GIGAスクール構想が全国で進み、タブレットやネット環境は整いました。

けれど、職員室ではまだ、紙の書類が山積みになり、出欠や成績はExcelで処理され、教員は夜遅くまで残っています。ICTは導入されたのに、「働き方」は変わらない──これが多くの学校の現実です。

そこで注目されているのが「校務DX」。授業支援ではなく、出欠・成績・保健・事務といった校務そのものをデジタルで再設計し、教職員の時間を取り戻す取り組みです。

しかし、システムを導入しただけでは改革は進みません。鍵となるのは、「人が変わること」。つまり、教職員自身がデジタルを活かす力を持つことです。

この記事では、文部科学省の方針や最新動向を踏まえながら、校務DXの目的・課題・進め方を体系的に整理します。そして最後に、「校務DXを人材育成から成功させる方法」も紹介します。あなたの学校のDXを、本当の意味で動かすために。

導入だけで終わらせない。成果につなげる設計を無料資料でプレゼント
AI活用を成功に導く5ステップを見る

校務DXとは?文科省が推進する学校業務改革の要

校務DXとは、出欠管理・成績処理・報告書作成などの事務業務をデジタル化し、教職員の働き方を変える取り組みです。文部科学省はこれを「GIGAスクール構想の次のステージ」と位置づけ、学校運営の効率化と教育の質向上を同時に実現する政策として推進しています。

紙やExcelに散らばった情報を統合し、業務の流れをデータで可視化・最適化することが目的です。教員・事務職員・管理職が同じ情報基盤で動けるようになれば、業務の重複や属人化が減り、意思決定も早くなります。

校務DXと教育DXの違い

教育DXが「学びのデジタル化」(授業・教材・評価)を指すのに対し、校務DXは「働き方のデジタル化」(校務・管理・運営)を意味します。教育DXは教えることを、校務DXは支えることを変える改革です。

項目校務DX教育DX
対象出欠・成績・書類・報告授業・教材・学習支援
主体教員・事務・管理職教員・生徒
目的業務効率化・働き方改革学びの質向上

両者は別の概念ですが、校務DXが整うことで教育DXが進むという関係性にあります。

校務DXは学校経営DXの出発点

文科省やデジタル庁は、校務DXを単なるシステム導入ではなく、「学校経営をデータで支える仕組み」と位置づけています。出欠・成績・研修・勤務時間などの情報を統合し、学校全体の運営を可視化することが、次世代の教育経営の基盤となります。

AI経営総合研究所が注目すべきは、この改革の中心が人材であるという点です。どんなに優れたシステムでも、使う人の理解と意識が変わらなければ、DXは形骸化します。校務DXはテクノロジーの導入で終わるのではなく、教職員がデジタルを使いこなす文化を築くことから始まります。

(関連記事: DX人材育成の始め方ガイド)

なぜ今、校務DXが求められているのか

GIGAスクール構想でICT環境が整った今、教育現場では「学び」はデジタル化したものの、「働く環境」だけが取り残されているという矛盾が生まれています。紙による書類管理、バラバラなシステム運用、重複する入力作業。これらが教職員の長時間労働を生み出し、教育の質を下げる一因となっています。

文部科学省はこうした状況を受け、「校務DX」を教員の働き方改革の中核に据えました。つまり、DXを推進することで業務効率化と教育の質の両立を図ることが国の方針として明確化されたのです。

教育現場を取り巻く3つの構造変化

校務DXが加速している背景には、教育環境全体の構造変化があります。
その中でも特に大きいのが以下の3点です。

  1. GIGAスクール構想の定着
     児童生徒1人1台端末が実現し、教育データが急増。しかし、管理・活用の体制が整わず、現場の負担が増加しています。
  2. 教員の働き方改革の本格化
     長時間労働の是正が求められる中、紙ベースの業務では限界に。DXが唯一の抜本的解決策とされています。
  3. 自治体によるクラウド化・標準化の動き
     デジタル庁が主導する「自治体情報システム標準化」政策により、校務もクラウドベースで一元管理する方向へ進んでいます。

これらの流れが同時進行する今こそ、校務DXを進めなければ「学校経営そのものが立ち行かなくなる」段階に差し掛かっています。

現場が抱える見えない課題

校務DXが注目される一方で、現場にはいくつもの障壁があります。
とくに深刻なのは、システム導入=改革だと誤解してしまう構造です。

課題領域現場の実情本質的な問題
運用定着導入後、使われない教職員が仕組みを理解していない
意識改革DXに対して抵抗感が強い成果のイメージが共有されていない
データ活用入力のみで終わる意思決定に使う文化がない

校務DXの本質は「ツール導入」ではなく、人と組織が変わることにあります。
この視点を欠いたままでは、どれほど予算を投じても形だけのDXに終わります。

次に、校務DXがもたらす効果と、実際に現場がどう変わるのかを見ていきましょう。

校務DXがもたらす効果とメリット

校務DXの目的は、単なる業務の効率化にとどまりません。教職員の時間を取り戻し、教育活動に再投資するための改革です。これまで人手と時間に頼っていた校務をデジタルで再設計することで、学校全体の生産性と組織力を高めることができます。

教職員の時間創出と働き方の改善

最も大きな効果は、教員の長時間労働の解消です。出欠・成績・報告業務などの入力を自動化すれば、1日あたり1〜2時間の削減も現実的です。これにより、子どもと向き合う時間を確保でき、教育の本質的価値である教える力を取り戻せます。

また、情報共有のデジタル化によって、職員会議や報告作業の生産性も大幅に向上します。Excelや紙を使った重複作業を減らすことで、業務が見える化し、誰が・どの業務を・どれだけ行っているかを明確にできます。

学校運営のデータ化と意思決定のスピードアップ

校務DXの導入によって、出欠率、成績推移、研修履歴、保健情報などのデータが統合されます。これらを活用することで、「感覚ではなくデータで判断する学校経営」が可能になります。

領域従来の課題DX導入後の効果
出欠・成績管理Excel集計に時間がかかる自動集計で即時反映
会議・報告業務書類準備・共有に手間クラウドでリアルタイム共有
保健・安全管理紙ベースで情報断絶データ連携で迅速な対応
教員研修参加履歴が曖昧データで成長を可視化

こうしたデータ活用は、教育委員会や自治体への報告精度も高め、教育行政全体の改善にもつながります。

組織の標準化と属人化の解消

校務DXは、業務の属人化を防ぐという効果もあります。
マニュアルやノウハウがシステム上で共有されることで、担当者が変わっても同じ品質で業務を遂行できます。これにより、学校組織全体の安定性が高まり、異動や退職によるリスクも軽減します。

AI経営総合研究所が注目するのは、この「標準化」が単なる効率化ではなく、学校という組織を持続可能にする経営戦略そのものになっている点です。

次に、校務DXを進める際に多くの学校が直面する課題と、導入が進まない理由を掘り下げていきます。

導入だけで終わらせない。成果につなげる設計を無料資料でプレゼント
AI活用を成功に導く5ステップを見る

校務DXが進まない理由と、導入を阻む5つの壁

校務DXの必要性が理解され、システム導入も進み始めている一方で、「使いこなせない」「定着しない」という課題が各地で浮き彫りになっています。原因は技術ではなく、人と組織の運用構造にあるのが実情です。

壁①:現場の負担増への不安

「DXは業務を増やすだけ」と感じる教職員は少なくありません。特に初期導入期は、システム設定やデータ移行などの追加作業が発生し、現場に負担感が生まれます。手間が減る未来を見せるマネジメントのビジョン共有が不可欠です。

壁②:運用ルールと定着支援の不足

導入後の運用設計が不十分なまま放置されるケースが多く、結果としてツールが形骸化します。運用ルールを現場と一緒に作り上げ、成功体験を共有することが、定着の第一歩です。

壁③:ICTリテラシー格差

教職員のスキル差が大きく、デジタル化の足並みが揃わないことも課題です。年齢や経験による心理的抵抗を軽減するために、「習熟度に合わせた段階的研修」が求められます。

壁④:データ連携・セキュリティへの懸念

複数システム間でのデータ共有に関するルールやセキュリティ体制が未整備な自治体もあります。特に児童生徒情報の扱いに対する慎重さがDX推進のスピードを鈍らせています。ガイドライン遵守と安心設計が前提条件です。

壁⑤:推進リーダーの不在

現場をリードする教員や管理職にDX推進役がいないと、改革が進みません。文科省も「校務DXリーダー」の設置を推奨していますが、実際には時間とスキルの両面で負担が大きいのが現状です。外部の専門機関と連携し、伴走型で進める体制が理想です。

こうした課題を乗り越えるには、単なるツール選定ではなく、「人材育成を軸としたDX戦略」に転換する必要があります。

校務DXを成功に導く3つのステップ

校務DXは、単に新しいシステムを導入するだけでは機能しません。「現状を見える化し、人を巻き込み、データで運営する」という三段階の流れを設計することで、初めて成果につながります。ここでは、実際に教育現場で成果を上げている推進プロセスをもとに、成功のステップを整理します。

ステップ1:現状を見える化し、課題を明確にする

最初の一歩は、どこに無駄や重複があるのかを把握することです。文科省が公開している「校務DXチェックリスト」を活用し、自校の業務構造を棚卸しましょう。出欠・成績・報告・保健などの業務を細かく分類し、「どの業務を誰がどんな手段で行っているか」を見える化することで、改善すべき領域が浮き彫りになります。

ここで大切なのは、IT担当者だけでなく、現場の教職員が主体的に関わることです。自分たちの業務を変える意識を持つことがDX成功の出発点になります。

ステップ2:教職員を巻き込みながら運用を共創する

校務DXの定着を左右するのは「現場の納得感」です。導入時には、管理職やICTリーダーが中心となり、教職員全員が使いやすいルールを共創することが欠かせません。特に初期段階では、短期で成果を実感できる小さな成功体験を設計すると効果的です。

例えば、報告書作成の自動化や職員会議資料の共有など、身近な業務から改善を始めると、現場の理解と協力を得やすくなります。

成功体験が広がることで、次第に「DX=自分たちの業務を楽にするもの」という意識が浸透していきます。

ステップ3:データを活かして学校経営に反映する

DXの最終段階は、蓄積されたデータを「学校経営の意思決定」に活用することです。出欠率や授業時間、研修履歴などのデータを分析することで、業務改善を超えた経営改革へと発展します。

活用データ分析視点得られる効果
出欠・勤務時間教員の負荷バランス業務配分の最適化
成績・授業時間学習成果と時間配分授業改善・支援体制強化
研修履歴教職員スキルの成長度人材育成計画の精緻化

この段階まで到達すると、学校は経験と勘ではなくデータに基づく教育経営が可能になります。これこそが、文科省やデジタル庁が掲げる「教育データ利活用社会」の実現そのものです。

次に、校務DXを持続的に定着させるために欠かせない人材育成の重要性を掘り下げていきます。

校務DXを定着させるカギは「人材育成」にある

校務DXを本当の意味で成功させるには、システムやツールだけでは不十分です。変わるべきは人。つまり、教職員自身がデジタルを理解し、活かす力を持つことが不可欠です。どんなに優れた仕組みでも、使う人がその価値を引き出せなければ、DXは形だけのものになってしまいます。

DX推進の中心は人である

多くの教育現場で見られる課題は、ツール導入そのものよりも、使い手のリテラシー格差と意識の温度差です。教員によってICTへの抵抗感や理解度が異なり、組織全体での足並みが揃わない。結果として、導入したシステムが十分に活用されないまま運用が停滞します。

この課題を解決するには、教職員一人ひとりが「なぜDXが必要なのか」を理解し、日々の業務改善に結びつけられるようにすることが重要です。デジタルを使う人ではなく、デジタルで変える人を育てる発想が求められます。

段階的なリスキリングでDXを根付かせる

人材育成のポイントは、一律研修ではなく役割に応じた段階的なスキル開発です。

階層育成の目的必要なスキル
管理職層学校経営にDXを取り入れるデータ活用・意思決定力
教員層日常業務の効率化ICTツール運用・課題解決力
ICTリーダー層現場支援と推進システム理解・チーム推進力

このように層ごとに目的を分け、現場の業務改善と連動する研修設計を行うことで、DXは一過性ではなく文化として根付きます。

SHIFT AI for Bizでは、こうした段階的なリスキリングを体系化し、教育機関に合わせたDX推進研修を提供しています。教職員が自ら変革をリードできる状態をつくることが、校務DXを「続く仕組み」に変える最短ルートです。

導入だけで終わらせない。成果につなげる設計を無料資料でプレゼント
AI活用を成功に導く5ステップを見る

校務DXを成功に導く組織変革の原則

校務DXの本質は、業務改善でもシステム導入でもありません。組織そのものの在り方を変える文化改革です。学校という組織は長年、慣習と属人性の中で動いてきました。だからこそDXの成功には、「ツールを使う力」よりも「変化を受け入れる文化」を育てることが欠かせません。

原則1:ビジョンを明確にし、現場に共有する

教職員が納得して動くためには、「何のためにDXを進めるのか」という目的を明確に示す必要があります。管理職が現場の課題を解決するためのDXとしてビジョンを発信することが、最初の一歩です。目的が曖昧なままでは、改革はやらされ感で終わります。

原則2:現場主体で小さな成功体験を積み上げる

現場の教職員が自分たちで改善策を出し、成果を実感することで、DXは加速します。たとえば、日々の出欠処理や報告書作成を自動化するなど、身近な業務から変えるアプローチが効果的です。小さな成功が信頼に変わり、次第に組織全体の動きへと波及します。

原則3:伴走支援と継続的な育成体制を整える

DXの取り組みは、一度の研修や導入で完結しません。推進リーダーを中心に、継続的に相談・改善できる伴走体制を築くことが、定着の鍵です。外部の専門機関や研修パートナーと協働しながら、現場の課題をアップデートし続ける環境を整えましょう。

校務DXは「導入して終わり」ではなく、「育て続けるプロジェクト」です。AI経営総合研究所が考える校務DXの理想像は、学校が自ら変化を続けられる組織をつくること。それこそが、教育の未来を支える最も強い基盤になります。

次に、ここまでの要点を整理しながら、校務DX成功のために何から始めるべきかをまとめます。

まとめ|校務DXの成功は、人が変わることから始まる

校務DXの目的は、業務を効率化することではなく、教職員がより良い教育を届けられる環境をつくることにあります。デジタルは手段に過ぎません。本当に変えるべきは「人の意識」と「組織の文化」です。

学校のDXが進むと、書類処理や報告業務が減るだけでなく、教員同士の連携が強まり、教育の質が上がるという副次的な効果も生まれます。データをもとに話し合う文化が定着すれば、学校全体が改善を重ねるチームへと進化します。

DXの推進には、現場・管理職・教育委員会が一体となった体制が欠かせません。特に管理職は、デジタルを使う組織を導くリーダーとしての姿勢が求められます。現場の声を拾いながら方向性を示すことが、校務DXを長く続ける力になります。

SHIFT AI for Bizでは、こうした組織変革を支える人材育成型DX研修を提供しています。単なるツール研修ではなく、教職員が「自ら変化を設計できる人材」へ成長することを目的としています。

導入だけで終わらせない。成果につなげる設計を無料資料でプレゼント
AI活用を成功に導く5ステップを見る

校務DXに関するよくある質問(FAQ)

校務DXを進めようとする学校や自治体から寄せられる質問の多くは、「どこから始めるべきか」「どのように定着させるか」という実務的な悩みです。ここでは、導入前に押さえておきたい代表的なポイントを整理します。

Q
校務DXと教育DXの違いは?
A

校務DXは教職員の働き方や業務を変える取り組みであり、教育DXは授業・学びを変える取り組みです。目的が異なりますが、両者は密接に関連しています。校務が効率化されることで、教育DXがより効果的に進むという順序が理想です。

Q
校務DXはどの業務から始めればいい?
A

最初は「全体最適」よりも、負担の大きい業務から小さく始めるのが成功のコツです。例えば、出欠・報告書作成・会議資料の共有など、日常的に発生する作業を対象にすると、すぐに効果を実感できます。文科省の「校務DXチェックリスト」を活用して、改善余地の大きい領域を可視化するのも有効です。

Q
教員のITリテラシーが低くても進められる?
A

問題ありません。重要なのは、一律にスキルを上げることではなく、役割ごとに必要なリテラシーを段階的に育成することです。校務DXの目的を共有し、現場の疑問や不安を丁寧に解消していけば、誰でも自分のペースで変化に参加できます。

Q
セキュリティや個人情報保護の面は大丈夫?
A

ジタル庁文科省が策定するガイドラインに基づき、セキュリティ対策の標準化が進んでいます。クラウド環境でも、アクセス権限・ログ管理・暗号化通信を徹底すれば安全性を確保できます。運用ルールを明確にし、関係者が共通理解を持つことが何より大切です。

Q
校務DXを成功させるために人材育成は必要?
A

必須です。ツールは導入後すぐに陳腐化しますが、人が変われば仕組みは進化し続ける。だからこそ、教職員が自ら改善を生み出せる力を育てる研修が欠かせません。SHIFT AI for Bizでは、現場の課題に即したDXリテラシー研修を提供し、定着までを伴走支援しています。

校務DXの目的は「効率化」ではなく、教育現場を持続可能にするための構造改革です。テクノロジーと人材育成の両輪で進めることで、教職員が生き生きと働き、子どもたちの学びにより多くの時間を注げる未来が実現します。

法人企業向けサービス紹介資料