「人と企業が、惹かれ合う世の中へ。」をビジョンに掲げ、CRMを軸にデジタルマーケティング支援を26年続けてきたシナジーマーケティング。

「SaaS is Dead.」とも言われ始めたAIの波を前に、同社は2024年、全社を挙げてAI活用に舵を切りました。いまや個人利用はほぼ100%。

代表取締役社長 兼 執行役員CEOの奥平博史氏自身も、AI上に複数の仮想CXOを置き、“経営会議”を回すほど使い込んでいます。

号令だけでは現場は動かない。トップが背中を見せ、個人利用から「業務プロセスの作り替え」へ。同社の歩みと、AI時代に人が果たすべき役割を伺いました。

奥平 博史

シナジーマーケティング株式会社 代表取締役社長 兼 執行役員CEO

建築の現場監督としてキャリアをスタートし、通信ベンチャーでBtoCからBtoBまで幅広い営業を経験。2009年にシナジーマーケティングへ入社し、クライアント企業へのCRM導入ディレクション、事業責任者などを歴任。2017年に取締役副社長へ就任し、2024年に3代目となる代表取締役社長 兼 CEOに就任した。経営学修士(MBA)。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。


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「SaaSは終わる」と言われた日から

シナジーマーケティングが本格的に生成AIへ舵を切ったのは2024年。SaaSというビジネスの前提そのものが、業界で問い直され始めた頃です。

マーケティングSaaSを主力とする同社にとって、他人事ではありませんでした。これまで通りのやり方のままでは、お客様の期待を超える価値を出し続けられない。その危機感が出発点だったといいます。

この2年で、AIの位置づけそのものも変わりました。指示を出して作業を任せる「道具」から、協働する存在へ。

奥平氏

「もう、AIと一緒に仕事をするフェーズです。道具ではなく、チームのパートナー。全体の知能の一つだと捉えています」

いま社内の個人利用はほぼ100%に近い水準(ツールはGemini、ChatGPT、Claudeが中心)。ただ奥平氏は「まだ道半ば」と言います。

次に見据えるのは、個人の利用を業務プロセスそのものへ組み込む段階です。

奥平氏

「個人利用にとどまっていては、抜本的には変われません。生まれた余力で、新しいチャレンジをしていきたい。そのために、一人が使うものではなく、チームで使う仕組みを確立することが必須です」

同社はこれを「AX(AIトランスフォーメーション)」と位置付け、奥平氏が旗を振ります。

柱は二つ。社内の業務プロセスをAIで作り替える「AI BPR」と、自社プロダクトにAIを組み込み、顧客が迷わず施策を打てるようにする「AIプロダクト」。社内と社外、その両輪で進めています。そして、この二つを支える土台となるデータ・人材・組織が整った「AI-Ready」な状態を目指しています。

仮想CXOと回す“AI経営会議”

奥平氏のAI活用でとりわけ特徴的なのが、経営判断そのものへの活用です。

自身もGemini、ChatGPT、Claudeと複数を使い分けますが、なかでも使い込んでいるのが「Claude Code(クロードコード)」。

もともとはエンジニア向けに提供されている、AIが自律的に作業を進めるツールです。

奥平氏はこの上に、COO、CMO、CHRO、CFOといった役員を便宜的に配置しています。実在の役員ではなく、それぞれの立場でものを考えさせるための、AI上の仮想のCXOです。

そこへ経営課題を投げかけると、それぞれの立場から論点がぶつかり合う議論が立ち上がります。人間はCEOである奥平氏ひとり、という構図です。

奥平氏

「各CXOがどう考えるかを投げかけ、論点を出させ、協議させる。最終的にCEOである私にどんな提案をしてくるのか。それを一度、AI上で回すんです」

自分にはない情報や、隠れた論点への気づきが得られる。おかげで仮説の精度が上がり、現場への指示やフィードバックも、自分ひとりでは抜け落ちていた観点が入るようになったといいます。

AIとの壁打ちは、会議の質そのものも変えました。

自分の領域を越えて前後の文脈まで思考が及ぶため、人との議論が一層、「本質の課題」に踏み込めるようになったのです。

効率化で生まれた時間の使い道には、まだ個人差があると率直に認めつつ、経営としての狙いは明快です。

奥平氏

「空いた時間を、新しいビジネスやサービス開発に。まだ十分に届けられていないお客様にも、もっと価値を提供していきたいですね」

セキュリティの壁と、トップが背中を見せる浸透

浸透の道のりは、一足飛びではありません。2024年、まず立ちはだかったのはセキュリティとルール整備の壁でした。

情報システム・セキュリティ・法務が中心となり、学習の有無や利用規約を確認。自社の情報区分と照らして「会社として判断したツールを使う」ルートを整備しました。社員が迷ったときの相談窓口も設けています。

そのうえでの第一歩が「社内コンテスト」です。

奥平氏

「効果は問わないから、AI活用事例を何でも応募してほしいと。100件近く集まり、役員が審査して表彰しました。これが浸透の第一段階になりました」

続く段階では、組織・チーム単位での業務プロセスへの組み込みを目標制度に反映(2025年)。2026年からは「AX」を次のステージとして打ち出しています。

ここで奥平氏が徹底したのが、経営層が率先して使う姿勢でした。

奥平氏

「毎月の全社朝礼で、私自身の状況や考えを必ず発信します。各部長にも事例を発表してもらう。号令ではなく、経営層が率先して背中を見せていく。これをずっと続けています」

いま最も力を入れるのは、タスクのみではなく業務プロセスそのもののAI化です。

AIを活用した業務プロセスの再構築を推進するプロジェクトチームが各現場に入り込み、効果の高いテーマを徹底的にAI化しています。さらにその先には、活用度を可視化するアセスメントの導入も検討中。

評価制度への組み込みについても、検討段階としながら視野に入れているといいます。

「101点のサービス」に宿る、人の役割

未来像を尋ねると、奥平氏はまず業界の変化を挙げました。

人がUIを操作する前提のSaaSは終わり、AIが直接使う形や「成果」で契約される時代へ。マーケティングの現場でも、競争軸は「どんなツールを入れているか」から「顧客の成果にどこまで踏み込めるか」へ移るといいます。

奥平氏

「ツールの機能差は、AIの進化で消えていきます。差がつくのは、お客様の現場を理解し、成果が出るまで伴走できるか。26年続けてきた伴走の実績こそ、当社固有の資産です」

だからこそ、社員全員がAIを使うこと自体は目的ではなく手段だと奥平氏は考えています。

そして立ち返るのが、創業以来変わらないバリュー「101点のサービス」。期待を超える“+1点”をどこで出し続けるか、という問いです。

奥平氏

「仕事がAIに置き換えられるのではなく、私たちの役割が一段二段上がっていく。信頼関係を深め、何を成果と呼ぶかを一緒に定義する。人にしかできないところに、役割が移っていくんです」

それは、ビジョン「人と企業が、惹かれ合う世の中へ。」にも重なります。

AIによって、人と企業が惹かれ合う関係がより加速していく。奥平氏は、そこに「原点回帰」を見ていました。

シナジーマーケティングから学ぶ3つのポイント

1. 経営トップが「率先して使う」姿を見せる
奥平氏は毎月の全社朝礼で自ら発信し、Claude Codeを使った“AI経営”まで実践しています。号令ではなく背中で示すことが、全社の空気を動かしました。

2. 「個人利用」で止めず、「ワークフロー」へ引き上げる
個人の効率化にとどめず、業務プロセスごとAIで作り替える。専門チームが現場に入り込み、担当者が変わっても回り続ける仕組みを目指しています。

3. AIは手段。何を成果と呼ぶかは、人が定義する
競争軸は、どんなツールを入れているかから、顧客の成果にどこまで踏み込めるかへ移ります。信頼関係を築き、何を成果と呼ぶかを顧客と一緒に定義する。ここにこそ、人にしかできない“+1点”があります。

生成AIの時代に、変わるものと変わらないもの。シナジーマーケティングの答えは、創業以来のバリューに宿っていました。

期待を超える“+1点”を、人が出し続けること。AIが浸透するほどに、人と企業が惹かれ合う原点が、静かに輝きを増しています。

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