累計成約件数11,000件超、年間1,000件を超えるM&A仲介を手がける日本M&Aセンター。中小企業の事業承継を35年以上にわたって支えてきた、業界最大手です。

その強みの源泉は、2014年のSalesforce導入から積み上げてきた商談・顧客データにあります。同社はいま、この10年以上の基盤を活かし、商談分析やマッチング候補のレコメンドなど、M&Aプロセスの各段階にAIを組み込み始めています。

ただ、「M&Aは秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われるほど機密性の高い業界です。

取引の存在そのものが秘密であり、経営者の人生の決断に寄り添うこの仕事で、AIの導入は一筋縄ではいきません。

秘密保持とAI活用を両立させながら、どうやって全社へ浸透させてきたのか。マーケティング本部を管掌する仲川薫氏に伺いました。

仲川 薫

株式会社日本M&Aセンター 常務取締役 マーケティング本部長

リクルートでマーケティング局長を務め、2023年に日本M&Aセンターへ参画。マーケティング本部を管掌し、データドリブンなブランディング・IT・DX領域を統括する。


※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。


人気No.1セット
【経営層・DX推進担当者向け】
最短で事業成果を生む
生成AI活用必須3資料を無料配布
▼ 受け取れる3つの資料
  • 【戦略】成果を出すAI組織導入の設計フレーム
  • 【失敗回避】導入企業が陥る6つの落とし穴と対策
  • 【実践】業務で使えるプロンプト設計法
戦略・回避・実践を一気通貫で入手

データは資産。10年の蓄積がAIの初速を決めた

日本M&Aセンターのデータ活用は、生成AIブームのはるか前から始まっています。

2014年にSalesforceを導入して以来、10年以上にわたって商談記録や顧客情報を蓄積してきました。その背景にあったのは、経営陣の強い意志です。

仲川氏

当社の経営者には、データは金融機関における”現金”と同じだという思想があります。データを収集・入力しないことは、仕事をしていないのと同じです。入力しなければSalesforceのアカウントがロックされる。そこまで徹底して、データを貯める文化をつくってきました

「何のために貯めるのか」も明確でした。

世の中にまだ出ていない経営者の考えやニーズを、自社の資産として蓄積していく。この目的を共有した上で、入力を徹底する文化を10年以上かけてつくり込んできたのです。

だからこそ、生成AIが登場したとき、活用できるデータがすでにそこにありました。

DXを飛び越えてスムーズにAI活用のフェーズに入れたのは、この蓄積があったからだと仲川氏は振り返ります。

AIは業務システムに繋いで、初めて動く

とはいえ、AIツールを導入しただけでは浸透は進みませんでした。

同社が最初に全社展開したChatGPTの利用率は、約3割にとどまっていたといいます。原因は明快でした。業務の根幹であるSalesforceと繋がっていなかったからです。

仲川氏

AIが単独で動いていても、使えないんです。文書作成だけができても、業務プロセスと繋がっていなければ意味がない。会社のシステムと繋げて、ちゃんと使えるようにする。これが一番重要だと考えています

この課題を解決したのが、Slack AIの導入でした。

Slack経由でSalesforceのデータを引き出しながら業務を効率化できるようになったことで、現場の利用が一気に広がります。仲川氏が「最近やったなかで最も大きな変革」と語る一手です。

あわせて、Microsoft Copilotもセキュリティ実装済みのツールとして全社展開。

この2つを「会社全体で使ってよい」ものと位置づけ、それ以外のツールは段階的に利用者を広げる方針を取っています。

「秘密保持」の業界を支える、仕組みと人の両輪

M&A仲介では、取引の存在そのものが秘密情報です。この業界でAIを導入するには、セキュリティの設計が欠かせません。

同社のアプローチは、「ツールの選定」「利用者の段階的な拡大」「人の教育」という三本柱で構成されています。

まず会社としてセキュリティチェックを行い、使ってよいツールと使ってはいけないツールを明確にする。その上で、新しいツールはまず限られた人に使ってもらい、ユースケースを確立してから全体へ展開していきます。

仲川氏

どんなにシステムで制御しても、使う人がうっかりしていれば、どうなるか分からない部分もあります。セキュリティチェックだけでなく、人の振る舞いや意識を高めていくことが、まず必要だと考えています

この考え方を体現するのが「AIエバンジェリスト」の取り組みです。

M&Aコンサルタントのなかから一部のメンバーを選び、開発の思想やプログラミングの基礎に触れてもらう。そうして「AIで何ができるのか」を正しく理解した人が、現場で活用の道筋をつけていきます。

エバンジェリストがプロトタイプとして使いこなし、全社へ広げる。システムによる制御と人の教育を並行して進めるこの設計が、機密性の高い業界でのAI活用を支えています。

浸透を動かした「3点セット」

多くの企業がぶつかるAI浸透の壁を、同社は「ワクワク感の演出」「経営の意思表示」「現場の丁寧なフォロー」の3点セットで越えてきました。

導入時には、「これをやったらすごく良いことがある」というワクワク感をどう伝えるか。他社事例も交えながら、活用の可能性を具体的に見せていきます。

仲川氏

導入しただけでは、絶対に使われません。まずはワクワク感をどう演出するか。そして経営として、これは絶対にやるんだという意思を一緒に乗せていくことが、とても大事です

経営層の本気は、順番にも表れています。

まず部長レイヤーから勉強会を実施し、AIの現状や戦略の意図、得られるメリットを浸透させた上で、全社員への展開へ進みました。

経営層が自ら理解し、自信を持って推進できる状態をつくることを重視しています。

そして展開後も、半年がかりの勉強会やリテラシー教育を継続。導入して終わりにせず、現場が「使い続けられる」状態をつくり込んでいます。

AIに渡せない「覚悟」という仕事

AI活用の先に、仲川氏は明確なビジョンを描いています。

営業の現場では、お客様に向き合う時間より、資料作成や情報収集に追われがちです。AIでこの比率を変え、お客様と向き合う時間を増やすことこそが、同社がAIに取り組む最大の目的です。

仲川氏

AIにできないのは、人生を預かる覚悟を持つことです。根底には、会社はモノではなく、社員やご家族など多くの方々の人生が紡がれる場所だという考えがあります。当社のコアバリューは『プロフェッショナルたれ』ですが、AIには覚悟を持てないからこそ、信頼関係を築いてお客様に寄り添う時間をどれだけ増やせるかが、これからの勝負になります

600名超のM&Aコンサルタントが全員でマッチングに参加する同社独自の仕組みも、AIによって進化しつつあります。人が見落としていた候補をAIがレコメンドして抜け漏れをなくし、リスク分析を先回りで行うことで、お客様に安心を届ける。

効率化の先にあるのは、「最高のM&Aをより身近に。」というパーパスの実現です。

AIに任せる仕事と、人が覚悟を持って担う仕事。その線引きを組織全体で共有することが、同社の設計思想の根幹にあります。

日本M&Aセンターから学ぶ3つのポイント

1. データの蓄積が、AI活用の「初速」を決める

2014年からSalesforceにデータを貯めてきた10年の土台があったからこそ、生成AI時代に即座に活用フェーズへ移行できました。ツールの選定より先に、データを貯める文化をつくることが先決です。

2. AIと業務システムの接続が、浸透の分岐点になる

単体で使えるAIを配るだけでは利用率は上がりません。業務の根幹であるSalesforceとSlack経由で繋いだことが、「仕事で使える」という実感を生み、全社浸透の転換点になりました。

3. セキュリティは「仕組み」と「人」の両輪で担保する

ツールのチェックだけでは不十分です。利用者を段階的に広げ、AIエバンジェリストの教育で活用をリードしていく。この両輪が、機密性の高い業界でのAI活用を成功へ導きます。

AIに何を任せ、何を任せないのか。日本M&Aセンターの答えは明確です。

「人生を預かる覚悟は、人が持つ」。急いでツールを配るのではなく、データの蓄積・業務システムとの接続・人の教育という土台を順に積み上げる。その「急がば回れ」が、秘密保持が最重要視される業界で、AIを静かに解き放っています。

「AIを導入したのに現場で使われていない」「セキュリティが不安で全社展開に踏み切れない」──そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。

SHIFT AIは、戦略設計から伴走型研修まで、組織を次のステージへ引き上げる支援をいたします。

AIへの意識と行動をSHIFTする
法人向け支援サービス

「生成AIを導入したけど、現場が活用できていない」「ルールや教育体制が整っていない」
SHIFT AIでは、そんな課題に応える支援サービス「SHIFT AI for Biz」を展開しています。

導入活用支援
AI顧問

活用に向けて、業務棚卸しやPoC設計などを柔軟に支援。社内にノウハウがない場合でも安心して進められます。

  • AI導入戦略の伴走
  • 業務棚卸し&ユースケースの整理
  • ツール選定と使い方支援
経営層向けコミュニティ
AI経営研究会

経営層・リーダー層が集うワークショップ型コミュニティ。AI経営の実践知を共有し、他社事例を学べます。

  • テーマ別セミナー
  • トップリーダー交流
  • 経営層向け壁打ち支援
研修
AI活用推進

現場で活かせる生成AI人材の育成に特化した研修パッケージ。eラーニングとワークショップで定着を支援します。

  • 業務直結型ワーク
  • eラーニング+集合研修
  • カスタマイズ対応

🔍 他社の生成AI活用事例も探してみませんか?

AI経営総合研究所の「活用事例データベース」では、
業種・従業員規模・使用ツールから、自社に近い企業の取り組みを検索できます。

企業の生成AI活用事例を探す