クラウドPOSレジをはじめとしたお店の基幹システムを提供する株式会社スマレジは、店舗運営のデジタル化を牽引する一方で、自社内の業務プロセスにおいても徹底したAI活用を推進しています。

同社がAI導入において重視しているのは、単なるツールの導入にとどまらない業務効率の抜本的な改善と競争力の強化です。

その中心を担うのが、開発本部内のCTO室です。同社では、エンジニアによる開発効率の向上から始まり、現在では営業やカスタマーサポートといった非開発部門にまで、専門チームが伴走する形でAI実装を進めています。

今回は、開発本部CTO室プロダクトチームのH.I氏と同室業務推進チームのT.K氏に、初期導入時の障壁をいかに突破したのか、そして営業やカスタマーサポートの現場でどのような成果が生まれているのかを詳しく伺いました。

H.I氏

株式会社スマレジ
開発本部 CTO室 プロダクトチーム

IT企業への入社を機にエンジニアを志し、大規模システムのバックエンド開発にてキャリアを研鑽。その後、小規模組織の開発部門立ち上げ責任者として、採用から経営判断まで全方位的な経験を積む。2022年12月に株式会社スマレジへ入社。開発本部 CTO室に所属し、大阪を拠点に活動。現在はPOSシステム「スマレジ」の開発に携わる傍ら、新規プロダクトの立ち上げや生産性向上に向けた施策を牽引している。また、AIツールの価値検証や利用促進にも注力しており、技術への深い造詣と組織づくりの経験を掛け合わせ、エンジニア組織の進化とプロダクトの多角的な成長を推進している。

T.K氏

株式会社スマレジ
開発本部 CTO室 業務推進チーム

販売・在庫管理システムやプリントシール機開発において、プログラマからデータエンジニア、データアナリストまで幅広い職種を経験。近年はビッグデータを用いた事業課題の分析やデータ利活用促進に注力しており、前職での約5年間にわたるデータ分析の経験を経て、2025年4月に株式会社スマレジへ入社。現在は生成AIを活用したプロダクトの付加価値創出や社内の業務効率化を推進している。広い視野とクリティカルシンキングを生かし、「客観的事実に基づき、相手の立場に立った分析と提案」をモットーに事業の最適解を導き出している。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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開発現場のレバレッジとして始まった生成AI導入の原点

スマレジにおけるAI活用の歩みは、エンジニア組織の生産性を極限まで高めたいという切実な想いから始まりました。導入のきっかけを作ったのは、ちょうどChatGPTが世界的な注目を集め始めた時期に入社したH.I氏でした。

当時、開発現場ではリソース不足が慢性的な課題となっており、個人の能力を組織全体の力として大きく膨らませるためのレバレッジが必要とされていました。

H.I氏は入社直後でありながら、当時のCTO(現CEO)である宮﨑龍平氏に対し生成AIの全面的な導入を提案しました。

導入にあたって最も大きな壁となったのは、新しい技術に対する漠然とした不安とセキュリティリスクへの懸念です。

特にソースコードの学習リスクや、機密情報の外部流出リスクといった点について、法務部門を含めた慎重な議論を重ねました。

H.I氏

「導入の初期段階では、AIの性能そのものに対する懐疑的な声もありましたが、まずは触れてもらうことが重要だと考えました。セキュリティや著作権といった懸念事項については、法務の方々に何度も確認をお願いして、ひとつずつ課題をクリアしていきました。責任は人間が取るというルールを明確にしたことで、組織としての迷いが消えたように感じます」

同社には良いものであれば積極的に取り入れるという風土があり、リスクを踏まえつつ、いかに安全に使いこなすかという視点で議論が進められました。

段階的なツール展開がもたらした全社への浸透プロセス

スマレジのAI導入は一気に全社員へ広めるのではなく、段階を踏んで着実に浸透させていく手法が取られました。

最初は特定のプロダクトチームでの試験運用から始まり、その後、課長職以上の管理職を対象とした解禁を経て、徐々に適用範囲を広げていきました。

開発現場ではコード作成を支援する専用ツールを導入し、業務のスピードを飛躍的に向上させる一方、全社的な利用を促すための独自の仕掛けも用意しました。

その象徴的な施策が、ビジネスチャットツールであるSlackへの専用botの導入です。

誰もが見ることができるオープンなチャンネルでAIと対話できるように設計されたこのbotは、社員同士が互いの活用方法を学び合う場となりました。

H.I氏

「Slackのbotを通じて、他の社員がどのようにAIに質問しているかを可視化したことが大きな転換点となりました。初歩的な質問や大喜利のような使い方もありましたが、それがかえって利用のハードルを下げる結果に繋がったと感じています」

APIを利用した従量課金制を採用することで、コストを抑えつつ全社員が気軽に試せる環境を構築したのです。この取り組みにより、AIは特別なツールではなく、日常的な相談相手としての地位を確立していきました。

課題解決の本質を突く“要求定義”の考え方と専門チームの役割

AIの活用が全社に広がる中で、スマレジはより専門的に業務改善を推進するためのチームを立ち上げました。このチームのミッションは、AIを単なる流行として追いかけるのではなく、各部門が抱える真の課題を解決することにあります。

T.K氏が所属するこのチームでは、現場のメンバーがAIを使って何を成し遂げたいのかという、目的の深掘りを徹底して行っています。

T.K氏

「現場の悩みを聞く際には、まずAIを使うことでどのような結果になってほしいのかを徹底的にヒアリングするようにしています。手段が先行してしまわないよう、課題の本質を見極める“要求定義”のプロセスを何よりも大切にしています」

同社が大切にしているバリューのひとつに、言われた通りの要件を満たすのではなく、相手が真に求めている要求を定義するという考え方があります。

AI推進チームは各部署の業務を詳細に分解し、どこにボトルネックがあるのか、その解決にAIが最適なのかを冷静に判断します。このプロセスを経ることで、導入後のミスマッチを防ぎ、実効性の高い施策を打ち出すことが可能になりました。

このような伴走型の支援により、開発部門以外の営業やカスタマーサポートといった部署でも、具体的な成功事例が次々と生まれ始めています。

営業現場のブラックボックスを解消した商談分析システムの構築

具体的な活用事例として、営業部門における商談動画の自動分析システムがあります。

スマレジではオンライン商談が主流となっており、膨大な動画データが蓄積されていましたが、それらを全てチェックしてフィードバックを行うには莫大な時間が必要でした。そこで、動画の内容をAIが自動で解析し、商談の質を評価する仕組みを内製で開発しました。

このシステム開発において重視されたのは、スピード感と現場への適合性です。最新のマルチモーダル機能を備えたGeminiを採用し、PythonのStreamlitを用いた高速な開発手法を取ることで、着想からわずか1ヶ月足らずで実用的なプロトタイプが完成しました。

夜間のうちに全ての動画をAIが分析し、翌朝にはリーダーが確認できる状態にするという運用フローを確立したのです。これにより、これまでは一部しか確認できていなかった商談の質が、全て可視化されるようになりました。

T.K氏

「営業担当者との密なコミュニケーションを通じて、現場が必要とするフィードバックの内容をプロンプトに反映させていきました。分析結果が翌朝には届いているというスピード感は、リーダーからメンバーへの指導の質を大きく変えるきっかけになったようです。この取り組みを通じて、リーダー自身が自らの視点とAIの分析を比較することがマネジメント能力の向上に寄与するという、意外な効果も生まれています」

商談の振り返りが自動化されたことで、営業組織全体のスキルの平準化が進み、個人の経験則に頼らないデータ主導の営業体制が形作られつつあります。

カスタマーサポートの心理的負担を軽減するメール作成支援

カスタマーサポートの現場においてもAIは大きな成果を上げています。特に、顧客からの複雑な問い合わせに対する返信メールの作成支援において、その価値を発揮しています。

これまでは過去の膨大なやり取りや仕様書を確認しながら文章を作成する必要があり、特に新人スタッフにとっては大きな負担となっていました。

スマレジが開発したメール作成支援ツールは過去の文脈を正確に把握したうえで、適切な返信案を提示します。これを導入した結果、プロトタイプの段階で約10%の工数削減が確認され、現在ではさらに高い削減効果が見込まれています。

T.K氏

「問い合わせの内容に合わせて最適な回答案をAIが提示してくれることで、担当者が不在の際の引き継ぎも格段にスムーズになりました。また、返信文を早く書けるようになるだけでなく、心理的なハードルが下がることで、より顧客一人ひとりに寄り添った対応ができるようになっています」

ベテラン社員が文章をチェックする手間が省け、送信ボタンを押す際のスタッフの不安が大幅に軽減されたことが、現場で高く評価されています。

組織の進化を支える評価制度の整備と将来への展望

今後の展望として、スマレジはAI活用を個人のスキルに留めず、組織全体の評価や労務の仕組みの中に組み込んでいくことを検討しています。

AIを使いこなして高い生産性を実現した社員を正しく評価し、その恩恵を適切に還元できる体制を整えることが、持続的な成長には不可欠だと考えているからです。

T.K氏

「AIを使いこなせる人材を正しく評価できる体制を整えることが、これからの組織運営において極めて重要な課題になると考えています。生産性が向上した分、単に仕事が増えるだけではモチベーションは維持できませんから、明確な基準を設けていく必要があります」

また、AIの進化スピードは極めて早く、常に最適な最新の技術を取り入れ続ける必要があります。同社ではClaude CodeやCodexを始めとして、Open WebUI、CodeRabbit、TAKTなど様々なツールを価値検証し実際に採用しています。また、一度不採用にしたツールであっても、技術の進展に合わせて再度検証を行い、最適なタイミングで導入するという柔軟な姿勢を貫いています。

最終的には、AIが特別な存在ではなく、空気のように当たり前に存在する環境を目指しています。技術の進歩に人間が置いていかれるのではなく、技術を使いこなすことで人間の可能性を広げていく。同社の挑戦は、これからのAI時代の組織の在り方を提示しているようです。

株式会社スマレジに学ぶ5つのポイント

スマレジの生成AI活用は「スピード感のある意思決定」と「現場視点の課題解決」を両立させた示唆に富む事例です。同社の取り組みから学ぶ5つの重要ポイントを整理しました。

  1. 現場の熱量を活かしつつトップダウンで迅速に決断する
    同社では現場のエンジニアからの提案に対し、経営陣が即座に反応して導入を決定しました。トップがAI推進を明確に打ち出すことで、法務やセキュリティのハードルを組織全体で乗り越える体制が整い、導入のスピードが飛躍的に向上しています。

  2. 段階的な解禁とオープンな環境で利用ハードルを下げる
    一部のチームから始め、Slackのbotを活用して全社員が互いの使い方を見られるようにするなど、心理的な障壁を取り除く工夫がなされています。まずは触れてもらう環境を作ることが、その後の本格的な浸透に繋がっています。

  3. 要求定義の視点で業務の本質的な課題に切り込む
    単にツールを入れるのではなく、AIを使って何を解決したいのかという要求を深く掘り下げています。同社のバリューである要求定義を徹底することで、現場の困りごとに直接効くソリューションを開発し、実効性の高い成果を生み出しています。

  4. 現場に伴走する専門チームが技術の実装を支援する
    非開発部門への浸透を促進するために、エンジニアリングの知識を持つ専門チームが現場に入り込み、課題の分解から実装までをサポートしています。この伴走型の体制により、専門知識のない部署でもAIの恩恵を最大限に享受することが可能になっています。

  5. 評価制度やマネジメントの見直しを並行して進める
    AIによる生産性向上を個人の成果として適切に評価するための、新しい基準の策定に着手しています。技術の導入だけでなく、それを使う人間のモチベーションや組織としての在り方を同時にアップデートしようとする姿勢が、持続的な変革を支えています。

これらの取り組みは、柔軟な組織文化と合理的な判断力が合わさることで実現しています。

重要なのは、ツールを導入すること自体を目的にするのではなく、自社の業務プロセスや文化に照らし合わせて、AIがどのような価値を生み出せるかを問い続けることです。

社員が安心して挑戦でき、その成果が正当に認められる環境を整えることが、AI活用の成功への確かな一歩となります。

しかし、実際に自社でスピード感を持って進めようとすると、

「既存のルールが壁になって進まない」
「現場のニーズをどうやってAIに繋げればいいかわからない」
「成果を正当に評価する仕組みがイメージできない」

といった悩みに直面することも多いでしょう。多くの企業が、導入後の定着という高い壁に挑んでいます。

私たちSHIFT AIは、こうした「AI導入後の定着と成果創出」に関する課題解決のパートナーとして、多くの企業を支援しています。

貴社の組織文化や既存の業務フローを深く理解した上で、どのようなステップでAIを浸透させ、どのような評価軸を設けるべきか、実務に即した具体的な戦略をご提案します。

社員一人ひとりがAIを自身のパートナーとして使いこなし、組織全体の競争力を高めていくための伴走支援を提供します。

「AIを導入したものの活用が一部に留まっている」「現場の課題解決に直結する使い方が見えてこない」といった課題をお持ちの担当者様は、ぜひ一度、私たちの支援実績とプログラムの内容をご確認ください。

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