AIを中核技術として営業・マーケティングのDXを推進している株式会社マツリカは、社内におけるAI活用においても先進的な取り組みを実践している企業です。

同社がAIの導入に踏み切った背景には、技術革新をいち早くビジネスの成長に繋げようとする現場の自発的な動きと、それを支える技術部門の迅速な連携がありました。

その中心を担うのが、データサイエンスを統括する永多氏と、営業現場の最前線でAIの価値を体現する亀谷氏です。

同社は自社の営業プロセスにAIを組み込むことで、リサーチ業務の完全自動化を実現しました。その結果、営業担当者が本来注力すべき「創造的な提案活動」や「顧客との対話」にリソースを集中させることに成功しています。

今回は、現場主導で始まったAI活用がいかにして組織全体の武器へと進化したのか、具体的な開発プロセスや営業工数月11.5時間削減の実態を詳しく伺いました。

永多慧氏
永多氏

株式会社マツリカ
Data Science Division / Division Manager

東京農工大学大学院 情報工学専攻を修了後、株式会社ドリコムでソーシャルゲームの分析とAI開発を担当。横浜DeNAベイスターズでは選手のパフォーマンス分析を行い、2019年にマツリカに参画。現在は、全社視点でのデータ活用を担い、経営課題の分析、プロダクトにおけるAI機能の設計・実装・評価など、データおよびAI領域を横断した役割を担っている。

亀谷昇吾

株式会社マツリカ
Sales Division

新卒で観光/物流スタートアップでの営業に従事後、株式会社Cyber Aceに転職。営業グループリーダーとしてWeb広告におけるマーケティング戦略の立案・提案・運用ディレクションを担当。2024年より株式会社マツリカにField Salesとして参画。営業活動と並行して、新規プロダクト販売推進、営業組織でのAI活用促進の役割を担っている。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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営業現場の切実な課題から始まったAI活用

マツリカにおける社内のAI活用は、2025年の初頭から本格的にスタートしました。

きっかけはトップダウンによる指示ではなく、現場の営業担当者が抱えていたリサーチ業務の負担を永多氏が察知したことにあります。

永多氏

「営業担当のある方が、担当する案件のリサーチのためにPerplexity(パープレキシティ)を使っていたのですが、そこで30〜40項目ぐらい入力して出てきたものをコピペしてまとめる、みたいな地道な作業をされていたんですよね。雑談をしているときに偶然その話を聞いて、それってAIで自動化できますよ、というところから当社の本格的なAI活用が始まっていきました」

それ以降、営業プロセスにAIを深く組み込みリサーチ業務を自動化する試みが始まりました。

独自のシステム構築による商談の事前準備の自動化

現場のニーズを汲み取った永多氏は、GeminiやChat GPTといった生成AIのAPIを活用し、社内の営業プロセスに最適化した独自のシステムを構築しました。

このシステムの最大の特徴は、営業担当者が自らプロンプトを入力したりツールを使い分けたりする必要がないという点にあります。

新しいリード情報や案件がシステム上に作成されると、それをトリガーとしてAIが自動的に動き、あらかじめ設定された数十項目にわたる企業のリサーチを実行します。営業担当は、AIが調査を終えて出力した結果を確認するだけで済むようになったのです。

この仕組みの導入以前は、時間の制約から深いリサーチができない案件も存在していました。しかし、自動化によってすべての案件に対して網羅的な調査が事前に行われるようになり、提案の質が飛躍的に向上しました。

システム構築の過程では「出力される文章が長すぎて読みづらい」といった現場からの指摘もありましたが、エンジニア側が即座にプロンプトを調整したり項目を整理したりすることで実用性の高いツールへと磨き上げられていきました。

この取り組みが引き金となり、営業チームの商談の事前準備を自動化するAIシステム開発が進みました。例えば、商談前に案件に蓄積された情報を集約したり、提案顧客のトライアル環境を自動で構築したりなどです。これらのシステムは、商談前に自動で実施され、営業担当者は提案内容を練ることにより注力できるようになりました。

推進を支える少数精鋭の組織体制とそれぞれの役割

マツリカのAI活用を支えているのは、主に3人の中心メンバーです。

1人目はレベニューのプロジェクト全体を統括するリーダー、2人目は実際のユーザーである営業担当者、そして3人目がそれらの要望を実装しシステムへと落とし込むエンジニアです。

この体制によって、現場の営業担当者は自分の業務に専念しながら改善案を随時フィードバックできるようになりました。

また、「組織としてAIをどう活用していくか」という意思決定をプロジェクトリーダーが担うことで、部署間の調整やリソースの配分がスムーズに行われました。

巨大な専門組織を作らずとも、責任と役割が明確な少人数のチームが中心となって動くことで変化の激しいAIの領域において極めて高い柔軟性を維持しています。

月最大11.5時間の営業工数削減を達成

AI活用の効果を客観的に評価するために、マツリカでは詳細な成果計測を実施しています。

亀谷氏

削減工数は月間で7.7〜11.5時間削減率で言うと34〜50%ぐらいなる想定です。1商談あたりに私自身が従来割いていた工数をまず算出し、別途AIを使った場合の工数も計測したうえで、全案件にかかる総時間に対する削減率を算出しています」

こうして生み出される時間は、顧客ごとに個別化された提案準備や顧客対応など、営業としてのコア業務に再配分することが可能となります。

組織全体のキャパシティを拡大し、より高い目標へ挑戦するための武器としてAIが機能している事実は、これらの数値からも明らかです。

定量的な成果が明確であることは、現場の社員がAIを継続的に利用し続けるための強力な動機付けにもなっています。

ガイドライン策定と全社共有で進めるAIの浸透

AIの活用を全社的に進めるにあたり、マツリカでは安全かつ効果的な利用を促進するために仕組みを作っています。

セキュリティ面においては明確なガイドラインが策定されており、個人情報をプロンプトに入力しないといった基本的なルールが全社で徹底されています。

また、同社では毎週金曜日には全社員が集まる定例会議が行われており、そこでは定期的にAIの取り組みに関する報告もあります。

永多氏

「プロンプトを全社で共有するような取り組みは今はまだないですが、新しいAIシステムを作った際に、全社会議で報告をする流れはできてきていると思います。細かなインプットも大切ですが、実際に自分の仕事で使ってもらい、AIによるアウトプットを体感してもらうことが、AIを浸透させるうえで非常に重要だと考えています」

組織基盤の強化に向けたAI活用の今後

永多氏は、AI活用をさらに広げていくうえでの課題を冷静に分析しています。

永多氏

「最大の課題は、実際の日常業務をいかに代替できるかという点だと思っています。長く続けていて慣れている業務では特に、AIよりも人間がやるほうが現状早くて正確だったりするんですけど、属人化を許してしまうのではなく、ちゃんとデータとして揃えて活用できるように整えていくことが今後重要になってくると考えています。

今後はセールスチームでの成功を、カスタマーサクセスやマーケティングといった他部門へ横展開していくことも視野に入れています。各部門に特化したAIを構築し、組織全体のプロセスをシームレスに繋ぐことで、個人の属人的なスキルに頼りすぎない強固な組織基盤の構築を目指しています」

マツリカのAI活用は、目先の効率化だけでなく組織全体の成長を支える基盤として着実に前進しています。

現場でのAI活用を定着させるための体制構築と対話の重要性

インタビューの最後に、これからAI活用の推進を目指す企業へのアドバイスを伺いました。

永多氏

「体制を整えるのが最優先だと思います。AIプロジェクトのチームを作ってリーダーを立て、さまざまな部署と連携を取るのが一番迅速なのではないでしょうか。エンジニアだけでやっていくと、どうしても現場の課題にフィットしないという壁に当たります

亀谷氏

「実際の業務で使ってみないと本質的な課題は発見しづらいでしょうし、使ってみて実際に効率化を感じると、“なぜAIがこの業務で必要なのか”を実感できるはずです。AI活用の継続的な推進は、いかにユーザーと対話をして改善を重ねていくのかが肝になってくるんじゃないかなと思っています」

数%でも業務工数削減・効率化達成という目に見える成果が出始めれば、組織全体の意識は自然と変わっていきます。

まずは小さなチームから始め、成功体験を積み重ねていくことがAI活用を定着させるための近道であると言えるでしょう。

マツリカに学ぶ5つのポイント

マツリカのAI活用は、現場の切実なニーズをエンジニアが的確に拾い上げ、解決へと導いた理想的な事例です。

営業現場という成果が求められる環境で、これほどまでにスムーズな導入を実現できた本質を、5つのポイントに整理しました。

  1. 現場の小さな課題を組織のプロジェクトへ昇華させる
    一人の営業担当者が手作業で行っていた企業リサーチの苦労をエンジニアが察知し、自動化の提案を行ったことがすべての始まりでした。個人の工夫で終わらせず、組織的な課題として捉え直し、システム化へと踏み出した判断がその後の大きな成果の起点となっています。


  2. ビジネスリーダーとエンジニアが共創する少人数の推進体制
    意思決定権を持つプロジェクトリーダー、現場の課題を熟知するユーザー、そして実装を担うエンジニアという、最小かつ最強のユニットを構成しました。この体制が、現場にフィットしないツールの乱立を防ぎ、真に業務を効率化するシステムの開発を可能にしました。


  3. 情報の収集ではなく判断と表現に人間の力を集中させる
    リサーチという非創造的な作業をAIに委ねることで、営業が本来注力すべきクリエイティブな提案活動にリソースを再配分しました。AIを導入すること自体を目的とせず、人間の介在価値をどこで発揮すべきかを明確にしたことが、現場の理解と支持に繋がっています。


  4. 定量的成果を可視化してAI活用の価値を証明する
    月間で最大11.5時間の削減、作業効率最大50%向上という、具体的な数値を計測して社内に示しました。この圧倒的なエビデンスがあることで、AI活用は自社の競争力を高めるために不可欠なインフラであるという共通認識が形成されました。


  5. 個人の習熟を組織の資産へ変えるデータ基盤の構築
    個人のスキルや経験に依存しがちな業務を、標準化・データ化することを目指しています。属人化を許さず、組織全体で共有・活用可能な資産へと変換することで、誰でも高いパフォーマンスを発揮できる強固な体制が実現できます。

もちろん、ここで紹介した取り組みは、マツリカのオープンな社風と高い技術力があってこそ実現できたものでもあります。

重要なのは、ツールを導入することそのものではなく、自社の現場がどこで苦労し、どこに価値を生み出そうとしているのかを深く理解することです。

AIという強力な手段を、自社の目的や文化に合った形でデザインし、社員一人ひとりがその恩恵を実感できる環境を整えることが、真のDXへと繋がります。

しかし、実際に自社でこれを実践しようとすると、

 「現場のニーズをどうやって吸い上げればいい?」
「エンジニアと現場の橋渡しができる人材がいない」
「自社専用のツールを開発するリソースが足りない」

といった壁に直面する企業も少なくありません。多くの組織が同じ悩みを抱えています。

私たちSHIFT AIは、こうした「導入したが定着しない」「具体的な成果が見えない」という課題解決を得意としています。 

貴社の業務内容に合わせたAI活用のロードマップ策定から、現場を巻き込んだ推進体制の構築支援、さらには実務に即したAIスキルの習得まで、定着に必要なプロセスを一気通貫で伴走します。

「AIを導入しただけで終わらせたくない」「現場が自発的に使いこなす文化を作りたい」そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。

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