DXの必要性は理解していても、「推進できる人材が社内にいない」「採用しようにも応募が来ない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。実際、IPA(情報処理推進機構)の調査では企業の6割以上が「DX人材が大幅に不足している」と回答しており、この傾向は大企業だけでなく、中小企業や地方企業にも広がっています。
人材不足の背景には、急速なデジタル技術の進化や都市部への人材集中、育成環境の不足など、複数の要因が絡み合っています。放置すれば、業務効率化や新規事業化の遅れ、競争力の低下など、経営に直結するリスクが拡大するでしょう。
本記事では、DX人材不足の現状と原因を整理し、採用・育成・外部活用を組み合わせた現実的な解決策を提示します。短期的な戦力確保から中長期の社内定着まで、すぐに行動に移せる手順と判断基準をまとめました。
貴社のDX体制構築の一歩として、ぜひ参考にしてください。
\ 組織に定着する生成AI導入の進め方を資料で見る /
DX人材不足の現状と市場背景
DXを推進するための人材不足は、日本全体で深刻化しています。
情報処理推進機構(IPA)が2023年度に実施した調査では、62.1%の企業が「DX人材が大幅に不足している」と回答しました。この割合は前年よりも増加しており、単なる一時的な採用難ではなく、構造的な課題として定着しつつあります。
不足している職種は多岐にわたりますが、特に以下のような専門人材が挙げられます。
- ビジネスアーキテクト:DX戦略を事業計画に落とし込み、実行を牽引する役割
- データサイエンティスト:ビッグデータを分析し、意思決定や新規事業開発を支援
- UI/UXデザイナー:デジタルサービスのユーザー体験を最適化
- クラウドエンジニア:システム基盤をクラウド化し、運用を効率化
特に中小企業や地方企業では、
- 都市部への人材流出
- 採用コストの高騰
- 社内教育リソース不足
といった理由から、こうした人材を確保するのはさらに難しい状況です。
また、技術の進化スピードも人材不足を加速させています。生成AIやIoT、クラウドサービスなど、DXの中核となるテクノロジーは年単位ではなく数カ月単位で更新されます。既存社員がスキルを追いつかせるための教育体制が整っていなければ、採用できてもすぐにスキルギャップが生じてしまいます。
DXを継続的に進めるためには、こうした需給ギャップの実態を正しく把握したうえで、採用戦略や育成計画を設計することが欠かせません。
具体的な育成プロセスや必要スキルについては、DX人材育成の完全ガイド|AI時代に求められるスキルと効果的な6ステップで詳しく解説しています。
なぜDX人材が足りないのか|5つの背景要因
DX人材不足は単なる採用市場の競争激化だけでなく、複数の要因が重なって生じています。ここでは、企業が直面している代表的な背景を整理します。
1. デジタル技術の進化スピードが早すぎる
クラウド、生成AI、IoT、データ分析基盤など、DXの中核技術は数カ月単位で進化しています。採用した時点で最新だったスキルも、1〜2年後には陳腐化してしまうことも珍しくありません。企業側は継続的な学習環境を用意できず、結果的にスキルギャップが拡大します。
2. 社内教育・研修の遅れ
特に中堅・中小企業では、日々の業務に追われてDX研修やリスキリングに十分な時間や予算を割けないケースが多くあります。そのため、既存社員が最新ツールや技術を習得する前に、新たなプロジェクトが立ち上がり、社内の知識格差が広がってしまいます。
3. 都市部への人材集中
高度なデジタル人材は、大企業やITベンチャーが集まる都市部に集中しがちです。地方企業や非IT業界では、採用しても通勤圏や転居条件がネックとなり、応募者自体が集まりにくい状況が続いています。
4. 採用コストの高騰
DX人材は市場価値が高く、採用単価も年々上昇しています。特に経験豊富なエンジニアやデータサイエンティストは年収1,000万円以上を提示しないと採用できないケースもあり、中小企業には大きな負担となります。
5. 経営層と現場の温度差
経営層は「DXを推進すべき」と認識していても、現場では業務負荷の増加や慣れないツールの導入に抵抗感が強い場合があります。目的やビジョンが共有されないまま進められると、プロジェクトが形骸化し、せっかく採用・育成した人材も離れてしまうリスクがあります。
こうした背景を踏まえると、DX人材不足は単なる採用の問題ではなく、企業全体の仕組みや文化にも起因していることがわかります。
関連記事:
DX人材を社内で育成する方法|進め方・成功ポイント・失敗回避策を徹底解説
DX人材不足が招く3つの経営リスク
DXを推進する人材が不足すると、企業は目に見える遅れだけでなく、将来的な競争力や組織文化にも影響を受けます。主なリスクは次の3つです。
1. デジタル競争力の低下
市場環境の変化に対応するスピードが遅くなり、競合に先を越されます。
例えば、データ分析による需要予測や生成AIを活用した業務自動化を実現できず、新規事業やサービス改善の機会を逃すことになります。
2. プロジェクトの停滞・失敗
DXプロジェクトは専門知識と推進力を持つ人材が欠かせません。不足したまま進めると、要件定義の不備やツールの使いこなし不足により、途中で頓挫したり、予定通りの成果を上げられない事態が発生します。これにより投資回収ができず、社内のDXへの信頼も損なわれます。
3. 社員のモチベーション低下・離職増加
現場の課題が放置されると、社員は「業務効率化も成長機会もない職場」と感じ、優秀な人材ほど離れていきます。また、DXを担う少数の社員に業務負荷が集中し、燃え尽きによる離職や体調不良を招くリスクもあります。
DX人材不足は、単なる業務効率の遅れにとどまらず、経営全体の持続性を脅かす要因です。
不足を打破する3つのアプローチと成功ポイント
DX人材不足を解消するためには、大きく分けて次の3つのアプローチがあります。単独で進めるよりも、自社の状況に合わせて組み合わせることで、短期成果と中長期的な体制強化を両立できます。
1. 外部採用
特徴
- 即戦力人材を確保できる
- 最新スキルや他社事例を持ち込みやすい
メリット
- 短期間でプロジェクトを稼働できる
- 社内にない知見を取り入れられる
デメリット
- 採用単価が高い(年収800万〜1,000万円超のケースも)
- 入社後の定着に課題が出やすい
成功ポイント
- 必要な役割・スキルを明確化してから募集
- フリーランス、副業人材など多様な採用形態を検討
2. 社内育成
特徴
- 既存社員をリスキリングしてDX推進役に育てる
- ノウハウが社内に蓄積されやすい
メリット
- 企業文化や業務知識を活かせる
- 長期的な定着が見込める
デメリット
- 成果が出るまで時間がかかる
- 教育体制や学習時間の確保が必要
成功ポイント
- スキルマップで現状と目標を可視化
- プロジェクトベースで学びながら実践
- DX人材育成の完全ガイド|AI時代に求められるスキルと効果的な6ステップを参考に育成計画を設計
3. 外部パートナー活用
特徴
- コンサル、SIer、研修会社、専門チームに委託
- 特定プロジェクトや初期段階の推進に有効
メリット
- 即戦力+専門知識を活用できる
- 社内リソース不足をカバー
デメリット
- ノウハウが社内に残りにくい
- 長期依存はコスト増につながる
成功ポイント
- 委託範囲と期間を明確に設定
- 並行して社内人材を育成し、内製化に移行
3つのアプローチ比較表
施策 | 即効性 | コスト | 定着度 | 社内ノウハウ蓄積 |
外部採用 | 高 | 高 | 中 | 中 |
社内育成 | 中 | 中 | 高 | 高 |
外部パートナー活用 | 高 | 中 | 低〜中 | 低 |
判断の目安
- 短期的成果が必要 → 外部採用+外部活用を併用
- 中長期的な体制強化 → 社内育成を軸に計画
- 限られた予算で成果を出したい → 外部活用で初期推進+育成で定着
関連記事:
DX人材育成研修の選び方と成功のポイント|タイプ別比較とおすすめ13選
採用・育成・外部活用の比較表【期間×コスト×定着度】
DX人材不足の解消策は、どれも一長一短があります。重要なのは、自社の目的・予算・スケジュールに合わせて最適な組み合わせを選ぶことです。以下の比較表を参考に、優先度を検討しましょう。
施策 | 即効性 | コスト | 定着度 | 社内ノウハウ蓄積 | 向いているケース |
外部採用 | 高 | 高 | 中 | 中 | 短期間でプロジェクトを立ち上げたい場合 |
社内育成 | 中 | 中 | 高 | 高 | 長期的な組織力強化を目指す場合 |
外部パートナー活用 | 高 | 中 | 低〜中 | 低 | 初期段階の推進や専門知識の補完 |
比較から見える戦略パターン
- 短期成果重視型
→ 外部採用と外部パートナー活用を組み合わせ、スピーディに成果を出す。その間に社内育成の基盤を整備。 - 中長期成長型
→ 社内育成を軸に据え、外部パートナーは初期のみ活用して徐々に内製化。 - 予算制約型
→ 補助金や助成金を活用しつつ、外部パートナーで必要部分だけ補完し、育成を進める。
比較表を使って戦略を決める際は、単にコストやスピードだけでなく、「将来どの業務を自社で担うか」という視点を持つことが重要です。短期と中長期の両方のシナリオを設計しておくと、予期せぬ人材流出や市場変化にも対応できます。
中小企業でもできるDX人材不足解消ステップ
DX人材の採用や育成は、大企業だけの話ではありません。中小企業でも、ポイントを押さえれば限られたリソースで効果的に進められます。以下の5ステップで着手してみましょう。
ステップ1:現状スキルの棚卸し
- 社員のITスキルやデジタルツール利用状況を把握
- 簡易的なスキルマップを作成し、強みと不足領域を可視化
ステップ2:DXで解決したい経営課題を明確化
- 売上向上、業務効率化、新規事業など、目的を絞り込む
- ゴールを共有し、社員が目的を理解できるようにする
ステップ3:必要な人材像を定義する
- プロジェクト推進リーダー/データ分析担当/システム構築担当など役割を明確化
- 必須スキルと望ましいスキルをリスト化
ステップ4:外部・内部リソースの組み合わせを決める
- 短期:外部採用や外部パートナー活用で即戦力確保
- 中長期:社内育成で定着とノウハウ蓄積
ステップ5:成果測定と改善サイクルの構築
- KPI(例:プロジェクト進捗率、ツール活用度)を設定
- 四半期ごとに進捗をレビューし、計画を見直す
このステップは、中小企業に限らず大企業の一部門単位のDX推進にも有効です。まずはスモールスタートで始め、徐々にスケールアップしていくことが成功のカギとなります。
関連記事:
時間がない現場でもできるDX人材育成|短時間で成果を出す方法と設計のコツ
国・自治体の支援制度と助成金活用
DX人材の採用や育成にはコストがかかりますが、国や自治体の支援制度をうまく使えば、負担を大きく軽減できます。特に中小企業は、補助金・助成金を活用することで取り組みのハードルを下げられます。
IT導入補助金
- 中小企業がITツールやクラウドサービスを導入する際の費用を一部補助
- 業務効率化や生産性向上が目的であれば、人材育成用ツールや教育プラットフォームも対象になる場合があります
事業再構築補助金
- 新分野展開や業態転換を行う企業を支援
- DXを伴う新規事業やプロセス改革も対象となるケースあり
人材開発支援助成金(厚生労働省)
- 社員のスキルアップや資格取得にかかる研修費を助成
- デジタルスキル研修や生成AI活用研修も対象に含まれる場合がある
自治体独自のDX推進助成
- 東京都・大阪府・愛知県など、大都市圏では独自の補助金制度を実施
- 地方自治体でも産業振興課や商工会議所経由で支援情報を入手可能
活用のポイント
- 補助率や上限額、申請時期は制度ごとに異なるため、早めの情報収集が必要
- 申請には事業計画書や見積書が求められるため、パートナー企業や専門家のサポートを受けるとスムーズ
- 複数の制度を併用できる場合もあるため、組み合わせを検討する価値あり
補助金や助成金は、「予算がないからDX人材育成は無理」という状況を打破する有効な手段です。計画初期から資金調達も並行して検討することで、より現実的かつ持続的なDX推進が可能になります。
関連記事:
DX人材育成は外注すべき?内製との違い・費用相場・成功事例を徹底解説
DX推進を成功させる組織文化づくり
DX人材を採用・育成しても、その力を発揮できる環境がなければ成果は長続きしません。成功している企業の多くは、単に人を揃えるだけでなく、挑戦と学習を促す組織文化を整えています。
経営層のコミットメント
- DXは現場任せにすると優先順位が下がりがちです。経営層が自ら推進の旗振り役となり、定期的に進捗を確認・評価する体制が必要です。
- 「DXは経営戦略の一部」というメッセージを社内に浸透させることが重要です。
失敗を許容する風土
- 新しい技術や手法の導入には失敗がつきものです。失敗を責めるのではなく、学びとして共有する仕組みがある企業ほどDXは加速します。
- 小規模な実証実験(PoC)を繰り返し、成功事例を積み重ねるアプローチが有効です。
成果評価制度の整備
- DX推進に取り組む社員を正当に評価するために、成果指標やインセンティブを設定します。
- 数値化できるKPI(業務時間削減率、新規顧客数など)と、プロセス評価を組み合わせるとバランスが取れます。
部門横断の連携強化
- DXは複数部署が関わるため、サイロ化を防ぐ仕組みが必要です。
- 定期的な部門横断ミーティングや情報共有ツールの活用で、知見を全社に広げます。
組織文化づくりは短期間では完成しませんが、人材の採用・育成と並行して進めることで、DX推進力は飛躍的に高まります。
DX人材不足は「組み合わせ戦略」で突破できる
DX人材不足は、採用市場の競争激化やスキルの急速な陳腐化など、構造的な課題が背景にあります。放置すれば、競争力低下やプロジェクト停滞、人材流出といった経営リスクを招きかねません。
本記事で紹介した外部採用・社内育成・外部パートナー活用の3つのアプローチは、それぞれ強みと弱みがあります。重要なのは、自社の状況や目的に合わせて組み合わせ、短期的な成果と中長期的な基盤づくりを同時に進めることです。
- 短期成果が必要 → 外部採用+外部パートナー活用
- 長期的な組織力強化 → 社内育成を軸に計画
- 予算制約がある → 補助金活用+段階的な育成
DXは単発のプロジェクトではなく、継続的に改善を重ねる「組織の習慣」です。人材不足を乗り越える戦略を早期に描き、経営層と現場が一体となって推進していきましょう。
AI経営総合研究所では、DX人材不足を解消し、貴社のDX推進を加速させるための研修プログラム資料をご用意しています。
今の課題に合った育成・活用の方法を、具体的な事例とともに確認していただけます。まずは情報収集から始め、最適な一歩を踏み出しましょう。
\ “研修が定着しない”会社でも導入しやすい内容とは? /
FAQ|DX人材不足に関するよくある質問
- QDX人材とは具体的にどのような人を指しますか?
- A
DX人材は、デジタル技術を活用して業務改革や新規事業を推進できる人材を指します。具体的には、DX戦略を立案するビジネスアーキテクト、データ活用を担うデータサイエンティスト、業務効率化を進めるクラウドエンジニアなどが含まれます。
- QDX人材不足の原因は何ですか?
- A
主な原因は、デジタル技術の進化スピード、教育・研修の遅れ、都市部への人材集中、採用コストの高騰、経営層と現場の温度差などです。これらが複合的に影響し、人材の確保や定着が難しくなっています。
- Q中小企業でもDX人材は採用できますか?
- A
可能です。ただし採用単価が高いため、外部パートナー活用や副業人材の活用、補助金を活用した育成など、コストを抑える戦略と組み合わせることが効果的です。
- QDX人材を育成するにはどれくらいの期間が必要ですか?
- A
基礎スキル習得には数カ月〜半年程度、プロジェクトを任せられるレベルになるには1〜2年かかることもあります。実践と研修を並行することで定着が早まります。詳細はDX人材育成の完全ガイド|AI時代に求められるスキルと効果的な6ステップで解説しています。
- QDX人材育成の費用を抑える方法はありますか?
- A
国や自治体の補助金・助成金を活用する方法があります。IT導入補助金や人材開発支援助成金は、デジタルスキル研修にも利用できる場合があります。申請条件や期間は制度によって異なるため、早めの情報収集が必要です。
- QDX人材とIT人材の違いは何ですか?
- A
IT人材はシステム開発や運用など、IT技術を専門に扱う人材を指します。一方、DX人材はIT技術を活用して事業や業務を変革し、新しい価値を創出する役割を担います。つまり、IT人材が「技術の専門家」だとすれば、DX人材は「技術を経営や事業の変革に結びつける人」です。両者は重なる部分もありますが、目的と役割に違いがあります。
