ウェルビーイング経営を進めようとしても、社員の状態がつかめず「何を改善すべきか」がわからないまま施策が散発的に終わってしまう企業は少なくありません。特に働き方の多様化が進む今、感覚や属人的なマネジメントだけでは組織の変化を捉えきれず、本来期待される成果につながりにくい状況が目立っています。
そこで重要になるのが、データを起点に組織の状態を可視化し、変化を早期に把握するためのDXです。DXによって「どの部署で」「どんな兆候が起きているか」をつかめるようになり、ウェルビーイング施策の効果検証や改善がはじめて機能します。

この記事では、ウェルビーイング経営をDXで加速させるための実践的なステップを具体的に整理します。

読み終えるころには「自社で明日から着手できるDX×ウェルビーイングの導入ステップ」が明確になります。

「AI導入、どう進める?」と上司に聞かれたら、この5ステップで解決!
「失敗を避ける」AI活用の進め方(全5STEP)を見る
人気No.1セット
【この記事を読むあなたにおすすめ!】
生成AIの導入・活用を成功させる
「必須ノウハウ3選」を無料公開
▼ まとめて手に入る資料
  • 【戦略】AI活用を成功へ導く戦略的アプローチ
  • 【失敗回避】業務活用での落とし穴6パターン
  • 【現場】正しいプロンプトの考え方
3資料をまとめてダウンロードする

ウェルビーイング経営がうまくいかない3つの構造的課題

ウェルビーイング経営に取り組む企業の多くが、最初の一歩でつまずく背景には共通する要因があります。代表的なのは、従業員の状態を把握する仕組みが不十分で、改善に必要な材料がそろわないことです。ストレスチェック結果や離職率、エンゲージメントスコアなど、バラバラに保管された情報が点で存在するだけでは、組織全体の“今”を理解することはできません。結果として、施策の優先順位が定まらないまま、表面的な取り組みに終わるケースが続いています。

もうひとつの課題は、現場と経営が同じ指標を見ていないことです。経営側は人的資本の強化を掲げても、管理職は日々のマネジメントに追われ、ウェルビーイングを高める取り組みが後回しになりがちです。「何を改善すれば成果が出るのか」が見えないままでは、行動も変わりません。さらに、施策の効果検証ができないと、取り組みが継続しないという問題も生じます。

こうした構造的な課題を解消するカギが、DXによるデータの可視化と一元管理です。状態が“見える化”されることで、改善すべき領域が明確になり、現場のアクションも定量的に判断できるようになります。次のセクションでは、DXがウェルビーイング経営をどのように変えるのかを詳しく解説します。

DXがウェルビーイング経営を変える理由

ウェルビーイング経営を実践していくうえで、最も大きな壁になるのが「状態が見えない」ことです。DXを活用すれば、この課題を根本から変えることができます。まず、サーベイ結果、勤怠データ、業務量、1on1記録、相談履歴など、これまで別々に管理されていた情報を一元化することで、従業員の状態を立体的に捉えられるようになります。単一のデータだけでは判断が難しかった兆候も、複数データを掛け合わせることで初めて意味を持つようになります。

また、可視化されたダッシュボードを通じて、管理職と経営層が同じ指標を共有できる点も大きな変化です。たとえば、エンゲージメント低下が続いている部署では業務量の偏りが見られる、離職リスクが高まっているチームはコミュニケーション量が低下している、など、これまで“感覚”で処理されていた問題に具体的な根拠が生まれます。問題の早期発見ができることで、対応も迅速になります。

さらに、DXは取り組みの効果を明確にし、改善のサイクルを回しやすくします。施策実施前後の変化が定量で比較できれば、何が効いているのかが判断でき、次のアクションがより精度の高いものになります。ウェルビーイング経営は“継続して改善する仕組み”を作れるかが成果の鍵となるため、このデータによる検証機能は欠かせません。

ウェルビーイング経営をDXで進める導入ステップ

ウェルビーイング経営をDXと組み合わせて進める際、多くの企業が「どこから手をつけるべきか」で迷います。
データ活用やダッシュボードの整備は重要ですが、その前提となる 目的の設計指標の整理 が曖昧だと、運用が続かず成果も見えにくくなります。ここでは、どの企業でも共通して押さえるべき導入のステップを、実務レベルで整理します。

ステップ1:改善したいテーマを明確にする(目的設計)

DXによる可視化を始める前に、「何を改善したいのか」を具体的に言語化することが欠かせません。
離職率の改善、マネジメントの質向上、エンゲージメント低下の抑制、心理的安全性の確保など、企業ごとに重点は異なります。

目的が曖昧なままでは、どのデータを集めるのか、どんな指標を見れば良いのかが定まらず、取り組みが散発的になりがちです。最初に“目指す状態”が整理されることで、DX施策の方向性が揃い、後の運用に大きな差が出ます。

ステップ2:最低限そろえるべき “4種類のデータ” を棚卸しする

ウェルビーイング経営の改善に直結するデータは、実は複雑なものではありません。
まずは扱いやすく変化が反映されやすい、次の4種類をそろえるだけで十分に効果が出始めます。

  • エンゲージメントサーベイの推移
  • 勤怠・残業のデータ
  • 業務量(タスク量・負荷の偏差)
  • 1on1や面談記録の頻度・内容

これらは多くの企業が既に保有しているデータで、連携しやすい点もメリットです。
DX導入の初期は「すべてのデータを一気に統合する」必要はなく、この4点の整理から始めるだけで組織状態の“兆候”が見えてきます。

ステップ3:経営と現場が共有する指標を決める

データの棚卸しが終わったら、次は「何を見れば状態がわかるか」を絞り込む段階です。
指標が多すぎると管理職が判断しにくくなり、逆に少なすぎると改善ポイントが見えません。

代表的な指標は以下の通りです。

  • 離職リスクの兆候(勤怠変化・サーベイ揺れ)
  • 負荷の偏り(業務量と残業量のバランス)
  • コミュニケーション量(1on1の頻度・内容の変化)
  • エンゲージメント低下の予兆

重要なのは、経営と管理職が同じ指標を起点に会話できる状態をつくることです。ここが揃うと判断のばらつきが減り、改善サイクルが安定して回り出します。

ステップ4:ダッシュボードで“共通言語”をつくる

指標が定まったら、次は可視化です。
ダッシュボードは単に数字を並べるものではなく、経営と現場が同じ景色を見るための“共通言語づくり” の役割を持ちます。

  • 数値の変化をひと目で把握できる
  • 部署ごとの状態を比較できる
  • マネジメントの判断をデータで裏付けられる

といったメリットが生まれ、会議や1on1の質が自然と上がります。
とくにウェルビーイング経営は抽象度が高く“属人的に判断されがち”なので、ダッシュボードでの共有は効果が出やすい領域です。

ステップ5:研修と運用ルールで現場に定着させる

導入ステップの中で、最も成果に差が出るのがこのフェーズです。
データが見えるようになっても、管理職がその意味を理解し、1on1やチーム運営で活用する習慣がなければDXは続きません。

必要になるのは、

  • 指標の読み解き方を理解する研修
  • 1on1でのデータ活用ルール
  • 組織全体での「共通言語化」
  • 施策効果を検証するサイクルの設計

こうした基盤が整うことで、ウェルビーイング経営は“理念”ではなく“日常のマネジメント”として根づきます。

ウェルビーイング経営をDXで実行するロードマップ

ウェルビーイング経営をDXと組み合わせて実行する際は、順番を誤るとうまく機能しません。「ツール導入から始める」企業ほど定着しにくいのは、基盤づくりと目的設計が不十分なまま運用に進んでしまうからです。ここでは、どの企業にも共通する3つのステップに整理して、実行に移すうえでのポイントをまとめます。

ステップ1:データ収集基盤を整える

最初に必要となるのは、“今の組織の状態を把握できる材料”をそろえることです。ストレスチェック、従業員サーベイ、勤怠・残業、離職データ、組織図、業務量、面談記録など、一般的に多くの企業が保有しているデータでも、システムが分かれていると活用が難しくなります。
DX導入の第一歩は、これらの情報を統合できる状態をつくることです。専用ツールを入れる必要はなく、まずは「どのデータを、どの目的で使うのか」を整理するだけでも十分に進みます。データ連携の設計ができると、後工程での可視化や分析の精度が大きく変わります。

ステップ2:ダッシュボードで“経営と現場が同じ指標を見る”

データが集まったら、次に必要なのは“意味のある指標に整理すること”です。
ウェルビーイング経営では、成果につながるシグナルが複数のデータに散らばっているため、ダッシュボードで「何を見れば状態がわかるか」を明確にすることが欠かせません。

たとえば、

  • エンゲージメント低下の予兆
  • 業務量の偏り
  • 残業増加の兆候
  • チーム内コミュニケーションの変化
  • 離職リスクの高まり

など、管理職が意思決定に使いやすい形で可視化すると、問題が起きる前に手を打てるようになります。“感覚”ではなく“データ”で判断する文化が根づくと、全社が同じ方向に向かいやすくなります。

ステップ3:運用ルールと研修で現場に浸透させる

DXの導入で多くの企業がぶつかるのが“使われない問題”です。
データが見えるようになっても、管理職が読み解く力を持っていない、会議や1on1で活用するルールがない、施策の優先順位づけができない。こうした状況では本来の効果は得られません。

ウェルビーイング経営を機能させるためには、

  • 指標の意味を理解する研修
  • 1on1やミーティングでのデータ活用ルール
  • 組織としての「共通言語」づくり
  • 成果を検証し、改善につなげるサイクル設計

が不可欠です。DXとマネジメント研修を組み合わせることで、データを現場の行動に落とし込む仕組みが整い、継続的にウェルビーイングを高める文化が根づいていきます。

DXと相性の良いウェルビーイング施策

ウェルビーイング経営を進めるうえで、施策の選択は企業ごとに異なります。しかし、DXによって組織の状態が可視化されると、「どの課題から手をつけるべきか」が明確になります。施策の優先順位づけが精度を増すことで、取り組みの効果が大きく変わります。ここでは、DXと組み合わせることで成果が出やすい代表的な施策を紹介します。

まず取り組みやすいのは、エンゲージメントを高めるコミュニケーション施策です。1on1の頻度や質、チーム内の対話量はデータとして可視化しやすく、改善の効果も確認しやすい領域です。ダッシュボードで変化を追えるようにすると、管理職自身が「何を変えるべきか」をつかみやすくなり、マネジメントの質が自然と上がっていきます。

次に効果が大きいのは、働き方の最適化です。業務量の偏りや残業の増加、コミュニケーションの途絶など、ストレスやパフォーマンス低下の前に現れる兆候は複数存在します。DXで把握したデータをもとに業務配分を調整することで、過度な負担を避けつつ、生産性を高める働き方に近づけます。

また、メンタル不調の早期支援もDXと相性の良い取り組みです。サーベイ結果の変化や相談傾向の分析から“気づきにくいサイン”を拾えれば、早い段階でフォローに入ることができます。従来は管理職の経験に依存していた気づきも、データを使うことで統一され、組織として安定した支援体制が整っていきます。

さらに、キャリア形成やスキル育成の領域もDXによる改善が進んでいます。個々の強みや成長傾向、配属後の変化をデータで確認できれば、適材適所の実現につながり、本人の納得感や職場への満足度も高まります。こうした「個人の幸福」と「組織の成果」が両立する施策こそ、ウェルビーイング経営の中心に位置するものです。

このように、DXによって組織の状態が見えてくると、施策の選択に迷いがなくなり、「どこに効果があるのか」を検証しながら、継続的に改善していくサイクルを作れるようになります。

よくある失敗パターン

ウェルビーイング経営とDXを組み合わせる際、「ツールを入れれば改善が始まる」と考えてしまう企業は少なくありません。しかし、実際にはDXを導入したにもかかわらず、現場の行動が変わらず成果に結びつかないケースが多く見られます。その背景には、いくつかの共通した失敗パターンがあります。

まず最も多いのは、DX導入が目的化してしまうことです。サーベイツールやダッシュボードを導入したものの、「どの指標を使って何を改善したいのか」が明確になっていないため、データを見ても行動につながりません。経営層と現場がバラバラの理解のまま運用を始めてしまうと、ツールはすぐに使われなくなり、取り組みが形骸化してしまいます。

次の失敗パターンは、“データを読み解ける人がいない”問題です。データは可視化されても、その意味を解釈し、優先すべきアクションに落とし込む力がなければ、改善のサイクルは動きません。特に管理職は日々の業務が多いため、データ活用の習慣が身につかず、従来通りのマネジメントに戻ってしまうこともよくあります。

また、現場への説明不足も失敗の一因です。「なぜこのDX施策を行うのか」「どんな変化を期待しているのか」が共有されていないと、従業員は納得感を持てず、データ入力やサーベイ回答が形だけのものになってしまいます。これでは運用が続かず、押し付けの取り組みとして捉えられてしまいます。

さらに見落とされがちなのが、成果検証の仕組みがないことです。施策の前後でデータを比較しなければ、改善の効果がわからず、投資判断も難しくなります。途中で取り組みが止まってしまう企業の多くは、この「検証の仕組みづくり」ができていません。

こうした失敗を避けるには、DXの導入と同時に、管理職が指標を理解し、日常のマネジメントに活かせるようにする仕組みが欠かせません。

AI時代のウェルビーイング経営

DXによって組織の状態を可視化できるようになると、次に広がるのが「予測するHR」の領域です。近年は、従業員体験(EX)や働き方データをAIで分析し、これまで管理職の経験に頼っていた領域を高度化する動きが進んでいます。ウェルビーイング経営においても、このAI活用が組織変革のスピードを大きく変え始めています。

代表的なのは、離職の予兆検知です。勤怠の変化、業務量の偏り、サーベイ回答の揺れ、コミュニケーション量の低下など、単体では判断しづらい情報でも、AIが組み合わせることで早期に兆候をつかめるようになります。従来は問題が“表面化してから”対応していたマネジメントが、未然にフォローできる形へと変わっていきます。

また、1on1や面談記録の分析も急速に広がっています。AIが要点を要約したり、改善提案を提示したりすることで、管理職がより質の高い対話をしやすくなります。これにより、マネジメントの経験値に依存していた1on1が“組織として均質化”され、従業員の不安や負担が軽減されます。

さらに、適材適所の実現もAIの得意分野です。スキル・性格特性・業務適性といった複数の情報をもとに、どの環境でパフォーマンスを発揮しやすいかを分析できます。キャリアマッチングの精度が上がれば、本人の納得感も高まり、ウェルビーイング向上につながります。

こうしたAIの活用は、単に効率化を目的としたものではありません。管理職の判断の質を安定させ、従業員の変化にいち早く気づき、組織全体で“守り”と“攻め”の両方を強化するための仕組みです。人が気づくには限界があるシグナルも、AIを通じれば過去のデータと照らして把握でき、マネジメントの精度が高まります。

まとめ|ウェルビーイング経営は“データ”と“運用”で継続的な変化が生まれる

ウェルビーイング経営は、理念だけで実現するものではありません。DXによるデータの一元化と可視化によって組織の状態を客観的に捉えられるようになると、改善の優先順位が明確になり、施策の効果を確かめながら継続的に取り組むための流れができていきます。さらに、AIを組み合わせることで、従来は見えなかった兆候を早い段階で把握できるようになり、マネジメントの精度やスピードが大きく変わります。

ただし、DXを導入するだけでは組織は変わりません。管理職が指標を理解し、日々の1on1やチーム運営の中で活かせるようになることで、ウェルビーイング経営は初めて“実行できるもの”になります。データを使いこなし、対話の質を高めながら、組織全体で改善のサイクルを回していくことが成果につながる道筋です。

ウェルビーイング経営を自社で進めたい、DXを現場で活かせる形にしたいという方に向けて、導入のステップやマネジメント研修の内容をまとめた資料をご用意しています。組織に合った形で取り組みを進めるためのヒントとして、ぜひご活用ください。

生成AI活用成功のカギは「ツール選び」ではなく、「仕組み化」だ!
成功企業に共通する“再現性ある仕組み”を見る

よくある質問|ウェルビーイング経営をDXで進めるために知っておきたいこと

Q
ウェルビーイング経営と健康経営はどう違う?
A

健康経営は、病気の予防や健康保持を中心とした取り組みが軸になります。一方でウェルビーイング経営は、身体的な健康だけでなく、働きがいや人間関係、成長機会、心理的安全性など、より広い概念で従業員の状態を捉えるものです。
基礎的な違いを押さえたい方は、当メディアの解説記事も参考になります。
ウェルビーイング経営とは?成果につながる理由と健康経営との違い・導入ステップ

Q
中小企業でもDXによるウェルビーイング経営は実践できますか?
A

可能です。大規模なシステム導入をしなくても、サーベイ・勤怠・残業・1on1記録など、すでに社内にあるデータを整理するだけでも「状態を把握する基盤」が整い始めます。小さく取り組み、段階的に可視化を進めていく方法が、中小企業では特に効果的です。

Q
まずどのデータから可視化すればいいですか?
A

最初は「変化が出やすい指標」から始めると運用しやすくなります。
例として、エンゲージメントサーベイの推移、残業時間、業務量、1on1頻度などは組織の状態が反映されやすく、早い段階で気づきを得られます。データを増やすのはその後で十分です。

Q
サーベイ疲れを防ぐにはどうすればいいですか?
A

回答の負担が大きいとサーベイが形骸化しやすくなるため、「短い質問で高頻度に把握する」「回答結果が組織運営で確実に活用されることを示す」「指標の意味を社内で共有する」ことが効果的です。従業員が“意味のある取り組み”だと感じることが継続のポイントになります。

Q
DXと研修を組み合わせると、どんな効果がありますか?
A

データの可視化だけでは、現場の行動は変わりません。研修を通じて管理職が指標の意味を理解し、1on1やチーム運営の中で使えるようになることで、初めてウェルビーイング経営が運用レベルに定着します。DXとマネジメント研修の併走は、取り組みを継続させるための重要な組み合わせです。