農業は今、深刻な人手不足や高齢化、気候変動による収量の不安定化といった課題に直面しています。これらの構造的な問題を解決する切り札として注目されているのが、AI(人工知能)技術の活用です。

すでに全国各地でAI導入が進み、収穫時期の予測や病害虫の早期検知、自動制御による省力化など、現場で成果を出す事例も増えてきました。

本記事では、農業における代表的なAI活用事例10選を紹介するとともに、「なぜ今AIなのか?」という背景や導入時のポイントもわかりやすく解説します。

「自分の農場にも取り入れられるのか知りたい」「まずは何から始めればいい?」とお悩みの方は、SHIFT AIの無料相談がおすすめです。現場目線で、最適な導入プランをご提案します。SHIFT AIについて詳しく知りたい方は、下記のリンクをご確認ください!

SHIFT AI for Bizはこちら

目次

農業が抱える3つの課題とAI導入への背景

日本の農業は今、大きな変革の時を迎えています。生産現場では、人手不足や気候リスク、技術継承の壁といった多くの課題を抱えており、従来の方法だけでは持続的な農業経営が困難になりつつあります。

ここでは、農業の現場が直面するおもな3つの課題と、AI導入によってどのような変化が期待されているのかを詳しく見ていきましょう。

課題1.担い手不足と高齢化による生産力低下

日本の農業は、長年にわたり深刻な担い手不足と高齢化に悩まされてきました。農林水産省の統計によると、令和6年の農業就業者の平均年齢は約69歳に達しており、若年層の新規就農者は依然として少ない状況です。

出典:農林水産省「農業労働力に関する統計

結果として、農地の管理が行き届かず、生産規模や収量の維持が困難になってきています。こうした人手不足を補い、作業の一部を機械化・自動化する手段として、AI技術への期待が高まっています。

課題2.気候変動による収穫予測の困難化

気象の急変や極端な高温・豪雨など、異常気象の頻発により、作物の生育や収穫時期が予測しづらくなっています。これまで蓄積された経験や勘では対応しきれない場面も増えたため、計画的な出荷や価格調整が困難です。

AIは、過去の気象データと現在の生育状況を学習することで、より高精度な収量予測やリスク検知を可能にし、農業経営の安定化を支援します。

課題3.熟練者の依存作業と属人性の問題

農作業は、熟練者の経験と感覚に頼る場面が少なくありません。たとえば「収穫のタイミング」や「病害虫の発見」などは、長年の経験がものをいうケースも多いです。現在、この属人化したスキルが次世代に引き継がれないという問題が顕在化しています。

AIによる画像認識やセンサー技術の組み合わせは、こうした暗黙知をデータ化・再現し、作業の標準化と品質の安定に貢献します。

農業におけるAIの活用領域マップ

AIは農業のさまざまな工程に組み込まれ、すでに実用レベルで成果を上げ始めています。特に、データに基づいた「予測・判断」や、人手不足を補う「作業の自動化」といった領域で導入が進んでいます。

ここでは、農業における代表的なAI活用領域を見ていきましょう。

作物の成長を見える化し、収穫タイミングをAIが判断

AIは作物の状態を数値で可視化し、最適な収穫時期を自動判断できます。

農作物の生育状況は、これまで農家の経験や勘に頼ることが多く、収穫時期の判断も属人的でした。現在では、カメラやドローンで撮影した画像をAIが解析し、葉の色や果実の形状などから生育度合いを数値化できます。

これにより、熟度や収穫適期を自動で判断でき、品質の均一化や収穫ロスの削減に大きく貢献しています。

病害虫を早期発見し、被害を最小化

AIにより、病害虫の早期発見と適切な防除が可能になり、被害の拡大を防ぎます。

病害虫による被害は、初期の対応が重要です。AIはドローンや固定カメラで撮影された画像を分析し、病斑や葉の異常から感染初期の兆候を特定します。

人の目では見逃しやすい微細な変化もAIがとらえ、適切な防除のタイミングを提示できるのです。これにより、農薬の過剰散布を防ぎながら、作物の損失リスクを大幅に抑えることが可能になりました。

水や肥料をムダなく与えて、コストを削減

AIが灌水・施肥を最適化することで、コスト削減と品質維持の両立が可能です。

土壌の水分量・栄養バランスをセンサーで常時モニタリングし、AIが作物ごとに最適な灌水・施肥のタイミングや量を算出。これにより「与えすぎ」による資材コストの増加や、「与えなさすぎ」による品質劣化を防いでいます。

環境負荷の低減にもつながり、持続可能な農業経営への一歩につながるでしょう。

作業ロボットやドローンで人手不足を解消

人手不足や作業負担の解消に、AI搭載ロボットやドローンが効果を発揮しています。

AIを搭載した農業用ロボットは、収穫・除草・搬送といった重労働を人に代わって行います。また、ドローンは農薬や肥料を空中から自動散布することで、作業負担の大幅軽減が可能です。

AIにより圃場の状況や飛行ルートを最適化することで、省人化と効率化、安全性の向上を同時に実現しています。

農作業支援におけるAI活用事例5選

農作業は多くの時間と労力を必要とする一方、熟練者の知識や判断力に依存する場面も少なくありません。こうした作業の負担や属人性を軽減するために、AI技術を活用した支援ツールや仕組みの導入が進んでいます。

ここでは、実際の現場で成果を上げている農作業支援の活用事例を5つ紹介します。

きゅうり栽培におけるハウス環境データの共有と収量向上

ハウス内の環境データを見える化・共有することで、部会全体の収量と品質を向上させた事例です。

宮崎県のJA宮崎中央田野支店では、農家ごとの収量や品質に差があることが課題となっていました。部会全体では、これらの課題解決に向けて環境データの見える化と共有に取り組んでいます。

具体的には、ハウス内の温度・湿度・日射量・CO₂濃度などを測定。Googleスプレッドシートを用いて日々の収量データをクラウド上で管理しました。その結果、優良な環境条件や管理方法が明確になり、農家同士の比較や改善が進んでいます。

収量と品質の両面で効果が現れたことで、部会全体の生産性が底上げされました。今後は他品目への応用やAIによる予測精度の向上も期待されています。

参照:minorasu(ミノラス)「プロファインダーでハウスを見える化!収量アップの事例も紹介

いちごハウスにおける環境制御AIの導入

AIによる環境制御で、高品質ないちごを安定的に生産できる仕組みが実現した事例です。

福岡市では、いちごの品質や収量を安定させることが課題となっていました。そこで、AIを活用したハウス内環境の自動制御に取り組み、熟練農家の勘に頼らず安定生産できる仕組みを構築しました。

具体的には、センサーで取得した温湿度やCO₂濃度、日射量などのデータをAIが分析し、最適な空調・灌水制御を自動で実行します。これにより、果実の糖度が向上し、年間を通じた収量の安定化にもつながりました。

経験の少ない新規就農者でも、高品質ないちごを安定的に生産できる環境が整ったのです。今後はさらに多様な作物への応用も視野に入れた実証が進められています。

出典:DIGITAL「福岡市、イチゴのハウス栽培における栽培環境制御を実証実験

トマト栽培における熟度判定AIの収穫支援

デンソーとJA全農が共同開発した熟度判定AIを活用してトマトの画像を解析し、果実の色や形から収穫適期を自動判断した事例です。

これまで収穫のタイミングは熟練農家の経験に頼っており、判断のばらつきや技能継承の課題がありました。しかし、このAIを活用することにより、作業が標準化され省力化と品質安定が可能になったのです。

AI導入後は、作業効率が向上し未熟果の収穫ミスも減少。さらに、この技術は全自動収穫ロボット「Artemy(アーテミー)」にも活用されており、ハウス内での収穫作業の完全自動化を実現しています。

収穫作業者の人手不足の解消と重作業の大幅な低減が見込まれており、大きな期待が寄せられています。

出典:DENSO「デンソーとセルトン、房取りミニトマトの全自動収穫ロボット「Artemy®」を欧州向けに受注開始

果樹栽培におけるドローン×AIによる病害虫検出

ドローンとAIの組み合わせにより、病害虫の初期兆候を自動検出し、早期対策が可能になった事例です。

果樹栽培では、病害虫の早期発見が難しく、対応が遅れて収量や品質に悪影響が出ることが課題となっていました。山形大学と農研機構は、こうした課題に対応するため、ドローンとAIを組み合わせた病害虫検出システムを開発したのです。

具体的には、ドローンで上空から果樹園を撮影し、その画像をAIが解析して葉の変色や病斑を自動で検出します。人の目では見逃しやすい初期段階の異常も識別可能となり、早期の防除判断が可能になりました。

その結果、農薬の使用量を最適化できただけでなく、防除作業の精度と効率も向上。今後は他地域や他品種への展開も期待されています。

出典:山形大学「ロボットやドローンで作物の病害を検出

畜産農家の牛の行動データ×AIによる発情予測

牛の行動データをAIが分析し、発情を高精度に予測。受胎率の向上と作業省力化を実現しました。

畜産現場では、牛の発情タイミングを見極める作業が熟練の勘に頼ることが多く、見逃しや判断ミスによる受胎率の低下が課題となっていました。こうした課題を解決するため、北海道の畜産農家では、牛に装着したセンサーから得られる行動データをAIで分析する取り組みを始めました。

AIは歩行数や反芻、飲水の変化を解析し、発情兆候を高精度で予測します。これにより人工授精のタイミングが最適化され、受胎率の改善とともに作業の省力化も実現しました。

経験の浅い作業者でも安定した繁殖管理が可能になり、畜産経営の効率化が進んでいます。現在は繁殖以外の健康管理への応用も検討されています。

参照:日経XTECH「発情の兆候AIでぴたり、畜産テックは人手不足農家の救世主になるか

農業経営支援におけるAI活用事例5選

農業の現場では、AIが作業支援するだけでなく、経営判断の支援ツールとして活用する動きも加速しています。

ここでは、収量予測や圃場データの共有、リスク管理、収益改善など、意思決定の質を高めるためのAI活用事例を5つ紹介します。

衛星データとAIを活用した収量予測による出荷計画の最適化

衛星データとAIを活用した収量予測により、出荷計画の精度が向上した事例です。

熊本県天草市の宮地岳営農組合では、収穫量の予測を経験と勘に頼っていたため、出荷計画の精度が安定しませんでした。販路や物流にも支障をきたし、それが課題となっていたのです。そこで農業DXを進める一環として、衛星データとAIを活用した収量予測の導入に踏み切りました。

AIが衛星画像や生育履歴、気象データなどを解析し、圃場ごとの収穫量を事前に予測する仕組みを構築。その結果、反収が10〜20%向上し、1等米比率の増加や施肥・農薬の最適化にもつながりました。

現在では、計画的な出荷や販路交渉が可能となり、農協全体の経営の安定化にも貢献しています。

出典:JA全農ウィークリー「スマート農業 熊本県 小谷あゆみさんが事例報告

クボタの「KSAS」による営農情報の可視化と共有

GPS連動農機のデータをクラウドに記録することで、作業の見える化と情報共有が進み、営農の効率化が実現しました。

農作業の記録や管理は手書き中心で、作業実態の把握や情報共有が難しいという課題を抱えていました。そんな農業現場に対し、クボタは「KSAS(KUBOTA Smart Agri System)」を提供しています。

導入の背景には、営農の効率化と技術の継承を支援したい現場ニーズがありました。KSASは、GPS連動の農機から得られる位置・作業データや施肥・播種の情報をクラウドに自動記録し、営農日誌や作業履歴として可視化します。

これにより、作業分析や経営判断がしやすくなり、複数人や法人での情報共有もスムーズに行えるようになりました。結果として、作業の標準化と効率化が進み、営農のデジタル化が現場に根づきつつあります。

出典:KSAS「10周年 営農「♯お悩み」ランキング

クレバアグリのIoT+AIによる生育シナリオの最適化

リアルタイムの環境データをAIが解析し、最適な生育管理で品質と収量のばらつきを抑制。安定生産を実現しました。

従来の農業では、生育状況の把握や管理判断が経験や勘に依存しており、気象変動や圃場ごとの違いに対応しきれないことが課題とされていました。クレバアグリはこの課題に対し、IoTとAIを組み合わせた生育管理支援を提供しています。

圃場に設置したセンサーから温湿度・日射量・土壌水分などのデータをリアルタイムで取得し、AIが解析。作物ごとに最適な灌水や施肥のタイミングを提示します。その結果、収量や品質のばらつきが減少し、安定生産と省力化の両立が可能となりました。

出典:クレバアグリ株式会社「IoT+AIによる農業の専門家のための農業クラウド

いろはの葉色解析AIサービスによる収穫量予測

葉の色をAIで解析し、光合成や肥料の効き具合を数値化。施肥の最適化と収穫予測精度の向上に成功しました。

これまで農作物の生育状況は目視や経験に頼って判断されてきたため、施肥の過不足や収穫量の予測精度にばらつきが生じることが課題でした。こうした背景から、池田薬草が提供する「いろは」では、ドローンで撮影した圃場の画像をAIが解析し、葉の色から光合成の活性度や肥料の効き具合を数値化しています。

AIによる解析結果をもとに、作物の生育ムラを早期に把握し、追肥や管理の判断に役立てることが可能です。その結果、収穫量の予測精度が向上し、営農計画の最適化や人員配置の効率化が実現されました。

出典:株式会社池田「いろは(葉色分析システム)

サグリの衛星データとAIによる耕作放棄地調査の効率化

耕作放棄地をAIが自動で抽出し、調査工数を削減。農地再生と活用計画の効率化に貢献しています。

自治体や農業法人では、広範囲にわたる耕作放棄地の把握に時間と労力がかかり、農地の有効活用が進まないことが課題となっていました。こうした背景から、サグリ株式会社は衛星データとAIを活用した農地調査サービス「ACTABA(アクタバ)」を提供しています。

このサービスでは、衛星画像をAIが解析し、植生の変化や利用状況を判断します。そうすることで、耕作放棄地の疑いがある場所を効率的に抽出します。その結果、現地調査の手間を大幅に削減できただけでなく、農地再生の優先順位づけや利活用計画の立案も容易になりました。

行政・農家双方の負担軽減と地域農業の再活性化に寄与している事例といえるでしょう。

出典:Sagri「耕作放棄地を検出する農地パトロールアプリ アクタバ

農業にAIを導入する際の3つの注意点

AIの農業活用は、収量予測や作業効率化など多くの成果を上げつつありますが、導入時に注意すべき点も少なくありません。導入効果を最大化し、現場で定着させるためには、事前準備や運用面での工夫が不可欠です。

ここでは、農業分野でAIを導入する際に見落とされがちな3つの注意点を解説します。

データ整備が導入の大前提

AIを活用するには、まず現場のデータを整備しなければなりません。

AIは大量の正確なデータをもとに学習し、分析や予測を行います。しかし、紙台帳での記録や人による勘頼みの管理が中心となっている現場では、そもそもAIが活用できるデータが不足しているケースが多く見られます。

そのため、AIを導入する前に、温湿度・土壌・作業履歴などのデジタルデータを取得・蓄積できる環境を整備しておく必要があるのです。

過剰な自動化設計がかえって混乱を招く

自動化は無理に進めず、現場と連携できる範囲にとどめることが重要です。

AI活用という目的を重視するあまり、すべてを自動化しようとする設計はおすすめできません。特に、高齢者やITに不慣れな作業者が多い現場では、使いこなせないシステムは導入後すぐに形骸化するおそれがあります。

自動化は部分的にとどめ、実際の作業オペレーションと無理なく連携できる範囲で導入を検討していきましょう。

導入後の運用・改善まで設計すべき

AIは導入して終わりではなく、運用と改善の仕組みまで含めて設計すべきです。

AI導入はあくまでもスタート地点であり、導入すればすぐに成果が出るわけではありません。活用を進めるなかで発見される改善点に対応し、継続的にチューニングやデータの追加学習を行っていく必要があります。

また、AIの判断結果を現場が正しく理解し、活用できる体制や人材育成も同様に大切です。これらもあわせて設計することで、AI導入投資に見合う成果が得られやすくなるでしょう。

農業×AIの今後の展望

これからの農業AIは、単なる作業支援ではなく「経営を変えるツール」へと進化していきます。

生成AIや音声・画像解析の技術進化により、日々の作業記録を自動で残したり、天候・生育・土壌データなどを統合して経営判断に生かしたりといった活用が加速するでしょう。

また、熟練農家のノウハウをAIに学習させることで、技術の継承や若手農業者の定着支援にもつながります。人材不足や高齢化が進む中で、「誰でも迷わず品質の高い営農ができる環境づくり」は重要なテーマです。

さらに、国や自治体によるスマート農業支援の補助制度も年々拡充しており、以前よりも低コストかつ短期間で導入できる環境が整いつつあります。

これからのAI活用は、現場の規模や課題に応じた柔軟な設計と段階的な導入が鍵になるでしょう。

まとめ|農業×AIは“実証”から“実装”の時代へ

農業分野では、AIの活用が実証段階を超え、現場で“使われる技術”として根付きはじめています。収量予測や病害虫対策だけでなく、経営判断や労務管理といった分野でも着実に成果が見えつつあります。

重要なのは、技術そのものよりも「いかに自社・自農業にフィットさせ、使い続けられるか」。AIを“使いこなす力”こそが、これからの農業の持続可能性を左右します。

とはいえ、どこから始めればいいかわからない──。そんな方こそ、まずは小さな課題をAIで解決するところから始めてみてください。

SHIFT AIでは、現場の課題整理から導入、運用改善までをワンストップで支援しています。成果につながるAI活用について詳しく知りたい方は、まずはお気軽に無料相談からご利用ください。

SHIFT AI for Bizはこちら