市長から「うちの市もDXを進めよう」と言われた瞬間、あなたの頭に浮かんだのは「何から手をつければいいんだ?」という言葉ではないでしょうか。

紙の書類、押印の文化、部門ごとにバラバラなシステム。住民サービスのデジタル化が求められる一方で、庁内の業務は複雑で、誰も全体を俯瞰できない。

そんな状況の中で「DXを進める」と言われても、現場に落とし込める具体的な手順が見つからず立ち止まってしまう自治体が少なくありません。

本記事では、「市役所DXをどう実践的に進めるか」を5つのステップで徹底的に解説します。単なるデジタル化ではなく、職員が自ら動き、住民が変化を実感できるDXの進め方を、組織体制・業務プロセス・人材育成の観点から整理しました。

これまで多くの自治体が直面してきたDXが進まない理由を踏まえつつ、明日から動ける具体的なアクションを提示します。
あなたの市役所のDXが止まっているなら、ここから再スタートを切りましょう。

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目次

市役所DXを進める前に押さえておくべき3つの前提

市役所のDXは「デジタルツールを導入すること」ではありません。目的は、行政サービスそのものを再設計し、住民と職員の双方にとって価値ある仕組みに変えることです。とはいえ、現場を知る職員ほど「理想論では動かない」と感じるはず。

だからこそ、DXを始める前に整理すべき3つの前提を明確にしておく必要があります。これを押さえておくことで、以降のステップが現実的で継続可能になります。

1. DXは「デジタル化」ではなく「業務の再設計」である

紙の申請を電子化するだけでは、行政の根本は変わりません。DXの本質は、業務プロセスをゼロベースで見直し、住民が体験する価値を最大化することです。例えば、窓口業務をオンライン化するだけでなく、「そもそも窓口対応が必要か?」という発想に立ち返る必要があります。

この視点を持たずにツール導入を進めると、「導入したけど使われない」「現場が混乱する」といった形で止まります。DXの第一歩はシステム導入ではなく、業務構造の設計変更だと理解することが重要です。

2. 組織文化の抵抗を前提に設計する

市役所には長年培われた文化と手順があります。DXはそのルールを揺るがすため、抵抗は必ず起こると考えるのが現実的です。特に「前例主義」「責任分散」「稟議の多層構造」が障壁となります。抵抗を抑えるには、変化の目的を数字と言葉で伝えることが効果的です。

例えば「窓口待ち時間を30%短縮」「オンライン手続き比率を50%に」など、具体的なKPIを共有し、職員が成果を実感できる目標を持たせること。DXは現場の納得なしには一歩も進みません。

抵抗の原因対応策の例
変化への不安小さな成功事例を庁内で共有する
責任回避の文化チーム単位で成果を見える化する
システム理解不足研修や伴走支援を段階的に導入する

このように、人の感情を織り込んだ変革設計こそがDX推進の鍵です。変化を拒む職員を責めるのではなく、「なぜ変えるのか」を自分の言葉で語れる状態をつくることが最初の成功条件です。

3. トップの意思と現場の共感を同時に動かす

市役所DXの推進には、トップダウンとボトムアップの両輪が欠かせません。トップのリーダーシップだけでは現場は動かず、現場の意見だけでは方針が定まりません。市長や部課長が方針を明確に示し、現場が自分ごと化できる設計をつくることが理想です。ここで役立つのが、総務省の「自治体DX推進手順書」です。

この資料は、国が推奨するDXの基本枠組みを理解するうえで非常に有効です。公的な基準を踏まえつつ、自自治体の実情に合わせて調整することが現実的なアプローチとなります。参考:総務省|自治体DX推進手順書 第4.0版

この3つの前提を整理しておくことで、DX推進の土台ができます。次は、どのように全体像を描き、具体的な進め方を設計していくかを見ていきましょう。

市役所DXの全体像:何から始め、どこまでをゴールとするのか

市役所DXは、単に「業務をデジタル化する」ことではなく、行政サービス全体をより良い体験へと変える長期プロジェクトです。しかし、現場で推進を任された担当者の多くが悩むのは、「どこから着手すべきか」「何をゴールに設定すればいいのか」という点。ここでは、市役所DXの全体像を整理し、スタート地点と到達点を明確に描くための考え方を解説します。

DXのゴールは「便利な仕組み」ではなく「価値を感じる行政」

DXの最終目的は、住民にとって「便利になった」と感じられること、職員にとって「働きやすくなった」と実感できることです。つまり、手段ではなく成果に焦点を当てることがDX成功の鍵。システム導入やクラウド化は通過点にすぎません。真のゴールは、業務の効率化を通じて住民サービスの質を高め、市民満足度を上げることにあります。

また、ゴールを設定する際は「庁内業務」「住民サービス」「組織文化」という3層構造で考えるのが有効です。

階層目的代表的な施策例
業務効率化職員の作業負担軽減RPA導入、電子決裁、書類削減
住民サービス改善利便性向上オンライン申請、AIチャット、窓口予約制
組織文化改革継続的な変革体質の醸成DX研修、評価制度見直し、横断チーム運営

このように、DXのゴールは「何をデジタル化するか」ではなく、「誰にどんな価値をもたらすか」で定義します。

スタート地点を見誤らない:現状把握がDXの出発点

どんなに立派な計画を立てても、現状の課題を正確に把握していなければDXは空回りします。まず行うべきは、現場の業務を見える化し、課題を定量的に整理すること。紙・Excel・口頭で行われている業務の一覧化から始め、どの業務がボトルネックになっているかを可視化します。

さらに、「住民目線での課題」も洗い出すことが重要です。職員が便利だと思う仕組みでも、住民にとっては煩雑に感じるケースは多々あります。職員と住民の両視点を取り入れることで、DXの優先順位と方向性が明確になります。

公的フレームを活用して全体像を描く

DXを体系的に進めるには、総務省が策定した「自治体DX推進手順書」を参考にするのが効果的です。この手順書は、自治体がDXをどの順序で、どのような観点で進めるべきかを整理した国のガイドラインです。国の指針をベースに、自治体ごとの現実に合わせてカスタマイズすることが最も現実的な進め方と言えます。

関連記事:市役所DXとは?止まる自治体と進む自治体の違い|庁内業務から人材育成までわかる実践ガイド

DXのゴールと全体像を明確に描ければ、次は「何を、どんな順番で実行するのか」に焦点を移していきます。ここからは、実践的なステップをもとにDXを前進させる方法を解説します。

【実践ステップ①】現状を把握し、課題を定義する

市役所DXを成功させる第一歩は、「現状を正しく見える化すること」です。DX推進がうまくいかない自治体の多くは、問題の本質を曖昧なままにして、ツール導入やシステム刷新に踏み出してしまいます。しかし、現状分析なくして改革の方向性は定まりません。ここでは、効果的な現状把握の方法と、課題を定義するための実践的アプローチを紹介します。

業務の全体像を可視化し、ボトルネックを発見する

まず最初に行うべきは、庁内業務の棚卸しです。どの部署で、どのような業務が、どのくらいの工数で行われているかを洗い出し、重複・非効率・属人化の要素を見つけ出します。ここで重要なのは、単に作業内容をリスト化するのではなく、「住民価値につながっているか」という観点を持つことです。

例えば、紙での承認プロセスが「安心感のために残っている」だけなら、それはデジタル化すべき領域です。逆に、住民と直接接する窓口業務のように、人の関与が価値を生む業務は残す判断も必要です。

業務の棚卸しを効率的に行うには、以下のようなカテゴリ分けが有効です。

分類主な業務例改善アプローチ
定型業務経理処理、文書管理自動化・RPA化を検討
非定型業務職員対応、窓口質問対応マニュアル化・FAQ整備
住民対応業務申請受付、証明書発行オンライン申請・予約制導入

この可視化を行うことで、庁内のどこにDXの余地があるかが具体的に見えてきます。

データと現場ヒアリングの両面から課題を掘り下げる

現状把握を正確にするには、数値データと現場の声の両方が欠かせません。
データ面では、処理件数・待ち時間・手続きコスト・人員配置などを定量的に整理し、現状のパフォーマンスを明らかにします。一方で、現場職員や住民へのヒアリングからは、数字には表れない使いにくさや非効率の理由を掘り起こします。

この2つを掛け合わせることで、単なる表面的な課題ではなく、「なぜその非効率が生まれているのか」という因果関係を明らかにできます。データだけでなく人の実感を構造的に捉えることが、DXの起点となる課題定義です。

優先順位をつけて、解決すべき課題を明確にする

課題を洗い出したら、次に行うのは優先順位づけです。市役所の業務は膨大なため、すべてを一度に変えることはできません。ここで有効なのが、「影響度×実現可能性マトリクス」を使った整理です。

評価軸
影響度(住民・職員への効果)A. すぐに取り組むB. 将来的に検討
実現可能性(コスト・工期・技術)C. 短期改善が可能D. 優先度を下げる

この表を使えば、改革のインパクトと実行性を見極めながら、短期と中長期の取り組みをバランスよく設計できます。全部を変えようとしないことがDXの第一歩です。

業務の見える化と課題定義が終われば、次に必要なのは「それを実現できる体制をつくること」。次のステップでは、市役所DXを動かす推進組織とリーダーシップの作り方を解説します。

【実践ステップ②】推進体制をつくる:トップの意志と現場の共感を両立させる

DX推進は、個人の努力や一時的なプロジェクトでは定着しません。市役所という組織全体を動かすためには、明確な推進体制と役割分担を設計することが不可欠です。体制づくりの要は、「誰が旗を振り、誰が現場を支え、どのように意思決定を進めるか」を明確にすること。ここを曖昧にしたままDXを進めると、方針が迷走し、現場のモチベーションが続かなくなります。

トップが示す「方向性」と「覚悟」が推進の原動力になる

市役所のDXは、トップのリーダーシップがなければ動きません。市長や部課長が自分事としてDXを語れるかどうかが成否を分けます。たとえ現場が優れた提案をしても、上層部の理解がなければ、予算も稟議も前に進みません。重要なのは「なぜDXをやるのか」を理念として明文化し、組織全体に共有することです。

トップが「住民サービスを再設計するためのDX」と言い切ることで、職員の意識が「業務改善の延長」から「組織の変革」へと切り替わります。さらに、市長が自らDX関連会議に出席する、成果を議会で言及するなど、言葉と行動の一貫性が現場の信頼を生むのです。

横断型チームで縦割りを越える

市役所のDXが進まない最大の理由は、「縦割り構造」にあります。部署ごとに予算・システム・責任範囲が異なるため、全体最適よりも部分最適が優先されてしまうのです。これを打破するには、部門横断型のDX推進チームを設けることが効果的です。

推進チームは、総務・企画・情報政策・現場部署など、異なる立場のメンバーで構成します。重要なのは「各課の代表者」が集まることではなく、変化を起こせる人材を選ぶこと。実務に精通しつつ、変革意欲のある職員がチームにいると、現場への浸透が格段に早まります。

役割主なミッション
市長・部課長方針決定、全庁的リソース配分
DX推進リーダー実行計画策定、進捗管理、庁内調整
各課代表業務実態の共有、課題抽出、現場展開
外部パートナー専門知見の提供、研修・伴走支援

このような体制で動くことで、部署ごとのDXを点ではなく線としてつなぐことができます。

スモールサクセスを積み上げて庁内に信頼をつくる

最初から全庁的な改革を目指すと、抵抗や混乱が生じて失敗します。DXを定着させるには、小さな成功体験を積み上げて庁内に信頼をつくることが大切です。例えば、まず1部署で電子申請やRPAを試験導入し、成果を「数字とストーリー」で発信する。

「申請処理時間を40%短縮」「残業時間を月20時間削減」など、具体的な成果を共有すると、他部署がうちでもやりたいと感じるようになります。DXは共感によって広がる文化変革です。

体制が整えば、いよいよ実務レベルでの業務見直しに入ります。次は、業務プロセスをどう再設計し、デジタル化の土台を整えるかを解説します。

【実践ステップ③】業務プロセスを見直し、デジタル化の土台を整える

DXを進めるうえで最も重要なフェーズが、業務プロセス(BPR:Business Process Re-engineering)の見直しです。ここを丁寧に設計しないままツールを導入しても、現場では「前より使いにくくなった」「結局アナログ業務が残った」といった不満が生まれます。DXはシステム導入ではなく、業務そのものの再構築です。つまり、「今の業務を効率化する」のではなく、「そもそもこの業務は必要なのか?」という視点から出発する必要があります。

業務のムダを発見する3つの視点

市役所の業務には、長年の慣習やルールが積み重なり、知らず知らずのうちにムダが生まれています。このムダを見つけて排除することが、DXの最初の成果になります。
業務を見直す際は、以下の3つの視点からアプローチするのが効果的です。

視点具体例改善の方向性
申請書・決裁文書・印鑑文化電子申請・電子決裁・デジタル署名の導入
承認多段階稟議・押印のための出社権限委譲・承認プロセスの簡略化
待ち時間市民対応の待機・職員間の確認待ちワークフロー可視化・チャットツール導入

このように業務を「紙」「承認」「待ち時間」という軸で見直すと、どこから手をつけるべきかが明確になります。 改善の第一歩は、減らす勇気を持つことです。

システム導入前にやるべき「業務の整理」

多くの自治体が陥るのは、「システムを入れれば改善できる」という思い込みです。実際には、業務が整理されていない状態でシステムを導入すると、余計に複雑化します。

まずは、現行業務を「誰が・いつ・何の目的で」行っているのかを明文化し、業務フローを図解することから始めます。フロー化することで、重複やボトルネックが浮かび上がり、削除・統合・自動化の判断ができるようになります。

さらに、業務の優先順位を明確にして、「システムで自動化すべき領域」と「人が関与すべき領域」を分けておくと、DXの効果が格段に高まります。デジタル化はゴールではなく、再設計の結果として行うもの。 この順序を間違えないことが成功の鍵です。

標準化・共通化でつながる行政をつくる

市役所のDXは、1部署だけで完結するものではありません。庁内全体で同じ基準・同じデータ構造を持つことで、業務の横断性と再利用性が高まります。 これを支えるのが「標準化・共通化」の考え方です。

特に注目すべきは、総務省が推進する「情報システム標準化ガイドライン」です。これに沿ってデータ形式やシステム仕様を統一することで、他自治体や国との連携が容易になります。また、ベンダー依存から脱却し、費用対効果の高い運用が可能になります。

さらに、業務プロセスの標準化は、職員の異動が多い市役所においても強力な武器になります。誰が見ても理解できるフローを整備することで、引き継ぎミスを防ぎ、職員の生産性を高めることができるのです。

この段階まで整えば、DXの仕組みは整いました。次に必要なのは、その仕組みを動かす人を育てること。 続くステップでは、職員の意識とスキルを変える人材育成の仕組みを解説します。

【実践ステップ④】職員の意識とスキルを変える:DXリテラシー育成の核心

DXの仕組みを整えても、それを動かす「人」が変わらなければ、改革は定着しません。 どんなに優れたシステムを導入しても、職員が活用できず、旧来のやり方に戻ってしまう──それが自治体DXで最も多い失敗パターンです。DXを推進するうえで重要なのは、技術よりも意識の変革。そして、意識を変えるには、体系的なリテラシー育成と現場を巻き込む仕組みづくりが不可欠です。

「DXは自分には関係ない」を乗り越える意識改革

市役所の現場では、「DXは専門職がやるもの」「自分の仕事には関係ない」といった認識が根強く残っています。こうした意識を変えるには、職員一人ひとりが自分ごととしてDXの意義を理解することが必要です。

有効なのは、「なぜDXが必要なのか」を自分の仕事に結びつけて考えさせる研修です。例えば、窓口担当者には「住民との接点をどう改善するか」、経理担当者には「決裁プロセスをどう簡略化できるか」など、具体的な業務テーマで学びを設計します。
また、研修を単なる座学で終わらせず、ワークショップ型で実際に手を動かす形式にすることが効果的です。体験を通じて学ぶことで、「DX=自分が動かすもの」という意識が芽生えます。

人材育成の3ステップでできる職員を増やす

DXリテラシーを高めるには、段階的な育成が必要です。いきなり全職員に高度なスキルを求めるのではなく、「理解 → 実践 → 共有」の3ステップで進めると効果的です。

ステップ育成の目的主な取り組み内容
理解DXの目的を正しく理解するeラーニング・講義型研修
実践自分の業務でDXを試すチーム単位での改善プロジェクト
共有成果を庁内で横展開する成果発表会・成功事例の共有

このようにスモールステップで取り組むことで、現場が混乱せず、成功体験を積み重ねながらDX人材を育てることができます。特に、庁内での共有フェーズを仕組み化することが継続するDX文化を育む鍵になります。

研修・伴走支援がDXを加速させる

人材育成を庁内だけで完結させるのは難しいのが現実です。限られた人員とノウハウの中で、継続的に職員を育てるには、外部の専門機関との連携や伴走支援が効果的です。外部パートナーの知見を取り入れることで、最新のDX動向や他自治体の成功ノウハウを吸収し、庁内の学びを加速させることができます。

また、単発のセミナーではなく、実務と学びを結びつける研修を設計することが重要です。現場で直面している課題を題材にしながら、ツール活用やデータ分析を実践的に学ぶ──そんなプログラムが定着の近道です。

市役所DXを進める上で、人材育成は「コスト」ではなく「投資」です。職員が自ら考え、動けるようになることで、外部委託に頼らない持続可能なDX推進体制が整います。

DXを動かす人材が育ったら、次に必要なのは変化を継続させる仕組みです。続くステップでは、DXを定着化し、成果を測るためのKPIと改善の仕組みを解説します。

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【実践ステップ⑤】DXを定着させる:評価指標と継続改善の仕組み

DXは「導入して終わり」ではありません。真のゴールは定着と進化です。 システムを入れ、業務をデジタル化しただけでは、次年度の人事異動や担当変更であっという間に元のやり方に戻ってしまいます。市役所DXを持続可能な仕組みにするには、成果を測り、改善を繰り返すサイクルを組織として回せる状態をつくることが欠かせません。

成果を見える化するKPIを設定する

DXの進捗を測るには、成果を定量化できるKPI(重要業績評価指標)を設けることが必須です。KPIを設定することで、職員全員が同じゴールを共有し、庁内の改善活動に一体感が生まれます。
効果的なKPIは、「業務効率化」「住民サービス」「職員満足度」の3軸で設計するとバランスが取れます。

評価軸主な指標例目的
業務効率化処理時間短縮率/電子決裁率職員の作業時間を削減し、生産性を可視化
住民サービスオンライン申請利用率/住民満足度調査利用者体験の改善と利便性向上
職員満足度DX研修受講率/庁内アンケートスコア意識変化・文化浸透の定量評価

これらの指標を四半期や半期ごとに評価し、改善点を明確化します。数字で語れるDXは、次期予算の確保や議会説明にも説得力を持たせることができ、組織としての信頼を高めます。

PDCAサイクルを庁内に根づかせる

KPIを設定したら、それを活かすためにPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを運用ルールとして定着させることが重要です。計画を立てて実行し、結果を検証し、改善する――この一連の流れをチームレベルで回すことで、DXは「イベント」ではなく「日常業務」に変わります。

特に注意すべきは、担当者の異動によるノウハウの断絶。これを防ぐには、プロジェクトの進捗・成果・課題をすべてドキュメント化し、共有フォルダやナレッジベースに蓄積しておくことが効果的です。また、定期的に庁内報や職員会議などでDXの成果を共有することで、組織全体に学びを循環させることができます。

成果を次の予算・施策へつなげる

DXの定着には、成果を「次の行動」に結びつけることが欠かせません。小さな成功を可視化し、それを庁内外に発信することで、DX推進のモメンタムを維持できます。成果報告を議会や市民向け広報に活用すれば、住民の理解も得やすくなり、次年度の予算獲得にもプラスに働きます。

また、成功した取り組みを他部署へ展開することで、全庁的なDXの成熟度を底上げできます。ここで再び、職員研修や外部パートナーとの連携を強化することで、改善サイクルが加速します。学び続ける自治体こそが、真にDXを定着させる組織です。

DXを定着させる仕組みが整えば、市役所は自律的に成長する組織へと変わります。次の章では、その成長をさらに加速させる3つの実践ヒントを紹介します。

自治体DXを成功に導くための3つの実践ヒント

ここまで、市役所DXを進めるための5つのステップを整理してきました。仕組みを整え、人を育て、成果を測ることでDXの基盤はできますが、そこから先に進む自治体と、立ち止まってしまう自治体には明確な違いがあります。その差を生むのは、制度でも予算でもなく、日々の「実践の工夫」です。ここでは、DXをさらに前進させるために押さえておきたい3つの実践ヒントを紹介します。

小さく始めて、大きく育てる

DXを進める上で多くの自治体が陥るのが、「完璧を目指すあまり動けなくなる」という状況です。特に公的機関では、失敗への慎重さからプロジェクトが過度に長期化し、結果的に進まないケースが少なくありません。そこで有効なのが、スモールスタートの考え方です。

まずは1部署・1業務から始め、短期間で成果を出すことで庁内の理解と信頼を得ます。その後、他部署へ水平展開していけば、自然と全庁的な改革へ広がります。DXはまずやってみる姿勢からしか始まらない。 小さな成功を積み重ねることで、市全体の動きが生まれるのです。

外部支援を恐れず、専門知を活用する

自治体DXは、すべてを内製化しようとすると行き詰まります。限られた人材・時間・予算の中で効率的に進めるには、外部の専門知を戦略的に取り入れることが不可欠です。特に、業務改革やデータ活用、職員研修の設計など、専門性の高い領域は、外部パートナーと連携することで質もスピードも大きく向上します。

ここで重要なのは、「外部=丸投げ」ではなく、「庁内の課題を共に解決する伴走者」として活用すること。例えば、SHIFT AI for Bizのような実践型研修を導入すれば、外部の知見を取り込みつつ、庁内にノウハウを定着させることができます。外部連携は依存ではなく、学びの拡張です。

人を変え、組織を変える視点を持ち続ける

DXを成功させる最大の鍵は、「人」から変えることです。どれほど最新の技術を導入しても、使う人の意識が旧来のままでは本当の変革は起きません。重要なのは、職員が自ら変化を起こせる文化を育むこと。そのためには、挑戦を評価し、失敗を責めない環境を整えることが欠かせません。

「やってみよう」「改善してみよう」という声が自然に上がる職場は、DXが息づく職場です。市役所DXの本質は、テクノロジーの導入ではなく、組織文化の再設計にあります。職員一人ひとりが変化を楽しめる状態をつくることが、DXの持続的成功を支える土台です。

小さく始め、外とつながり、人を育てる。この3つを実践できる自治体こそ、次の時代に選ばれる行政になります。

まとめ:市役所DXの進め方は「人×仕組み×継続」

市役所DXを成功に導くために必要なのは、特別な技術でも巨額の予算でもありません。人が動き、仕組みが回り、それを続ける力です。DXの本質は、行政を「より良くする」ための考え方の転換にあります。住民が便利になり、職員が働きやすくなり、組織が変化を恐れなくなる。この3つが揃ったとき、初めてDXは本当の意味で定着します。

多くの自治体が共通してつまずくのは、「やり方がわからない」ことではなく、「続け方を知らない」ことです。DXは一度きりの改革ではなく、試行と改善を積み重ねる長期的なプロジェクトです。KPIで成果を測り、課題を共有し、研修を通じて職員を育てる。このサイクルを庁内の文化として根づかせることが、市役所DXを持続させる唯一の道です。

そして、忘れてはならないのは、DXの起点は「一人の行動」から生まれるということ。あなたの小さな提案、ひとつの改善、ひとりの共感が、組織を変える火種になります。市役所という巨大な組織の中でも、変化を起こす力は確かに存在します。それを形にするのが、あなたの一歩です。

SHIFT AI for Bizの研修プログラムでは、自治体職員が実践的に動けるDX人材へと成長するためのノウハウを体系的に学べます。現場から変革を起こす力をつけたい方は、ぜひ一度資料をご覧ください。

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市役所のDX推進に関するよくある質問(FAQ)

DX推進を任された市役所職員の方から、よく寄せられる質問をまとめました。現場で実際に起こりがちな疑問に答えることで、次の一歩を明確にすることが目的です。ここで紹介する内容は、どの自治体にも共通する課題に基づいています。

Q
Q1. DXの「デジタル化」と「業務改革」は何が違うのですか?
A

デジタル化は手段、業務改革は目的です。 たとえば紙の申請書を電子化するのはデジタル化ですが、それだけでは住民の利便性は変わりません。業務改革とは、「そもそもこの手続きは必要か?」「より簡単にできないか?」を見直し、プロセス全体を最適化することです。デジタル化は、その改革を支えるツールのひとつに過ぎません。

Q
Q2. DX推進の担当になりましたが、ITに詳しくありません。何から始めればいいですか?
A

多くの自治体職員が同じ不安を抱えています。最初に行うべきは、「DXの目的を理解し、庁内の現状を把握すること」です。具体的には、どの業務に時間や工数がかかっているのかを整理し、「改善できそうな領域」を洗い出すところから始めましょう。
ITの専門知識は必ずしも必要ではありません。重要なのは、課題を正確に定義し、外部パートナーや専門家と協働できるリーダーシップです。SHIFT AI for Bizなどの研修プログラムを活用すれば、実践的な知識と推進スキルを短期間で身につけることができます。

Q
Q3. DXを進める際に、職員の抵抗を減らすにはどうすればいいですか?
A

抵抗の多くは、「何を、なぜ変えるのか」が伝わっていないことから生まれます。職員にとって、変化は不安の源です。したがって、変革の目的と効果を数字と事例で見せることが効果的です。たとえば「申請処理時間を半減できる」「住民満足度が向上する」といった具体的成果を共有することで、納得と共感を得られます。また、DX推進チーム内に変革の共感者を複数人置くことで、庁内の空気をポジティブに変えていけます。

Q
Q4. DXの成果をどのように評価すればいいですか?
A

DXの成果は、「業務効率」「住民サービス」「職員の意識変化」という3軸で測定します。

  • 業務効率:処理時間、残業時間、コスト削減率などの定量指標
  • 住民サービス:オンライン申請利用率、住民アンケート結果
  • 職員意識:研修受講率、庁内アンケートによる意識変化

これらを定期的に評価し、改善策を回すことで、DXがやりっぱなしにならず、成長する仕組みを維持できます。

Q
Q5. 他自治体の事例をどのように参考にすればいいですか?
A

事例をそのまま真似するのではなく、「なぜその自治体は成功したのか」を分析することが大切です。たとえば、「職員の意識改革をどう行ったか」「庁内横断チームをどう設計したか」など、構造的な要因に注目してください。また、自自治体の規模・人員・予算に合う形にアレンジすることで、無理なく成果を再現できます。
(関連記事:市役所DXとは?止まる自治体と進む自治体の違い|庁内業務から人材育成までわかる実践ガイド

Q
Q6. DXの取り組みを長期的に継続するコツはありますか?
A

DXを継続させる最大のコツは、「成功を共有し、学びを仕組みにする」ことです。庁内報や定例会議でDXの成果を発表する仕組みを作れば、職員のモチベーションが高まり、自然と改善文化が育ちます。さらに、成功事例を市民や議会にも発信することで、外部からの理解と支援を得られます。
DXは一度きりのプロジェクトではなく、組織が進化し続けるための習慣です。学び続ける自治体こそ、これからの時代に信頼される行政になるでしょう。

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