに挑戦するほど、既存の仕事は止まります。新しいツールやプロセスを導入すれば、一時的に生産性は落ちます。

しかし、多くの企業では現状維持やミスのない運用が評価されるため、挑戦する人が損をする構造になっています。これでは誰も手を挙げません。

流通業C社は評価指標に「改善提案件数」「新規提案数」を加え、挑戦を評価する制度に変えたところ、DXプロジェクトへの応募者が倍増しました。

6. 部門間連携の不全

IT部門が最新の分析環境を整えても、営業部門がそのデータを活用しなければ意味がありません。部門ごとのKPIや目的がバラバラだと、成果は局所的に留まり、全社展開には至りません。部門横断のDX推進チームと、全社共通の成果指標が不可欠です。

7. 外部リソースの活用不足

「全部自前でやる」ことは理想的ですが、現実には人も時間も足りません。外部の専門家や伴走型コンサルを短期間投入して成功体験をつくり、そのモデルを社内に広げる方が圧倒的に早く成果が出ます。
👉 DX人材育成は外注すべき?内製との違い・成功事例

この7つの壁は、1つでも残れば育成の歯車は回りません。

原因別の打開策|現場を動かすための即効策と仕組み化

DX人材育成が進まない背景には、前章で挙げた7つの構造的な壁があります。これを乗り越えるには、今日から動ける一手と、時間をかけて根付かせる仕組みの両輪が必要です。

ここからは、それぞれの原因に向き合いながら、現場を動かすための実践策を紹介します。

1. DX人材像の不明確さと認識のズレ

ある製造業の研修初日、参加者から「DX人材って、何をする人なんですか?」という質問が出ました。経営は「データ分析と業務改革を担う人」と考えていた一方、現場は「新しいツールを操作できる人」程度の理解。このズレを放置したまま研修を進めても、学びは空回りします。

打開には、まず経営層・部門長・現場代表が一堂に会し、人材像を定義する場を設けることが欠かせません。ホワイトボードに役割や必要スキルを書き出し、必須・推奨・専門とレベル分けするだけでも、全員の頭の中のイメージが揃います。

その上で作成したスキルマップを評価制度や研修カリキュラムに組み込み、毎年見直すことで方向性をぶらさない。こうした「定義の共有」が、育成のエンジンを回し始めます。
👉 DX人材スキルマップの作り方と活用法

2. 経営層の関与不足とメッセージの弱さ

研修は始まったが、経営層は誰も顔を出さない。そんな状態では、現場は「本気じゃない」と受け止めます。IPAの調査でも、経営の関与が薄い企業はDX人材の定着率が大幅に低いことが示されています。

即効性のある対策はシンプルです。初回研修には必ず経営層が登壇し、自らの言葉で「なぜ今DXが必要なのか」を語る。研修後も、受講者への感謝と期待を込めた直筆メッセージや短い動画コメントを届ける。

これだけで、現場のモチベーションは大きく変わります。さらに、中長期的にはDXの進捗を経営会議で定例的に共有し、その場に現場リーダーを招く。経営と現場の距離を縮めることが、育成の熱を冷まさない鍵になります。

3. 業務設計と研修設計の不連動

営業部でAI文章作成の研修を受けたのに、実務ではまったく使われないのはよくある光景です。原因は、研修テーマと現場KPIがリンクしていないことにあります。

解決には、研修設計を業務課題から逆算することが不可欠です。

例えば「提案書作成にかかる時間を半減する」という目標を設定し、そのためのツール活用を研修で学ぶ。

さらに研修直後には各自が「活用計画」を作り、翌月の会議で進捗を報告する。これにより学びが業務に直結し、形骸化を防げます。
👉 時間がない現場でもできるDX人材育成

継続的フォローアップの欠如

研修後1週間は盛り上がっていたSlackも、気づけば沈黙。人は忘れる生き物です。エビングハウスの忘却曲線が示すように、1か月後には内容の7割以上が記憶から抜け落ちます。

だからこそ、研修後すぐにフォローアップを組み込むことが重要です。1週間以内に短時間の振り返りミーティングを開き、実践での成果や課題を共有。

週1本のマイクロラーニング動画を社内ポータルで配信し、小さな刺激を続ける。中長期的には、社内DXコミュニティを立ち上げ、成功・失敗事例をオープンに語れる場を作ることで、学びが文化に変わります。

5. 評価制度と報酬体系のミスマッチ

新しいツール導入に挑戦して業務が遅れた社員がマイナス評価、一方で何も変えない社員が高評価。この構造では、誰もリスクを取らなくなります。

短期的には、DX関連業務の「挑戦回数」や「改善提案数」を臨時評価項目に追加します。プロセスも評価し、失敗を恐れない土壌を作るのです。

そして中長期的には、人事評価制度そのものにDX推進行動を組み込み、挑戦を奨励する文化を制度で支える。こうして初めて、現場は安心して動き出せます。

6. 部門間連携の不全

IT部門が最新のデータ分析環境を整えても、営業部門が活用しない理由は「使い方がわからないから」かもしれません。

対策は、部門横断のタスクフォースを立ち上げ、共通KPIを設定することです。月次で成果と課題を全員で共有し、互いの役割を可視化する。

長期的には共通ダッシュボードを構築し、同じ数字を見て意思決定できる状態にすることで、DXは全社のものになります。

7. 外部リソースの活用不足

「全部自前でやる」と決めた結果、半年経っても成果ゼロ。予算も人も減り、手が打てなくなる。こんな失敗を避けるには、外部リソースを戦略的に使う視点が欠かせません。

短期的には、3か月限定で外部専門家を伴走導入し、成果の見えるプロジェクトを一つ作る。それをモデルとして社内に広げる。

長期的には、他社との交流や外部講師を組み込んだプロジェクト型研修で、新しい視点を継続的に注入します。
👉 DX人材育成は外注すべき?内製との違い・成功事例

成功企業に学ぶ|現場を動かしたリアルなDX人材育成事例

DX人材育成が“形だけ”に終わらないためには、実際に成果を出した企業の先行事例から学ぶことが重要です。ここでは、具体的な数字・成果、組織の変化までが語られるストーリーを通じて、読者の行動を後押しします。

中外製薬:全社450件以上のアイデア創出で実証文化を定着

製薬業界の中外製薬は、全社横断で働き方と創薬プロセスを変革するDX人材育成を実践しました。

結果として450件を超える効率化・新規事業のアイデアが生まれ、そのうち50件以上が実証フェーズに進んでいるという成果が出ています。挑戦する文化が具体的成果へと変わった好例です。

出典:DXグランプリ企業「中外製薬」のデジタル人財育成と風土改革とは

小松製作所:KPI設計+人材育成が生んだ「スマートコンストラクション」

小松製作所は、「AI人材育成プログラム」と明確なKPI設定を導入した結果、施工の安全性・生産性・環境適応性を飛躍的に高める“スマートコンストラクション”を実現。研修と業務を繋げる一貫設計が功を奏しました。

出典:中期経営計画の KPI

フジワラテクノアート:ベテラン社員も自分ごと化できるDX文化へ

創業90年の歴史を持つ中小企業・フジワラテクノアートでは、部門横断のDX委員会が発足し、現場が主体となった改革を推進。

業務可視化と進捗共有により、工数削減や納期短縮など複数の成果を実現し、デジタルスキルを持つ人材が自然と育つ文化が醸成されたのです。

出典:中堅・中小企業のDX ビジョン共有で「壁」突破、DX推進の転換点に

トラスコ中山:異動制度+DX人材育成で在庫出荷率が91.7%に改善

卸売業のトラスコ中山では、ジョブローテーション制度とデジタル推進部の設置により、部門を超えたスキル醸成と業務効率改善を両立。その成果として、在庫出荷率が91.7%(2022年12月時点)という高水準に改善されました。

出典:トラスコ中山「解体新書」2023

まとめ|DX人材育成を「進む施策」に変えるために

DX人材育成が進まない背景には、スキル不足よりも、組織構造や文化の壁があります。
この記事で紹介した7つの原因は、どれか一つでも放置すれば育成の歯車は止まります。

中外製薬や小松製作所の事例が示すように、経営と現場が目的を共有し、研修と業務を繋げ、継続的に成果を追える環境が整えば、現場は動き始めます。

重要なのは「明日動ける一手」と「文化に根付かせる仕組み」の両方を設計することです。

SHIFT AI for Bizは、生成AIやDXスキルを“知識”で終わらせず、実務定着まで伴走する法人研修です。

受講後すぐに成果を出すためのスキルマップ・活用テンプレートもご提供しているのでぜひご利用ください。

SHIFT AI for Biz 法人研修資料ダウンロード

DX人材のよくある質問(FAQ)

Q
DX人材の定義は企業ごとに違いますか?
A

はい。業種や事業モデルによって求められるスキルや役割は異なります。
例えば製造業ではIoTやデータ分析スキル、サービス業では顧客体験設計や業務自動化が重視される傾向があります。重要なのは、経営層と現場が共通認識を持つことです。スキルマップの作成と共有が第一歩になります。
👉 DX人材スキルマップの作り方と活用法

Q
研修をしても現場で活用されないのはなぜですか?
A

多くの場合、研修内容と日常業務のKPIがリンクしていないことが原因です。研修テーマは業務課題から逆算し、研修直後に「活用計画書」を作成してフォローアップする仕組みが有効です。
👉 時間がない現場でもできるDX人材育成

Q
継続的な学習を促すにはどうすれば良いですか?
A

研修単発では学びは定着しません。マイクロラーニング動画や社内DXコミュニティなど、小さく頻度の高い学びの機会を用意すると効果的です。1か月以内にフォローアップを実施することがポイントです。

Q
外部委託と内製、どちらが効果的ですか?
A

目的と社内リソースによります。短期間で成果を出したい場合は外部リソース活用が有効ですが、長期的な文化醸成には内製体制の構築が欠かせません。
👉 DX人材育成は外注すべき?内製との違い・成功事例

Q
評価制度はどのようにDX推進と連動させるべきですか?
A

行動指標(挑戦回数、改善提案件数など)と成果指標の両方を評価に組み込みます。「挑戦しても評価される」文化が育たなければ、現場は動きません。

SHIFT AI for Biz 法人研修資料ダウンロード