「病院のDX(デジタルトランスフォーメーション)が思うように進まない」「電子カルテも導入したし、システムも整っているのに、現場の動きが変わらない」
そんな声を、いま全国の院長・事務長から数多く聞きます。
医療現場のDXは技術導入ではなく組織改革です。しかし、限られた人員と時間のなかで、現場の抵抗、ITリテラシーの差、ベンダー依存など複合的な壁が立ちはだかります。
結果として、多くの病院で「掛け声だけのDX」に終わってしまっているのが現状です。
この記事では、病院DXが進まない本当の理由を経営・現場・制度の三方向から整理し、
限られたリソースでも実践できる動かすためのDX戦略を具体的に提示します。
まずは「なぜ進まないのか」を正しく理解することから始めましょう。それが、貴院のDXを計画から成果へ変える最初の一歩になります。
なぜ病院でDXが進まないのか?【現場と経営のギャップ】
医療DXが「掛け声倒れ」で終わってしまう最大の理由は、経営層と現場の認識のズレにあります。経営層は業務効率化やコスト削減を期待してDXを掲げますが、現場は日々の診療に追われ、「今の業務を止めずに変革する余裕などない」と感じているのが実情です。このギャップを埋めない限り、どれだけシステムを導入しても定着はしません。では、何がその溝を深めているのでしょうか。
DX=IT導入と誤解している
多くの病院で「DX=新しいシステムを導入すること」と捉えられています。しかし、真のDXとは、デジタルを活用して業務や組織の在り方を変えることです。ITツールを導入しても、紙文化や旧来の承認フローがそのままでは、業務効率は上がりません。
たとえば、電子カルテや予約システムを導入しても、現場のオペレーションが変わらなければ効果は限定的です。経営層が「ツール導入=改革完了」と思い込むことで、現場の温度差が広がっていきます。
現場の変化疲れとリーダー不在
医療現場では、慢性的な人手不足と業務過多が続いており、「新しい取り組み」そのものが負担と捉えられがちです。加えて、DXを推進するリーダー人材が院内にいないという課題も深刻です。
経営層が方向性を示しても、現場で旗を振る人がいなければプロジェクトは動きません。結果として「誰の仕事でもないDX」になり、導入したツールが放置されるケースも多く見られます。
ITリテラシー・人材育成の遅れ
医療職の多くは専門領域に集中してきたため、デジタル活用に対する経験や自信が乏しい場合があります。これは個人の能力ではなく、病院組織としてIT教育の仕組みが整っていない構造的問題です。DXを定着させるには、まず「現場が理解し、使いこなせる環境」を整える必要があります。ここを軽視すると、どんなシステムも「難しい」「面倒」と感じられ、形だけの導入で終わってしまうのです。
| 課題の種類 | 経営層が抱える問題 | 現場が感じる負担 |
| DX理解のずれ | 投資効果が見えない | なぜやるのかが伝わらない |
| リーダー不在 | 担当部署が曖昧 | 誰に相談すればよいかわからない |
| リテラシー不足 | 教育コストが高い | ツール操作が難しい・怖い |
DX推進の第一歩は、経営と現場が同じビジョンを共有し、目的と手段を一致させることです。DXとは経営戦略であり、現場改善の延長ではありません。この意識転換こそが、進まない現状を打破する出発点になります。
DXの全体像や戦略立案の基本は、病院DXとは?2026年に必須となる導入の進め方と成功のカギ で詳しく解説しています。
進まない最大のボトルネックはシステム連携とベンダーロック
多くの病院でDXが進まない根本原因のひとつが、システムの分断とベンダー依存です。現場の努力だけではどうにもならない構造的な壁が存在します。電子カルテ・会計・検査・勤怠などがそれぞれ別システムで動き、データが連携しない。
結果として、職員は何度も同じ情報を入力し、業務の非効率が生まれています。これは単なる操作の問題ではなく、病院経営全体の意思決定スピードを遅らせる要因です。
電子カルテ・会計システムが縦割りでデータが繋がらない
電子カルテの普及率は高いものの、多くの病院ではシステム間のデータ共有ができていません。会計や検査部門、地域連携システムとの接続が限定的なため、患者情報が断片化されています。
その結果、情報を紙やExcelで再入力する手間が残り、DXの本質であるデータ活用が実現しないのです。経営層が見える化を求めても、現場がデータを扱う仕組みになっていなければ、分析も改善も前に進みません。
ベンダー依存による固定化された仕組み
多くの医療機関では、特定ベンダーの製品を長年利用しており、システム更新のたびにその企業の仕様に縛られるという問題が発生しています。いわゆるベンダーロックインです。
新機能の追加や他社連携が難しく、結果として「今のまま我慢して使う」選択をしてしまう。これではDXの目的である柔軟な業務改善が阻まれます。経営層にとっても、変更コストの高さが導入判断を鈍らせる要因になっています。
セキュリティと個人情報保護への過剰な恐れ
医療データは個人情報の塊であり、慎重な扱いが求められます。とはいえ、「安全第一」が行き過ぎて変化を止める口実になるケースもあります。
たとえばクラウド化を検討しても、「漏えいリスクが怖い」「オンプレで十分」といった声が上がり、結果としてデータの共有や分析が進まない。この守りの姿勢が、デジタル活用の機会を奪っています。セキュリティを守りながらも、柔軟に運用できるルール設計が必要です。
| ボトルネック | 現状 | 経営への影響 |
| システム分断 | 部門ごとに別システムが存在 | データが共有されず意思決定が遅れる |
| ベンダーロック | 特定企業に依存 | コスト増・機能制限 |
| セキュリティ過剰反応 | クラウド活用に抵抗 | 生産性・利便性の低下 |
これらの課題を乗り越えるには、すべてを一度に変えようとしないことがポイントです。スモールスタートでできる範囲から始め、徐々にシステム連携の範囲を広げていく。その設計を支えるのが、経営と現場の両方に理解のあるDX推進チームの存在です。次章では、その現実的な進め方を解説します。
病院で進まないDXを動かすための3つの戦略
「予算も人も時間も足りない」。それでも、病院DXを止める理由にはなりません。DXは一気に完成させるものではなく、スモールステップで継続的に進化させていくプロセスです。ここでは、限られたリソースの中でも動かせる現実的な3つの戦略を紹介します。
スモールスタートでまず一歩をつくる
すべてを変えようとすると、現場は混乱し、抵抗も生まれます。そこで有効なのが、「小さな成功体験」から始めるスモールスタート戦略です。たとえば、勤怠管理や在庫管理など、すぐに効果が出やすい領域をDX化の起点にします。
重要なのは、成功事例を院内で共有し、他部署へ波及させていくこと。これにより「DXは難しくない」「便利だ」という心理的な壁を取り除けます。DXをプロジェクトではなく文化として根づかせる第一歩です。
ROIと安全性を同時に設計する
経営層がDXに慎重になるのは、「投資対効果が見えにくい」ことが大きな要因です。しかし、ROI(投資対効果)は後から測るのではなく、最初から設計するものです。導入時点で「どの業務コストを、どれだけ削減できるか」「人件費や残業削減がどれだけROIに寄与するか」を明確にしておくことで、経営判断が容易になります。また、ROI設計と同時にセキュリティ対策を並行させれば、「安全性を理由にDXが止まる」ことも防げます。
| 観点 | 目的 | 具体的な視点 |
| ROI設計 | 投資の正当化 | コスト削減・離職防止・診療効率 |
| セキュリティ | 安全性確保 | アクセス権限・データ暗号化・監査体制 |
| ガバナンス | 継続運用 | 運用ルール・責任分担・監視体制 |
現場・経営・ITの橋渡し人材を育てる
病院DXを進めるうえで最も不足しているのは、「現場を理解し、デジタルを翻訳できる人材」です。医療現場ではIT部門が経営戦略に関与しにくく、逆に経営層が現場の課題をデジタルで解決する発想を持ちにくい。この溝を埋めるには、DXリーダーとなる橋渡し人材の育成が欠かせません。単なるIT研修ではなく、「経営×現場×デジタル」を横断的に学ぶプログラムが有効です。
経営層がこの中核人材を支援し、現場が協力する体制を整えられれば、DXは一過性の施策ではなく、自走する組織文化へと変わります。それを可能にする仕組みこそ、次章で解説する伴走支援と教育設計です。
国の方針と支援策を活用して追い風に
病院DXを進めるうえで忘れてはならないのが、国の政策・制度を味方につける視点です。医療DXは民間主導ではなく、政府が強く推進する国家的プロジェクトです。制度の方向性を理解し、補助金や支援策を戦略的に活用することで、導入コストや人的負担を大きく軽減できます。経営層にとっては、ここを把握することがDXを現実路線に乗せる鍵になります。
「令和ビジョン2030」と医療DX推進の方向性
政府が掲げる「令和ビジョン2030」では、医療・介護・健康分野のデータを横断的に活用することで、国全体の医療効率を高める方針が明確に打ち出されています。「全国医療情報プラットフォーム」の構築もその一環で、電子カルテの標準化やクラウド化が義務化に近い形で進められています。つまり、DXはいつかやるではなく、やらざるを得ない経営課題です。先行して取り組む病院ほど、制度的・技術的な優位を確保できます。
補助金・支援策を活用したコスト最適化
DX推進には一定の初期費用が伴いますが、医療DX支援補助金やIT導入補助金など、複数の制度を組み合わせることで負担を大幅に減らすことが可能です。特に中小病院や地域基幹病院では、補助金を活用してクラウド化・セキュリティ強化・電子カルテ標準化を進める事例が増えています。導入コストを抑えながら、同時に国の方針に沿った形でDXを進めることで、経営上のリスクを最小化できます。
| 補助金名 | 対象範囲 | 補助上限 | 目的 |
| 医療DX支援補助金 | 電子カルテ・情報共有基盤 | 最大1,000万円 | 標準化・クラウド化の促進 |
| IT導入補助金 | 各種業務システム導入 | 最大450万円 | 中小病院の業務効率化支援 |
| セキュリティ強化支援 | 情報漏えい対策・教育 | 最大200万円 | 安全な運用体制の構築 |
制度変化を変革の追い風に変える
制度対応は義務ではなく、病院を変革するチャンスと捉えることが重要です。例えば、電子カルテ標準化への対応をきっかけに、院内業務の整理や情報共有ルールの再設計を行うことで、組織全体の効率化が進みます。DXを「制度対応」として受け身で捉えるのではなく、「制度を活かして経営を変える」積極的な姿勢に変えることが、成功する病院の共通点です。
政策や補助金は時期によって条件が変わるため、常に最新情報を確認し、経営計画と連動させたDXロードマップを描くことが求められます。
病院のDX推進を定着させるには伴走支援が不可欠
DXの多くが失敗する理由は、「導入して終わり」になってしまうからです。真のDXとは、仕組みを動かすことではなく人を動かすことです。新しいシステムを入れても、現場が理解し、活用し、成果を共有しなければ定着しません。だからこそ、DXの実行と定着を支える伴走支援が必要です。
外部支援の価値は導入より定着にある
多くの病院では、ベンダーやコンサルタントに導入支援を依頼しますが、実際の運用段階になると現場任せになってしまうことが少なくありません。DXの本質は導入支援よりも定着支援にあります。
現場の疑問に寄り添い、運用ルールを作り、職員が自走できる状態を作ること。これがなければ、導入は一過性のイベントで終わります。伴走支援は単なるアドバイスではなく、組織が自ら変わる力を引き出すプロセスです。
SHIFT AIが支援する経営×現場型研修とは
SHIFT AI for Bizの研修は、一般的なIT講座ではありません。経営視点と現場視点を結びつけ、病院が自らDXを回す力を育てるための実践型プログラムです。経営層にはDXを経営戦略として捉える思考を、現場には業務改善のためのデジタル実装スキルを提供します。研修後には「何を」「どこから」「誰と進めるか」が明確になり、組織全体が共通言語で動けるようになります。
| 支援内容 | 対象 | 得られる成果 |
| DX推進研修 | 経営層・管理職 | 戦略立案と推進体制の構築 |
| 実践ワークショップ | 現場リーダー層 | 業務改善とツール活用の定着 |
| 伴走支援プログラム | 全職員 | 継続的なPDCAと文化定着 |
病院全体を巻き込む共創型DXへの道
DXを定着させるためには、外部支援を「指導」ではなく「共創」として捉えることが重要です。経営・現場・支援者の三者が同じ方向を向くとき、変革は加速します。この共創型アプローチにより、病院は変えられる組織から自ら変わる組織へと進化していきます。SHIFT AIの伴走支援は、そのための推進力として設計されています。
DXを成功に導く最後の鍵は、ツールでも予算でもなく「人の成長」です。学びと実践が循環する環境を整えることこそ、DXを文化として根づかせる唯一の方法です。
まとめ|進まないDXから脱するための最初の一歩
病院DXが進まない理由は、システムや技術ではなく「人と組織の構造」にあります。現場と経営の温度差、ベンダー依存、リテラシー不足。それらはどの病院にも共通する課題です。しかし、これらの壁を乗り越えるために必要なのは、特別なスキルや巨額の予算ではありません。小さな一歩を、確実に積み重ねる仕組みです。
DXを成功に導く病院は、共通して「できる範囲から動き出す」姿勢を持っています。スモールスタートで成功体験をつくり、現場と経営が同じ方向を向く。そのうえで、育成・支援・制度を組み合わせ、継続的に改善を重ねています。つまり、DXはプロジェクトではなく文化形成の過程なのです。
そして、これからのDX推進には「自走できる人材」が欠かせません。ツールの使い方を教わるだけではなく、DXを「経営戦略」として理解し、現場に浸透させる力を養うことが求められます。SHIFT AI for Bizが提供する研修・伴走支援は、まさにそのための実践型プログラムです。
変革は、待っていても始まりません。今の現場から、できることから、少しずつ形を変えていくのがDXの本質です。進まないDXを動かすのは、あなたの決断と行動です。
よくある質問:病院DXが進まないときの対応Q&A
DXを推進するなかで、多くの病院が同じような疑問や不安を抱えています。ここでは、現場や経営層から特によく寄せられる質問に答えながら、「つまずきやすいポイント」とその打開策を整理します。実際の導入検討時や院内説明の参考にも活用できます。
- QQ1:病院DXはどこから始めるべき?
- A
最初から全体を変える必要はありません。「現場の課題が明確な1領域」から着手するのが最も効果的です。たとえば、予約管理・在庫管理・勤怠など、業務効率がすぐに見える領域を選ぶとよいでしょう。初期の成功体験を共有し、他部署に展開していくことで院内全体の理解と協力を得やすくなります。
- QQ2:DXに必要な費用の目安は?
- A
導入内容によって差がありますが、中小病院では300万〜1000万円規模が一般的です。補助金を活用すれば実質負担を3〜5割に抑えることも可能です。重要なのは「投資額」よりも「ROI(投資対効果)」を設計段階で明確にしておくことです。どの業務コストを削減し、どんな成果を数値化するかを定義すれば、経営判断がスムーズになります。
- QQ3:ITリテラシーが低い職員でもDXを進められる?
- A
問題ありません。DXを難しいIT導入ではなく業務改善の手段として理解してもらうことが重要です。操作教育よりも、「なぜそれを使うのか」を共有することで現場の納得度が上がります。また、現場リーダーを中心に小規模チームをつくり、研修やワークショップを通じて触りながら覚える仕組みを整えると定着が早まります。
- QQ4:外部ベンダーやコンサルに頼るべき?
- A
はい、導入支援ではなく定着支援を選ぶことがポイントです。ベンダー任せの導入では、現場が動かずに終わるケースが多いです。経営・現場の両方に寄り添う外部パートナーを選定し、伴走型で運用体制を作ることで、成果が継続的に積み上がります。
- QQ5:DXがうまく進まないとき、まず見直すべきことは?
- A
DXが停滞した場合は、「目的・人・仕組み」の3点を確認しましょう。目的が共有されていない、推進責任者が曖昧、運用ルールが形骸化している。このいずれかが原因であることがほとんどです。目的を再定義し、役割を明確化し、小さな改善サイクルを回すことから再スタートすれば立て直しは可能です。
DXは一度止まっても、方向を正せば再び動き出します。重要なのは、現場の声を吸い上げ、行動に変える力を持ち続けることです。SHIFT AI for Bizでは、この「再起動」を支援する研修・伴走プログラムを提供しています。

