人的資本経営という言葉は、いまや多くの企業が耳にするようになりました。
しかし現場の担当者にとって本当の課題は、「理念を理解すること」ではなく「どう進めるか」です。経営戦略と人事施策をどうつなぐのか。データをどこまで整備し、どの指標を追うべきなのか。現場を巻き込み、組織全体を変えていくためには、どんな体制が必要なのか。
多くの企業がこの「進め方」で立ち止まっています。人的資本経営は経営企画や人事部門だけの取り組みではなく、企業文化そのものを再設計するプロセスです。
本記事では、人的資本経営を実践フェーズへと進めるための体制構築・ステップ・KPI設計を、AI経営総合研究所の視点からわかりやすく解説します。
「人的資本経営とは何か」という基本を押さえたい方は、まずこちらをご覧ください。
人的資本経営とは?企業価値を高める定義・目的・意義をわかりやすく解説
経営の理念を現場の行動へ。ここからは、実践できる人的資本経営の進め方を、順を追って整理していきましょう。
人的資本経営を「進める」とは何を意味するのか
人的資本経営を「進める」とは、単に理念を理解することでも、開示の準備を整えることでもありません。経営戦略と人材戦略を連動させ、実際に組織変革を動かすプロセスを設計することを指します。つまり、「人をどう育てるか」ではなく、「人をどう活かして経営目標を実現するか」という視点への転換です。この転換ができなければ、人的資本経営はスローガンで終わってしまいます。
単なる理念の理解ではなく経営施策としての実行
多くの企業が「人的資本経営を理解した」と言いつつ、実行段階で停滞します。その理由は明確です。人事主導の施策が、経営の成果目標と接続していないからです。
例えば、エンゲージメント向上を掲げても、それが売上や生産性の向上にどう寄与するかを定量的に示せなければ、経営層の納得は得られません。
実践フェーズで重要なのは「経営課題の解決」と「人的資本投資の成果」を同じ指標で語ること。そのためには、人事データの分析→仮説設定→施策実行→モニタリングというサイクルを組み込む仕組み化が不可欠です。
人的資本経営を進めるうえで求められる3つの視点
人的資本経営を現場で定着させるには、経営・人事・現場という三層の連動が欠かせません。
- 経営層:経営目標と人材施策を一貫したKPIで管理する視点
- 人事部門:データを基盤に施策を企画し、経営判断の材料を提供する視点
- 現場リーダー:社員一人ひとりの行動やモチベーションを人的資本の成果として捉える視点
これらをつなぐことで、単なる「人事施策」ではなく、企業全体の経営基盤としての人的資本経営が成立します。
この段階で重要なのは、「自社ではどの視点が欠けているのか」を可視化することです。経営層と人事の間にズレが生じている場合、そのまま施策を打っても成果は出ません。もし、自社の現状を整理する段階で課題を感じたら、専門支援を取り入れるのも有効です。
SHIFT AI for Bizでは、人的資本経営の体制づくりからKPI設計までを体系的に支援しています。次章では、実際に進める前に押さえておくべき準備について整理します。
人的資本経営を進める前に押さえるべき準備
人的資本経営は、理念を掲げた瞬間から始まるわけではありません。実際の推進には、社内体制・データ・目的共有の3要素を整える前準備が不可欠です。ここを疎かにすると、どれほど立派な施策を立てても現場に根づかず、やがて形骸化します。次のステップで行動に移すためにも、まずは社内を進められる状態に整えることが重要です。
経営層・人事・現場の目的共有を整える
人的資本経営を進める最初の壁は「目的のズレ」です。経営層は企業価値や開示対応を意識し、人事は制度設計に注力し、現場は日常業務で精一杯。このままでは同じ言葉を使っても、見ているゴールが異なります。
ここで重要なのは、人的資本経営を経営戦略の一部として共通言語化することです。経営層が「なぜ今、人的資本経営に取り組むのか」を明確に語り、人事がそれを制度・施策に落とし込み、現場が実践の担い手となる。この構造ができて初めて、社内が同じ方向を向く状態になります。
現状データの棚卸しと課題の見える化
理念の共有ができたら、次に行うべきはデータによる現状把握です。人的資本経営の出発点は「何をもって人的資本とするか」を定義し、その状態を数値化することにあります。たとえば以下のような観点で、既存データを整理してみましょう。
| データ領域 | 具体的な指標 | 目的 |
| 組織構成 | 年齢層・在籍年数・職種分布 | 多様性・後継計画の把握 |
| 人材育成 | 研修受講率・スキル獲得率 | 教育投資の効果測定 |
| エンゲージメント | 満足度・離職率・定着率 | 組織の活力・課題抽出 |
| 生産性 | 付加価値労働生産性・成果目標達成率 | 経営への貢献度可視化 |
この棚卸しにより、「自社の人的資本データはどこまで活用できているか」が明確になります。足りないデータや属人化しているプロセスが見つかれば、それ自体が改善すべき経営課題です。
外部発信と内部運用をつなぐ設計
人的資本経営では、社内で活用するデータと外部に開示する情報の整合性が問われます。外部向けの開示資料を作成する前に、まず社内で「どの指標を重視するのか」「誰が更新・検証するのか」を明確にしましょう。内部データが開示基準とずれていると、報告のための作業が増え、現場負担が大きくなります。
逆に、内部と外部を一貫した指標で設計すれば、経営層・投資家・社員の全てに透明性ある人的資本経営を提示できます。
さらに基礎概念を確認したい方は、「人的資本経営とは?企業価値を高める定義・目的・意義をわかりやすく解説」も併せてご覧ください。
次章では、いよいよ「人的資本経営を実際にどう進めるか」という具体的なステップを体系的に整理します。
人的資本経営の進め方ステップ【全体ロードマップ】
ここからは、人的資本経営を実際に推進するためのステップを具体的に整理します。多くの企業が理解の段階で止まってしまうのは、実行プロセスを体系的に設計していないからです。人的資本経営を確実に進めるには、全体像をロードマップとして可視化し、「どこまで進んでいるのか」を常に確認できる状態をつくることが不可欠です。
ステップ1 現状把握と課題設定
最初のステップは、現状を正しく把握し、課題を定義することです。ここを曖昧にすると、施策の方向性が定まらず、評価指標もブレてしまいます。
現状分析では次の3点を整理すると効果的です。
- 組織・人材データの収集(年齢構成、スキル、離職率など)
- 社員サーベイによる意識・行動特性の把握
- 経営層・人事・現場の課題認識の差分整理
この段階で重要なのは、データを「集める」だけでなく、経営上の課題と結びつけて意味のある情報に変換することです。
ステップ2 経営戦略との整合性を設計する
人的資本経営を成功に導く鍵は、経営戦略との連動性です。たとえば、「新規事業の拡大」を経営目標に掲げるなら、必要なのは採用人数ではなく、挑戦できる人材を育成・評価する仕組みの設計です。
つまり、人材施策を経営戦略のKPIとリンクさせ、「どの人材投資が成果につながるか」を測定できるようにします。経営会議で使われる指標と人事KPIを統一できれば、人材が経営資源として管理されるフェーズに進めます。
ステップ3 体制構築と責任設計
次に行うべきは、推進体制の明確化です。人的資本経営は、人事部だけで完結するものではありません。
理想的には以下のような体制を整えるとスムーズです。
| 役割 | 主な責務 | 成果物 |
| 経営層 | 戦略方針・KPI決定 | 人的資本経営方針書 |
| 推進委員会 | 部門横断で施策企画・進捗管理 | 推進ロードマップ |
| HRBP(人事ビジネスパートナー) | 部門課題の吸い上げと施策落とし込み | 現場アクションプラン |
| 各部門リーダー | 施策実行・社員フィードバック | 改善提案報告書 |
誰が、何を、どこまで担うのかを明文化することで、推進力とスピードが生まれます。
ステップ4 KPI/指標を設定する
KPI設計は人的資本経営の中核です。単に「社員満足度を上げる」といった抽象目標ではなく、経営成果に連動する定量指標を設定する必要があります。
たとえば、エンゲージメントスコアやスキル獲得率と、離職率・生産性・営業利益などを組み合わせ、「人材施策がどの成果を動かすか」を測定します。ポイントは、KPIを現場で実行可能な単位までブレークダウンすること。トップライン目標を定義し、そこから職種別・部門別に分解することで、KPIが「行動指標」として機能します。
ステップ5 モニタリングと改善サイクルを回す
最後に、設定したKPIを定期的にモニタリングし、改善のPDCAを回す体制を構築します。
人的資本経営は一度整えたら終わりではなく、企業成長や市場変化に応じて更新すべき動的な経営施策です。
データを定期的にレビューし、改善提案を制度や評価軸に反映させる。このサイクルを仕組み化できれば、人的資本経営は単発の取り組みから「持続的価値創出のエンジン」へと進化します。
ここまでのプロセスを踏めば、人的資本経営は理解から実践へ確実に前進します。もし、自社でこのサイクルを設計・定着させる方法に課題を感じた場合は、SHIFT AI for Bizが提供する法人研修・コンサルティングプログラムを活用し、組織全体で実装力を高めるのも有効です。次章では、この取り組みを定着させる「体制づくり」の考え方を解説します。
人的資本経営を定着させる体制づくり
人的資本経営を一度導入しても、組織文化や日常業務に根づかなければ成果は持続しません。制度やKPIを設計したあとに重要なのは、それを会社全体で運用できる体制へと昇華させることです。
定着とは、報告書の作成やデータ分析ではなく、社員一人ひとりの行動や意思決定が人的資本経営の理念と結びつく状態を指します。そのためには、全社的な巻き込みと、仕組みの持続性を意識した運用が必要です。
人事主導から全社巻き込み型へのシフト
人的資本経営を進めるうえで失敗しやすいのが、「人事が頑張る取り組み」になってしまうケースです。定着させるには、経営層・現場・人事がそれぞれの責任をもって関わる構造をつくることが不可欠です。
経営層は方針と優先順位を明確に示し、人事は施策の実行支援とデータの可視化を担い、現場は実践と改善の主役となります。この三層が同じ目標を共有できれば、「評価制度」「育成」「エンゲージメント施策」などが一貫して動くようになります。結果として、人的資本経営が経営会議だけで語られるテーマから、組織文化として根づく領域へと進化します。
人材育成・リスキリング・評価制度の再設計
定着段階で最も大きなテーマは、育成・評価・報酬の整合性をどう保つかです。人的資本経営の目的が「人を活かして企業価値を高めること」である以上、教育やスキル投資は短期的コストではなく、長期的な資本形成の一部として設計すべきです。具体的には次の3つを意識するとよいでしょう。
- リスキリング施策を経営目標にひもづける(例:新規事業開発に必要なスキル群)
- 評価制度を成果だけでなく学習・挑戦行動も反映できる構造にする
- 育成・評価・報酬を一貫したデータで管理し、改善サイクルに組み込む
これにより、社員の成長が経営成果に連動する投資型の人材マネジメントが可能になります。
文化・価値観の浸透を促すコミュニケーション施策
最終的に人的資本経営を根づかせるのは、仕組みではなく文化です。社員一人ひとりが「自分たちの取り組みが企業価値を高めている」と実感できる環境づくりが重要です。
定期的なタウンホールミーティングや社内報、部門単位での共有セッションなどを通じて、データに基づく成果や課題を社内でオープンに共有しましょう。透明性が高まるほど、社員の納得感とエンゲージメントが高まります。
人的資本経営の定着は一朝一夕では実現しませんが、経営と現場の対話を継続することで、変化が日常に溶け込む仕組みを築けます。もし社内での浸透プロセスに課題を感じる場合は、SHIFT AI for Bizの法人研修を活用し、体制構築と文化醸成を同時に進めるのも有効です。
人的資本経営のKPI・メトリクス設計の考え方
人的資本経営を進めるうえで、「どの指標を追うか」よりも「なぜその指標を追うのか」を明確にすることが重要です。多くの企業がKPI設計でつまずくのは、経営戦略や事業目標との整合性を欠いたまま、人事指標を単独で設定してしまうからです。KPIとは、経営目標を人的資本の視点で翻訳するもの。つまり、人材への投資と経営成果をつなぐ共通言語です。
数値指標(定量)とサーベイ指標(定性)をどう組み合わせるか
人的資本経営の評価には、数値で測れる「定量指標」と、組織の温度を測る「定性指標」の両方が必要です。たとえば次のように整理できます。
| 指標カテゴリ | 代表的な指標例 | 意図 |
| 定量指標 | 離職率・採用充足率・研修受講率・生産性指標 | 組織の現状と変化を客観的に測定する |
| 定性指標 | エンゲージメントスコア・心理的安全性・上司への信頼度 | 組織文化・価値観の成熟度を把握する |
この2軸を組み合わせることで、「データ上は好調でも現場が疲弊している」といった見えにくい問題を早期に発見できます。特にエンゲージメント調査やピープルアナリティクスを定期的に行うことで、人的資本経営を感覚値ではなく経営指標として扱えるようになります。
経営層・現場が共有できる「1枚KPIボード」をつくる
人的資本経営のKPIは、経営層だけで理解しても意味がありません。人事・現場リーダー・社員までが同じ情報を共有し、自社の「人の状態」を可視化できる仕組みが必要です。そのために有効なのが、KPIを1枚にまとめた「人的資本ダッシュボード(KPIボード)」の作成です。
ボードには、主要な指標の推移や達成状況をグラフ化し、定例会議や全社会議で共有します。これにより、組織全体が人的資本の健康状態をリアルタイムに把握でき、意思決定のスピードも上がります。
さらにこの段階では、KPIを「経営と人事をつなぐ翻訳装置」として活用しましょう。経営層が見る財務指標(利益率・生産性)と、人事が扱う非財務指標(育成・定着・スキル)を一体で分析すれば、人材戦略が経営成果に直結する構造が見えてきます。
次章では、人的資本経営を実践する際に多くの企業が直面する「つまずきポイント」とその解決の方向性を解説します。
よくある課題とつまずきポイント
人的資本経営の取り組みを進める中で、多くの企業が直面するのが「実践の壁」です。制度設計やKPI策定までは進んでも、現場で成果が出ない・浸透しない・継続しないという声が少なくありません。これらの課題には共通する構造的な原因があります。ここでは、よくある3つのつまずきポイントを整理し、どのように乗り越えるべきかを考えていきます。
「経営戦略と連動しない」
最も多い課題が、人材戦略が経営目標と結びついていないケースです。人的資本経営が経営層に響かない理由の多くは、「その施策が企業業績にどう影響するのか」が説明できないことにあります。例えば、採用強化やエンゲージメント向上といった施策が、最終的にどのKPIを動かすのかを明示できなければ、投資判断は得られません。
解決のポイントは、人事KPIを経営KPIに翻訳する設計を行うこと。経営層が使う指標(利益率・生産性など)と連動した形で人材施策を可視化できれば、人的資本経営は単なる人事テーマから「経営の意思決定支援」に変わります。
「データ収集が属人化している」
次に多いのが、人的資本データが複数部署に分散し、属人的な運用になっているケースです。Excelや個別システムでデータを管理していると、更新や整合性の担保が難しくなり、全社的な分析に耐えられません。
解決の第一歩は、データの定義を統一し、収集プロセスを標準化することです。たとえば、離職率・研修受講率・スキル保有率など、主要な指標を共通フォーマットで管理することで、分析の精度が大きく向上します。
さらに、人事・経営・現場が同じデータをリアルタイムで見られる基盤(ダッシュボード)を整備すれば、意思決定のスピードと透明性が格段に上がります。
「現場の納得感が得られない」
人的資本経営が形骸化する最大の要因は、現場がやらされ感で動いていることです。経営層や人事が目的を理解していても、現場社員にとってそれが自分事化されていなければ、行動は変わりません。現場の納得感を高めるには、「なぜこの施策が自分たちの働き方を良くするのか」を明確に伝える必要があります。
そのためには、成果を可視化してフィードバックする仕組みを組み込むことが効果的です。社員が自分の行動変化と企業成果の関係を実感できると、エンゲージメントが自然と高まります。
まとめ|人的資本経営を実践する企業になるために
人的資本経営の本質は、「人を資源ではなく資本として扱う」ことにあります。しかし、その価値は理念として掲げるだけでは生まれません。経営戦略と人材戦略を結びつけ、データを根拠に継続的に改善し続ける仕組みをつくることこそが、実践型の人的資本経営です。
本記事で解説したステップをもう一度整理すると、次のようになります。
- 準備段階:経営・人事・現場の目的を共有し、現状データを棚卸しする
- 設計段階:経営戦略と人材施策を連動させ、体制とKPIを整える
- 実践段階:施策を運用し、成果をモニタリング・改善していく
- 定着段階:全社的な体制づくりと文化浸透を進め、持続的な経営基盤にする
この4段階を循環させることで、人的資本経営は単なる制度ではなく、企業の競争優位を支える経営インフラとして機能します。
いま、人的資本経営は「知識」から「実装」へとステージが変わりつつあります。自社で取り組みを始めたものの、KPI設計や社内体制の構築に課題を感じている企業も多いでしょう。そのような場合は、専門的な伴走支援を活用することで、一気に推進力を高めることができます。
SHIFT AI for Bizでは、人的資本経営の導入・体制構築・KPI設計・社内浸透までを一貫してサポートする法人向け研修・実践支援プログラムを提供しています。理念を現場で動く仕組みに変えるステップを、貴社のフェーズに合わせて設計します。
人的資本経営は、もはや一部の先進企業だけのテーマではありません。人材をどう活かすかが、企業の未来を決定づける時代。理念から実践へ、そして成果へ。この一歩を、今こそ踏み出すときです。
FAQ|人的資本経営の進め方に関するよくある質問
人的資本経営は経営・人事・現場の複数領域が関わるため、実際に進める際には多くの疑問が生まれます。ここでは、導入・運用フェーズでよく寄せられる質問をまとめました。実践の現場で立ち止まりやすいポイントを整理し、取り組みの方向性を明確にしていきましょう。
- QQ1. 人的資本経営の進め方はどこから始めればよいですか?
- A
最初の一歩は、経営層・人事・現場で「何を目的に取り組むのか」を明確にすることです。目的が定まらないまま施策を始めると、評価指標が定まらず、成果も曖昧になります。次に、現状データを棚卸しし、自社の強みと課題を可視化しましょう。そこから経営戦略と人材戦略を結びつけ、具体的なKPIを設定する流れが理想です。詳しい体制構築の手順は本記事内の「人的資本経営の進め方ステップ【全体ロードマップ】」を参照してください。
- QQ2. KPIや指標はどのように設定すべきですか?
- A
KPIは「経営成果と人材施策を結ぶ中間指標」として設計します。たとえば、エンゲージメント向上を目標にする場合、離職率や生産性との関係をデータで確認し、「どの施策がどの成果に寄与しているか」を可視化できる構造にします。KPIの数は多すぎると管理が複雑になるため、最初は3〜5項目に絞り、運用しながら拡張する方法が効果的です。KPI設計の考え方については「人的資本経営のKPI・メトリクス設計の考え方」の章を参考にしてください。
- QQ3. 中小企業でも人的資本経営を導入できますか?
- A
もちろん可能です。人的資本経営は企業規模ではなく、経営と人の関係性を可視化する意思の問題です。中小企業ではリソースが限られるため、まずは「社員定着率」「スキルマップ」「エンゲージメント」など、経営課題と直結する指標を1つ決めて取り組むのがおすすめです。小さく始めて成果を見せ、社内合意を得ながら段階的に拡張することで、持続的な運用が可能になります。
- QQ4. 人的資本情報開示と社内での運用はどう連携すべきですか?
- A
外部開示は「投資家や社会への説明責任」、内部運用は「経営改善の実行責任」です。重要なのは、この2つを同じ指標でつなげること。社内で活用しているデータをベースに開示指標を設定すれば、報告作業が効率化し、外部発信の信頼性も高まります。逆に、外部発信用に無理に数字を整えると、内部の実態と乖離してしまい、持続的な改善につながりません。
- QQ5. 社内で人的資本経営を推進する担当者に必要なスキルは?
- A
必要なのは専門知識よりも全体設計力です。経営目標を理解し、人材データを分析し、施策へ落とし込む力が求められます。具体的には、データリテラシー、コミュニケーション、ファシリテーション、プロジェクトマネジメントの4つが軸になります。これらは経験だけでなく、研修や外部支援で体系的に習得することも可能です。SHIFT AI for Bizでは、推進担当者のスキル強化に特化した法人研修プログラムを提供しています。
人的資本経営は企業の未来を左右する経営テーマです。小さな一歩からでも、明確な意図とデータをもって進めれば、必ず企業価値向上へとつながります。

