社内でAI研修を導入したものの──
「1回やっただけで、その後は何も続いていない」
「現場に定着せず、ただの“イベント”で終わってしまった」
そんな声が、企業の担当者から多く聞かれます。
生成AIの活用が広がる今、AI研修は単なるスキル習得の場ではなく、業務の変革を起点とする“学習の仕組み”として設計することが求められています。くわえて、AI研修は単なる教育施策ではなく、変化に対応できる「AI人材育成」の起点と位置づけられます。
ところが現実には、「継続の仕組み」がないまま実施されてしまい、期待していたような成果が出ずに終わるケースが少なくありません。
では、AI研修を「一過性」で終わらせないためには、何が必要なのでしょうか?
この記事では、現場での活用が続き、組織に定着するAI研修を実現するための仕組み設計について、具体的に解説します。
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なぜAI研修は「継続しない」のか?3つの典型パターン
多くの企業がAI研修を一度は実施するものの、その後に継続できず、研修効果が曖昧なまま終わってしまうケースが後を絶ちません。
なぜ「続けられない」のか──その背景には、次の3つの典型的なパターンがあります。
①“やった感”で満足してしまう(目的と成果が曖昧)
AI研修を実施した時点で、「導入は達成された」と感じてしまうケースです。
本来であれば、研修の目的は「実務に活かせる人材を育てること」ですが、“実施すること”自体が目的化してしまい、その後のフォローがないまま終わってしまいます。
とくに「効果測定の設計」がなされていない場合、現場でも「何のための研修だったのか」が曖昧になり、学びが風化していきます。
②現場と関係のない内容になっている(他人ごと化)
研修の内容が「自分たちの業務と結びついていない」と、参加者はすぐに関心を失います。
たとえば、現場でChatGPTの活用チャンスがあるにもかかわらず、抽象的なAI理論の説明に終始してしまう──こうしたケースでは、実務と研修の“断絶”が生まれ、継続的な活用意欲にはつながりません。
③実務での実践機会がない(使うタイミングがない)
研修で学んだ内容を、すぐに現場で試す機会がなければ、人は忘れてしまいます。
特にAIのような“使って習得する”スキルにおいては、インプットだけで終わると定着しないのが現実です。
「研修のあとに誰も使っていない」「現場での活用が根付かない」といった課題は、“研修→実践”の設計がないことが主な原因です。
こうした問題を乗り越えるためには、“続けること”を前提とした研修設計が不可欠です。
“続ける”ために必要な3つの仕組み設計
AI研修を単発で終わらせないためには、あらかじめ「継続を前提とした設計」が必要です。
そのための鍵となるのが、次の3つの仕組みです。単に研修を繰り返すのではなく、“学びが循環する環境”をつくることが重要です。
① 現場起点のテーマ設計
「AIを学ぶ」こと自体が目的になるのではなく、“業務のどの課題をAIで解決するか”という視点から逆算して研修を設計することが大切です。
たとえば営業部門であれば、「提案資料の作成にChatGPTを活用する」、人事部門であれば「社内報の生成を自動化する」など、業務に直結したテーマを扱うことで、参加者の“自分ごと化”が進みます。
② アウトプットが生まれる仕掛け
人は、誰かに伝えるときにこそ学びが深まるものです。
そのため、研修のあとに「自分なりの活用事例を発表する」「プロンプトの工夫を社内で共有する」といったアウトプットの機会をセットにすることが、継続学習の起点になります。
具体例:
- 月1回の社内LT(ライトニングトーク)
- 活用事例をまとめる社内Slackチャンネル
- 部門ごとのChatGPT活用Tipsの共有会 など
③ 継続しやすいリズム設計
継続には“リズム”が必要です。AIは日進月歩で進化しており、一度の研修では最新のスキルに追いつけません。
そこで重要になるのが、「定期的に学び、アップデートする文化」をつくることです。
たとえば、
- 月1回のフォローアップ研修/業務ハンズオン
- 社内チャレンジ制度(生成AI検定など)
- 半期に一度の活用成果発表会 など
「継続=負担」ではなく、「継続=成果が出る仕組み」として位置づけることで、現場も主体的に参加できるようになります。継続的な学習には「学習の習慣化」を促す仕掛けが欠かせません。Slackでの活用共有や月例のLT会など、小さな習慣が大きな文化を育てます。
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AI研修を“制度化”するには?評価と仕組みの組み方
AI研修を継続的に実施していても、属人的な取り組みに留まってしまえば、いずれ途絶えてしまいます。
継続を“当たり前”にするには、研修を制度の中に組み込み、「組織として回る仕組み」に変えていく必要があります。
ここでは、制度化に向けて意識すべき3つのポイントをご紹介します。
スキルの可視化(研修前後のスコアリング)
研修の目的や効果を曖昧にしないために重要なのが、スキルの可視化です。
たとえば、研修前後で「プロンプト設計力」や「業務適用アイデア数」などの観点からスコアを出し、定量的な変化を見える化することで、効果検証と次の打ち手につながります。
一例として、SHIFT AIではAIリテラシー診断などのアセスメントを活用し、研修成果を可視化する仕組みを提供しています。
人事制度と連動させる(評価・報酬設計)
研修の継続には、“やる意味”を制度で担保することも有効です。
たとえば
- AI活用の提案・実行が人事評価に組み込まれている
- 「AI推進メンター制度」などの社内ロールがある
- 研修受講がキャリアパスの前提条件となっている など
こうした仕組みによって、AI研修が単なる“勉強”ではなく、キャリア形成と密接に関わるものとして定着します。
研修の設計や制度化を進めるには、“PoC止まり”にならないような導入ステップ全体を理解しておくことも重要です。
👉 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ
継続学習の“型”をつくる(マニュアル・コミュニティ設計)
研修のたびに“ゼロから設計”していては続きません。
そのためには、社内で再現可能な“型”を整備することが重要です。
具体的には、
- 研修実施ガイドライン(講師選定・日程調整・テーマ例など)
- 研修後のナレッジ共有テンプレート
- 活用事例を蓄積する社内ポータル/Slackチャンネル
また、部門を超えて学び合う“AI活用コミュニティ”の設置も有効です。研修成果や活用事例を蓄積・再利用する仕組みは、ナレッジマネジメントの観点からも重要です。研修と実務の“間”を埋めるこのような仕組みが、学びを文化へと昇華させていきます。
制度として組み込まれたAI研修は、担当者が変わっても継続され、組織全体の変化対応力を高める“土台”になります。
社内でのナレッジ共有文化が定着すれば、個人学習では得られない“共創型の学び”が自然と生まれていきます。
“巻き込み力”がカギ|AI研修を組織で根づかせるために必要なこと
AI研修を継続的に実施し、定着させるには、一部の推進者だけで完結させない“巻き込み設計”が不可欠です。そして継続を仕組みにするには、「制度設計」と「運用設計」の両輪が必要です。
経営層から現場、バックオフィスまでをどう巻き込み、組織ぐるみの取り組みへと昇華させるかが、継続成否の分水嶺になります。
ここでは、3つのステークホルダー別に巻き込み方のコツをご紹介します。
経営層を巻き込む:「未来と数字」で語る
経営層の関心は、事業への貢献度と再現性にあります。
「この研修が業績にどう影響するのか」「生産性はどれほど改善するのか」といった視点で語ることが重要です。
ポイント:
- ROI(費用対効果)やKPIの設計を明示する
- 同業他社や市場動向を示し、「取り残されるリスク」を可視化
- “生成AIの研修”ではなく、“変化に強い組織づくり”という構造的視点を提示
中間管理職を巻き込む:「現場メリット」と“巻き込まれ感”の回避
中間層は「やらされ感」に敏感です。だからこそ、“業務がラクになる”などの具体的メリットを提示することが鍵となります。各部署に「AI活用推進チーム」を設け、継続的な取り組みの中核として機能させるのも有効です。
ポイント:
- 研修で得たスキルが、チームの生産性や資料作成にどう貢献するかを示す
- 忙しい中での参加に対して、工数軽減やチーム支援の仕組みを用意
- 部署ごとのリーダーを“AI活用推進チーム”として正式化する(自律的な役割設計)
現場社員を巻き込む:「小さな成功体験」と“共有文化”の醸成
最も重要なのが、実際に業務で使い、小さな成功体験を積むことです。
「あの人がやってるなら、自分もやってみよう」という横展開が生まれれば、文化になります。
ポイント:
- 成功事例を見える化し、社内共有(Slack・社内報など)
- チームごとのAI活用Tipsをドキュメント化
- 「AI活用報告会」や「LT会」で称賛と承認の文化を根づかせる
このように、一人の担当者が頑張るのではなく、「組織全体で育てる」姿勢が不可欠です。
よくある“継続失敗例”と、その打ち手
「継続の仕組みを作ったつもりだったのに、気づけば自然消滅していた…」
AI研修において、こうした“フェードアウト”のパターンは珍しくありません。
ここでは、よくある3つの失敗例とその対策を紹介します。
失敗例①:全社で始めたが、すぐに尻すぼみに
よくある状況
初回は大きく広報して全社一斉で研修を実施。盛り上がったが、2回目以降の参加率が激減し、いつの間にか空中分解。
原因
- 初回に“花火型”の運用をしてしまい、継続設計がなかった
- 「次回の研修にどうつながるか」が不明瞭だった
対策
- まずは一部門で小さくスタートし、成功事例を横展開する
- 「3ヶ月に1回の共有会」「部門間のLT会」など、継続の型をあらかじめ設計しておく
失敗例②:担当者が異動・退職で止まる
よくある状況
情シスや人事が主導していたが、担当者が移動してしまい、「誰も知らない」「誰も引き継がない」状態に。
原因
- 属人化していた(ナレッジが担当者の中にしかなかった)
- 仕組みとして文書化・制度化されていなかった
対策
- 研修設計・運用マニュアルを必ず残す(誰でも再現できる状態に)
- 担当者を“1人”にせず、横串チームや委員会形式にする
- 定期的な報告や社内報告資料で、組織的に可視化する
失敗例③:「結局効果が見えない」と経営層に言われる
よくある状況
一定の頻度で研修は行っているが、経営層に「で、何が変わったの?」と問われ、説明できずに終了。
原因
- KPI設計や効果測定が曖昧
- 成果を“活動量”ではなく“業務インパクト”で語れていない
対策
- 業務指標との連動KPIを設計する(例:資料作成時間短縮率、提案数増加など)
- 定性成果(チームの心理的安全性向上、発言頻度増など)も合わせてレポートする
- 社内で成果を“語れる”資料を蓄積する
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“続けるAI研修”がもたらす企業変革とは?
AI研修は「一度やって終わり」の施策ではありません。むしろ、続けることこそが、企業を変える力になります。
継続的なAI研修によって得られるのは、単なるスキルの蓄積ではなく、“変化に対応できる組織”への進化です。
変化対応力が“組織の競争力”になる
生成AIをはじめとするテクノロジーの変化は加速しています。
その中で「今使えるツールを学ぶ」だけではなく、“新しいツールに順応し続けられる人材”を育てることが、真の競争力となります。
継続的なAI研修は、こうした“変化耐性の高い人材層”を組織に根づかせる手段でもあるのです。
組織内に“学習する文化”が生まれる
AI研修を続けていくと、単にAIに詳しい人が増えるだけではありません。
部門を越えて知見を共有し、業務を改善することが“日常”になっていきます。
これはつまり、学びと改善が自然と回る“学習する組織”が育っていくということです。
人材育成から“組織能力の向上”へ
継続的な研修がもたらす成果は、個人スキルの向上だけにとどまりません。
研修の設計や成果の共有、制度との連動を通じて、会社全体の“仕組み化能力”や“ナレッジ活用力”が強化されていきます。
これはまさに、人材育成から「組織開発」への進化ともいえるプロセスです。
こうした変化を生み出すには、“継続できる仕組み”を正しく設計することが不可欠です。
まとめ|AI研修を「続ける仕組み」に変えるために
AI研修は、やって終わりでは意味がありません。
「どう続けるか」「どう根づかせるか」にこそ、本質があります。
本記事では、AI研修を継続・定着させるためのポイントとして、以下の視点を紹介しました:
- 継続できない原因は、「目的の曖昧さ」「現場との乖離」「実践の欠如」
- 続けるための仕組みとして、「現場起点の設計」「アウトプット機会」「学習のリズム化」が重要
- 制度化の工夫として、「スキルの可視化」「人事制度連動」「ナレッジの仕組み化」が効果的
- 巻き込みの設計によって、経営層・中間管理職・現場を動かすことが可能
- よくある失敗も、設計と運用の工夫で回避できる
これからのAI時代において、求められるのは「ツールを使える人」ではなく、変化し続けることに適応できる組織です。
その第一歩として、AI研修を“続ける仕組み”に変えることが、多くの企業にとっての突破口になるはずです。
そして私たちSHIFT AIでは、現場で“使われる”研修を、組織に合わせて設計・提供しています。
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FAQ(よくある質問)
- QなぜAI研修は継続しづらいのですか?
- A
多くの企業で「研修の目的や成果指標が曖昧」「業務と関係のない内容」「実務での活用機会がない」といった課題があり、研修が一過性のイベントになってしまうからです。継続には、仕組みと実践設計が不可欠です。
- QAI研修を制度として組み込むにはどうすればいいですか?
- A
評価制度や人材要件と連動させることで、研修が組織運営に直結するものになります。たとえば「AI活用スキルを昇進条件にする」「推進役を評価に反映する」などの制度連携が効果的です。
- Q継続的なAI研修はどれくらいの頻度で行うべきですか?
- A
企業の状況によりますが、最低でも月1回のフォローアップ研修や共有会を設定すると、継続しやすいリズムを保てます。また、学習の“習慣化”を促す仕掛け(Slack投稿、LT会など)も有効です。
- Q社内のAI研修を外部に依頼するメリットは?
- A
中立的かつ体系化された内容を提供できる点、社内リソースに依存せず“設計・評価・改善”のPDCAを回せる点が挙げられます。また、最新事例や他社動向も踏まえた実践知を取り込めるのも利点です。外部パートナーの知見を取り入れつつ、ゆくゆくは「内製化支援」にもつながる設計が理想的です。
とくに、外部研修では、研修設計・実行・評価・改善までを一気通貫で支援し、PDCAサイクルを高速で回すことが可能です。
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- Qまず何から始めるべきですか?
- A
まずは業務に即した活用テーマの棚卸しから始めましょう。そのうえで、対象部門・テーマを限定したスモールスタートがおすすめです。小さな成功を積み重ね、社内での展開基盤を築くことが重要です。
- QAI活用推進チームはどのように作ればいいですか?
- A
各部門から代表者を選出し、役割と権限を明確にした上で「部門横断型のチーム」として機能させるのが有効です。活動内容はナレッジ共有・活用支援・改善提案などが中心です。
- Q経営層や現場を巻き込むコツはありますか?
- A
経営層にはROIや競争優位性、中間管理職には業務効率化、現場社員には成功事例や具体的メリットを訴求するなど、ステークホルダーごとに切り口を変えることが重要です。