AI技術の進化とともに、採用活動へのAI導入が加速しています。実際に導入を進めている企業は、業務の効率化やコスト削減、採用精度の向上といった多くの効果を実感しているようです。
一方、AIならではの課題やデメリットも存在するため、特性を理解したうえでの適切な活用が成功のカギを握ります。
本記事では、AI採用のメリット・デメリットを解説するとともに、導入企業の事例8選と、おすすめのAI採用ツールもあわせて紹介します。自社の採用戦略を次のステージへ引き上げるヒントを見つけてみてください。
AI採用とは
AI採用とは、人工知能を活用して採用業務の効率化と高度化を図る手法です。
具体的には、応募者情報の分析や書類選考の自動化、面接スケジュールの調整、さらには面接評価のサポートまで、幅広いプロセスで導入が進んでいます。
従来は人手に頼っていたこれらの業務も、AIによる迅速かつ客観的な判断が可能となり、公平性や生産性の向上が期待されています。
なお、すべてをAIに任せるのではなく、採用担当者の負担を軽減し、より戦略的な判断や人間的なコミュニケーションに集中するための“支援ツール”として活用されるケースが一般的です。
AI採用の導入状況
近年、AIを活用した採用活動が急速に広がりつつあります。
時事通信が主要企業100社を対象に行った調査によると、約3割の企業がすでにAIを採用プロセスに導入しているという結果が出ています。導入の目的や活用範囲は業種や企業規模によって異なりますが、多くの現場で「人事業務の負担軽減」や「採用の質向上」といった効果が実感されているようです。
一方で、導入に踏み切れていない企業も依然として多く、コスト・運用体制・AIに対する不安などがハードルとなっているのも事実です。
とはいえ、企業のデジタル化が加速するなかで、AI採用は今後ますますスタンダードな選択肢として定着していくと考えられます。
AIを採用に活用するメリット4つ
AIを採用活動に導入することで、企業はさまざまな恩恵を受けることができます。ここでは代表的なメリットを4つご紹介します。
- 作業が効率化できる
- 人件費の削減につながる
- 採用基準を明確化できる
- 遠隔地からの募集も可能になる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
採用業務の効率化
AI活用の最大の利点は、採用プロセス全体の効率化です。
特に効果が大きいのは、「ヒューマンエラーの低減」と「24時間対応」の2点です。AIは設定されたルールに基づいて一貫した処理ができるため、書類選考やデータ入力でのミスを防ぎ、修正にかかる手間を省けます。
さらに、夜間や休日でも応募者への対応が可能なため、業務時間外でもスムーズに選考を進めることができます。
人件費の削減
AIによって、これまで人手を必要としていた作業(データ管理、書類チェック、面接日程の調整など)を自動化できるようになります。
その結果、担当者の負担や残業の削減はもちろん、繁忙期に臨時スタッフを増員する必要もなくなり、人件費の抑制につながります。
採用基準を明確化できる
AIは、あらかじめ設定したスキルや経験、適性など、一貫した評価基準に基づいて応募者を評価します。そのため、人による判断のばらつきを減らし、客観的で公平な選考が実現できます。
また、評価基準が明文化されることで、採用担当者間の認識のズレを防ぎ、ミスマッチのリスクも低減します。
遠隔地からの募集も可能になる
AIを活用したオンライン選考では、地方や海外を含む幅広い人材にアプローチできるのも大きな強みです。
遠方に住む候補者も選考に参加できるうえ、面接日程の調整や連絡業務もAIで自動対応が可能。これにより、採用担当者の工数を抑えながら、候補者とのスムーズなやり取りが実現します。
結果として、多様で優秀な人材を取り込める可能性が広がり、企業の競争力向上にもつながります。
AIを採用に活用するデメリット4つ
AI採用には多くのメリットがありますが、導入にあたっては注意すべきポイントも存在します。以下の4つの課題について理解しておくことが重要です。
- 運用コストや教育体制の整備が必要
- AIの判断は必ずしも正確ではない
- 差別的判断やアルゴリズムの不透明さ
- 柔軟な判断がしづらい
それぞれ詳しく見ていきましょう。
運用コストや教育体制の整備が必要
AIツールの導入には、初期費用やカスタマイズ費、運用サポート費などのコストがかかります。また、AIを効果的に活用するためには、担当者の研修や運用フローの整備も欠かせません。
さらに、システムの定期的なアップデートやメンテナンスといった継続的コストも発生します。とくに中小企業では、人的・金銭的リソースの制約から導入や運用が負担になる可能性もあるため、導入前に十分なシミュレーションと体制構築が必要です。
AIの判断は必ずしも正確ではない
AIは大量のデータからパターンを導き出して判断を行いますが、その判断が常に正しいとは限りません。細かなニュアンスや背景事情など、人間ならではの判断が必要な場面では誤った評価につながることもあります。
そのため、AIの判断結果を鵜呑みにせず、人による直接の確認や面接との併用を行うことが不可欠です。
AIによる差別的な判断リスクがある
AIは過去データをもとに学習するため、もとのデータに偏りがあると差別的な判断を下すリスクがあります。
たとえば、性別・年齢・学歴・出身地などが無意識のうちに選考基準に影響することで、公平性や多様性が損なわれる恐れがあります。
また、AIの判断プロセスがブラックボックス化しやすく、なぜその結論に至ったのかが説明できないケースも少なくありません。これに対しては、定期的な結果の検証や倫理的・法的なチェック体制の整備が必要です。
柔軟な判断がしづらい
AIは数値化しにくい要素(熱意・人柄・潜在力など)を評価するのが苦手です。想定外の応募者や状況に対して柔軟に対応するには、システムの再調整が必要となる場合もあります。
また、急な採用方針の変更や例外的な判断が必要な場面では、AIだけでは対応しきれないケースも多いです。
したがって、AIの限界を理解しながら、人間の判断との併用による“ハイブリッド運用”が現実的なアプローチとなります。
AI採用の事例8選
すでに多くの企業がAIを活用した採用を実践しており、その成果や工夫が各所で報告されています。
ここでは、8社の導入事例を通して、自社での活用イメージを具体的に描くためのヒントをお届けします。
採用から育成・定着・活躍までをAIで一元管理
ビジネスウェアを展開する青山商事では、採用から人材育成・配置・定着、そして活躍に至るまでを一気通貫で管理するタレントマネジメントの仕組みを構築しています。
導入の背景には、「社員の基礎情報しか管理できず、適材適所の配属や客観的なスキル評価が難しい」という課題がありました。この課題を解決すべく、同社はAIを搭載したタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を導入。
学生向けアンケートのAI分析により、就活生の志向や関心を把握した、より効果的な採用アプローチが可能になりました。また、社員・パートタイマーのスキルやキャリアの見える化により、成長支援や適切なキャリア設計も実現しています。
これにより、適材適所の人材配置が可能となり、経営戦略と連動した人材活用の精度が大幅に向上しています。
参考:「青山商事が目指す採用から育成、配置、定着、活躍まで一気通貫した人材マネジメント」
AIでエントリーシート選考の作業時間を約40%削減
サッポロビールでは、新卒採用におけるエントリーシート(ES)の選考業務をAIによって大幅に効率化しました。
従来、短期間で大量のESを確認する必要があり、人事担当者の負担が課題となっていました。これに対し、同社はAIエンジンを組み込んだ新たな選考システムを導入。過去の合格者データを学習したAIが、設定された評価基準に基づき応募者を自動でスクリーニングします。
なお、AIが不採用と判定したESについても、最終確認は人事担当者が実施する運用体制が構築されています。AIと人のハイブリッド型選考により、精度と公平性の両立を実現したことにより、ES選考にかかる時間を約40%削減。浮いた時間は、応募者とのコミュニケーション機会の創出など、より付加価値の高い業務に活用されています。
参考:「新卒採用のエントリーシート選考においてAI(人工知能)を活用」
対話型AI面接サービス「SHaiN」で面接業務を効率化
とんこつラーメン専門店を展開する株式会社一蘭では、対話型AI面接サービス「SHaiN」を導入し、面接業務の効率化を実現しました。
同社はアルバイト採用が多く、従来は店舗の店長や責任者が通常業務終了後に面接対応を行うケースも多かったため、面接の実施が常に負担となっていました。
こうした背景から、24時間対応可能な「SHaiN」の導入を決定。AIが応募者に対して自動で質問を投げかけ、回答内容をもとに評価を行い、レポートを作成します。最終的な採否は、採用担当者が動画とレポートを確認して判断する仕組みです。
この取り組みにより、面接担当者の業務負荷を大幅に軽減。さらに応募者も都合のよい時間に受験できるため、柔軟かつ利便性の高い選考環境が整備されています。
AI導入により選考時間を約7割削減、公平性も向上
株式会社横浜銀行では、新卒採用における選考業務の効率化と公平性の向上を目的に、AI選考支援ツール「KIBIT」を導入しました。
同社では、応募者数の増加により書類選考の負担が急増し、迅速かつ一貫した判断を下すことが困難になっていました。
そこでKIBITを活用することで、書類選考にかかる時間を約7割削減。AIが過去の評価基準に基づいてブレのないスコアリングを行うため、評価の均一性と公平性も担保されています。加えて、応募者の志望度や熱意をスコア化する機能により、面接前の事前情報としても活用され、面接業務の効率化にも寄与しています。
AIによる客観的な分析と可視化により、業務負担の軽減だけでなく、選考全体の質の向上が図られています。
参考:「新卒採用のエントリーシート選考にAIを導入 将来のハイパフォーマー候補を、効率的に・公平な基準で発見」
動画面接×AIで選考時間を約70%削減、戦略的採用へシフト
ソフトバンク株式会社は、新卒採用の面接業務において動画面接とAI解析システムを連携させることで、選考業務の効率化と評価の客観性向上を実現しています。
もともと同社では動画面接を活用していましたが、評価のバラつきや作業負担が課題となっていました。そこでAIによる動画解析を導入し、受け答えの内容や表情・態度などを定量的に評価できる仕組みを構築しました。
応募者はスマートフォンやPCを使って任意のタイミングで面接を受けられるため、利便性も向上しています。AIによって不合格と判断された応募者についても、最終的には人事担当者が動画を確認し、判断の公平性を確保しています。
結果として、面接にかかる時間を従来比で約70%削減。空いたリソースを戦略的な採用や候補者対応に振り向けることが可能になっています。
参考:「新卒採用選考における動画面接の評価にAIシステムを導入」
AI面接官の導入で採用の質を向上
キリンホールディングス株式会社は、AI面接官の導入によって採用プロセスの質を高める取り組みを進めています。
従来の課題は、限られた時間内で多くの候補者の能力や適性を公平に見極めることの難しさでした。そこで同社は、株式会社VARIETASが提供する「AI面接官」を一次面接に導入。AIが応募者に対して定型かつ公正な質問を投げかけ、回答内容や表情・反応を自動で評価します。
これにより一次面接にかかる時間が大幅に短縮され、人事担当者は対面での最終面接や研修・育成プランの設計など、より重要な業務に専念できるようになりました。
また、AI面接官と人事担当者の評価には高い一致が見られ、AIを活用しながらも、公平性と一貫性のある選考を維持できていることが確認されています。
AIによる監視で適性検査の不正を防止
セイコーグループ株式会社は、オンライン適性検査にAI監視システムを導入し、不正防止と公正性の確保を両立させた採用プロセスを構築しています。
従来は、本人以外の代理受験といった不正リスクに備えるため、オンライン試験に加えてテストセンターで2回目の受験を義務付けるなど、応募者に大きな負担がかかっていました。
こうした課題に対し、同社はAIによる不正監視システムを導入。受験者の表情や動作をリアルタイムで監視し、不正の疑いがある場合には試験結果とあわせて採用担当者へ通知される仕組みです。
これにより、テストセンターでの再受験が不要となり、応募者・採用担当者双方の負担が軽減。高い公正性を維持したまま、効率的な選考プロセスが実現されています。
参考:「学生の受検負担を減らすために。“品質のSEIKO”が選んだAI監視型Webテスト「TG-WEB eye」」
AI面接サービスで採用のミスマッチを低減
株式会社吉野家では、AI面接サービス「SHaiN」の導入により、採用時のミスマッチを大幅に低減しています。
同社はアルバイトの雇用拡大に伴い、面接の「ドタキャン」や人材の不適合などの課題に直面していました。そこでAIによる面接サービスを導入、応募者の受け答えや適性を客観的に分析し、そのデータを数値化しました。これは各店舗が求める人物像と応募者の特徴を自動でマッチングする仕組みです。
その結果、ミスマッチの少ない人材を効率的に採用できるようになり、現場の負担軽減とスピード感ある採用活動の実現につながっています。
参考:「吉野家の関東エリアでのアルバイト採用においてAI面接サービス SHaiN EXライト本格導入開始」
自社に合ったAI採用ツール3選【用途別に紹介】
採用業務にAIを取り入れる際は、自社の課題や目的に合ったツール選びが鍵になります。
そこで「書類選考」「適性検査」「面接」の3領域に特化したおすすめAIツールを厳選してご紹介します。導入検討の際の参考にしてみてください。
書類選考特化ツール「PRaiO」
PRaiOは、書類選考を効率化するAIスクリーニングツールです。
応募書類をAIが自動解析し、あらかじめ設定された評価基準に基づいてスコアリングを実施。結果が数値化されて可視化されるため、確認・比較がスムーズです。
選考スピードの向上と評価の公平性が期待でき、マッチ度の高い人材を効率よく抽出できます。
ツール名 | PRaiO |
提供会社 | 株式会社マイナビ・株式会社三菱総合研究所 |
特徴 | 書類選考をAIで自動化、マッチ度スコアを自動算出 |
料金プラン | 要問い合わせ |
無料トライアル | あり |
公式ホームページ | https://praio.jp/document_ai/ |
適性検査特化ツール「inAIR」
inAIRは、AIと脳神経科学に基づいた適性検査ツールです。
履歴書・テスト結果・行動特性など多様なデータをAIが総合的に分析し、候補者の性格や適性を判定します。ゲーム形式のテストでは無意識的な行動を測定できるため、より本質的な適性評価が可能です。
ツール名 | inAIR |
提供会社 | inAIR. |
特徴 | 応募者の適性や相性をAIが多面的に分析、脳神経科学アルゴリズムのゲームテスト、マッチ度可視化 |
料金プラン | 要問い合わせ |
無料トライアル | 要問い合わせ |
公式ホームページ | https://www.inair.co.jp/inair/intro.html |
面接特化ツール「SHaiN」
SHaiNは、AIが面接官として機能する対話型面接サービスです。
応募者はPCやスマートフォンから24時間いつでも面接を受けることが可能。AIが定型的かつ一貫性のある質問・評価を行い、結果は自動でレポート化されます。面接の均質化と柔軟な運用が実現できます。AI面接官の話し方が自然で、応募者側もストレスなく使えるとの評判もあります。
ツール名 | SHaiN |
提供会社 | 株式会社タレントアンドアセスメント |
特徴 | AIによる面接の自動化、24時間利用可能、面接評価レポート自動生成 |
料金プラン | ・「スタンダードプラン」5,000円/件(税込 5,500円)・「ライトプラン」1,000円/件(税込 1,100円) |
無料トライアル | あり |
公式ホームページ | https://shain-ai.jp/ |
AI採用ツールを選ぶ際に押さえておきたい4つのポイント
AI採用ツールを導入する際は、自社に適した製品を選ぶために、以下の4つのポイントを意識しましょう。
- 自社の課題に合った機能があるか
- 費用対効果が見込めるか
- 無料トライアルで事前に試せるか
- 差別のない公平な設計がなされているか
それぞれのポイントについて、詳しく解説していきます。
自社の課題に合った機能があるか
まず最も重要なのは、ツールが自社の採用課題に的確に対応しているかどうかです。
たとえば、書類選考の負担を軽減したいなら自動スクリーニング機能、面接を効率化したいならAI面接機能など、ツールごとに強みが異なります。システムの柔軟性やカスタマイズ性もあわせてチェックしましょう。
どの工程を効率化したいのかを事前に明確にしておくことで、不要な機能にコストをかけてしまうリスクも防げます。
費用対効果が見込めるか
機能とコストのバランスは、AI採用ツールを選ぶ上で重要な判断基準です。価格が高ければ必ずしも高品質とは限らないため、導入によって得られる効果を具体的に見極めることが求められます。
たとえば、業務効率の向上、人件費の削減、採用精度の改善といった成果がどれほど期待できるかを、できる限り数値で評価しましょう。また、初期費用・月額料金・オプション費用など、コストの内訳もツールによって異なるため、自社の予算に適しているかを総合的に判断することが重要です。
さらに、導入企業の成功事例や、ベンダーが提供する導入効果のデータといった定性的な情報も参考にしながら、長期的な視点で費用対効果を検討しましょう。
無料トライアルがあるか
導入前に無料トライアルが用意されているかどうかも、重要なチェックポイントです。
操作性やUI、自社の業務との適合度を実際に試すことで、導入後の「想定と違った」「使いづらい」といったミスマッチを防げます。
また、現場担当者がトライアルを通じて体験することで、社内での理解や導入準備もスムーズに進められます。
差別のない公平な設計がなされているか
AIツールには、性別・年齢・学歴といったバイアスが無意識に入り込むリスクがあります。そのため、AIの判断が公平であるかどうかも重要な評価軸です。
最近ではバイアスを排除するアルゴリズム設計や、監査機能、ゲーム型評価など、各社が公平性確保に取り組んでいます。
導入検討の際は、ツール提供会社がどのような公平性対策を講じているか、具体的に確認しましょう。
まとめ:AIの活用で採用活動の効率と質向上をめざそう
AIを活用した採用活動は、業務の効率化や人件費の削減、採用基準の明確化、多様な人材へのアプローチ拡大など、さまざまなメリットをもたらします。
すでに多くの企業がAIツールを導入し、業務プロセスの改善や選考精度の向上といった成果を上げています。
一方で、AIには不得意な領域や誤判断のリスクもあるため、人間による確認や最終判断を組み合わせることが重要です。加えて、自社の課題や目的に合ったツールを選定することが、導入効果を最大化する鍵となります。