CSV(Creating Shared Value)は社会価値と経済価値を同時に生み出す経営モデルとして注目されています。
しかし、「理念としては理解しているが、実践となるとまったく前に進まない」「CSRの延長のような取り組みになり、事業との接点が見えない」という声は少なくありません。意欲的に取り組んでいる企業ほど、“何が正しくて、どこでつまずいているのか”が見えないまま迷い続けてしまいます。
多くの企業の失敗には、共通する“構造”があります。社会課題の解像度が低いままプロジェクトを立ち上げてしまうこと、経営層と現場の認識がそろわないこと、ステークホルダーとの関係構築が浅いまま価値共創を進めようとすること。いずれもCSVをCSVとして成立させるための前提が整っていないため、生まれるべくして生まれるつまずきです。
この記事では、CSV経営がなぜ機能しないのかを構造的に整理し、社内外のギャップを埋めながら“価値創造のプロセス”を取り戻すためのステップを解説します。
概念論にとどまらず、実務で使える視点やロードマップまで整理しているので、読み終える頃には「自社がどこにつまずいているのか」「どこから立て直せばいいのか」が明確になります。
それでは、まずは多くの企業が陥る失敗パターンから見ていきましょう。
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CSV経営がうまく機能しない“7つの根本原因”
CSVは「社会価値と経済価値の同時創出」を掲げる魅力的な概念ですが、実践となると多くの企業が同じ壁にぶつかります。理念に共感し、社会課題解決への意欲があるにもかかわらず、なぜ失敗してしまうのでしょうか。
その理由は、個別のプロジェクトの問題ではありません。
“CSVを成り立たせるための前提条件が揃っていない状態で走り出してしまう”という構造的なつまずきが背景にあります。
ここでは、企業に共通する7つの根本原因を整理します。
① CSRの延長線で捉えてしまい、事業と切り離された活動になる
最も多い誤解が、CSVとCSRを同じ文脈で扱ってしまうことです。
CSRは企業としての責任を果たす取り組みであり、寄付やボランティアなど“社会に良いこと”が中心です。一方、CSVは社会課題を事業を通じて解決し、その過程で企業価値を高めることが目的です。
この違いが曖昧なまま進むと、プロジェクトは立ち上がっているのに事業への接続点がない、いわゆる“良いことをやっているだけ”の状態に陥ります。
この構造では成果が自然に薄くなるため、CSVとしての実感が得られません。
② 社会課題の解像度が低く、課題設定があいまい
CSVで重要なのは、解決すべき課題の深さを理解することです。
社会課題は複雑で、多層的です。「~が不足している」「地域に~が必要」といった表面的な理解だけでは、事業による価値創造につながりません。
深く掘り下げないまま施策を設計すると、ニーズとずれた取り組みになり、継続的な価値が生まれません。
競合企業も同じ領域で活動している中、課題の本質を誤ると差別化も難しくなります。
③ 経営層と現場の認識ギャップが埋まらない
CSVの推進で最も頻繁に聞かれる悩みが「現場が動かない」というものです。
経営層は理念に共感し、「社会価値と経済価値の両立」を掲げます。しかし現場から見ると、その意義が日常業務にどう関係するのかが見えず、自分ごとになりません。
これは個人のモチベーションの問題ではなく、経営と現場をつなぐ翻訳プロセスが欠けていることが原因です。
どれほど優れた戦略でも、“自分の担当業務のどこを変えるのか”が見えなければ行動にはつながりません。
④ ステークホルダーとの期待値がずれている
CSVでは、企業と社会の複数の関係者との協働が欠かせません。
ところが、企業側が“価値を提供する側”の意識のままでいると、地域や行政、パートナー企業との期待値が揃わず、協働が進みません。
一方向の発信だけでは共創にならず、ステークホルダーは“参加している実感”を持てません。
結果として協力が続かず、プロジェクトが孤立してしまいます。
⑤ 短期成果を求めすぎて、価値創造が育ちきらない
CSVは中長期の価値創造を前提とした経営モデルです。
ところが、短期の売上成果だけで評価してしまうと、社会価値の育成プロセスを途中で断ち切ることになります。
「思ったほど数字が伸びない」「すぐ収益につながらない」という理由で途中終了するケースが多く、価値創造のサイクルが回る前に終わってしまうのです。
⑥ 担当者依存で仕組み化されず、継続できない
熱意のある担当者が中心となり推進されるケースは多いですが、そのままだと継続性に問題が生じます。
担当者が異動すると一気に活動が止まる、情報共有が属人的になる、といった状態が典型的です。
CSVは「企業としてどう価値を生むか」というテーマのため、属人性ではなく仕組みとして運用される必要があります。
ここをクリアできない企業は長期で成果を出せません。
⑦ 価値創造プロセスが言語化されていない
CSVには明確な型があるわけではないため、価値創造の過程が個々人の理解に任されがちです。
「どうすれば社会価値と経済価値が接続するのか」という問いに対して、共通のフレームを持っていないと、議論が抽象化し、実行フェーズで迷いが生じます。
価値創造のプロセスを構造化して共有することで、初めて全員が同じ方向を向き始めます。
CSV経営が失敗しやすい“構造”を分解する
表面的な失敗要因をいくら並べても、CSVを本質的に理解することはできません。
多くの企業がつまずく背景には、組織・戦略・意思決定・ステークホルダーの関係性が噛み合っていない“構造的な歪み”があります。
ここでは、その深層構造を解きほぐします。
① 事業戦略と社会課題が“別々の議論”になっている
CSVの本質は「社会課題を起点に、事業を通じて価値を生むこと」にあります。
ところが多くの企業では、
- 事業戦略:業績・市場・競争軸
- 社会価値:CSR部門が運営する個別活動
というように、議論の場が完全に分断されています。
この構造では、いくらCSVを掲げても、
“事業の外側に良い活動をぶら下げているだけ” になり、価値が接続する瞬間が訪れません。
本来CSVは、事業企画・マーケティング・企画・現場・CSRなどが一つのテーブルで議論されるべきテーマ。
その前提が欠けているため、構想レベルで止まりやすくなります。
② 価値共創(Co-creation)のプロセスが設計されていない
CSVの重要なキーワードである 「共創」 は、“関係者と一緒につくる状態”を指します。
しかし多くの企業がやりがちなのは、
- 自社で企画を作る
- ステークホルダーに協力を依頼する
という“一方向の発想”です。
この構造では、関係者は「協力者」であって「共創者」ではありません。
共創プロセスとは、
- 価値の定義を共有し
- 社会課題の背景を説明し合い
- 小さく試しながら関係性を深め
- 役割を調整する
という一連の“協働の流れ”のこと。
ここを設計していないCSVは、意義が理解されないまま薄い関係で終わり、継続性を失います。
③ 理念ドリブンで進め、現場が“自分ごと”にならない構造
経営者がCSVを理解し、理念として掲げるところまでは順調な企業は多いです。
しかし、ここで止まると現場には次のような反応が起きます。
- 「それは経営の話で、私の業務とどう関係するの?」
- 「何を変えればいいのかがわからない」
- 「結局CSRと何が違うの?」
これは、理念から現場の行動に落とし込む “翻訳プロセス” が抜けているために起きる認知の断絶です。
CSVは「いいことをしましょう」という号令では動きません。
業務のどこが変わるのか、どんな価値が生まれるのかを、具体的な言葉で設計して共有することが必要です。
④ 評価軸が短期利益中心のまま、価値創造を支えられない
多くの企業がCSVに取り組む背景には、「事業を通じた社会価値創出への期待」があります。
しかし、評価軸が従来通り“短期の売上・利益”だけで設計されていると、構造的にCSVは成立しません。
CSVが生む価値には、
- 即時性の高い価値(コスト削減・ブランド向上など)
- 徐々に積み上がる価値(信頼関係・市場創造など)
- 長期の価値(社会課題の解決による市場全体の成長)
が混在しています。
短期の数字だけで判断すると、育ち始めた価値が“未成熟な状態のまま切り捨てられる”結果につながります。
これはCSVが途中で頓挫する典型的な構造です。
CSV実践を成功させるロードマップ|“ミニCSV”から始める4ステップ
CSVは「社会価値と経済価値を同時に生む仕組み」であり、理念を掲げるだけでは決して機能しません。
重要なのは、小さく検証しながら価値を育てていく“プロセス”そのものです。
ここでは、ゼロからCSVに取り組む企業でも実行しやすい 4つのステップ を整理します。
ステップ1|自社の強み × 社会課題の接点を可視化する
まず最初に行うべきは、「どの課題で社会に貢献できるか」を決めることではなく、
“自社の強みがどこで価値を生むか”を見つけることです。
CSVは“よいことをする活動”ではありません。
自社の資源・技術・ネットワーク・文化などを起点にしなければ、事業として成立しません。
具体的には次のような問いが有効です。
- 自社は何を得意としているのか?
- その強みは誰にとって価値になるのか?
- 社会のどんな課題と接続した時、持続的な価値になるのか?
この段階で曖昧さが残ると、後のステップで必ず迷いが生じます。
“価値の交点”を丁寧に描くことが、CSV全体の成功を左右します。
ステップ2|小さく検証できる“ミニCSV”を設計する
多くの企業が「大きなプロジェクトを設計しなければCSVにならない」と考えがちですが、それは誤解です。
むしろ重要なのは、小さく試し、小さく学び、小さく改善できる“ミニCSV”をつくること。
例えば、
- 特定地域・特定ユーザーだけを対象にした小規模施策
- パートナーと実施する短期間のテストプログラム
- 社内資源を最小限にして価値を検証する取り組み
こうしたミニCSVは、失敗してもリスクが小さく、成果や学びを評価しやすいため、次のステップに進む“材料”が蓄積されます。
“完璧な構想”よりも“改善可能な検証”が圧倒的に価値を生むのがCSVの特徴です。
ステップ3|ステークホルダーとの“共創ループ”を構築する
CSVの要点は、企業が単独で価値をつくるのではなく、
さまざまな関係者と価値を磨き続けることにあります。
そのためには、次のような“共創ループ”が必要です。
- 社会課題と価値の仮説を共有する
- 関係者と議論して課題の深さを補正する
- ミニCSVの結果を持ち寄り、改善ポイントを話し合う
- 修正し、また一緒に試す
このループが回り始めると、「企業の思い込みでやっているCSV」から「関係者とともに育てる価値創造」に変わります。
共創を“協力依頼”と混同しないことが成功の分岐点です。
ステップ4|価値創造のプロセスを組織に定着させる
CSVは一部の担当者だけが頑張る活動ではなく、
企業の意思決定や評価軸に“価値創造の視点”を埋め込むことが仕上げのステップです。
ここで必要になるのは、次のような“組織的な仕組み”です。
- 課題設定・価値評価の会議体を整備する
- 現場が動きやすい「役割設計」をつくる
- チーム間で価値創造のプロセスを共有する
- 学びを蓄積する場(振り返り・横展開)を用意する
特にこの段階は「社内浸透」が鍵になるため、研修や対話の機会を体系化することがCSVの持続性を左右します。
CSV経営が機能している企業に共通する“3つのパターン”
CSVが成功している企業には、個別の事例を超えて共通する“パターン”があります。
それは理念の美しさや資金力ではなく、価値創造のプロセスをどう組織に組み込んでいるかという点にあります。
この章では、成功企業の動き方を3つの視点から整理します。
① 部門横断で価値を“翻訳”する役割を担う人がいる
CSVが根付く企業には、経営の言葉と現場の行動を行き来しながらつなぐ “翻訳者” が存在します。
- 経営層が語る「社会価値」の意図を
- 現場が理解できる「具体的な行動」に変換し
- 現場の気づきや障害を経営へフィードバックする
こうした役割が明確になっている企業は、価値創造が止まりません。
CSVが失敗する組織の多くは、「経営と現場が別の言語を話している」状態のまま進んでしまいます。
成功企業はここを最初から“つなぐ仕組み”として設計しています。
② 短期・中期・長期の価値を“別々に扱う”評価軸がある
CSVの価値は即時に数字に現れるものばかりではありません。
成功企業は、この構造を理解したうえで、価値の種類ごとに評価の仕方を変えています。
例としては
- 短期の価値:ブランド向上、関係構築、初期の成果
- 中期の価値:市場形成、利用者増、共創の深まり
- 長期の価値:社会課題そのものの改善、事業モデルの進化
この3軸を別々に評価する仕組みがあることで、「短期成果だけで判断し、価値創造プロセスが途中終了する」という失敗を防げます。
経済価値と社会価値が矛盾しやすい領域こそ、評価軸の設計が企業の成否を左右します。
③ 社外パートナーとの“関係性そのもの”を育てている
CSVが成功する企業ほど、ステークホルダーを“協力者”ではなく“共創者”として扱っています。
具体的には、
- 課題を共有し、視点の違いを理解する対話
- 小さく試しながら“共通の成功体験”を積む
- 関係性を継続的に見直し、役割を進化させる
こうした動きを繰り返すことで、協業が“取り組み”ではなく“関係性の資産”として蓄積されていきます。
CSVは単発のプロジェクトではなく、企業と社会の間に新しい価値を育てる長期的な営みです。
その前提を理解し、関係性を丁寧に育てている企業が成功しているのは偶然ではありません。
まとめ|CSVは“価値をつなぐプロセス”を整えれば、必ず前に進める
CSV経営が成果につながる本質は、とてもシンプルです。
自社の強みを見つめ、社会価値との接点をつくり、小さく検証しながら育てていくこと。
大きな投資や専門組織がなくても、“価値が生まれる瞬間”は必ずつくれます。
重要なのは、完璧な構想よりも 「どこで価値が生まれそうかを決め、試す経験」 を早く積むことです。
この小さな積み重ねが、理念だけのCSVから、事業として動き出すCSVへ変えていきます。
あなたの会社にも、すでに価値の種は揃っています。
今こそ、社会価値と経済価値をつなぐ一歩を踏み出すときです。
SHIFT AIは、その一歩から価値創造のプロセスが組織に根付くまで伴走します。まずは、自社にとっての“最初のCSV”を一緒に見つけましょう。

FAQ|CSV経営に関するよくある質問
- QCSVとCSRの違いは何ですか?
- A
CSRは「企業としての責任を果たす活動」で、事業と独立していても成立します。
CSVは 事業そのものを通じて社会価値と経済価値を同時に生む考え方 です。外側の活動がCSR、事業の中心にあるのがCSVと整理できます。
- QCSVを始めるには、まず何から取り組めば良いですか?
- A
初めに決めるべきは「どの社会課題を解くか」ではなく、自社の強みがどんな課題と接続したときに価値になるかの整理 です。ここが曖昧だと取り組みがぶれやすくなります。
- Q小さな企業でもCSVに取り組む意味はありますか?
- A
あります。
中小企業は地域課題や顧客との距離が近く、強みが価値に変わりやすい環境があります。
大きな投資は必要なく、ミニCSVのような小規模検証から始めることで十分成果につながります。
- QCSVに取り組んでいるのに成果が見えません。原因は何でしょうか?
- A
CSVは短期で成果が見えにくい取り組みです。
短期業績だけで判断すると、育ち始めた価値を途中で断ち切ってしまいます。成功企業は 短期・中期・長期の価値を分けて評価する仕組み を持っています。
- Q社内でCSVの理解が進まず、プロジェクトが止まってしまいます。どうすれば良いですか?
- A
CSVが前に進まない理由の多くが“認識の断絶”です。
理念と現場の行動をつなぐためには、価値創造の考え方を共有する研修や社内対話の仕組み が必要です。
共通の言語が生まれると、行動が動き出しやすくなります。
