生成AI活用は単なる時短や効率化の段階から組織に蓄積された知見をどう再利用し、現場で再現可能な成果につなげるかというフェーズに移りつつあります。インサイドセールスの現場では、知識のインプット、仮説構築、トーク設計、案件立ち上げといった業務が複雑に絡み合い、個人の力量や経験に依存しやすい構造があります。
スマートキャンプで、インサイドセールスをはじめ営業やカスタマーサクセスの代行を展開するBALES(ベイルズ)は、まさにその属人化と教育負荷を生成AIを使って構造的に解きほぐそうとしてきました。
今回はBALESカンパニー カンパニーCEO 北森舜氏とBALESカンパニー 経営企画ディビジョン 木村吏氏に、現場発で始まったAI活用をどのように組織的な仕組みへ変えていったのかについてお話を伺いました。

スマートキャンプ株式会社
BALESカンパニー カンパニーCEO
大手印刷会社にて制作ディレクションやSaaS営業・運用に従事。その後インサイドセールスマネージャー、コンサルタントを経てIPaaSベンチャーで新規事業の拡大に従事。スマートキャンプでは新規事業責任者、東日本全体のインサイドセールス支援部門を統括した後、2025年12月より現職。事業企画から営業、組織マネジメントまで多角的に牽引。

スマートキャンプ株式会社
BALESカンパニー 経営企画ディビジョン
大手SaaS企業でインサイドセールス(メンバー、マネージャー、組織立ち上げ、BizIOps、AIOps)に従事後、2024年12月にスマートキャンプへ入社。BALES事業における、セールスイネーブルメント、AIOpsなど横断的な組織支援の企画〜実行まで担う。
※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。
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現場の質とスケールを阻む「属人化の壁」
BALESが生成AIの本格活用に乗り出した背景には、インサイドセールス(以下、IS)代行という業務特有の課題がありました。さまざまなクライアントの商材を扱う以上、単に架電件数を積むだけでは成果は出ません。商材の特徴を理解し、顧客の業界や業務課題を把握し、そのうえで「この相手には何をどう伝えるべきか」という仮説を立てる必要があります。
同社が重視していたのが、「知る → 分かる → できる → 成果が出る」というBALES独自のIS成長循環モデルです。知識を入れ、それを自分なりに理解し、実際の行動に落とし込み、その結果として成果の質を高めていく。北森氏は「ISの循環の入口にあたる知のインプットと、その先の仮説構築がメンバーごとに大きく属人化していたんです」と語ります。
この属人化は現場の成果だけでなく、マネージャーの負荷にもつながっていました。北森氏によると、以前は新しい案件が立ち上がるたびに、マネージャーがスクリプトを作成し、メンバー一人ひとりのロープレに付き合い、架電内容にフィードバックを返す必要があったとのことです。特に高難度案件や複数商材の同時立ち上げでは、その負担はさらに重くなっていました。
教育と立ち上げを個別対応し続ける限り、現場の質も、組織としてのスケールも、どうしてもマネージャーの力量と時間に依存してしまう。だからこそBALESに必要だったのは、単なる業務効率化ではなく、知識・思考・行動の質そのものを平準化し、属人化を構造から変えていくことだったのです。
業務プロセスを分解し、特化型AI「〇〇君」シリーズを自社開発
BALESが選んだのは、ChatGPTやGeminiのような汎用AIをそのまま現場が活用する手段ではありませんでした。インサイドセールスの業務を細かく分解し、それぞれの工程に合わせたAIボットを個別に設計するというアプローチです。
木村氏は、汎用AIをチャット形式で導入しても「現場では何をどう聞けばいいかわからない」という壁にぶつかると考えていました。だからこそ、AIの性能そのものよりも、「この業務はこのボットを使う」と迷わず選べる状態を先に設計したのです。
その思想のもとで生まれたのが、「〇〇君」シリーズでした。案件立ち上げ時には「スクリプト作る君」で初期スクリプトをつくり、架電前には「顧客解像度上げる君」や「業界解像度上げる君」で情報を整理し、「仮説立てる君」でアプローチの切り口を組み立てる。さらに、架電後には「IS振り返り助ける君」で成果要因の言語化や改善の方向づけを行う。
「〇〇君」シリーズは「知識を集める→考える→行動を振り返る」という一連の流れを、それぞれ別のAIが補助する構造になっていました。単に便利なAIがあるのではなく、BALESはISの業務フローそのものの中にAIを導入していたのです。
「〇〇君」シリーズの登場によって、現場にかかる負荷が大きく下がりました。結果として、特に高難度案件で発生しやすかった「準備に時間を取られ、実行に移るまでが遅い」という問題も改善されていきます。
BALESが進めていたのは、AIを現場に追加することではなく、現場の仕事の流れに合わせてAIを「再配置する」ことだったと言えます。だからこそ、継続的な定着と実務成果の両立が可能になっていったのです。
一部の人の武器から組織のインフラへ。定着を裏付ける「徹底した現場目線」
業務ごとに特化した「〇〇君」シリーズを自社開発したことで、BALESではAIを現場に持ち込む土台が整いました。しかし、木村氏が見ていたのは、ツールをリリースしただけで活用が進むほど現場は単純ではないという現実です。どれだけ便利なAIでも、「自分の業務でどう使えばいいのか」を理解できなければ、活用には繋がりません。
そこでBALESが重視したのは、現場で働く人にとっての使いやすさです。木村氏と北森氏が密に連携を図り、ツール提供者目線だけで高機能なものをつくるのではなく 、現場が迷わず使えるかどうかを最優先に考えたといいます。
その発想がよく表れているのが、複雑なプロンプト入力を不要にした設計です。たとえば「仮説立てる君」では、企業名を入力するだけで、裏側で必要な検索やプロンプト処理が走り、高品質な仮説が返ってくる。利用者はAIを操作するのではなく、必要な情報を入れるだけでよい。この「考えなくても使えるUX」が、定着において大きな意味を持っていました。
加えて、BALESではAIの提供を単発のリリースで終わらせていません。ポータルサイト上に情報を一覧化し、最新情報や社員によるAI活用の成功事例を蓄積。さらに、最初から全員に一気に広げるのではなく、少人数で試し、フィードバックをもらい、改善してから広げるというスモールスタートも徹底していました。
使われないのは、現場の意欲が足りないからではなく、業務の中で自然に使える形になっていないからかもしれない。だからこそ、使う人に適応を求めるのではなく、現場で使われる仕組みを構築する。その発想があったからこそ、AIは一部の詳しい人だけの武器ではなく、BALES全体の業務インフラへと近づいていったのです。
「使って」と促すのは逆効果。使われない理由を潰す「スキルの可視化」
特化型AIボット「〇〇君」シリーズを開発し、現場に展開し始めたBALESでしたが、そこで直面したのは、ツールが想定以上に使われないという現実でした。木村氏によると、2024年12月時点で全メンバーの1日あたりのAI利用回数は平均1回未満。つまり、大半のメンバーが1日に1回もAIに触れていない状態だったといいます。
この状況に対してBALESが取ったのは、「使ってください」と促すことではなく、使われない理由そのものを潰していくアプローチでした。前述のUI/UX改善に加えて、現場のAI活用を育てる仕組みとして導入したのが、「AI活用スキルマップ」です。
これは全メンバーが定期的に研修を受け、自分が今どのレベルにいて、次に何を身につけるべきかを可視化するためのものです。もともとインサイドセールス領域で運用していたスキルマップの考え方を、AI活用にも応用したものです。木村氏は「自分の現在地が見えること」「次の成長ポイントがわかること」が行動変容のきっかけになると考えていました。
「使いやすさの改善」と「スキルの可視化」を並行して進めた結果、状況は大きく変わります。「2025年12月には1人あたりの1日平均利用回数が、わずか1年で10倍以上の利用定着を実現しました」と北森氏は語ります。
スキルの二極化を解消し、月間約50%の時間削減を実現した「Smart-Ask」
AI活用が現場に浸透し、利用回数そのものは大きく伸びた一方で、BALESでは新たな課題も見え始めていました。それはAIをうまく使いこなして成果につなげるメンバーと、うまく活用しきれずに苦戦するメンバーの二極化です。「使う・使わない」の壁を越えた先で、今度は「どう使えば成果につながるのか」という壁が立ちはだかったのです。
この差を埋めると同時に、マネージャーの負担をさらに軽くするための次の一手として構想されたのが、Smart-Askでした。これは社内ナレッジや各種マニュアルを読み込ませたNotebookLMを基盤に、インサイドセールスメンバーからマネージャーへの質問にAIが一次対応する仕組みです。
ただのFAQではなく、質問の意図が曖昧なまま投げ込まれることも多い現場の実態を踏まえ、まず「この人は何を知りたいのか」を整理しながら回答へつなげるように設計されていました。現場の自己解決力を高めると同時に、マネージャーが毎回同じ種類の問い合わせに追われる状況を変えることが狙いでした。
その効果は工数削減という形ではっきり表れています。2026年3月時点のレポートでは、平常時の問い合わせ対応において50%以上の削減を達成。さらに新メンバーのアサインや施策変更時のように問い合わせが集中しやすい局面でも同様に、50%以上の削減にまでつながったといいます。
しかも、この創出された時間は単なるコスト削減にとどまりません。木村氏によると、BALESの試算では浮いた時間を新規案件の立ち上げに振り向けた場合、相当数案件分以上のリソースに匹敵するといいます。Smart-Askは問い合わせ対応を減らしただけでなく、マネージャーが本来注力すべき立ち上げや育成、より高付加価値な支援へ時間を再配分できる状態をつくったことになります。
現場の「行動と結果の質」を変えた圧倒的な実務成果 アポ獲得率は2倍以上へ
BALESにおけるAI活用の成果は、マネジメント層の工数削減だけにとどまりませんでした。より大きかったのは、実際に架電を行うインサイドセールスメンバーの「行動の質」と「結果の質」にまで変化が及んでいたことです。
象徴的なのが、ある案件で見られた変化です。木村氏によると、平常時の問い合わせ回数が月間平均3分の1以下へと減っただけでなく、AIを「トークの壁打ち相手」として使うメンバーが現れ、接触アポ率が2倍以上へと大きく改善したといいます。
ここで注目すべきなのは、AIが代わりに電話をかけたわけではないという点です。AIはあくまで、考えを整理し、仮説を立て、会話の準備を支える役割を担うだけでした。その結果として、人が実際の顧客接点で出す質が変わっていったのです。
同様の変化は他の実績にも表れています。たとえば架電準備の時間が従来の3分の2ほどに短縮される一方で、一部メンバーのアポ獲得率も2倍以上へと向上しました。また、ABM施策のように高い顧客理解が求められる場面でも、準備時間を圧縮しながら、有効ヒアリング数を大きく伸ばすことができたといいます。
さらに、難易度の高い複数商材同時の案件立ち上げでは準備期間を半分以下に短縮するだけでなく、初月から目標を超えるアポイントを獲得した事例もありました。知識のインプットが速くなり、仮説の初速が上がり、振り返りも速くなる。その連鎖によって、メンバーが短期間でよりよい行動にたどり着きやすくなり、結果の質まで上げていたのです。
インサイドセールスの価値を根本から引き上げる。BALESが見据えるAI活用の未来
BALESは「利用回数1回未満」というスタート地点から、特化型ボット群の開発、UI/UXの改善、AI活用スキルマップの導入、そしてSmart-Askによる自己解決型の組織づくりへと、着実にステップを重ねてきました。
ここまでAI活用を現場に根づかせられた背景には、単にAIに前向きな企業文化があったからだけではありません。大きかったのは、インサイドセールスの業務理解が深い木村氏が旗振り役を担い、対象領域を絞って取り組みを進めたことです。
木村氏はもともとインサイドセールスの実務を長く経験しており、現場でどんな問題が発生しやすいのか、どこに属人化が生まれるのかを具体的に把握していました。だからこそ、ただ現場にAIを導入するのではなく、案件や業務工程ごとのボトルネックを見極めながら、業務に合う形へAIを組み込むことができたのです。
また、最初から全社横断で広げるのではなく、インサイドセールスにスコープを限定したことも重要でした。木村氏は「全社視点で考えると各業務の解像度が下がり、評価も『なんとなく生産性が上がった』という抽象論に落ちやすい」と考えていたといいます。対象を絞ったことで、課題を可視化しやすくなり、準備工数や問い合わせ工数、アポ率といった成果にもつなげやすくなりました。
そのうえで、会社全体として新しい技術を試す文化が根付いていたことも後押しになりました。木村氏は「スマートキャンプにはもともとAIへ投資し、安心して使える環境をスピーディーに整える土壌があります」と振り返っています。北森氏も「当社には便利なものを広めるだけでなく、『使いこなすために何を準備するか』まで考える文化があります」と話していました。
現場理解のある旗振り役、対象領域を絞った実装、そして組織文化と経営の後押し。この三つがそろっていたからこそ、BALESのAI導入は一部の試行錯誤で終わらず、再現性のある仕組みへと育っていったのです。
そして現在、BALESが見据えているのは、これまでのAI活用で蓄積したノウハウをもとに、さらに高度なインサイト創出や業務に自然に入り込むAI実装を進めていくことです。目指しているのは、AIが勝手に成果を出す世界ではなく、インサイドセールスという仕事の価値そのものを引き上げること。知識のインプットや仮説構築をAIが支え、人が本来向き合うべき対話や判断に、より多くの時間を振り向けられる状態をつくろうとしています。
スマートキャンプから学ぶ5つのポイント
スマートキャンプの事例から見えてくるのは、生成AI活用の成否を分けるのはツールそのものではなく、それを業務と組織にどう組み合わせるかが鍵になるということです。ここからはスマートキャンプの実践から学べるポイントを5つに整理します。
1. 属人化の原因を、業務の前段から捉える
成果の差は、架電量だけでなく、その前段にある知識のインプットや仮説づくりにも現れます。再現性を高めるには、行動そのものだけでなく、行動に至るまでの思考プロセスを整える必要があります。
2. 業務理解をもとに、AIの役割を設計する
AIを導入する際には、技術そのもの以上に、どの業務のどの工程を支えるのかを明確にすることが重要です。スマートキャンプでは、インサイドセールスの業務フローを細分化し、それぞれの工程に合わせてAIの役割を定義していました。
3. 現場が迷わず使える導線をつくる
AI活用を定着させるには、利用者の努力に頼りすぎない設計が欠かせません。複雑な操作を減らし、成功事例を共有し、スキルの現在地を可視化することで、日常業務の中で自然に使える状態をつくることができます。
4. 対象を絞ることで、成果を見やすくする
最初から全社に広げるのではなく、特定の業務領域に絞って導入することで、何に効いたのかを検証しやすくなります。スマートキャンプでは、インサイドセールスに対象を絞ったことで、工数削減やアポ率向上といった成果につなげやすくなりました。
5. 現場発の工夫を、組織の仕組みに変える
成功の背景には、現場の痛みを起点にしたボトムアップの試行錯誤と、それを支える経営陣・会社全体のコミットメントがありました。便利なツールを入れるだけでなく、「どう広げるか」「どう使いこなせる状態にするか」まで含めて組織で考えたことが、AI活用を一過性で終わらせなかった理由です。
企業の生成AI活用は、単にツールを導入すれば進むものではありません。実際には、スコープの設定と組織側の設計が成否を分けます。スマートキャンプの事例から見えてくるのは、まさにその点でした。
しかし、実際に自社でこれらを実践しようとすると、
「既存のルールが壁になって進まない」
「現場のニーズをどうやってAIに繋げればいいかわからない」
「成果を正当に評価する仕組みがイメージできない」
といった悩みに直面することも多いでしょう。多くの企業が、導入後の定着という高い壁に挑んでいます。
私たちSHIFT AIは、こうした「AI導入後の定着と成果創出」に関する課題解決のパートナーとして、多くの企業を支援しています。
貴社の組織文化や既存の業務フローを深く理解した上で、どのようなステップでAIを浸透させ、どのような評価軸を設けるべきか、実務に即した具体的な戦略をご提案します。
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