「うちの人件費、高すぎるのでは……?」

そう感じたことがある経営者や管理職の方は少なくないはずです。特に、売上が思うように伸びない時期や固定費の見直しを求められたタイミングで、人件費の割合が重たく感じられる場面は多くあります。

しかし、人件費は単なる“コスト”ではなく、企業の生産性と競争力を支える“投資”でもあります。安易な削減や単純なリストラは、社員のモチベーション低下や生産性の悪化といった負のスパイラルを生むリスクも伴います。

この記事では、「なぜ人件費が高くなっているのか」を正しく見極め、「何をどう見直すべきか」を構造的に捉える方法を解説します。また、AIの活用なども視野に入れながら、人件費を抑えつつ持続可能な組織づくりにつなげる視点もご紹介します。

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まず「人件費が高い」とは何を指すのか?

「人件費が高い」と感じたとき、そもそも何と比較して高いと判断しているでしょうか。感覚だけで判断してしまうと、必要な投資まで削減してしまう恐れがあります。まずは、人件費の基本的な構成や評価の指標を正しく理解することが重要です。

人件費の定義とは?

人件費とは、従業員を雇用する上で発生するあらゆるコストを指します。主な内訳には以下のような項目があります。

  • 基本給・賞与・各種手当(残業手当・住宅手当など)
  • 法定福利費(厚生年金保険・健康保険・雇用保険などの会社負担分)
  • 福利厚生費(社宅、食事補助など)
  • 退職金引当金や人材育成に関する費用

単に給与額だけでなく、会社側が負担している社会保険料なども人件費に含まれる点を押さえておく必要があります。

人件費率とは?適正ラインの目安

「高いかどうか」を判断する際に参考になるのが人件費率(売上高に対する人件費の割合)です。

業種によって適正な水準は異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

業種人件費率の目安
製造業10〜20%前後
サービス業(人材依存型)30〜50%前後
小売業15〜25%前後
ソフトウェア開発40〜60%前後

たとえば、売上が伸びていないのに固定人件費が維持されている状態では、人件費率が高騰してしまいます。売上と連動しない給与体系もコスト構造を圧迫する原因になります。

どんな状態が「人件費が高すぎる」とされるのか?

以下のような兆候が見られる場合、「人件費が高止まりしている」「最適化されていない」と判断できます。

  • 売上の伸びに対して人件費が増加している
  • 業務内容に対して給与が割高に見える
  • 残業代やシフト人員が過剰である
  • 成果と報酬が一致していない(評価制度の不備)

こうした構造的な歪みが放置されると、企業体力をじわじわと奪い、長期的には競争力の低下を招きます。

人件費が高すぎる原因とは?構造的に分解してみる

人件費が「高すぎる」と感じる原因には、経営の感覚的な判断だけでなく、組織構造や業務設計のゆがみが潜んでいることが多くあります。ここでは主な原因を体系的に整理してみましょう。

業務量と人員配置のミスマッチ

「人が多すぎる」「業務に対して人件費が見合っていない」と感じる背景には、業務量と人員のバランスが崩れていることがあります。たとえば以下のようなケースです。

  • 業務プロセスの無駄が多く、人的リソースが浪費されている
  • 一部の業務が属人化し、非効率な引き継ぎや管理が続いている
  • 業務の繁閑にかかわらず固定人員で回している

こうした状況では、人件費が「成果」に結びつかず、コストとしての重さが際立ちます。

評価制度・給与制度の硬直化

従業員の評価や報酬制度が年功序列や固定昇給に偏っている場合、成果に連動しない人件費増が起きやすくなります。

  • 成果に関係なく給与が上がり続ける
  • 業務内容に対して報酬が見合っていない
  • 評価基準があいまいで査定に納得感がない

このような制度は社員のモチベーション低下や離職にもつながり、コスト対効果の面で非効率となります。

※制度見直しの進め方については、こちらのピラー記事も併せてご覧ください。

残業代・シフト管理の甘さ

残業代や夜勤手当などが想定以上に膨らんでいる場合も、人件費の圧迫要因です。とくに以下のようなケースに注意が必要です。

  • 業務量の波に応じた柔軟なシフト組みができていない
  • 恒常的な残業が常態化している
  • 業務配分に偏りがあり、一部の社員に業務が集中している

このような場合は、業務量の見える化やワークフロー設計の見直しが求められます。

外注費や派遣費の増加

正社員以外の外部リソースに頼る体制が続いていると、目に見えにくい「準人件費」が肥大化します。

  • 常駐型の派遣契約が長期化している
  • スポット業務がルーチン化して外注比率が高くなっている
  • 社内にスキルが蓄積されず、結果的にコストが膨らむ

これらは中長期的に見直すべき対象です。

人件費を見直す際の注意点|安易な削減の落とし穴

人件費が高すぎるという課題に直面したとき、真っ先に思いつくのは「削減」です。しかし、短期的な削減策は、長期的な経営リスクにつながることも少なくありません。ここでは、よくある見落としとリスクを整理します。

モチベーション低下による生産性の悪化

給与や手当の削減、福利厚生の縮小などは、社員にとって「評価されていない」「切り捨てられた」と感じさせる要因になります。結果として…

  • 業務への意欲が下がり、成果が出にくくなる
  • 離職率が上がり、人材の定着が難しくなる
  • 新たな採用・教育コストがかさむ

このように、一時的なコストカットが中長期的には非効率を生むリスクがあるのです。

属人化の進行と業務停滞

業務の属人化が進んでいる組織では、人員削減によって一部のノウハウやプロセスが失われる恐れがあります。すると…

  • 残ったメンバーに業務が集中し、過重労働化
  • プロジェクトやサービスが停止・遅延する
  • 顧客満足度が低下し、売上にも悪影響

これは、人的資産の棚卸しや業務の可視化を怠ったまま削減に走ったケースに多く見られる事態です。

労務リスク・コンプライアンス違反

残業代未払い、業務委託と実態の乖離、社会保険料の削減狙いの不適切な契約形態など、法的なリスクを伴う削減策にも注意が必要です。

  • 労基署からの是正勧告や罰則リスク
  • 退職者からの訴訟や口コミによる企業イメージ悪化
  • 社内の心理的安全性の崩壊

これらは一度発生すると、企業ブランドや採用力にも大きく影響します。

人件費を最適化する4つの視点|削減ではなく“適正化”

人件費が「高すぎる」と感じる背景には、単純な人件費総額の問題ではなく、コストと価値のバランスが崩れているという本質的な課題があります。大切なのは一律の削減ではなく、「最適化=成果に見合った支出構造への再設計」です。ここでは、4つの具体的な視点からアプローチを解説します。

①評価・報酬制度の再構築

成果と給与が連動していない制度は、コスト増の温床になります。役職・年次・勤続年数に依存する従来型から、成果や貢献度を反映した制度への転換が必要です。

  • OKRやMBOに連動した評価軸の導入
  • 固定給+変動報酬の組み合わせ
  • 昇給・賞与ルールの明文化と透明化

評価制度を見直すことで、「給与=企業戦略の表現」という位置づけを強化できます。

②人員配置と業務の再設計

ムダな人員配置や、手作業中心の業務が人件費を圧迫します。属人化・重複業務・判断待ちの多い業務は業務整理と再構成で大きな改善余地があります。

  • バックオフィスの業務可視化と標準化
  • 業務フローの再設計による工数削減
  • マルチスキル化による応用力強化

関連記事:人件費削減は「削る」から「最適化」へ!成果を出す方法・AI活用・事例まで完全網羅

③生産性を高めるスキル育成

限られた人員でも価値を出せる仕組みづくりには、教育・研修によるスキルアップが不可欠です。

  • リスキリングによる職域拡大
  • デジタルツール活用の研修強化
  • 管理職・現場のリーダー層へのマネジメント研修

「人件費を下げる」のではなく、「同じ人件費でより大きな成果を出す」ための投資と位置づけましょう。

④デジタル活用による業務代替・補助

生成AIやRPAなどのテクノロジーの導入は、人件費圧縮と生産性向上の両立を可能にします。

  • 単純・反復業務の自動化
  • マニュアル作成、資料作成、議事録作成の自動化
  • 社内問い合わせ対応のAIチャットボット化

「人にしかできない仕事」に集中できる体制を作ることで、人件費の費用対効果を最大化できます。

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削減一辺倒ではない、人件費改善の“新しい選択肢”

「人件費=減らすもの」と考える時代は、すでに終わりを迎えています。今、求められているのは戦略的に“使い方”を見直すことです。ここでは、従来の削減策とは異なる「新しい選択肢」として注目されているアプローチを紹介します。

1.生成AIの業務活用で“間接コスト”を圧縮

例えば、企画書のたたき台作成、議事録要約、マニュアル作成など、ホワイトカラーの定型業務に生成AIを活用することで、担当者1人あたりの工数を大幅に削減可能です。

  • 営業提案資料のドラフト作成支援
  • 採用広報文のたたき台作成
  • チャットやメール文面の下書き生成など

こうした活用は、人を減らさずとも、1人あたりの生産性を上げて人件費率を下げるという新しい手段となります。

2.成果報酬型や柔軟な雇用制度の導入

成果報酬や業務委託、パートタイム活用など、柔軟な報酬設計によって固定人件費の圧縮が可能になります。

  • 成果に応じたインセンティブ型給与
  • 社外リソースの活用による固定費削減
  • ジョブ型雇用による役割明確化と費用対価の最適化

「全員を正社員にして終身雇用を前提に給与を積み上げる」旧来型の前提を見直すことが、時代に合った人件費構造を作ります。

3.社員の納得感を重視した制度再設計

コストカットを主目的とした制度変更は、現場の反発や離職リスクを招きがちです。そこで重要になるのが、制度変更の「納得形成」です。

  • 論理的な制度変更の説明(全社説明会、動画資料など)
  • 社員の声を制度に反映するプロセス設計
  • 試行導入や段階的変更による摩擦回避

納得感がある改革は、単なるコスト削減ではなくエンゲージメント向上と生産性アップの好循環を生み出します。

まとめ|“高すぎる人件費”は、削減ではなく設計の見直しから

人件費が高すぎる――そう感じたとき、やみくもに削減に走るのは危険です。
コストの内訳や業務構造、制度の設計にこそ、最適化の余地があります。

特に現代では、生成AIの業務活用柔軟な人材活用の仕組み化といった新しいアプローチによって、「減らさずに抑える」道が広がっています。

社員のモチベーションを保ち、法令リスクを回避しながら、戦略的に人件費を見直すには、制度設計と業務設計の両面からのアプローチが不可欠です。

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Q
人件費が高いかどうかの判断基準はありますか?
A

一般的には「人件費率(売上に占める人件費の割合)」で判断されます。業種ごとの目安がありますが、固定費・変動費のバランスや、労働生産性と照らし合わせて見ることが重要です。

Q
単純に給与水準を下げれば解決できますか?
A

給与水準の引き下げは離職やモチベーション低下につながるリスクがあります。評価制度の見直しや、業務効率化とあわせた制度設計が現実的です。

Q
人件費を見直す際に法的リスクはありますか?
A

解雇や一方的な給与変更などは労働法上のトラブルに発展する可能性があります。専門家の助言を得ながら段階的に進めることが望ましいです。

Q
業務改善や生成AI導入は本当に人件費削減に効きますか?
A

定型業務や情報処理の負担が多い職種ほど効果が出やすく、1人あたりの生産性向上=実質的な人件費抑制につながります。

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