ROICは「難しそう」「中小企業には関係ない」――そう感じる経営者や管理部門の方は少なくありません。
財務指標のひとつとして紹介される機会が増えていますが、実際には 投資判断や現場の動き方まで変える“経営の軸” になる強力な指標です。

しかも ROIC が最も効果を発揮するのは、資源が限られる中小企業。
売上だけを追う経営では見えなかった 利益率・資本効率・運転資本の改善ポイント が、ひとつの指標に整理されることで、意思決定のスピードと質が大きく変わります。

この記事では、

  • ROICの基本
  • 中小企業が活用するうえで重要な視点
  • 現場で使える改善のレバー
  • 導入ステップ 

まで、必要な知識を“最短距離”で理解できる流れ で整理しました。

読み終えるころには、あなたの会社でも ROICを軸にした経営に踏み出せるイメージが自然とつかめるはずです。

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目次
  1. ROICとは?中小企業が知っておくべき“資本効率”の基礎
  2. ROICの計算を正しく理解する|投下資本をどう捉えるべきか
      1. 投下資本の構成を整理した早見表
  3. ROICを使うと経営の“どこが変わる”のか|中小企業で起きやすい改善領域
    1. 1|利益率だけではなく“事業構造”が見えるようになる
    2. 2|資金の使い方が変わり、“踏むべき投資”と“避ける投資”の判断が明確になる
    3. 3|経営会議の議論が変わり、現場まで“共通言語”が伝わる
    4. 中小企業でROICが効く“本当の理由”
  4. 中小企業がROICを改善する3つのレバー|どこから動かすべきか?
      1. ROIC改善の「3つのレバー」を比較した早見表
  5. 中小企業でもROICを“回せる”組織をつくる導入ステップ
    1. ステップ1:最低限そろえる“3つのデータ”を準備する
    2. ステップ2:ROICを“3指標”に分解して見える化する
    3. ステップ3:経営会議にROICを組み込み、議論のフォーマットを統一する
    4. ステップ4:現場と結びつける“行動KPI”をつくる
    5. ステップ5:社内の理解レベルをそろえる(最重要)
  6. ROICとAI・データ活用の相性|中小企業が本当に見るべき数値とは?
    1. 1|在庫・売掛・仕入のデータを自動で可視化できる
    2. 2|AIで投資回収モデルを高速シミュレーションできる
    3. 3|データ入力や集計の自動化で、ROICが“続けられる仕組み”になる
    4. 4|ROICは“データ活用の入り口”になる
  7. まとめ|ROICは中小企業の経営を整える“軸”になる
  8. よくある質問|ROIC経営を始める前に知っておきたいポイント
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ROICとは?中小企業が知っておくべき“資本効率”の基礎

ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)は、企業が投入した資本をどれだけ効率的に利益へ変えているか を示す指標です。
式で表すとシンプルで、次のように定義されます。

ROIC = NOPAT(税引後営業利益) ÷ 投下資本

この数式が表すのは、「稼ぐ力」と「資本の使い方」の掛け算です。
つまり ROIC を見れば、

  • 利益率が低いのか
  • 在庫や設備が重い構造なのか
  • 運転資本の管理が甘いのか 

といった 経営の根本構造 が一目でわかります。

中小企業にとって ROIC が特に重要なのは、限られた資源をどこに配分するかの判断基準 を明確にできる点です。
売上増を目指して動いてもキャッシュが不足するケースや、借入依存で資本が膨らんでいくケースは少なくありません。
こうした経営の歪みは、ROIC の視点を入れると原因が整理され、改善の方向性が見えやすくなります。

ROEやROAといった指標も有名ですが、多くの専門家が「経営の質を測る指標としてROICが最も本質的」と語るのは、事業構造そのものを改善するヒントが得られるからです。

関連記事:ROIC経営とは?企業価値を高める実践ステップと改善ポイントをわかりやすく解説

ROICの計算を正しく理解する|投下資本をどう捉えるべきか

ROICは「営業利益 ÷ 投下資本」というシンプルな式ですが、実務で正しく使うためには、投下資本の構成を正確に理解することが欠かせません。
中小企業では、PL(利益)は見ていても、BS(貸借対照表)を起点に“どこに資本が滞っているか”を把握できていないケースが多く、ROICが機能しない理由の大半がこの部分にあります。

投下資本は大きく 運転資本+固定資産 に分解できます。
まずは、その構造を視覚的に把握しておくと、改善の起点が一気に見えやすくなります。

投下資本の構成を整理した早見表

要素内容決算書で確認する場所中小企業で起こりやすい課題
売掛金未回収の売上BS:売掛金回収遅延で運転資本が膨らむ
在庫(棚卸資産)未販売商品・仕掛品BS:棚卸資産過剰在庫で資金が滞留しやすい
買掛金支払前の仕入代金BS:買掛金支払サイトが短いと資本負担が増える
固定資産設備・機械・土地などBS:有形固定資産稼働率の低い設備がROICを押し下げる

投下資本=(売掛金+在庫−買掛金)+固定資産
中小企業がROICを改善できない理由の多くは、ここの“滞留ポイント”を把握できていないことにあります。

運転資本が膨らむと、売上が伸びていてもキャッシュが不足し、経営が苦しくなります。
また、固定資産が重い企業ほどキャッシュフローの自由度が低下し、ROICが構造的に低くなります。

ROICを使うと経営の“どこが変わる”のか|中小企業で起きやすい改善領域

ROICは単なる財務指標ではなく、経営の意思決定を変える“レンズ” のような役割を持っています。
これまで売上や利益だけを追っていた企業でも、ROICを軸にすると「見えていなかった改善余地」が明確になります。

特に中小企業では、次の3つの変化が顕著です。

1|利益率だけではなく“事業構造”が見えるようになる

売上が伸びているのにキャッシュが苦しい――そんな状況は珍しくありません。
ROICを使うと、問題がどこにあるのかが整理されます。

  • 利益率が低く、そもそも稼ぐ力が足りない
  • 在庫が過剰でキャッシュが滞留している
  • 売掛金の回収が遅く、運転資本が膨らんでいる
  • 設備投資が重く、回転率が落ちている

これらは単体で追っても理解しにくいですが、「資本効率」という視点でつなげて見ると因果が見えやすくなる のがROICの特徴です。

2|資金の使い方が変わり、“踏むべき投資”と“避ける投資”の判断が明確になる

中小企業の多くが「設備投資の判断に迷う」と答えます。
ROICを使うと、投資判断が感覚ではなく“回収確度”で整理されます。

  • この投資は何年で回収できる?
  • 投下資本は増えるがROICは上がるのか?
  • 利益率が伸びる構造になっているか?

この視点があるだけで、利益は出ているのに資金繰りが厳しい企業の動き方が一変します。

3|経営会議の議論が変わり、現場まで“共通言語”が伝わる

売上・利益・コストだけでは経営の方向性を共有しにくいですが、
ROICを軸にすると議論がシンプルになります。

現場での会話がこう変わる

「在庫が減らない理由は?」
「この案件は粗利が低い。資本を使う価値はある?」
「回収期間が長い案件をどう扱う?」

こうした会話が自然に生まれるようになり、経営と現場のズレが小さくなることがROICの最大の価値 だといえます。

中小企業でROICが効く“本当の理由”

ROICがもっとも効果を発揮するのは大企業よりも中小企業です。
理由はシンプルで、資本の使い方が売上よりも経営の安定性を左右しやすい から。

  • 資金繰りが経営課題になりやすい
  • 設備や人材への投資が相対的に重い
  • ひとつの判断ミスが利益を圧迫する

ROICは、こうした中小企業特有の課題を“可視化”してくれる強い指標なのです。

中小企業がROICを改善する3つのレバー|どこから動かすべきか?

ROICは次の式で表されます。

ROIC=利益率 × 資本効率

つまり、改善方法も ①利益率 ②投下資本 ③運転資本 の3方向だけに整理できます。
ところが多くの企業が「利益率だけ改善しようとして、運転資本が放置される」という同じ失敗に陥ります。

まずはこの3つを全体像として理解し、“どこを動かせば最短で効果が出るのか” を把握することが大切です。

ROIC改善の「3つのレバー」を比較した早見表

レバー何を改善するか効果が出やすい具体策(中小企業の実務)効果スピード
① 利益率を上げる粗利構造・原価構造の改善・低粗利商品の縮小・値上げ余地の分析・原価の見える化・工程改善による生産性向上中期(1〜3ヶ月)
② 投下資本を減らす固定資産・設備の最適化・稼働率が低い設備の処分・遊休資産の棚卸し・投資回収モデルの導入中期〜長期(数ヶ月〜年)
③ 運転資本を回転させる在庫・売掛・買掛の見直し・売掛回収の早期化・滞留在庫の解消・仕入条件の最適化即効性あり(1ヶ月以内)

ここで特に重要なのは ③運転資本
多くの中小企業では、利益率改善よりも先に「在庫」「売掛」「買掛」の改善に取り組むだけで、キャッシュが動き出し、ROICが目に見えて改善します。

一方、固定資産の見直しや利益率改善は“構造を変える”本丸です。
中期的な改善を狙いながら、運転資本で資金を作る、という “短期 × 中期” の両輪戦略 がROIC経営の基本パターンになります。

中小企業でもROICを“回せる”組織をつくる導入ステップ

ROICを導入するときに最も重要なのは、「数値管理の仕組み」と「現場で使える言語」を同時につくること」 です。

計算式を覚えることよりも、“会社全体が同じ視点で動ける状態” を整えるほうが圧倒的に効果があります。

ここでは、中小企業でも無理なく始められる導入ステップを整理していきます。

ステップ1:最低限そろえる“3つのデータ”を準備する

ROIC経営と聞くと「難しい仕組みが必要」と思われがちですが、まずは次の3つを月次で拾えるようにするだけで十分です。

  • 営業利益(PLから取得)
  • 運転資本(売掛金+在庫−買掛金)
  • 固定資産の残高

ポイント

完璧なデータを揃えようとして止まってしまう企業が多いですが、ROICは“粗くても動かす”ことが大事。
まずはシンプルな数字から始めるのが成功の近道です。

ステップ2:ROICを“3指標”に分解して見える化する

データが揃ったら、ROICを以下の3つに分けて追います。

  • 利益率(NOPAT)
  • 投下資本
  • 運転資本の回転

これをひとつの表で月次比較するだけで、「どこを改善すればいいか」が一目で把握できます。

具体例

利益率は改善しているのにROICが下がる
→ 在庫が積み上がっている可能性が高い
→ 資本効率を見直す必要がある

このように、原因の特定が“直感的”にできるのがROICの強みです。

ステップ3:経営会議にROICを組み込み、議論のフォーマットを統一する

ROICを運用する企業は、経営会議が大きく変わります。

議論の例

「この投資は何年で回収できる?」
「在庫の増加は売上計画と整合性がある?」
「売掛回収が遅れている理由は?」

ROICという“共通言語”を使うことで、数字と現場の会話がつながり、意思決定の質が上がる のが最大の効果です。

ステップ4:現場と結びつける“行動KPI”をつくる

ROICは単体では動かず、現場の日々の行動と結びついて初めて改善が起こります。

行動KPIの例

営業:粗利率の基準設定、新規案件の回収期間を共有

製造:仕掛品の滞留ポイントを特定

購買:在庫日数の目標化

管理部門:固定資産台帳の整理

ここまで落とし込むことで、ようやく“現場がROICを使える状態”になります。

ステップ5:社内の理解レベルをそろえる(最重要)

ROICがうまくいかない企業の共通点がここにあります。

  • 営業は利益率の意味を理解していない
  • 製造は在庫の重さを把握していない
  • 経営層が指標の背景を十分に伝えていない

この状態では、どれだけ仕組みを作っても動きません。

ROICは “数字の知識”ではなく、“組織で共有する思考” なので、最初に 短時間の研修で理解をそろえること が改善の速度を大きく左右します。

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ROICとAI・データ活用の相性|中小企業が本当に見るべき数値とは?

ROICは本来、「数字を読む力」×「意思決定の質」 を高める指標です。
しかし実際には、データ収集やモニタリングの負担が大きく、継続できないケースが少なくありません。

そこで相性が非常に良いのが AIとデータ活用 です。
特に中小企業では人手や時間が限られるため、“AIで自動化する部分”が増えるほど ROICが回りやすくなります。

1|在庫・売掛・仕入のデータを自動で可視化できる

ROIC改善のカギは 運転資本のコントロール にあります。
しかし、このエリアは現場で数字が手入力になっている企業も多く、正確な把握が難しいのが現状です。

AIを使えば、

  • 過去の在庫推移
  • 仕掛品の滞留ポイント
  • 売掛金の回収傾向
  • 支払条件の最適化 

を自動で分析し、どこに資本が滞留しているかが「見える化」されます。

これにより、改善ポイントが直感的にわかり、経営判断のスピードが上がります。

2|AIで投資回収モデルを高速シミュレーションできる

ROICの導入で最も効果が出るのが 投資判断の質の向上 です。

設備投資や新規事業の検討時に、

  • どれだけ投下資本が増えるか
  • 何年で回収できるか
  • ROICがどの程度上がるか 

といった計算が必要ですが、この作業をAIが代替することで、複数パターンの比較が瞬時にできるようになります。

上位ページが触れていない領域ですが、実務ではこれが経営スピードを上げる最大のポイントです。

3|データ入力や集計の自動化で、ROICが“続けられる仕組み”になる

多くの中小企業がROICを途中でやめてしまう理由は、「集計に手間がかかりすぎるから」 です。

AIを使えば、

  • 月次のPL・BSから必要数値を自動抽出
  • 運転資本の変動を自動計算
  • 固定資産の増減データを自動読み取り

など、管理にかかる時間を大幅に削減できます。

ROICは「継続すると効く指標」なので、AIによる自動化が、中小企業にとって大きな助けになります。

4|ROICは“データ活用の入り口”になる

AI導入における最初のハードルは「何からデータ化すればいいか分からない」という点です。
ROICを軸にすると、整えるべきデータが自然に決まる のが大きな利点です。

  • 営業利益
  • 売掛金
  • 在庫
  • 買掛金
  • 固定資産

この5つが揃うだけで、データ活用の基盤ができあがります。

これらは中小企業でも収集しやすいため、“ROICをきっかけにAI活用が加速する” ケースが増えています。

まとめ|ROICは中小企業の経営を整える“軸”になる

ROICは、大企業のための複雑な指標ではありません。
限られた資源をどう使い、どこに投資し、どの領域を改善すれば会社が強くなるのか――
その答えをシンプルに示してくれる、中小企業こそ力を発揮しやすい経営の軸です。

利益率・在庫・投下資本のバランスがひとつの数値にまとまることで、これまで感覚で行っていた判断が、再現性のある「仕組み」として動き始めます。
今日からできる小さな変化でも、積み重ねるほど経営は確実に整っていきます。

ROICを本当の意味で“使える指標”に変えるには、経営層だけでなく、現場まで同じ視点を持てるようにすることが欠かせません。
その一歩を踏み出したいときは、私たち SHIFT AI が伴走します。

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よくある質問|ROIC経営を始める前に知っておきたいポイント

Q
ROICとROE・ROAのどれを重視すべきですか?
A

ROICは「事業に使っている資本がどれだけ効率よく利益に変わっているか」を示すため、
内部の改善ポイントを特定しやすい指標 です。
一方、ROEやROAは外部要因の影響が大きく、構造的な課題を見抜きにくい場合があります。
中小企業の経営改善には、事業構造が見える ROIC を中心に使うケースが増えています。

Q
ROICが低いとき、最初にどこを見直せばいいですか?
A

まずは 運転資本(売掛金+在庫−買掛金) を確認することをおすすめします。
在庫が膨らんでいたり、売掛金の回収が遅れていたりすると、投下資本が大きくなりROICが下がります。
改善のスピードも早いため、最初に取り組むと効果が出やすい領域です。

Q
ROICを月次で管理するのは難しくありませんか?
A

複雑な仕組みは必要なく、

  • 営業利益
  • 運転資本
  • 固定資産

の3つがあれば月次で十分に運用できます。
データが揃いにくい場合は、AIや自動集計ツールを使うことで負担を大きく減

Q
ROICがマイナスになる場合は何を意味しますか?
A

事業に投入している資本に対して、営業活動で生み出している利益が不足している状態 を表しています。
原因は利益率の低下、固定資産の過大保有、在庫の過剰などさまざまですが、ROICを要素分解することで改善ポイントが明確になります。

Q
中小企業でもROICは本当に効果がありますか?
A

むしろ中小企業のほうが効果を実感しやすい指標です。
理由は、

  • 投下資本の変化が経営に直結しやすい
  • 運転資本の改善が資金繰りに即反映される
  • 現場改善がそのまま利益率向上につながる

からです。ROICは経営の“どこに手を入れるべきか”を明確にしてくれるため、規模を問わず活用できます。