「デジタルとリアルの融合で、まだない価値を創り続ける。」を企業理念に掲げ、不動産、顔認証IDプラットフォーム、システムインテグレーションの3事業をグループで展開するミガロホールディングス。
「全社員DX人財化」を旗印に、自社の現場で生成AIを使いこなす実践を積み重ねてきました。その鍵は、AIを入れることではなく「どう使い、どう組織に根づかせるか」にあります。
その象徴が、営業の現場に根づいた「商談分析AI」です。議事録作成を95%、ロールプレイング工数を73%削減するという成果を上げています。
ただ、同社が見据えているのは効率化そのものではありません。AIが当たり前になった先にある「人にしかできない仕事」の輪郭です。
グループ全体のマーケティングとカスタマーサクセスを統括する山本悟史氏に、生成AIをどう組織に根づかせ、その先にどんな未来を描いているのかを伺いました。

ミガロホールディングス株式会社 CMO / CCSO
電通で営業・クリエイティブに携わり、アドビ日本法人でカスタマーサクセス責任者を務めた後、2025年にミガロホールディングスへ参画。グループ全体のマーケティングとカスタマーサクセスを統括し、業務のAI化を推進する。
※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。
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生成AIは「組織のあり方を変える仲間」
ミガロホールディングスにとって、生成AIとはどのような存在なのか。山本氏は、単なるツールを超えた言葉で語ります。

「業務のあり方、組織のあり方を抜本的に変えてくれる、強力なツールであり仲間のような感覚で捉えています。どうすれば組織としてそのパワーを最大化できるか。今まさに、全社をあげて取り組み始めているところです」
生成AIと本格的に向き合い始めたのは、2025年4月頃でした。きっかけは、グループの不動産事業における営業活動の課題だったといいます。

「生成AIを使うことで、生産性をかなり高められるのではないか、営業力を強化できるのではないか。そう考えて取り組みをスタートしたのが、組織的に使い始めた最初のきっかけです」
同じころからAI人材の採用も積極的に進め、会社としてこの領域を強化する姿勢を明確にしていきました。ミガロホールディングスのAI活用は、現場の切実な課題から立ち上がったのです。
ロープレの工数を73%削った「商談分析AI」
取り組みの成果が最もわかりやすく表れているのが、不動産領域で本格運用されている「商談分析AI」です。
商談を録画し、内容を分析してSalesforceへ自動入力する。この一連の流れを、生成AIで自動化しました。

「議事録の作成時間は、ほぼゼロになりました。数字にすると95%ほど削減できています」
効果は議事録にとどまりません。
後輩育成のためのロールプレイングも、動画分析で個人の課題が見える化され、そこにかかる工数は73%ほど減りました。商談後にSalesforceへ入力していた5〜10分の作業も、内容の確認と追記だけで済むようになっています。
こうした効率化は、営業の成果にも表れています。
これまで1日3〜4件が限界だった商談が、導入後は1人あたりの件数が増えていると、データにも示されているといいます。
同社はこの仕組みを社外にも広げ始めています。商談分析AIを取引先へサービスとして提供するほか、同じ発想を人事に応用し、面接の精度を高めて採用のミスマッチを減らす取り組みも、一部でテスト運用が始まっています。
活用は営業だけにとどまりません。
グループ全体で約300人のエンジニアもAI駆動開発に取り組み、プロトタイプ検証のスピードは飛躍的に上がりました。生まれた余力は、顧客の課題を捉える仕事やUIの改善へと向けられています。
生まれた時間を、個人に閉じない
生成AIによって生まれた時間を、どこに向けるのか。山本氏は、これを「最近ようやく乗り越え始めた壁の一つ」だと言います。

「生産性が上がった、効率化ができたという実感を社員は持っている。けれど、空いた時間を何に使えているかというと、結局これまで手がつけられなかった業務を自分で探してやり始めてしまう。そういう社員が多いという気づきがありました」
個人に閉じてしまうと、削れたはずの時間が別の仕事にそのまま吸収され、組織全体で見るとアウトプットが大きく変わらない。そんな兆候が見えたといいます。
そこで同社は2026年春から、チームごとに業務の棚卸しを行う取り組みを始めました。
生成AIでどれだけの工数が削減でき、空いた時間を何に使うのか。その計画をマネージャーが見える化し、人的リソースの配分を設計していく形です。
数か月の取り組みで、すでに成果も見え始めています。テストケースとなったのがマーケティングチームでした。

「これまで2か月に1回ほどの頻度で開催していたセミナーを、同じ工数で2倍開催できるようになりました。実質的なコストは7割ほど削減できたので、開催頻度を月1回にまで引き上げられるようになったんです」
開催回数が増えれば、その分だけ顧客との接点も広がります。効率化はコスト削減にとどまらず、事業の成果そのものを押し上げ始めているのです。
さらに、生成AIを使わずとも自動化できる周辺業務を、社員が能動的に見つけて改善していく動きも生まれてきました。
そして山本氏が「大きな成果」と語るのが、採用への影響です。

「必ずしも人を減らすことがゴールではありません。ただマーケティングチームでは、当初の採用計画を見直せるほど生産性が上がりました。これは2026年春からの大きな成果の一つです」
配るのは「AI」ではなく「使い方の型」
浸透には壁もありました。全社員が高いレベルで生成AIを使いこなせているかといえば、そうではないと山本氏は率直に語ります。
個人として高いレベルで使える社員は一定数いる。しかし、それを組織に浸透させようとしたとき、必要になるのは業務フローそのものをAIネイティブに変えていくことでした。

「AIを与えられて使う人と、AIを組織に与えていく人。今はこの2つに分けて捉える必要があると考えています。全員一律で使っていこうという形では、なかなかうまくいくイメージが持てなかったんです」
組織のリーダーには、AIネイティブな「与える側」になってもらう。
チームの業務を工程分解し、どこをAIに任せてどこを人間が判断するのかを設計し、メンバーが使える形でAIを渡していく。それをDX部門と各組織のリーダーが協力しながら仕組み化していくことが、当面の目標だといいます。
では、まだ伸びしろのある社員は、どうすればレベルが上がるのか。山本氏は、これはAIに限った話ではないと語ります。

「まずやってみて、便利だと感じて、自分流で使い始めるフェーズが来ます。でも組織全体で生産性を上げるには、リーダーが『こういう使い方をしよう』と型を定義して、メンバーに落としていく必要がある。その型を使って、自己流よりもっと質が上がると成功体験を重ねることで、現場が底上げされていくんです」
上司が見本を見せ、そこから学んで自分もできるようになる。どの業務にも共通するこのプロセスを、AIでも踏んでいく必要があるという考え方です。
ガバナンスは「制限」ではなく「できることを増やす」ため
積極的に使ってもらうからこそ、ルールが要る。
ミガロホールディングスは、まず役員会議で会社としてのガバナンスを整える方針を決めました。具体的なガイドラインの策定は、DX推進部門が中心となって進めています。

「ガバナンスといっても、利用を制限することではありません。セキュリティを担保することはもちろん大事ですが、できることを増やし、活用できる幅を広げて、早く進めていくために整える。そこを一番大事にしています」
どんなデータを、どのAIに、どの環境でなら入れてよいのか。ここが曖昧なままだと、社員はかえって動けなくなってしまいます。
特に、個人情報の取り扱いには一般的には「原則入れない」としか書かれていないことが多く、現場は判断に迷います。
だからこそ同社は、個人情報保護法などの関連法令を守ったうえで「この環境ならここまで使える」という線引きをグループの規定として定めました。
禁止事項を並べるのではなく、使える範囲を明確にする。
それによって、かえって活用の幅が広がっていくといいます。あわせて、機密性の高い情報を安全に扱うための環境や基盤づくりも進めています。
人にしかできない仕事は「責任」と「信頼」
同社が描く未来像は、掲げる企業理念「デジタルとリアルの融合で、まだない価値を創り続ける。」と深く結びついています。
特に不動産事業では、AIが当たり前になるほど、ビジネスのコアである「人と人の信頼」が研ぎ澄まされていくと、山本氏は考えています。

「人が人らしい仕事、人にしかできない仕事をするための時間を、AIによって増やしていく。そういうプロフェッショナルが育ち、活躍するための環境や味方がAIだと捉えています」
では、人にしかできない仕事とは何か。山本氏は「責任」と「信頼」という言葉で答えます。

「仕事の責任を最後に取るのは、当然、人です。その責任感を持ってお客様と向き合えるのは人間だけ。特に不動産では、数字やシミュレーション、裏付けはもちろん常に勉強してお伝えしますが、最後に買うと決めていただく瞬間のポイントは『この人が言うのなら確からしい』という信頼です。それはお客様の声からも明らかなんです」
AIそのものへの向き合い方にも、同社ならではの慎重さがあります。

「AIは使い方を間違えると生産性が上がらない、まだ発展途上な部分もあります。だからこそ、どう使えば一番効果があるのかをお客様の立場で考えて提供したい。事業会社側で自社の課題を解決してきたノウハウが、そこで生きてくると思っています」
ミガロホールディングスから学ぶ3つのポイント
1. 効率化で生まれた時間は「組織」で設計する
生成AIで空いた時間は、放っておくと個人の別業務に吸収され、組織のアウトプットは変わらない。チーム単位で棚卸しし、時間の使い道をマネージャーが再設計してこそ、効率化は成果に変わります。
2. リーダーを「AIを与える側」に育てる
全員一律の号令では浸透しない。AIを使う人と、業務フローを作り替えて渡す人を分け、リーダーを後者に育てることが、組織全体の生産性を底上げします。
3. ガバナンスは「制限」ではなく「使える範囲」を決める
禁止事項を並べるほど、社員はかえって動けなくなる。「この環境ならここまで使える」と線引きするガバナンスこそ、安心して踏み込むためのアクセルになります。
AIが当たり前になるほど、人にしかできない仕事の輪郭は、むしろくっきりと際立っていきます。
ミガロホールディングスが磨き続けているのは、その「人と人の信頼」を強くするための時間なのです。
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