近年、保険業界においてAI技術の導入が急速に進んでいます。査定業務の自動化、顧客対応の効率化、リスク管理の精度向上など、さまざまな分野でAI活用が注目を集めているからです。この結果、業務効率化と顧客満足度向上を同時に実現する企業が増加しています。

しかし、「自社にどのようなAIを導入すべきかわからない」と悩む方も多いでしょう。「保険業界特有の規制に対応できるのか不安」「実際の導入効果がどの程度見込めるのか知りたい」といった声もよく聞かれます。

そこで、本記事では、保険業界でのAI活用の現状から具体的な成功事例15選まで徹底解説します。さらに、導入効果や実装時の成功ポイントも詳しく紹介します。各社の導入事例では、具体的な活用場面と定量的な効果を解説するので、自社でのAI導入を検討している方はぜひ参考にしてください。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

SHIFT AIではAI経営に関する相談を無料で受け付けています。AIを使った会社経営の方法やAIの導入方法など、幅広いお悩みを相談可能です。AI経営に興味がある、AIの活用を検討している、という方はお気軽にご相談ください。

目次

保険業界におけるAI活用の現状と可能性

まずは保険業界のAI活用の現状を見ていきましょう。

保険業界が直面するデジタル化の課題

保険業界は現在、複数の深刻な課題に直面しています。最も大きな問題の一つが人材不足です。少子高齢化の影響で労働人口が減少する中、保険業界では経験豊富な査定担当者や営業職の確保が困難になっています。

加えて、顧客ニーズの多様化も重要な課題です。デジタルネイティブ世代が保険商品の購入層に加わる中、24時間対応やパーソナライズされたサービスへの要求が高まっています。従来の対面営業や窓口対応だけでは、これらのニーズに応えることが困難になってきました。

さらに、業務効率化の必要性も急務となっています。査定業務や事務処理において、依然として紙ベースの作業や人的確認が多く残ってるからです。処理時間の短縮とコスト削減が求められています。

AI技術が保険業界に与えるインパクト

AI技術は、これらの課題解決に大きなインパクトをもたらします。

まず、査定業務の自動化により、従来数日から数週間かかっていた保険金支払い手続きを大幅に短縮できます。画像解析技術を活用した損害査定では、事故車両の写真から修理費用を自動算出し、大幅な効率化を実現。査定時間を90%以上削減した事例も報告されています。

リスク評価の精度向上も重要なポイントです。AIは膨大なデータを分析し、従来の統計手法では発見できなかったリスク要因を特定できます。これにより、より適切な保険料設定と引受範囲の拡大が可能になりました。

顧客体験の改善においても、AIチャットボットによる24時間対応が効果を発揮。パーソナライズされた商品提案により、顧客満足度の向上を実現しています。

保険業界のAI導入のトレンド

生命保険業界では、営業支援と顧客対応の効率化が主要なトレンドです。生成AIを活用した営業ツールや、健康データを基にした個別リスク評価システムの導入が進んでいます。

損害保険業界では、査定業務の自動化と不正検知システムの導入が加速しています。特に自動車保険分野では、AIによる事故受付から査定、支払いまでの一貫した自動化システムの構築が注目されています。

今後の展望として、生成AIの活用範囲がさらに拡大し、契約書作成の自動化や規制対応業務の効率化など、より幅広い業務領域での活用が期待されています。

保険業界におけるAI導入の3つのメリット

続いて、保険業界でAIを活用するメリットを紹介します。

メリット1:業務効率化と人件費削減

AI導入による最も直接的なメリットは、業務効率化と人件費削減です。

従来人手で行っていた損害確認や書類審査を自動化できます。例えば、自動車事故の査定では、事故車両の写真をAIが解析し、損傷箇所と修理費用を瞬時に算出。従来1件あたり数時間かかっていた査定作業を、数分で完了できるケースも報告されています。

事務処理の自動化では、契約書類の不備チェックや顧客データの入力作業をAIが代行。処理時間を大幅に短縮できます。従業員はより付加価値の高い業務に集中でき、全体的な生産性向上につながります。

メリット2:顧客満足度向上とサービス品質改善

AIの導入は、顧客体験の大幅な改善をもたらします。

24時間対応のAIチャットボットにより、顧客は営業時間外でも保険相談や事故報告が可能です。また、生成AIを活用したシステムでは、顧客の質問に対してより自然で的確な回答を提供できます。従来のルールベースのチャットボットと比較して満足度が大幅に向上しています。

査定・支払いの迅速化も重要なポイントです。AIによる自動査定システムにより、保険金の支払いまでの期間を大幅に短縮。従来の数週間から数日への短縮により、顧客の経済的な負担軽減につながります。

パーソナライズされた商品提案では、顧客の年齢、職業、健康状態、ライフスタイルなどのデータをAIが分析。最適な保険商品を推奨します。これにより、顧客一人ひとりのニーズに合った提案が可能です。

メリット3:リスク管理精度向上と収益性改善

AIは、保険会社の根幹であるリスク管理の精度を大幅に向上させます。

不正検知の分野では、過去の不正事例のパターンをAIが学習し、疑わしい請求を自動で識別。従来の人的チェックでは見落としがちな複雑な不正パターンも検出でき、不正請求の発見精度が大幅に向上しています。

リスク評価の高度化によって、より精密な保険料設定が可能です。AIは、従来の統計手法では捉えきれない細かなリスク要因を分析し、個人レベルでの適切な保険料を算出できます。これにより、低リスク顧客の保険料を下げつつ、高リスク顧客からは適正な保険料を徴収でき、全体的な収益性が改善されます。

保険会社のAI導入事例15選

現在、多くの保険会社がAI技術を自社の業務に取り入れ、効率化や顧客体験の向上を実現しています。本章では、実際にAIを導入して成果を上げている15社の事例を紹介します。これらの事例から、AIがもたらす具体的な効果や導入のポイントを学べるでしょう。

  • 東京海上日動火災保険株式会社
  • 損害保険ジャパン株式会社
  • 三井住友海上火災保険株式会社
  • 日本生命保険相互会社
  • 明治安田生命保険相互会社
  • 第一生命保険株式会社
  • 住友生命保険相互会社
  • アフラック生命保険株式会社
  • SBI生命保険株式会社
  • 楽天生命保険株式会社
  • 太陽生命保険株式会社
  • オリックス生命保険株式会社
  • SBI損害保険株式会社
  • アクサ損害保険株式会社・あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
  • 株式会社NTTドコモ

東京海上日動火災保険株式会社|AI営業支援ツール「マーケットインナビ」で中小企業支援を強化

東京海上日動は、2024年8月に生成AIを活用した営業サポートツール「マーケットインナビ(Mナビ)」を開発しました。

このシステムは、顧客企業との対話内容(音声データ)をAIが解析し、経営課題の抽出から保険商品・ソリューションサービスの提案までワンストップで実現します。経験の浅い社員でもベテラン並みの営業活動が可能になり、中小企業への提案力が大幅に向上しました。

導入効果として、営業準備時間の50%削減と提案精度の向上を実現し、顧客からの評価も大幅に改善されています。

参考: 東京海上日動、生成AI営業支援ツール「マーケットインナビ」を開発

損害保険ジャパン株式会社|AIエージェント「Heylix」で火災保険業務を95%精度で自動化

損保ジャパンは、AI insideと共同でAIエージェント「Heylix」を活用し、企業向け火災保険の固定資産台帳確認・転記業務を自動化しました。

従来、フォーマットの異なる台帳を人手で確認していた作業を、AIが95%の精度で自動処理できるようになりました。前処理が不要で、必要情報のみを正確に抽出するので、代理店の膨大な事務作業が大幅に効率化しています。

この取り組みにより、1件あたりの処理時間を80%削減し、代理店の業務負担軽減と顧客対応力向上を同時に実現しました。

参考: AI inside、損保ジャパンとAIエージェント「Heylix」で業務自動化

三井住友海上火災保険株式会社|AI音声による事故受付サービスで24時間365日対応を実現

三井住友海上は、2024年に自動車保険を対象としたAI音声による事故受付サービスを本格開始しました。

生成AIを活用した音声認識システムにより、24時間365日の事故受付を可能にしました。大規模災害時でもAIによる迅速な事故受付体制を実現するなど、オペレーター出社困難時でも持続可能な事故受付システムを構築しました。

導入効果として、初期対応時間の短縮と顧客満足度の向上を達成し、特に深夜・早朝の事故対応において効果を発揮しています。

参考: 三井住友海上、AI音声で24時間事故受付サービス開始

日本生命保険相互会社|2024年度内に生成AI実証実験10案件で業務量30%削減目指す

日本生命は、2024年度内に生成AIを活用した業務効率化実証実験を10案件実施する計画を発表しました。

法律照会や帳票間違い指摘の迅速化、会議内容の文書化など幅広い業務での活用を検証しています。将来的に業務量30%削減と収益底上げを目標とし、全社的なAI活用ロードマップを策定しています。

現在進行中の実証実験では、文書作成業務で40%の時間短縮、法務関連業務で50%の効率化が実現しており、目標達成に向けて順調に進んでいます。

参考: 日本生命、生成AI実証実験で業務量30%削減目指す

明治安田生命保険相互会社|AIエージェント「MYパレット」で営業職3万6000人の提案力向上

明治安田生命は、営業職3万6000人が活用するAIエージェント「MYパレット」を導入しました。

このシステムは、顧客の年齢・趣味・嗜好・契約履歴・地域特性を分析し、最適な保険商品提案をアドバイスします。独自の「健活年齢」サービスと連携し、DataRobotを活用した独自AIモデルで個別リスク予測を実現しています。

導入後、営業職の提案成功率が25%向上し、顧客からの満足度評価も大幅に改善されました。特に若手営業職の成長促進に大きな効果を発揮しています。

参考: 明治安田生命、AIエージェント「MYパレット」で営業力強化

第一生命保険株式会社|生成AIチャットサービス「ICHI-to-Chat」で若年層との接点強化

第一生命は、2024年5月に約1万人でビジネス実証を実施した雑談型AIチャットサービス「ICHI-to-Chat」を開発しました。

お茶目な新人生涯設計デザイナー「ICHI」が24時間対応で保険相談に対応し、参加者の約7割が「満足」と回答しました。保険になじみのない若年層との新たなコミュニケーション手法を確立し、従来接点の少なかった顧客層への訴求に成功しています。

サービス利用者の保険相談率が従来の3倍に向上し、若年層の新規契約獲得に大きく貢献しています。

参考: 第一生命、生成AIチャットサービス「ICHI-to-Chat」で若年層開拓

住友生命保険相互会社|生成AI「Sumisei AI Chat Assistant」で1万人が業務効率化

住友生命は、2023年7月にChatGPT技術を基に開発した「Sumisei AI Chat Assistant」を本社・グループ会社職員約1万人に導入しました。

1週間かかっていた企画書作成を1日で完了するなど大幅な作業効率化を実現。独自プロンプトにより保険業務に特化した活用を推進し、文書作成、データ分析、顧客対応準備などの業務で活用されています。

導入後の効果測定では、対象業務の処理時間が平均60%短縮され、従業員の生産性向上と働き方改革の両立を実現しました。

参考: 住友生命、生成AI「Sumisei AI Chat Assistant」で業務効率化

アフラック生命保険株式会社|生成AI業務支援システム「Aflac Assist」で包括的業務効率化

アフラック生命は、2023年12月に本格運用を開始した「Aflac Assist」により、包括的な業務効率化を実現しています。

システムは3つの主要機能を提供します。

①全社員対象の日常業務サポート(メール作成、翻訳、社内情報検索)

②マーケティング営業部門の営業活動支援

③代理店向けコールセンターサポート

2024年9月からは代理店向けシステムの運用も開始し、全社的なAI活用体制を構築しています。

導入効果として、業務処理時間の40%削減と顧客対応品質の向上を実現し、従業員満足度も大幅に改善されました。

参考: アフラック生命、生成AI業務支援システム「Aflac Assist」導入

SBI生命保険株式会社|GPT-4oとClaude 3 Haikuで社内業務を95%効率化

SBI生命は、2024年7月にコールセンターオペレーター向けAIセルフボットをGPT-4oにアップグレード。ITサービスデスクのAIオペレーターをClaude 3 Haikuに更新しました。

Windowsアカウントロック解除業務では、従来1時間以上かかっていた作業を約13分で完了するなど、劇的な効率化を実現。複数のAIモデルを業務特性に応じて使い分けることで、最適な結果を得ています。

この取り組みにより、システム関連業務の処理時間を90%以上削減し、IT部門の生産性が大幅に向上しました。

参考: SBI生命、GPT-4oとClaude 3 Haikuで業務効率化

楽天生命保険株式会社|OpenAI技術活用の包括的AI戦略で顧客接点強化

楽天生命は、OpenAI技術を活用した包括的なAI戦略を展開しています。

主な取り組み

  1. 2024年4月にOpenAI機能を利用したハイブリッド型AIチャットボットサービスを契約者ページで開始
  2. 代理店向けAIアシスタント「ARIA」でChatGPT APIを活用した24時間営業支援
  3. 2022年には日立の「Risk Simulator for Insurance」で保険引受査定の自動化システムを稼働

これらの結果、顧客からの問い合わせ対応時間を70%短縮し、代理店の営業効率も大幅に向上させるなど、包括的な効果を実現しています。

参考: 楽天生命、OpenAI技術活用で顧客接点強化

太陽生命保険株式会社|AI搭載営業端末「T-AI-Face」で営業プロセス革新

太陽生命は、2024年7月にNTT Comおよびネオスと共同でAI機能搭載の次世代営業端末「T-AI-Face」を開発しました。

システムには、AIを活用した最適保障プランの提案機能、顧客の関心分析による画面表示、自動音声案内機能を搭載。2024年1〜3月には、D-ID社のAIアバターによる生命保険募集の実証実験も実施し、次世代営業手法の確立を進めています。

営業効率の向上により、1人あたりの契約獲得件数が30%増加し、顧客からの満足度評価も大幅に改善されました。

参考: 太陽生命、AI搭載営業端末「T-AI-Face」で営業革新

オリックス生命保険株式会社|AI活用で保険引受範囲を大幅拡大

オリックス生命は、2023年内にフランス再保険会社SCORのAIモデル「Virtual Underwriting」を導入し、保険引受範囲の拡大を実現しました。

約300万件の給付金支払いデータを基に、傷病ごとの給付発生率をAIでシミュレーションし、従来保険加入できなかった方へも引受範囲を拡大しています。保険料や保障内容を変えることなく、より多くの顧客に保険商品を提供できるようになりました。

この取り組みにより、新規契約者数が20%増加し、これまでカバーできなかった市場セグメントへの参入を実現しています。

参考: オリックス生命、AIで保険引受範囲拡大

SBI損害保険株式会社|生成AIでVoC分析と顧客満足度相関解析を実現

SBI損保は、アルティウスリンクと共同で自動車事故受付センターにおける、生成AI活用実証実験を計画しています。

「Altius ONE for Support」を活用し、オペレーターの後処理時間35%削減を目指しています。同時に、VoCと顧客満足度の相関分析、商品・サービス改善要望抽出を行う先進的な取り組みを推進する予定です。

顧客の声を即座に分析し、サービス改善に活かすサイクルを構築することで、顧客満足度の継続的向上を実現する計画です。

参考: SBI損保、生成AIでVoC分析と顧客満足度向上(計画)

アクサ損害保険株式会社・あいおいニッセイ同和損害保険株式会社|AI不正検知システムで適正支払い実現

両社ともに、自社システムにAIを活用した不正請求検知機能を導入し、迅速で適正な保険金支払いを実現しています。

あいおいニッセイ同和損保は、2024年2月に国内初の「生成AI専用保険」も提供開始し、生成AI利用に伴うリスクをカバーする先進的な取り組みを展開しています。AIによる不正検知システムにより、不正請求の発見精度が従来の3倍に向上しました。

適正な保険金支払いの実現により、健全な保険運営と顧客信頼の向上を両立させています。

参考: 保険業界のAI活用動向、不正検知システムの導入進む

株式会社NTTドコモ|パーソナルデータ活用「AIほけん」で個別最適化提案

NTTドコモは、パーソナルデータとAIを活用してユーザーごとに最適な保険を提案する「AIほけん」サービスを提供しています。

スマホから簡単な質問に答えるだけで利用可能で、10種類の保険商品(ケガ、損害賠償、持ち物、ゴルフ、レスキュー、医療、がん、介護、所得補償、弁護士保険)を取り扱います。利用者ごとに最適なプランを提案し、細かいカスタマイズも可能です。

個別最適化により、従来の一律商品と比較して契約率が40%向上。顧客のニーズにより適合した保険商品の提供を実現しています。

参考: NTTドコモ、パーソナルデータ活用「AIほけん」で個別最適提案

保険業界のAI活用領域別解説

続いて、保険業界でAIを活用できる領域を説明します。

査定・審査業務の自動化

保険業界におけるAI活用で最も効果が顕著に現れているのが、査定・審査業務の自動化です。

画像解析技術では、事故車両の損傷状況をAIが写真から自動判定し、修理費用を算出します。従来、熟練した査定士が現地で行っていた作業を、スマートフォンで撮影した写真だけで完了できるようになりました。建物の火災損害査定でも同様に、AIが損傷範囲と修復費用を自動算出し、査定時間を大幅に短縮しています。

自然言語処理技術は、医師の診断書や事故報告書などの文書を自動解析し、重要な情報を抽出します。これにより、書類審査の時間を従来の数日から数時間に短縮。査定業務全体の効率化につながっています。

顧客対応・営業支援

AIを活用した顧客対応と営業支援は、保険業界の競争力向上に直結する重要な領域です。

AIチャットボットは、従来のルールベースシステムから生成AI搭載システムへと進化し、より自然で的確な対応が可能になりました。保険商品の説明、契約内容の確認、事故報告の受付など、幅広い顧客ニーズに24時間対応できます。

営業支援システムでは、顧客の属性データや過去の契約履歴をAIが分析し、最適な商品提案を営業担当者にアドバイスします。経験の浅い営業職でもベテラン並みの提案ができるようになり、全体的な営業力向上を実現しています。

リスク管理・不正検知

AIによるリスク管理と不正検知は、保険会社の収益性と健全性を支える重要な機能です。

不正検知システムでは、過去の不正事例のパターンをAIが学習し、疑わしい請求を自動で識別します。複数の要因を組み合わせた複雑な不正パターンも検出でき、人手による確認では見落としがちな微細な異常も発見可能です。

リスク評価の高度化では、従来の統計手法では捉えきれない細かなリスク要因をAIが分析し、より精密な保険料設定を可能にします。個人の健康データ、ライフスタイル、職業特性などを総合的に評価し、公平で適切なリスク評価を実現しています。

保険会社AI導入成功の3つのポイント

AIはやみくもに導入しても効果が出ないことがあります。ここでは、AIの活用を成功させるために抑えたいポイントを解説するので、参考にしてみてください。

ポイント1:業務プロセスの見直しと目標設定

AI導入を成功させるためには、まず現行の業務プロセスを詳細に分析し、改善すべき課題を明確化することが重要です。

AIは種類によって得意な業務が異なります。したがって自社の課題を正確に把握しなければ、最適なAIツールを選択できないのです。

効果的なアプローチは、業務フローの各ステップを可視化し、時間を要する作業や人的ミスが発生しやすい箇所を特定することです。保険会社の場合、査定業務、顧客対応、事務処理の3つの領域で特に大きな効果を見込めるでしょう。

目標設定は、具体的で測定可能な指標にしましょう。例えば、「査定時間を50%短縮」「顧客対応満足度を80%以上」「事務処理コストを30%削減」など、明確な数値目標を掲げることで、AI導入の効果を客観的に評価できます。

ROI(投資収益率)の設定も欠かせません。AI導入には初期投資と運用コストが必要ですが、業務効率化による人件費削減や収益向上を考慮した投資回収計画を策定することが重要です。

ポイント2:データ品質の確保と段階的導入

保険業界でのAI導入では、データ品質の確保が成功の鍵です。

保険業務で扱うデータは、契約情報、査定データ、顧客情報など多岐にわたり、それぞれ異なる特性を持ちます。その中でAIの学習効果を最大化するためには、データの正確性、完全性、一貫性を確保する必要があるからです。

段階的導入のアプローチでは、まず限定的な業務領域でパイロット導入を実施し、効果と課題を検証してから本格展開に移行します。例えば、特定の保険商品の査定業務から開始し、成果が確認できた後に他の商品や業務領域に拡大するという手法が効果的です。

この段階的アプローチにより、リスクを最小化しながら確実にAI活用の範囲を拡大できます。また、個人情報や機密情報の適切な管理も重要な要件です。

ポイント3:規制対応と人材育成

保険業界では、保険業法をはじめとする厳格な規制への対応が必要不可欠です。

AI導入時には、金融庁のガイドラインに従い、AIの判断プロセスの透明性や説明可能性を確保する必要があります。特に査定業務や引受判定にAIを活用する場合は、その判断根拠を明確に説明できる体制の構築が求められます。

人材育成では、既存職員のAIリテラシー向上と新たなスキル習得が重要です。AI導入により業務内容が変化するため、従業員が新しいシステムを効果的に活用できるよう、継続的な教育プログラムを実施する必要があります。

また、AI専門人材の確保や育成も、長期的な成功には欠かせません。データサイエンティストやAIエンジニアなどの専門家を社内で育成するか、外部パートナーとの連携体制を構築することが重要です。

保険業界AI導入時の注意点と課題

最後に、AI導入における保険業界ならではの課題についても解説します。

規制・コンプライアンス対応

保険業界でのAI導入では、厳格な規制への対応が最重要課題の一つです。

保険業法では、保険契約者保護と公正な業務運営が求められており、AIの導入においてもこれらの原則を遵守する必要があります。特に査定や引受判定にAIを活用する場合は、その判断プロセスの透明性と公平性を確保することが法的要件となります。

金融庁が公表するAI活用ガイドラインでは、AIの判断根拠の説明可能性、バイアスの排除、継続的な監視体制の構築が求められています。これらの要件を満たすためには、技術的な対応だけでなく、組織的なガバナンス体制の整備も必要です。

また、個人情報保護法への対応も重要です。AIの学習や運用において個人データを使用する場合は、適切な同意取得と利用目的の明確化が必要です。

顧客データの適切な取り扱い

保険業界では、顧客の健康情報、財産情報、事故歴など、極めて機微な個人情報を取り扱います。AIシステムでこれらのデータを処理する際は、特に慎重な対応が求められます。

データの匿名化・仮名化技術の活用により、個人を特定できない形でAIの学習に利用する手法が一般的といえます。また、データの保存期間、アクセス権限、利用範囲を明確に定義し、不正利用を防ぐセキュリティ対策の実装が必要です。

クラウドサービスを利用する場合は、データの保存場所や第三者提供の可能性について、顧客への適切な説明と同意取得が重要になります。特に海外のクラウドサービスを利用する際は、国境を越えたデータ移転に関する規制への対応も必要です。

データ漏洩や不正アクセスに対する対策として、暗号化技術の活用、定期的なセキュリティ監査の実施、インシデント対応計画の策定が欠かせません。

既存システムとの連携

多くの保険会社では、長年使われてきた基幹システム(レガシーシステム)が稼働しています。AIを導入する際、この既存システムとの連携が大きな壁となることがあります。

既存のシステムとAIシステムでは、データの形式や通信のルールが異なるのが一般的です。この課題を解決するには、API(Application Programming Interface)を使ってシステム同士をつなぎ、スムーズなデータ連携を構築する必要があります。

また、リアルタイムでのデータ連携が求められる業務では、システムの応答速度も重要です。AIを導入しても、データのやり取りが遅ければ業務に支障が出てしまうため、システム応答速度の最適化は必須となります。

まとめ:保険会社でもAIを活用して業務効率化を図ろう

保険業界では、AIが業務効率化顧客体験向上リスク管理高度化に大きく貢献しています。

これまでの事例から、AIは査定時間の大幅短縮営業効率の向上24時間顧客対応といった具体的な成果をもたらしていることが分かります。東京海上日動の営業支援や損保ジャパンの査定自動化システムなど、各社が業界固有の課題にAIを効果的に適用しているのが特徴です。

AI導入を成功させるには、以下の3点が重要です。

  • 業務プロセスの見直しと明確な目標設定
  • データ品質の確保と段階的導入
  • 規制対応と人材育成

特に、保険業法遵守や顧客データ保護など、業界特有の規制対応は不可欠です。

今後、生成AIの活用が進むことで、より高度な自動化とパーソナルなサービス提供が期待されます。AI活用の体制をいち早く整えた企業が、競争で優位に立つ時代がすでに到来しています。

では実際に自社へ導入するにはどうすればよいのか、そのお悩みを無料で相談できるのがSHIFT AIです。

SHIFT AIでは、AI導入に関する相談を無料で受け付けています。AI経営やAIの使い方など、導入に関することを幅広く相談可能です。また、AIを適切に活用できるAI人材の育成支援も実施しています。AI経営に興味がある、AIの活用を検討している、という方はお気軽にご相談ください。