「人を減らせば、会社は一時的に楽になる。」
そんな言葉が頭をよぎったとしても、実行に踏み切れないのが現実ではないでしょうか。
社員は家族を持ち、生活がかかっています。簡単にリストラなどできない。中小企業であれば、地域や取引先との関係性、公的な支援制度との兼ね合いもあります。さらに、法的にも「整理解雇の4要件」という厳格な基準があり、そう簡単に人を減らせるわけではありません。
しかし一方で、固定費(人件費)が経営を圧迫しているのも事実。売上が落ち、赤字が続き、「このままでは会社がもたない」という焦燥感に苛まれていませんか?
本記事では、そんなジレンマを抱える経営者の方に向けて、人を減らさずに経営を立て直す現実的な打ち手を詳しくご紹介します。
属人化した業務を見直し、生成AIやDXを取り入れ、社員の配置や育成の仕方を変えることで、人を活かした経営改善は十分可能です。
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なぜ、従業員を減らすという選択が現実的でないのか?
経営が苦しくなれば、まず考えるのはコストの削減です。中でも大きな比率を占めるのが「人件費」。
「人を減らせば、固定費が下がる。業績も持ち直すかもしれない」。理屈ではわかっているけれど、実際に踏み切れない理由があるのではないでしょうか。それは決して「優しさ」や「情」だけではなく、経営としての現実的な制約でもあるようです。
ここでは、企業が人を減らせない構造的な理由を、法・組織・経営リスクの3つの視点から整理します。
【1】法律は「簡単に解雇すること」を許していない
「業績が悪化したから、明日から何人か辞めてもらおう」これは、日本の労働環境ではほぼ不可能です。
特に経営悪化を理由にした「整理解雇」には、以下の4つの厳格な要件が必要です。
要件 | 内容 |
経営上の必要性 | 単なる一時的赤字ではNG。「継続的で深刻な経営難」が条件 |
解雇回避努力 | 配置転換、出向、残業削減など“あらゆる手段”を尽くす必要 |
人選の合理性 | 成績・勤続年数などの客観的かつ差別のない基準が求められる |
手続きの妥当性 | 十分な説明・協議・記録を行い、“突然の通告”はNG |
これらを1つでも満たせなければ、「不当解雇」となり訴訟リスク・ブランド毀損・現場混乱に発展する可能性もあります。
「正社員を解雇する」という行為は、日本企業において最も高コストな経営判断です。
▶︎【関連記事】人件費削減に潜む5つのリスクとは?
【2】中小企業・行政系企業は「そもそも減らしにくい構造」にある
特に中小企業や公的機関、委託事業者などには、次のような構造的ハードルが存在します。
- 担当者1人が複数業務を兼任しており、削減すると業務が回らなくなる
- 業界・地域での人脈や信頼が“人的資本”として直結している
- 労働組合や行政委託契約上の制限がある
- そもそも採用・教育にコストがかかり「辞めさせても人がいない」
つまり、「減らせばいい」という話ではなく、減らしたくても減らせない構造にあるのが現実なのです。
【3】一度のリストラが、企業の未来コストを増やすこともある
人件費削減によって起こる“副作用”は、意外と見過ごされがちです。
- 残った社員の不信感・離職連鎖
- SNSでの悪評拡散、取引先の信用低下
- 優秀な人材ほど「逃げ足が速い」
- モチベーション低下によるパフォーマンスの低下 → 実質的なコスト増
一時のコストカットが、長期の競争力を失わせる危険性もあるのです。経営再建とは、単に「削る」だけでなく、「未来に向けて整える」ことでもあります。
結論:従業員を減らさない選択は、情ではなく戦略であるべきです。
では 「人を減らせない」中で、どうやって会社を立て直すのか?次章では、従業員を活かしたまま人件費を見直す具体策を、比較表とともに解説します。
減らさずに進める企業が抱えるリアルな3つの課題
「人を減らすのは最後の手段」。そう考える経営者は多いでしょう。しかし、人を減らさない選択をした企業が、その後に直面する課題については、あまり語られることがありません。
リストラをしないからこそ、見えにくい。でも、確実にじわじわと経営をむしばむ、3つの代表的な問題を解説します。
課題①利益が出にくい固定費型体質に陥っている
従業員を維持するということは、毎月変わらず人件費がかかるということです。売上が下がっても、支出は減らない。この構造が利益を圧迫します。
さらに問題なのは、利益率の低下が“構造的に”固定化してしまうことです。
例えるなら、売上が下がるたびに足かせが重くなっていくような状態と言えます。改善の余地があるにも関わらず、経費の大半が「動かせない固定費」となっていれば、どんな施策も焼け石に水です。
課題②「人はいるのに、なぜか忙しい」現象が起きている
人員を維持しているのに、現場が慢性的に疲弊している。その原因の多くは、業務と人材の配置の最適化ができていないことにあります。
たとえばこんな状況が、社内で起きていませんか?
- 一部の社員に業務が集中し、他のメンバーは手持ち無沙汰
- 業務が属人化し、誰がどの業務をどれだけ抱えているかが不透明
- 「できる人がいつも忙しい」「忙しくない人は責任を持たない」状態が常態化
この状態を放置すると、優秀な人材から順に離れていくことになります。
▶︎【関連記事】仕事が楽にならない本当の理由とは?
課題③組織の熱が冷めていく
人件費を守り、従業員の生活を守っている。経営としては、誠実な判断のはずです。
しかし、一度社員の顔を見てください。そこに、前向きなエネルギーはありますか?
現状を維持し続けるだけの組織では、次第に「挑戦しよう」という気持ちが薄れていきます。
- 経営の意図やビジョンが共有されず、現場は言われたことだけをこなすように
- 「どうせ変わらない」「意見を出しても無駄」と感じ始める
- 徐々に、組織全体が“沈黙する空気”に包まれていく
これは、一見穏やかなようで、非常に危険な兆候です。
問題なのは、「減らさないなら、どう活かすか」の戦略が欠けていることです。人を守る選択を、本当の意味で正解にするには、組織の構造・業務の流れ・人材配置を、根本から見直す必要があります。
人を減らさずに人件費を最適化する5つの方法
「削る」ことが難しいなら、活かし方を変える。これが、人件費最適化の本質です。ここでは、「従業員を減らさずに、コスト構造を変える」ための5つの具体策を紹介します。
それぞれの施策のコスト削減効果・即効性・社員の納得感も比較表で整理しています。
5つの施策比較表
従業員を減らさずに人件費を最適化する方法は、1つではありません。企業の業種・規模・組織体制によって、選ぶべき打ち手は変わります。
そこでまずは、主要な5つの施策について、「コスト削減効果」「即効性」「社員の納得感」の3軸で比較してみましょう。
施策 | コスト削減効果 | 即効性 | 社員の納得感 |
業務の棚卸し・再設計 | ◎ | ◯ | ◎ |
生成AI・RPA活用 | ◎ | ◎ | ◯ |
配置転換・ジョブローテ | ◯ | △ | ◎ |
社員教育・再スキル化 | △ | △ | ◎ |
外注・業務委託の活用 | ◯ | ◎ | △ |
このように、「うちでも今すぐできそうなもの」から、まず1つ実行することが大切です。
方法①業務の棚卸しと再設計:まずは何に人を使っているかを可視化
最も費用対効果が高く、ほぼすべての企業に適用できる方法です。
- 各部署・社員が日々何に時間を使っているかを棚卸しする
- 「誰がやらなくてもいい仕事」「やる必要のない仕事」を見つける
- ムダな業務を排除・統合し、本当に人手が必要な業務に集中
やる前は手間に見えますが、削る前に整えることが最大のコスト削減につながります。
方法②生成AI・RPAの導入:手作業を機械にまかせて、社員を本来の業務へ
今、注目が集まっているのが「生成AI×業務改善」です。
たとえば
- 月次報告・会議資料・議事録などのルーティンワークをAIが自動生成
- 勤怠チェック・請求処理などをRPAが人手なしで処理
この結果、従業員の空き時間が生まれ、本来やるべき業務に集中できるようになります。
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方法③配置転換・ジョブローテーション:人を減らさずに活かし方を変える
特定の部門に業務負荷が偏っている場合、人材の再配置はとても重要なポイントです。
- 受注が減った部門の社員を、別の売上貢献部門へ一時的に移す
- 支店間で人員バランスを調整し、余剰と不足を均す
- 管理部門→営業補助、現場→広報などクロスファンクショナルな動きも選択肢に
メリットとしては、人材の成長・組織の柔軟性向上にもつながる中長期施策が挙げられます。
方法④社員教育・スキル再構築:同じ人員で“生産性”を引き上げる
削らずに人件費を抑える究極の方法。それは、同じ人がより高い価値を生み出せるようになることです。
- IT・デジタルツールの活用スキルを育成
- 業務改善・提案型社員の育成
- 社員の「コスト」から「利益を生む戦力」へ変換する投資
特に生成AIやDXを活用した再スキル化は、時代に合った攻めの育成として注目されています。
方法⑤外注・業務委託とのハイブリッド運用:必要な業務だけを外のプロに
全てを内製するのは、もはや非効率です。
例えば
- 短期プロジェクトや専門業務は外注
- 書類チェックや事務処理はBPO・クラウドソーシング
- 自社社員は“価値を生む仕事”に集中
外注コストはかかりますが、長期的に見れば人件費の最適化につながります。
人を守るなら、仕組みで支える。削るのではなく、「活かす」「育てる」「整える」ことで、人件費は最適化できます。
あなたの会社には、どの施策が最もフィットしそうですか?まずは「できるところから1つ」、実行してみてください。
従業員を減らさずに経営改善した企業のリアルな成功事例
「人を減らさずに経営改善なんて、本当に可能なのか?」そんな疑念に答えるのがこの章です。以下では、成功事例を3社紹介します。
成果だけでなく、どのように取り組んだかの過程もしっかり提示し、「自社導入への道筋」を紹介します。
事例①|アスクル株式会社|AI導入で人を増やさず、業務を回せる組織へ
オフィス用品通販で知られるアスクルは、パンデミック以降の急激な需要変動に悩まされていました。従来、在庫や需要の予測は人がエクセルや勘に頼って行っており、予測ミスによる在庫過剰や欠品が業績を圧迫していたのです。
そこで同社は、AIを活用した需要予測と発注最適化システムを導入。特に注力したのは、「人が判断していた工程」の自動化でした。
AIによって導入後は、以下のような変化が起きています。
- 過去データから需要を高精度で予測し、人の判断を最小限に
- 従来人が手作業で行っていた予測・発注業務を自動化し、人的負担とミスを削減
- 結果として、人を増やさずに、注文量の増加にも対応できる組織体制に変化
人件費そのものをカットしたわけではありません。しかし、人を増やさずに回る業務構造を手に入れたことで、長期的な人件費の最適化に成功しています。
事例②三菱UFJ銀行|生成AIで年間数十万時間の無駄な人件費を削減
三菱UFJ銀行では、社内業務の中でも特に人手がかかっていた「稟議書作成」に注目。
支店からの報告、顧客情報、社内承認ルートなどを取りまとめるこのプロセスには、ベテラン行員でも数日かかることがあるほどの労力がかかっていました。
そこで同社は、生成AIを使った稟議書自動作成の仕組みを導入。自然言語処理技術により、過去データや定型フォーマットからAIが稟議文案を生成することで、作業時間を一気に短縮したのです。
この取り組みで得られた効果は絶大でした。
- 稟議書1件あたりの作成時間が「数日 → 数分」に
- 年間数十万件の処理を対象とすることで、数十万時間分の人件費的負荷を削減
- 空いたリソースを戦略立案や高付加価値業務へシフトすることが可能に
三菱UFJのような大企業であっても、業務効率化によって「人を減らす」のではなく、「人の時間を空ける」ことが選ばれているのです。
出典:「マネジメント層が変われば、成果が変わる」三菱UFJ銀行、生成AI活用高度化への挑戦
事例③プラポート株式会社|見積業務の属人化をAIで解消、中小企業でも可能な業務改善
静岡県のプラスチック加工メーカー、プラポート株式会社は、営業部門に大きな業務偏りを抱えていました。
図面の内容を読み取り、仕様確認・価格見積もりを作成する作業は、ベテラン担当者しか対応できない属人業務となっており、業務が止まる・納期が遅れるといった課題が山積していました。
同社が導入したのは、図面をAIが読み取り、自動で見積もりを作成するシステム。
初期導入の段階から、ベテラン社員の業務をAIに“学習”させることで、属人知をナレッジ化し、誰でも見積もれる仕組みを構築しました。
具体的な変化は以下の通りです。
- 営業1名あたりの見積作業時間が大幅に短縮
- 対応スピードが大幅アップし、顧客満足度も向上
- 業務が平準化され、人材の再配置(広報・開発部門)も可能に
中小企業でも、「IT人材がいなくても」「特別な大規模投資がなくても」、人を減らさずに生産性を引き上げる道はある。その好例と言えます。
社内を納得させながら進めるために必要な3つのポイント
どんなに優れた戦略でも、現場が納得していなければ動かない。人を減らさず、仕組みを変えていく。そのためには、経営者だけが理解していても意味がありません。
現場社員、管理職、経営層、社内全体を同じ方向に動かすには、「納得感」が必要不可欠です。ここでは、改革をスムーズに進めるための社内説得の3ステップを紹介します。
① 「削減」ではなく「最適化」という言葉を使う
人件費や業務改革の話になると、社員は反射的に「自分たちのポジションが危ないのでは」と構えてしまいがちです。
そこで大切なのが、言葉の選び方です。
- NG例「人件費を削る」「効率化する」
- OK例「人を活かす体制にする」「仕事を最適に分担する」
これだけで、社員の受け取り方はガラリと変わります。経営判断を伝える際には、危機感より可能性を軸にした表現が効果的です。
② 小さな成功体験を共有する
「いきなり全社導入」は、どんな改革でも反発されやすいものです。まずは、小さな部署・プロジェクト・業務の一部から小さな成功を生み出し、見せることが肝心です。
例えば
- 生成AIで議事録作成を自動化 → 月間3時間の削減
- RPAで勤怠チェックを自動処理 → 担当者が他業務に集中できるように
- 社員提案制度で1件採用 → モチベーションが上がったという声が出る
このように、できた事例を可視化・言語化・称賛することで、社内の空気が変わります。「この変化、悪くないかも」と思わせられたら、半分成功です。
③ 現場を巻き込むではなく任せる
改革は「トップダウン」だけでは長続きしません。大切なのは、現場に“当事者意識”を持ってもらうことです。
- 「どうすればやりやすくなると思う?」と問いかける
- 「この業務、もっとこうしたい」アイデアを募る
- 試験導入チームに、自分たちで改善している感覚を与える
つまり、「巻き込む(説得する)」のではなく、「任せる(委ねる・期待する)」ことで、人は自分から動き始めます。
<ポイント>
納得は「感情」×「ロジック」の設計から生まれます。言葉選びで不安を払拭し、小さな成功で“やってみる価値”を見せ、主体性を委ねることで、現場が自走し始める。
これが、「改革が受け入れられる組織」の共通構造です。
▶︎【関連記事】
人件費削減を社内でどう説得する?納得感を得る伝え方と失敗しない説明設計
まとめ|「減らせない」からこそ、次の一手が会社の未来を決める
人を減らせない。けれど、人件費は圧迫している。そんな中で悩むあなたにとって、この記事は「他にも選べる道がある」と知っていただくための地図になったはずです。
今日紹介したように、解決策は「リストラ」や「非情な削減」だけではありません。
- DX・AIで業務構造を見直す
- 属人化を可視化し、仕組みを整える
- 社員と納得感のある形で変化を進める
これらすべてが、人を活かしたまま経営を改善する「持続可能な打ち手」です。
そして今、SHIFT AI for Biz では、生成AI活用を軸とした削らないDX研修を多数の企業様にご提供しています。
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よくある質問(FAQ)
- Q社員を減らさずに本当にコストを下げることは可能ですか?
- A
はい。短期的な削減ではなく、業務構造そのものの見直し・最適化によって、コストを抑えながらも成果を上げる状態を実現している企業は実在します(例:アスクル、プラポートなど)。
- Q中小企業でも生成AIやDXは導入できますか?
- A
可能です。特に最近は、ノーコード・低コストで導入できるツールが増えており、技術リテラシーが高くなくても効果を出せる事例が多数報告されています。
- Q社員の反発や不安をどう抑えればいいですか?
- A
本記事でも紹介した通り、
- 「削減」ではなく「最適化」という言葉を使う
- 小さな成功を社内で共有する
- 現場に“任せる”スタイルで巻き込む
といった“納得設計”が効果的です。
詳細は、以下の記事もぜひご参考に👇
👉 人件費削減を社内でどう説得する?納得感を得る伝え方と失敗しない説明設計
- Qどこから取り組めばいいかわかりません…
- A
まずは現場で負荷が集中している業務の棚卸しから始めてみましょう。手作業が多い、ミスが発生しやすい、属人化している。そういった業務こそが、生成AIや業務改善の突破口になりやすいです。
- QSHIFT AIの研修ではどんなことが学べますか?
- A
SHIFT AI for Bizでは、以下のようなテーマで研修設計・導入支援を行っています。
- 生成AIによる業務効率化(プロンプト設計/ChatGPT活用法)
- 社員のリスキリング支援(文書作成、議事録、要約、提案書作成)
- DX推進に向けた組織変革研修(現場と経営層の認識統一)
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