「DXが進まない」──
そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
特に経営層にとっては、「これだけ投資してもなぜ変化が起きないのか」というもどかしさがあるはずです。 単に現場が慣れていないだけではなく、“変革を担える人材”が育っていない──この視点が欠けていると、DXは机上の空論に終わってしまいます。
業務のデジタル化を掲げ、ツールを導入し、研修も実施した。にもかかわらず、なぜ現場は変わらないのでしょうか。
多くの企業で共通して見られるのは、「仕組みは整ったのに活用されない」という現象です。
チャットツールやデータ分析基盤が導入されても、現場の業務は旧来のまま。ツールは“入れただけ”で終わり、DXの本質である業務改革や意思決定の高度化にはつながっていません。
このような“定着しないDX”の裏には、ある見落とされがちな要因が存在します。
それが「AIリテラシーの不足」です。
AIリテラシーとは、単にAIの仕組みを知っているという知識ではありません。
ChatGPTやCopilotのような生成AIを“業務のなかでどう使うか”、その判断力や活用力のことです。つまり、「AIを使いこなせる人材」が育っていない状態では、いくらDXを推進しても、その成果は限定的になってしまうのです。
本記事では、なぜ今、AIリテラシーがDXの鍵になるのかを紐解きながら、企業が陥りがちな落とし穴や、実際に現場を変えるための育成ステップを解説していきます。
AIリテラシーとは何か?DXリテラシーとの違い
デジタル変革を推進するうえで、「AIリテラシー」や「DXリテラシー」といった言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、これらの用語は混同されやすく、それぞれの違いや役割を正しく理解できていないケースも多いのが実情です。
では、まずAIリテラシーとは何かを整理してみましょう。
● AIリテラシーとは:AIを“使える知識”に変える力
AIリテラシーとは、AIの仕組みや限界、活用方法を理解し、実業務の中で適切に使いこなす力のことを指します。
たとえば、ChatGPTやMicrosoft Copilotを導入したとしても、
- どう質問すれば有効な回答が得られるか
- どの業務に適用すべきか
- 出力された情報の正誤や信頼性をどう判断するか
といった“現場での判断と活用”が求められます。
つまり、AIリテラシーとはツールを活かす思考力・実行力そのものであり、単なる技術知識ではありません。
👉 参考:
AIリテラシーとは|企業で“使いこなせる人材”を育てる5ステップ
● DXリテラシーとの違い:目的とカバー範囲
一方、DXリテラシーとはより広範な概念で、
- ビジネス変革に向けたデジタル活用の理解
- データドリブンな意思決定
- 業務プロセスの再構築
などを含む、DX全体を推進するための基盤的な知識やスキルを意味します。
その中の1ピースとしてAIの理解・活用も含まれますが、AIリテラシーはより「実装・現場活用」に近いテーマです。
リテラシー種別 | 主な対象 | 特徴 |
DXリテラシー | 組織変革、経営戦略 | 広範な変革視点・マネジメント要素を含む |
AIリテラシー | 実務現場、業務活用 | ツール理解+業務設計・判断力にフォーカス |
● さらにややこしい? ITリテラシーやデジタルスキル標準との違い
混同されやすい用語として「ITリテラシー」もあります。これは一般的に、
- PC操作
- 情報セキュリティ
- 基本的なシステム利用スキル
といった技術的な基礎力を意味します。
また経済産業省が策定した「デジタルスキル標準(DSS)」では、
- DXリテラシー標準(全社員向け)
- DX推進スキル標準(推進人材向け)
という2層での人材スキル定義がされています。
▶ 参考リンク:経済産業省 デジタルスキル標準(DSS)
つまり、AIリテラシーは「実務にAIを活かす力」であり、DXリテラシーやITリテラシーと連携しながら、DXの現場定着に直結する要素として機能するのです。
なぜAIリテラシーがDXを左右するのか
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、「テクノロジーを活用して業務やビジネスモデルを根本から変革する」ことが目的です。
しかし、いざツールを導入しても「使いこなせない」「業務が変わらない」「現場がついてこない」といった課題に直面する企業は少なくありません。
こうした“進まないDX”の多くに共通しているのが、現場のAIリテラシー不足です。
なぜAIリテラシーが、DXの成否を左右するのでしょうか?
● 現場の業務変革を支えるのは“使いこなす力”
CopilotやChatGPTといった生成AIの登場により、今や業務プロセスは「AIを前提に再設計する」時代に入りつつあります。
たとえば、次のような変化が生まれています。
- 資料作成や議事録作成をAIで自動化
- 社内ナレッジの検索や要約にAIを活用
- 日報や週報のドラフトをAIが作成
これらの技術はすでに現場に導入可能ですが、活用する人材のスキルによって成果に大きな差が生まれます。
つまり、AIを使いこなすことができる現場こそ、業務の進化を自走できるのです。
● ツール導入だけでは“変革”は起きない
多くの企業では、ツール導入がDXのゴールになってしまっています。
しかし、真に求められるのは「ツールを通じて、どう業務や意思決定を変えるか」という視点です。
AIリテラシーがなければ、
- 「とりあえず試したがうまく使えない」
- 「結局従来のやり方に戻ってしまう」
- 「個人頼みになって全社に広がらない」
といった形で、DXの取り組み自体が形骸化してしまいます。
● “自分ごと化”されて初めて、現場に定着する
AIリテラシーが育まれると、現場の捉え方が変わります。
- 「これは業務の何を変えられるか?」
- 「この業務にも使えるのでは?」
- 「他部署と連携すればもっと効率化できるかも」
といった主体的な活用・改善のマインドが芽生えるのです。
つまり、AIリテラシーはツールの活用促進だけでなく、組織全体の変革エンジンにもなり得るのです。
AIリテラシーが低い組織で起こる3つの問題
ツールは導入した。研修も行った。
それでも現場が変わらない——。
そんな声をよく耳にします。
その背景には、組織全体としてAIを活用する土壌=AIリテラシーが十分に育っていないことがあります。ここでは、AIリテラシーが不足している組織で実際に起きがちな問題を3つに整理して解説します。
● 問題① ツールが導入されても使われない
新しいAIツールを導入しても、「どう使えばいいのか分からない」「業務と結びつかない」といった理由で、現場で活用されないまま放置されるケースは少なくありません。
表面的には“DXの施策”が動いていても、現場にとっては「また新しいルールが増えた」という印象しか残らないのです。
👉 関連記事:
Slackを使いこなせない理由とは?“新しいツール導入”がうまくいかない組織に共通する4つの罠
● 問題② 成功事例が属人化して拡がらない
一部の“できる人”だけがAIを使いこなして成果を上げても、それが組織全体に広がらなければ、変化は一過性のものになってしまいます。
社内で横展開が進まない背景には、個人の工夫やスキルに依存した使い方になってしまっていることが多く、組織として再現性のある活用ノウハウに昇華できていないのです。
● 問題③ 経営と現場の温度差が埋まらない
経営層は「生成AIの活用を進めたい」、しかし現場は「よく分からないし、業務に支障が出るのでは」と慎重——。
こうしたリテラシーのギャップは、現場の萎縮や形だけの導入につながり、DX推進のブレーキになります。
この溝を埋めるには、全社的に共通言語としてのAIリテラシーを底上げすることが不可欠です。
このように、AIリテラシーの不足はDXの“足かせ”となるだけでなく、現場の自走力を奪う要因にもなっています。
また、企業によっては部署や部門ごとにAIリテラシーの差があるケースも多いです。こうした部署感の温度差が大きいこともDX推進において大きな痛手に。こちらについては次の記事で詳しく解説しています。
▶︎ 部門ごとに違うAIリテラシー|温度差を乗り越える実践アプローチ
次のセクションでは、この問題をどう乗り越えるか——企業が育てるべき“AIを使いこなす人材”について解説します。
企業が育てるべき“AIを使いこなす人材”とは
AIリテラシーの重要性が高まる中で、企業には「どのような人材を育てるべきか?」という問いが突きつけられています。
単にツールの使い方を知っているだけでは、DXを前進させる力にはなりません。
本当に必要とされているのは、AIを活用して現場を変革できる“実装型人材”です。ここでは、そうした人材に求められる3つの要件を紹介します。
● 業務プロセスをAI前提で再設計できる
業務をそのままデジタル化するのではなく、「どの業務をAIで代替・拡張できるか?」という視点で業務設計ができる力が求められます。
たとえば、
- 定型資料はAIに任せて、意思決定に時間を使う
- ナレッジ整理やFAQ作成をAIで効率化する
といったように、AIの特性を理解し、活用前提で業務を再構築できることが重要です。
● ツール活用を「仕組み」にできる
生成AIツールを“その場限りの便利機能”として使うだけでは、再現性のある変革にはなりません。
求められるのは、活用ノウハウを形式知化し、チームや部署に展開できるスキルです。
- プロンプト例のテンプレート化
- ユースケースごとのガイド作成
- 利用ルールやナレッジ共有の仕組みづくり
このように、個人スキルを組織の武器に変える力が成果の“スケール”を決定づけます。
● 部門横断で“AI活用のハブ”になれる
AIの導入は特定部署だけで完結するものではなく、全社横断での連携と波及が鍵を握ります。
そのため、AIを使いこなす人材には、
- 他部門と連携しながらユースケースを共有できるコミュニケーション力
- セキュリティ・リスクを踏まえた適切な活用判断
- ユーザー部門の“現場課題”に寄り添う視点
といった、橋渡し役としてのスキルセットも必要です。
このように、「AIリテラシーを持った人材」とは、単なるツールユーザーではなく、現場変革の推進者であり、組織に変化をもたらすハブとしての役割を果たします。
では、こうした人材をどう育てるべきなのか? 次のセクションでは、企業が実践すべき育成ステップを具体的に解説します。
AIリテラシーをDX推進に活かすための3ステップ
「AIを使いこなせる人材」がDXを支えるとはいえ、それをどう育てればよいのか。
多くの企業がつまずくのは、“育成の進め方”に明確な道筋が見えないことです。
ここでは、AIリテラシー育成をDX推進に活かすための3ステップをご紹介します。
● ステップ①:現状のリテラシーを“見える化”する
まず重要なのは、組織内のAI理解度・活用度を客観的に把握することです。
現場ごとにバラバラな温度感やスキルレベルのままでは、育成の優先順位も定まりません。
- 生成AIの利用経験の有無
- AIに対する理解度(仕組み・できること・限界)
- 利用意欲や現場課題との紐付き具合
これらを把握し、部署別・職種別にギャップを特定することが、戦略的育成の第一歩となります。
● ステップ②:基礎研修+実務直結型トレーニングを組み合わせる
AIリテラシーの育成は、「講義形式の研修だけ」では定着しません。
“実務との接続”が、学びの定着と自走のカギになります。
- 初期段階では、AIの基本原理やユースケースを学ぶ研修
- その後、業務上のプロンプト設計やCopilot活用を“自分のタスク”で試す演習
- 定期的なレビューや壁打ちの場を設け、継続的なフォローアップ
👉 参考:
AIリテラシーとは|企業で“使いこなせる人材”を育てる5ステップ
● ステップ③:中核人材を起点に“波及”させる仕組みをつくる
全社員を一気に変えるのは困難です。まずは、部門ごとにAI活用をリードできる“中核人材”を育成することが有効です。
- 日常業務の中でAIの活用例を社内に共有
- 活用テンプレートやナレッジを横展開
- 他部署からの相談に応じる“社内コーチ”としての機能も担う
こうした中核人材が“火種”となり、組織内でAI活用が自走する文化をつくることが、最終的には全社的なDX推進力につながります。
私たちSHIFT AIでは、Copilot・ChatGPTなど、生成AIを業務に組み込む力を育てる法人研修プログラムをご紹介しています。
\ 生成AI時代の“使える人材”をどう育てますか? /
AIリテラシー育成の落とし穴と、成功企業の特徴
AIリテラシーの重要性を理解し、実際に研修や教育施策を始める企業も増えています。
しかし、多くの組織が「育成をしているのに変化が起きない」という壁にぶつかっています。
ここでは、企業が陥りがちな“育成の落とし穴”と、それを乗り越えてDXを推進している企業の共通点を整理します。
● 落とし穴①:研修が“単発イベント”で終わっている
よくあるのが、1回きりの講義型研修で満足してしまうパターンです。
受講直後は理解が深まっても、実務で活かす場がないまま忘れられてしまえば、投資対効果は極めて低くなります。
AIリテラシーのようなスキルは、「使ってみて」「振り返って」「再設計する」ことで定着します。
つまり、研修→実践→フォローアップという連続的な学習設計が不可欠です。
👉 関連記事:
研修しても人が育たない職場の特徴|“やりっぱなし教育”を脱する5つの処方箋
● 落とし穴②:現場の業務とつながっていない
AIの活用スキルを学んでも、それが自分の仕事にどう役立つかが見えなければ、現場には定着しません。
形式的な研修で終わらせず、自分の業務にそのまま活かせる演習やケーススタディを取り入れる必要があります。
成功している企業では、研修設計時点から
- 具体的な業務課題(例:資料作成、顧客対応、社内文書整理など)をベースに
- それらにAIをどう組み込むかを“実践的に学ぶ”構成
といった形で、“現場での使いどころ”を意識させる仕掛けが組まれています。
● 落とし穴③:育成対象が現場任せ、経営が関与していない
AI活用の推進を「現場に任せている」だけでは、変化は起こりません。
むしろ、現場が“手探りでどうにか使おうとしている”ケースが多く見られます。
成功している企業は、
- 経営層・マネジメント層が自らAI活用にトライし
- 現場と同じ言語で課題や活用方法を議論できる状態をつくる
というように、“上からも下からも”リテラシーを育てる文化が醸成されています。
育成はしているのに成果が出ない――そんな悩みがあるなら、上記のような落とし穴にハマっていないか、一度見直してみる価値があります。
まとめ|“AIリテラシーがある組織”こそ、DXを成功させられる
DXの推進がうまくいかない原因を「ツールやシステムの問題」と捉える企業は少なくありません。
しかし、本質的な課題は、それらを使いこなす“人”の側にあるのです。
本記事で紹介してきた通り、AIリテラシーは単なる知識ではありません。
業務の中でAIを使いこなす“実践知”であり、現場の変化を引き起こすエンジンです。
✅ DXの成果を左右するのは、ツールそのものではなく
✅ それを活かせる“AIを使える人材”がいるかどうか
この視点に立てば、「AIリテラシーの育成」はDXの“補助施策”ではなく、成功の中核戦略であると捉えるべきです。
今こそ、ツールを導入するだけでなく、それを活かす人材を育て、組織に変化を波及させるフェーズへと踏み出しましょう。
DXを推進するカギは「業務で活かせるAIリテラシー」にあります。現場の活用力を高める法人研修プログラムをSHIFT AIではご案内しています。
\ 生成AI時代の“使える人材”を育てるなら /

🔍 FAQ:AIリテラシーとDX推進に関するよくある質問
- QAIリテラシーとDXリテラシーの違いは何ですか?
- A
DXリテラシーは、デジタル技術を使ってビジネスや業務を変革するための広範な知識や視点を指します。
一方でAIリテラシーは、生成AIなどのツールを「現場でどう活かすか」という実装・運用スキルに特化した能力です。つまり、DXの実行段階で“活かせる人”になるために必要なのがAIリテラシーです。
- QAIリテラシー教育は誰から始めるべきでしょうか?
- A
理想は経営層・マネジメント層・現場リーダー層の3層で並行して育成することですが、最初の一歩としては
- AI活用に前向きな実務層(PoC実行可能な現場)
- 横展開できる中核人材(デジタル推進役)
から始めると効果的です。
小さな成功体験を生み出し、それを社内に展開する流れが育成・定着の鍵です。
- AI活用に前向きな実務層(PoC実行可能な現場)
- QすでにAIツールは導入していますが、うまく活用されていません。どうすれば?
- A
よくある原因は、現場が「なぜ・どう使うか」を理解していないことです。
- AIで何ができて、どこまで任せられるのか
- 自分の業務のどこにAIが使えるのか
といった視点が育っていないと、導入しても使われないままになります。
まずは業務ベースの具体的ユースケースとともに、活用思考を育てる研修を行うのが効果的です。
- AIで何ができて、どこまで任せられるのか
- Q非デジタル部門でもAIリテラシー教育は必要でしょうか?
- A
はい。むしろ非IT部門こそAI活用の“潜在領域”です。
人事・総務・営業・企画など、文書作成やデータ整理などの業務が多い部門ほど、AIによる効率化・高度化の恩恵を受けやすいです。そのため、専門知識がなくても理解できるリテラシー教育設計が求められます。
- Q効果的なAIリテラシー研修の設計ポイントは?
- A
- 業務に直結したユースケースがあること
- 一方通行の座学ではなく、実践やワークショップが含まれること
- 研修後のフォローアップや活用支援が設計されていること
が重要です。
研修は単発ではなく、“使いこなせる状態”を目指す継続支援が成功の鍵です。
- 業務に直結したユースケースがあること