近年、AIの進化は「マルチモーダルAI」へと大きく進展しています。テキストや画像、音声、動画など複数の情報を同時に処理・統合する次世代の技術で、人間のような理解や判断をAIに可能にします。

本記事では、マルチモーダルAIの基本的な仕組みから歴史、注目の活用事例までをわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

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マルチモーダルAIとは?

AI技術が日々進化する中で、特定の情報だけでなく、複数の異なる形式のデータを統合的に扱える「マルチモーダルAI」が注目を集めています。ここではマルチモーダルAIに関して詳しくご紹介します。

マルチモーダルAIの定義

マルチモーダルAIとは、テキストや画像、音声、動画など、異なる形式のデータ(モダリティ)を統合的に処理し、より高度な認識や判断を可能にする人工知能技術です。

この技術により、人間のようにさまざまな情報を組み合わせて理解し、複雑な問題に対応することが可能となります。

具体例として、画像に写った人物の表情と音声から感情を読み取る、あるいは動画と字幕情報を合わせて内容を分析する、といった複合的な処理が挙げられます。

シングルモーダルとの違い

シングルモーダルAIは、単一のデータ形式(例:テキストのみ、画像のみ)を対象に処理を行うのが特徴です。例えば、文章の要約を行う自然言語処理モデルや物体を識別する画像認識モデルなどが該当します。

一方で、マルチモーダルAIはこうした単一モーダルの枠を超え、複数のデータを組み合わせることで、さらに深い情報理解や判断を可能にします。

この違いにより、マルチモーダルAIは、人間のような多角的な思考を模倣する次世代のAI技術として期待されているのです。

マルチモーダルAIの歴史と進化

マルチモーダルAIを効果的に活用するには、成り立ちや進化の過程を理解しておくことが重要です。過去の技術的な進展を知ることで、今後の可能性や導入の方向性をより的確に見極められるでしょう。

マルチモーダルAIの歴史

マルチモーダルAIの研究は1980年代半ばに始まり、音声や画像といった単一の情報(モダリティ)に特化した技術開発が中心でした。しかし、音声と画像を組み合わせて認識精度を高めるなど、複数モダリティを統合することで得られる利点に注目が集まり、徐々に研究が進展していきます。

2000年代に入り、ディープラーニングの登場によってAI全体の性能が飛躍的に向上し、マルチモーダルAIの開発にも大きな変化が生まれました。

2011年以降は、テキストと表情の連動解析や、画像から音声を生成する技術などが登場し、2つ以上の情報を連携・変換する研究が急速に発展したのです。

最近の技術革新とトレンド

近年、マルチモーダルAIは飛躍的な進化を遂げており、活用領域を大きく広げています。特に注目されているのは、以下のような技術的トレンドです。

トレンドカテゴリ概要
大規模マルチモーダルモデルの台頭・GPT-4oやGeminiなど、複数モダリティを統合処理する大規模モデルが登場・対話・生成の自然さが向上
マルチモーダルな表現力の強化テキスト・画像・音声・動画を組み合わせることで、人間に近い情報理解と創造性が実現
軽量・省リソースなモデルの普及スマホやエッジデバイスでも動作する小型モデルにより、リアルタイム性とコスト効率が向上
特定分野に特化した高精度モデルの登場医療・法律・金融・教育などの分野で特化型モデルが活躍し、業務効率化と精度向上に貢献
自律型AIエージェントへの進化生成AIが自らタスクを分解・計画・実行することで、複雑業務への対応が可能
ガバナンスと倫理の整備ディープフェイクや著作権・プライバシー保護の観点から、各国でAIガバナンスの整備が進行中

これらの進展により、マルチモーダルAIはただの技術にとどまらず、医療診断や自動運転、クリエイティブ業務などにおいて、人間の感覚や判断を支援・代替する次世代技術として実用化が進んでいます。

マルチモーダルAIのメリットとデメリット

マルチモーダルAIは、複数の異なる種類の情報を統合的に処理することで、単一のモダリティでは実現できなかった高度な情報理解と応用を可能にします。しかし、その進化とともに新たな課題も浮上しています。

ここではマルチモーダルAIのメリットとデメリットをそれぞれに解説しているので、参考にしてください。

マルチモーダルAIのメリット

  • 深い情報理解ができる
  • 人間のような柔軟な判断と創造性ができる
  • さまざまな分野での応用ができる

マルチモーダルAIは、複数の形式データを横断的に扱うことで、従来のAIでは難しかった複雑な情報理解を可能にする技術です。例えば、映像と音声、あるいは言葉と画像といった異なる情報を相互に関連づけて処理し、より人間に近い判断や表現を実現します。

自動運転では、カメラとセンサーの情報を合わせて周囲の状況をより正確に把握できる他、動画の内容を文章で説明するなど、生成AIとの連携による新たな活用も進んでいます。

マルチモーダルAIの普及により、医療や製造、教育など多くの分野で応用が広がって、学習コストの削減にもつながっていくでしょう。

マルチモーダルAIのデメリット

  • 個人情報の取り扱いとプライバシーの侵害の可能性がある
  • 偽情報の拡散(ディープフェイク)の可能性がある
  • 技術的なハードルとコストがある

マルチモーダルAIは多様な情報源を組み合わせて高精度な判断を可能にする一方で、いくつかの課題も抱えています。特に懸念されるのは、個人を特定し得る映像や音声などの情報を扱う際のプライバシー侵害のリスクです。そのため、徹底したセキュリティ対策が今後重要なポイントになるでしょう。

また、コンテンツ生成の高度化により、事実と見分けがつかない偽情報が作られやすくなり、ディープフェイクのような社会的悪影響への懸念も高まっています。

さらに、異なる形式のデータを統合・運用するには専門的な技術が必要になり、コストや体制面での負担も小さくありません。こうしたデメリットを理解した上で活用することが大切です。

出典:マルチモーダルAIとは?科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由

マルチモーダルAIができること|機能と応用

ここからはマルチモーダルAIが可能な機能を具体的にご紹介します。

  • テキストと画像の融合
  • 音声認識と生成の進化
  • 動画解析の新たな可能性

テキストと画像の融合

テキストと画像を組み合わせて処理する技術は、マルチモーダルAIの中でも特に実用性が高く、画像キャプションの自動生成や視覚的な質問応答といった複雑なタスクを実現しています。

活用分野具体的な活用方法期待される効果
ECサイト商品画像に対してAIが説明文を自動生成し、コンテンツ制作の効率化とUX向上を実現業務効率化ユーザー体験の向上
医療現場X線やMRI画像と診断記録を組み合わせることで、異常検出の精度向上を図る診断の精度向上医師の負担軽減
教育分野図表や写真を用いた教材の内容をAIが説明する支援機能が導入されつつある学習理解の促進教材作成支援

このようなテキストと画像の融合は、業種を問わずさまざまなビジネスシーンにおいて有効なソリューションとなり得るのです。

音声認識と生成の進化

音声データを活用した認識と生成の統合は、マルチモーダルAIの発展において大きな転換点となっています。

音声認識だけにとどまらず、話し手の意図や感情を読み取って返答を自動生成する高度な対話型システムが登場し、コールセンターや顧客対応業務を抱える業界で急速に導入が進んでいます。

特に金融や通信、小売などでは、音声アシスタントによる24時間対応が定番になりつつあり、ユーザー向けサービスの質と効率を同時に向上することが可能です。

また、教育や医療分野でも音声データを介した支援ツールが広がりを見せており、企業は音声認識APIや合成エンジンなどを機械学習ベースで提供し始めています。今後も音声活用を軸にした新たなサービス展開の動きが加速するでしょう。

動画解析の新たな可能性

映像だけでは把握しきれなかった状況や文脈を、音声データと照合することで正確に認識できるようになり、イベントの自動検出や人物の行動分類など、幅広い応用が実現されています。

例えば、監視システムでは不審な動きと同時に発せられた声を検知し、異常を早期に把握することが可能です。また、膨大な動画データを効率的に処理し、必要なシーンだけを抽出する編集支援ツールは、動画制作やマーケティング領域においても注目されています。

デジタルコンテンツの需要が拡大する中で、こうしたテクノロジーはクリエイティブ業務の生産性を高め、人的リソースのサポート役としての展望も期待されているのです。

【業界別】マルチモーダルAI活用事例

マルチモーダルAIは、多様な情報処理能力を活かし、各業界で革新的なソリューションを提供しています。ここでは各分野への導入事例をご紹介します。

医療分野における活用

医療分野においてマルチモーダルAIは、診断精度の向上や治療方針の最適化に大きく貢献しています。画像診断データと電子カルテ、問診内容、生体情報などを組み合わせて解析することで、病気の発見や的確な診断が可能となり、肝がんや心疾患、軽度認知障害の判別にも応用できるのが特徴です。

さらに、複数のデータを基に患者ごとに最適な治療計画を立てられるため、個別化医療の実現にも役立ちます。

また、AI問診や医療文書の自動生成により、医師の業務負担を軽減し、本来の医療行為に専念できる環境整備にもつながっています。加えて、ゲノム解析による創薬支援や、生活習慣病などの発症リスクを予測するサービスも広がっており、予防医学の分野でも活用が進んでいます。

自動運転技術の進展

自動運転分野におけるマルチモーダルAIの活用は、技術の安全性と実用性を大きく前進させています。車載カメラの映像やLiDARによる空間情報、ドライバーの声や周囲の環境音といったデータを統合解析することで、道路状況や障害物の認識精度が飛躍的に向上します。

これにより、自動車が自律的に判断し、安全な走行ルートを選択するシステムが構築されています。加えて、複数モダリティによる情報の組み合わせは、従来の単一センサーでは見逃されがちだったケースの検出にも効果を発揮し、緊急時の対応力も高まっています。

現在、自動運転車の公道走行や交通下での検証が進み、総合的な運転支援のシステム開発が加速しています。

製造業での効率化

製造業では、マルチモーダルAIの導入により、センサーデータ・映像・音声などを組み合わせた高度な異常検知や品質管理が実現されています。

稼働中の産業用ロボットから取得される振動や音、映像を総合的に分析することで、わずかな異常も早期発見でき、トラブルの未然防止につながっています。

これにより、生産ラインの安定稼働や品質のばらつき低減といった成果が得られ、製造現場全体の効率が向上しています。

また、音声による作業指示や、現場データを自然言語で解析・応答できる言語モデルの活用も進んでおり、人と機械の連携がよりスムーズになりつつあります。こうした取り組みは製造だけでなく、工場内の警備や安全管理といった周辺業務にも広がり、あらゆる事業領域でマルチモーダル技術の活用が進展しています。

注目のマルチモーダルAIモデル

マルチモーダルAIは、あらゆるモダリティを統合的に理解し、処理することで人間らしい高度な情報処理を可能にする技術です。

ここでは特に注目されているマルチモーダルAIモデルを3選まとめました。

  • ChatGPT-4o
  • BingAI
  • Gemini

マルチモーダルAIモデル1.ChatGPT-4o

ChatGPT-4oは、OpenAIが開発した最新のマルチモーダルAIモデルで、テキスト・画像・音声といった入力形式に対応しています。従来モデルと比べて応答速度が大幅に向上しており、リアルタイムでの自然な会話が可能になりました。

中でも音声入力した際、瞬時に反応しテキストや音声でスムーズに出力できる点が魅力です。チャットボットや対話型ロボットなどの分野での活用が期待されています。

また、画像に対する質問応答や要約など、視覚的な理解能力も強化されており、直感的な操作とマルチモーダルな情報処理を備えた次世代の対話AIとして、ビジネスやサービスでの利用が進んでいます。

なお、搭載先としては顧客対応や教育支援、パーソナルアシスタントなどが想定されており、より人間に近いコミュニケーション体験の提供が可能です。

マルチモーダルAIモデル2.BingAI

Microsoftが提供するBingAI(Copilot)は、テキスト・画像・音声を組み合わせて処理できるマルチモーダルAIモデルで、検索エンジンと生成AIの機能を融合させた高度なプラットフォームです。

従来の検索では難しかった曖昧な質問や複雑な情報整理にも対応しており、ユーザーは画像を使って質問したり、作成方法を会話形式で確認したりすることが可能です。生成された回答は精度が高く実用性に優れており、資料作成や調査業務など社内での活用にも適しています。

また、ユーザーの意図に沿ったレベルの高い出力が得られることから、教育やマーケティング、製品開発など幅広い用途での導入が進んでいます。特に、Microsoft製品と連携することで、BingAIを業務プラットフォームの一部として使う企業も増えており、業務効率化や知識活用の観点から注目されています。

マルチモーダルAIモデル3.Gemini

Googleが開発したGeminiは、テキストや画像、音声、動画、PDFなどの情報形式を同時に扱えるマルチモーダル生成AIで、最新のAI技術を基盤に構築されています。特に、複数のモダリティを横断して論理的に結びつける高度な推論能力が特徴です。

Geminiは「ウルトラ」「プロ」「ナノ」の3種類のモデルサイズで提供されており、クラウドからスマートフォンまで、さまざまなデバイスや用途に応じた柔軟な導入が可能です。

処理結果の正確性とスピードに加え、わかりやすい出力や自然な対話性能も備えており、教育や研究、ビジネスなど幅広い分野での活用が進んでいます。

マルチモーダルAIの未来展望

今後、マルチモーダルAIは、より高度な認知能力を持つAIの実現に向けて進化が続くと予想されます。特に、生成AIとの融合により、創造的なコンテンツの自動生成や、より人間らしい対話が可能となるでしょう。

項目概要
ユーザー体験の飛躍的向上・自然で直感的なインターフェースにより、AIとの会話が人間同士に近づく・多様な個人データを統合し、パーソナライズされたサービス提供が可能に
新たな産業の創出と社会課題の解決・教育、医療、エンタメ分野での応用により新産業が誕生・環境・健康・安全などの社会課題にも貢献。
リアルタイム処理能力の向上とエッジAIとの連携・スマートデバイス上でのAI実行によりクラウド依存を軽減・応答速度やプライバシー保護が向上
五感情報の統合と世界モデルの進化・聴覚・触覚などの五感データにも対応し、AIが物理世界をより深く理解・状況認識・判断の精度が向上
AIエージェント化の進展・AIが自律的にタスクを実行する存在へと進化・複数のAIが連携するマルチエージェント化が進行
AI倫理と規制の強化・ディープフェイクや著作権、プライバシー問題に対応するため、各国で規制・ガイドライン整備が加速

このように、マルチモーダルAIは、私たちの生活や社会を根本から変革し、より豊かで多様な未来を築くための重要な技術として、今後もその進化と応用が注目され続けるでしょう。

出典:マルチモーダル対話と生成AIに関わる消費者サービス応用の意義、課題と展望

まとめ:AI活用を進めて自社の利益につなげよう

マルチモーダルAIは、テキスト・画像・音声・動画などの情報を統合して処理することで、ユーザー体験の向上や新産業の創出、社会課題の解決に貢献する技術です。

教育や医療、製造、監視カメラシステムなどの現場において、個別最適化された判断支援や効率化を可能にし、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進します。また、リアルタイム処理能力の進化やエッジAIとの連携により、スマートデバイスやWeb環境、さらにはコードレベルでの柔軟なシステム構築も現実のものとなっています。

ただし、こうした最先端技術の導入・運用には、最新の知識と技能の習得が不可欠です。

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