AIを活用したデータ分析は、製造・小売・物流・金融など、さまざまな業界で導入が進んでいます。これまで勘や経験に頼っていた判断もAIによって可視化され、業務改善や利益向上へとつながるようになりました。

本記事では、業種別に厳選したAI活用の成功事例11選を取り上げ、それぞれの課題や分析手法、導入の工夫をご紹介します。また、導入ステップや活用ツール、よくある課題とその乗り越え方についてもまとめています。

自社でのAIデータ分析導入を検討中の方は、まずは他社の成功事例から学んでいきましょう。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

AI導入に興味のある方や、社内提案を検討している方は、企業向けAI研修や導入支援を手がける【SHIFT AI】の無料相談をぜひご活用ください。業界や目的に合わせて、最適な導入プランをご提案します。

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目次

AIデータ分析とは

AIデータ分析とは、AI(人工知能)の技術を活用して、膨大なデータの中からパターンや傾向を自動で見つけ出し、意思決定や業務改善に活かす手法です。従来の分析では人手による集計や判断が必要でしたが、AIの活用により短時間で精度の高い分析が可能になりました。

AIによるデータ分析が活用できる領域は、以下のように多岐にわたります。

  • 売上予測
  • 顧客行動の可視化
  • 在庫最適化
  • 不良品の検出
  • 故障予兆の検知
  • テキストの分類
  • 感情分析
  • 音声認識と応答分析
  • 動画・画像解析
  • 類似ユーザーの抽出
  • レコメンド
  • 需要予測

こうした分析の実現により、ビジネスにおけるデータ活用のハードルは下がり、現場での実用性も高まっています。AIデータ分析について詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
関連記事:AIデータ分析でビジネスを加速!5つの手法と事例を詳しく解説

業種別|AIを活用したデータ分析の成功事例11選

ここでは、AIを活用したデータ分析の具体的な成功事例を業種別に紹介します。導入前にどのような課題があり、どのようにしてAIを取り入れ効果につなげたのか。自社の課題に置き換えながら読み進めることで、活用のヒントや導入の第一歩が見えてくるはずです。

事例1. 小売業|イトーヨーカドーの商品発注をAIで最適化

イトーヨーカドーでは、AIを活用した発注提案システムを全店に導入し、商品価格や天候、曜日などの情報を基に最適な販売予測を実現しています。これにより発注時間が約3割削減され、在庫の適正化や業務効率化が進みました。

さらに、AIによる弁当や惣菜の製造数提案も始まり、販売機会ロスの削減につながっています。AIの導入により、人にしかできない接客や売場づくりに集中できる環境が整いつつあります。現場との連携を重視したDXの推進が、顧客満足度の向上と売上拡大の両立が可能です。

出典:株式会社セブン&アイ・ホールディングス「セブン&アイグループが目指すニューノーマル」

事例2. 飲食業|老舗食堂「ゑびや大食堂」が導入した外観検査AI並みの精度を誇る来客予測で利益率10倍へ

伊勢神宮の門前にある「ゑびや大食堂」では、感覚に頼った店舗運営から脱却し、来客予測AIによって仕込みや人員配置、発注業務を最適化しています。導入した「TOUCH POINT BI」は、天候や曜日、過去の売上、通行量などのデータをもとに平均95.7%の高精度で来客数を予測。翌日・45日先・年間と多様な期間の予測が可能で、店舗運営の意思決定を支えています。

導入後は、食品ロスを約72.8%削減料理提供時間は5分の1に短縮アイドルタイムも1/4に削減。結果として売上は5倍、利益率は10倍へと向上しました。これらの成果は他業種にも展開されており、飲食・小売業における業務効率化と収益改善のモデルケースとなっています。

出典:EBILAB「データ分析サービス事業来客予測」

事例3. 製造業|缶製造ラインでの異常検知

東洋製罐株式会社では、缶ボディ成形工程における不良品検出と品質安定化を目的に、AI異常検知ツール「Impulse」を導入しました。熱・振動・動作といった設備のセンサーデータを時系列で収集・分析し、不良の兆候を早期に捉える仕組みを構築しました。

それまで匠の技術に頼っていた品質判断をデジタル化し、製造現場の負担軽減とロス削減を図っています。PoC(概念実証)では、教師なし学習により有効な予知モデルの構築に成功。今後はグループ全体での展開とDX基盤の構築が期待されています。

出典:Impulse「製造・生産現場における機械や設備の異常をAIで検知」

事例4. 製造業|パナソニックのAI連携による溶接欠陥の原因特定と品質向上

パナソニックは、溶接外観検査システム「Bead Eye」と、溶接設備の稼働データを収集・分析する「iWNB」を連携させ、欠陥の発生原因を特定できる新機能を開発しました。良品比較とAIによる外観検査という2種類のアルゴリズムでビードの良否を判定します。

判定結果を溶接条件と紐づけて分析することで、勘や経験に頼らず不良要因の可視化が可能です。手直し削減や品質向上が期待されており、自動車・二輪車業界を中心に実証が進められています。

データとAIの連携により、現場の判断精度を大きく向上させた好例です。

出典:日経XTECH「溶接欠陥の原因解明容易に パナソニックが検査と加工のデータ連携」

事例5. 食品業|味の素の需要予測AIによる出荷と生産の最適化

味の素グループでは、出荷データ・倉出データ・市場データをAIで統合・分析するプラットフォーム「ADAMS」を導入しています。AIによる高精度な需要予測モデルを活用することで、生産や出荷の計画を最適化が可能です。

この取り組みにより、過剰在庫や欠品リスクの低減、さらには食品ロスの削減にも成功しました。需給バランスに応じて柔軟に対応できる供給体制を整えられ、持続可能な製造プロセスの構築にもつながっています。

データに基づいた意思決定を支える、AIデータ分析の好事例といえるでしょう。

出典:味の素株式会社「味の素グループの変革を支えるDXの進化・取り組みについて」

事例6. 製造業|日立ソリューションズ東日本による設備の予知保全AI

日立ソリューションズ東日本では、製造現場の歩留まり改善や予知保全を目的に、AIを活用した「予兆検知ソリューション」を提供しています。センサーデータや製造ログなどをもとに機械学習で予兆検知モデルを構築し、リアルタイム監視を実現しています。

工具の摩耗による不良発生を防ぐ最適な保守タイミングを予測することで、品質向上と設備稼働率の改善が可能です。また勘や経験に頼らず、効率的な設備保全ができます。

出典:HITACHI「歩留まり改善/予防・予知保全のための「予兆検知ソリューション」」

事例7. 製造業|センサーデータによる故障予兆検知

コネクシオが提供するエッジAI搭載IoTゲートウェイ「BlackBear」は、振動・温度・電流などの多様なセンサーデータを収集します。これらのデータを現場で即座に分析し、設備の故障予兆を高精度に検知します。

ブレインズテクノロジー社の機械学習ソリューション「Impulse」と連携することで、異常データがなくても予兆検知モデルを構築可能です。これにより、過剰なメンテナンスや突発的な故障を防ぎ、生産効率や稼働率の向上に寄与しています。

出典:CONEXIO「故障予兆検知に向けた現場でのデータ収集事例」

事例8. 金融業|銀行間フェデレーテッドラーニングによる不正取引検知

りそな銀行を含む4行は、NICTが開発したプライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を用い、不正口座検知の実証実験を行いました。各行は顧客情報を開示せずに連携し、AIモデルの共同学習を実現しています。

個別学習と比較して、連合学習モデルは適合率が最大約10ポイント向上し、再現率は95%超を達成しました。潜在的な不正口座の検知にもつながる結果が得られ、現行AMLシステムとの並行運用も視野に入れた実用化が期待されています。

出典:国立研究開発法人 情報通信研究機構「プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用した銀行の不正口座検知の実証実験を実施し、検知精度向上を確認」

事例9. 通信キャリア|コールセンター応対記録の自動分析とサービス改善

大手通信事業者のKDDIは、コールセンターに蓄積されたフリーフォーマットの応対メモを、Amazon Bedrockを活用した生成AIで自動分類・要約しています。これにより、雑多なテキストデータを体系的に構造化し、カテゴリー別の傾向や課題を自動抽出した要約レポートを作成可能です。

人手をかけずに、顧客の声を分析・可視化できる環境を構築し、サービス改善や社内DXの推進に貢献しています。

出典:cloudpack「コールセンターのお客様応対メモの分類・要約を生成 AI で自動化!Amazon Bedrock を活用した分析・レポート作成機能の構築・開発」

事例10. 物流業|AIによる渋滞予測で配送遅延リスクを低減

NEXCO中日本は、中央道上り線「大月IC〜八王子JCT」間において、AIを活用した渋滞予測の実証実験を実施しました。同社が保有する過去の交通量や渋滞、降雨データと、当日のリアルタイムデータを組み合わせることで、所要時間を高精度に予測できるようになりました。

従来の重ね合わせ型予測に比べて柔軟な分析が可能となり、ドライバーや物流業者にとって有益な情報提供が実現されています。

出典:物流ニュース LNEWS「NEXCO中日本/中央道でAIによる新しい渋滞予測の実証実験」

事例11. 行政・自治体|アンケートテキストの感情分析

自治体向け生成AIチャットツール「自治体AI zevo」では、アンケートの自由記述欄をAIで感情分析する機能が搭載されています。住民の意見を感情の傾向ごとに自動分類することで、満足度の可視化や課題の抽出が可能になりました。

RAG機能により自治体独自の情報にも対応し、住民サービスの質向上や政策立案の材料として活用されています。

出典:自治体AI ZEVO「自治体AI zevoでアンケート分析機能が利用可能に!」

AIを使ったデータ分析の導入ステップ

AIを活用したデータ分析を導入するには、目的の明確化からデータ準備、モデル構築、運用まで段階的な進行が重要です。ここでは、AIを使ったデータ分析の導入6ステップを紹介します。

ステップ1. 課題を明確化する

AIを導入する際、まず最初に取り組むべきは「何を解決したいのか」という課題の明確化です。業務の効率化・売上の向上・コスト削減といった目的が不明確なままでは、適切なAI活用はできません。現場の担当者や関係部署と連携しながら、ビジネス上のゴールを具体的に言語化することで、後のステップがスムーズになります。

ステップ2. 利用可能なデータを棚卸しする

AIによる分析は、データがなければ成り立ちません。そのため、次に行うのは社内に蓄積されているデータの棚卸しです。

どの部門に、どのような形式で、どれほどのデータがあるかを整理し、課題解決に活用できるものを見極めます。また、データの質や整備状況も確認し、必要に応じて収集や前処理の計画も立てる必要があります。

ステップ3. 小さく始める「PoC」を設計する

AI導入の初期段階では、全社的な展開を目指す前に、小規模でPoC(Proof of Concept)を実施するのが一般的です。PoCでは、対象業務を限定し、AIの有効性や実用性、費用対効果を検証します。

事前に評価指標を設定しておけば、導入判断の材料としても活用できます。失敗してもリスクを抑えられる点が大きなメリットです。

ステップ4. ツール・パートナーを選定する

AI開発には、自社での内製と外部ベンダーの活用という選択肢があります。自社にエンジニアやデータサイエンティストがいれば内製も可能ですが、多くの場合は外部パートナーとの協業が現実的です。目的や予算、運用体制に合ったツールやベンダーを選定することで、導入から運用までスムーズに進められます。

ステップ5. 現場と連携して業務に落とし込む

PoCで成果が見られた場合、本格導入に進みます。この段階では、現場部門との密な連携が不可欠です。

AIによる分析結果を、現場の業務プロセスにどう組み込むかを検討し、必要なマニュアル整備や担当者への教育も行います。現場の理解と納得が得られなければ、AIは有効に活用されません。

ステップ6. 継続的に改善・拡張していく

AI導入は一度で終わるものではなく、導入後も継続的な改善が重要です。モデルの精度を定期的に評価し、データの変化や業務環境に合わせてチューニングを行います。

また、導入範囲を徐々に拡大し、他の業務や部門への展開も検討しましょう。フィードバックを受けてPDCAを回し、AI活用を企業の文化として定着させていくことが成功の鍵です。

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AIデータ分析の導入でよくある課題とその対策

AIによるデータ分析の導入は多くの企業にとって魅力的ですが、現場での運用や定着にはさまざまな壁があります。ここでは、AI活用を進めるうえで直面しやすい課題と、その具体的な対策について解説します。

データの量が十分に存在しない/整っていない

AIによるデータ分析を進めようとしても、社内に十分なデータが存在しなかったり、データ形式がバラバラで統合が難しいという課題は少なくありません。特に、紙ベースでの管理や部門ごとに異なるシステムを利用している企業では、分析に使えるデータが整っていないケースが多く見られます。

こうした状況では、まず既存の業務フローを見直し、データ収集と蓄積を仕組み化することが重要です。また、IoT機器や業務システムを導入してデータ取得環境を整えることで、AI分析に必要な基盤を段階的に構築できます。

PoCで終わってしまう

PoCを実施したものの、そこから先の実装や業務定着につながらず、プロジェクトが止まってしまうケースは多く存在します。こうした失敗の背景には、PoCの目的が曖昧であったり、成功の定義が明確でなかったりすることが挙げられます。

PoCは本番導入への重要なステップであるため、開始前に明確な目的と成果指標を設定し、社内の関係者と共有することが不可欠です。あわせて、PoC後の業務フローや体制もあらかじめ検討しておくことで、スムーズな実装へとつなげられます。

期待と現実のギャップ

「AIを導入すればすぐに業務が劇的に改善する」といった過度な期待を持ってしまうと、実際の成果が見えにくかったときに失望感が大きくなります。AIはあくまで業務支援のためのツールであり、導入初期は分析精度や活用方法に試行錯誤が必要です。

そのため、初期段階から関係者にAIの特性や限界を正しく理解してもらい、継続的な改善を前提とした運用を行うことが重要です。段階的に使い方を調整し、現場と連携して使いこなすことで、徐々に期待とのギャップを埋めていけます。

まとめ|AIデータ分析事例から学び、自社に合った活用法を見つけよう

AIによるデータ分析は、業務の効率化や新たな価値の創出につながる強力な手段です。業種や規模を問わず、多くの企業や自治体が成果を上げています。

本記事で紹介した事例や導入ステップ、現場で起こりがちな課題とその対策は、貴社のAI活用を進めるうえでの道標となるはずです。まずは小さく始めることからでも、確実に業務改善や成長のチャンスは広がっていくでしょう。

「AIを活用した業務改善に関心がある」「社内での導入を検討したい」という方は、SHIFT AIの無料相談をご活用ください。業種や目的に応じた最適な導入プランをご提案し、導入から定着まで伴走支援いたします。

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