「『はたらく』を通じて、人生の可能性を広げる」──スポットワークサービス「Timee(タイミー)」を運営する株式会社タイミーは、このミッションの実現にAIを積極的に取り入れています。

ChatGPTの登場をきっかけに、生成AIは瞬く間に社会や企業の仕組みを変えつつあります。情報検索や文章作成といった業務を超え、今では意思決定や顧客体験の質にも影響を与える存在となりました。しかし、多くの企業が“どこまで活用すべきか”を模索する中で、タイミーは早くからAIを“全社員が使うツール”として位置づけました。

飲食、小売、物流など幅広い業界で“働きたい時間”と“働いてほしい時間”をつなぐ同社にとって、「はたらく体験の質」を高めることは事業の根幹である。だからこそ、AIを単なる効率化ツールではなく、社員一人ひとりの思考や創造力を拡張する共働者として設計しました。

会議、採用、開発、ナレッジ活用など、日常のあらゆる場面にAIを溶け込ませながら、“考える組織”への進化を進めている。その実装を牽引するのが同社CTOの山口 徹氏です。AIを技術から文化へと変えた、その戦略の裏側を伺いました。

山口 徹氏

タイミー株式会社
執行役員 CTO(Chief Technology Officer
東京工業大学中退後、2003年にWeb制作会社でエンジニアキャリアを開始。2005年にガイアックスに入社し、リードエンジニア、マネージャーを務める。2007年にサイボウズ・ラボでR&Dエンジニアとして研究に従事。2009年にディー・エヌ・エーに入社し、Mobageやスマートフォンアプリの開発を推進。2015年に事業副本部長、2016年に専門役員に就任。2018年にスポーツ事業本部システム部部長に。2020年にベルフェイス入社、CTO兼CPOを兼務し、2021年に取締役執行役員就任。個人として、マギステル代表取締役で複数の技術顧問を兼任。2023年タイミー入社、執行役員VPoT。2023年10月より執行役員CPO、2024年11月より現職。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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AIを“全社員のツール”に――タイミーが描く戦略的導入の意図

2023年春、AIが社会で注目を集める中、山口氏は個人的にGPT4を試し、その所感をこう述べました。

「最初に触れたとき、これは自動化ではなく“思考を拡張する装置”だと思いました。自分の考えを整理したり、議論の叩き台をつくるスピードが明らかに変わったんです」

この体験をきっかけに、山口氏は「これは一部の技術者だけのものではなく、全社員が使うべき技術だ」と確信します。AIは生産性のためのツールではなく、社員一人ひとりの思考を深め、発想を広げるためのインフラだと捉えました。

導入初期の課題は、スピードと安全性の両立でした。技術の進化が速いなかで、どこまでを公式環境として認め、どこからを現場の実験領域とするのか。その線引きが求められたのです。

AI導入の鍵について、山口氏は 「AI導入では“早く動くこと”よりも“正しく進むこと”が大事です。安心して試せる環境を整えることが、結果的にスピードを生みます」と語ります。

タイミーではGeminiを全社共通の基盤として採用し、安定した運用とデータ保護を徹底。一方で、CursorやDevinといった新興ツールの活用は現場に委ね、職種や業務特性に応じて柔軟に検証を行っています。統制と裁量の両輪でAI活用を推進する仕組みです。

「AIは業務の一部ではなく、組織の神経として機能させたい」と語る山口氏のもと、タイミーではAIをただ“導入する”のではなく、“社員の日常の思考に溶け込ませる”設計を進めています。会議の議事録生成、自己レビュー支援、ナレッジ検索、採用資料作成など、社員が自然にAIと関わる場面を業務に埋め込みました

同社にとってAIの導入は、単なる技術プロジェクトではありません。社員の思考をどうアップデートするかという、文化設計の挑戦でした。

撤退の判断が早い組織は学ぶスピードも早い

タイミーがAIの全社活用に踏み切った際、まずは「誰もが使える環境を整える」という前提を大切にしていました。

山口氏は当時を振り返り、「まずはツールがなければ始まらない」と語ります。およそ1年前、同社ではexaBase 生成AIを一部の社員が利用していましたが、申請制であり、全社員が自由に触れられる状態ではありませんでした。加えて、コストやユーザー体験の面でもフィットしない部分があり、全社展開には課題を感じていたといいます。

そうした中で、Google Workspaceの料金体系が変わり、生成AI機能「Gemini」へのアクセスが容易になったことを受け、同社は一気に全社導入へ舵を切りました。NotebookLMなど周辺ツールとの連携性も高く、実際の業務フローに無理なく統合できたことが決め手だったとのこと。山口氏は「生成AI利用のハードルが一気に下がった」と語ります。

さらに今後は、SlackやNotionなどの“普段使いのツール”を中心にAI機能の活用を進めていく予定です。同社ではSlack上で生成AIと自然に会話できるようになれば、利用率は飛躍的に上がると見ています。

「チャットの中でプロンプトを共有できるのは大きなメリットです。他人の使い方を見ることで学べる。AI活用の民主化が一段進むと思います」と山口氏は今後の展望を述べました。

ただし、全社員にAIを開放しても、利用頻度には依然として温度差が生じるという課題に直面しました。営業やカスタマーサクセスなど、一部の職種では日常業務に落とし込みづらいケースもあります。そのため、ツール提供だけでなく、「どの業務でどう使えば効果が出るか」という具体例を現場単位で積み上げるフェーズに入っています。

同社ではすでにPoC(概念実証)の文化が根づきつつありますが、山口氏は「単発の施策だけでは文化は定着しない」と強調しました。次のステップとして、部門横断のAI活用委員会を設立し、活用スキルや学習機会、評価指標、インセンティブを包括的に設計する予定です。

「他社の成功事例も参考にしながら、学習と称賛の循環を仕組み化していきたい」と語るその姿勢には、技術を“定着させる仕組み”を重んじるCTOらしい慎重さと構想力がにじみ出ていました。

CTOの役割は経営と技術の橋渡し

AIを全社的に浸透させるうえで、経営と技術をつなぐ“橋渡しの存在”としてのCTOの役割は大きい。山口氏はタイミーで求められるCTOとしての役割についてこう語ります。

「経営が“なぜ”を描き、技術が“どうやって”を形にする。その間を往復するのがCTOの仕事です」

AI導入の効果はROIだけでは測れません。タイミーでは、意思決定の速さ、議論の深さ、知的生産の質といった“思考の変化”を重視しています。

また、山口氏は社内で最もAIを使うユーザーの一人です。日々の活用を通じて得た学びをSlack上で共有し、社員と同じ目線で試行錯誤を続けています。AI活用を自社で浸透させるための姿勢について山口氏はこう述べました。

「まず自分が使う。その姿を見せることがいちばんの信頼づくりになります」

CTOの役割は、技術を導入することではなく、社員がその技術を“自分たちの言葉”で語れるようにすること。山口氏は、AIを企業の経営構造に接続し、全員が同じ目的を共有できる組織を設計しています。

テクノロジーは目的ではなく、可能性を広げる手段。経営と技術の橋渡しをしながら、社員全員がその可能性を実感できるように仕組みを設計することが重要です

AIは“時間を取り戻すための仕組み”

自社のミッションを実現するうえで、AIはどのような役割を果たすのか。山口氏は、タイミーの掲げるミッション「『はたらく』を通じて、人生の可能性を広げる」を踏まえ、AIを“時間を取り戻すための仕組み”として位置づけました。

「AIを導入する目的は、作業を減らすことではなく、人の時間を取り戻すことです。その時間を、自分の学びや創造に使ってほしいと思っています」と山口氏は続けます。

同社では、会議の記録作成や資料構成などをAIが担うことで、社員は思考や対話に集中できるようになりました。AIが作業を支え、人が意味をつくる。同社のミッションである「はたらくを通じて、人生の可能性を広げる」を実現するために、彼らが目指すのは「人間中心の働き方」です。

同社でのAI活用は、仕事の前後にも広がりました。求人作成の支援やスキル分析、レビューの補助など、働く一連の体験を生成AIが支えています。山口氏はこう強調しました。

「一度きりの仕事を、次につながる経験に変える。それを生成AIが後押ししています」

AIが人の可能性を奪うのではなく、広げていく存在になる。人がより創造的で、自分らしい働き方を選べるようにする。“はたらく”を通じて、その可能性を最大化することがタイミーが目指す未来です。

現在、第二創業期を迎えるタイミー。同社の事業はAIが活躍する余地が残されている領域です。また、同社では変化に寛容な文化が醸成されています。スポットワーク以外の事業の模索、それを横から支えるプラットフォームを作る気運も高まりつつある。今後タイミーはどのように成長を遂げるのか。その瞬間をこの目で見届けたい。

タイミーから学ぶ5つのポイント

タイミーのAI活用は、特別な技術力や大規模投資に依存するものではなく、多くの企業がすぐに取り入れられる取り組みが多いのが特徴です。

その再現性の高い実践知を踏まえ、同様にAIを文化として根づかせたタイミーの取り組みを5つのポイントに整理しました。

1. 生成AIを「考えるための装置」として定義する
多くの企業が生成AIを“業務効率化の手段”と位置づける中、タイミーは「思考を拡張する装置」として導入を進めました。

CTO・山口氏は「AIは自動化の道具ではなく、自分の考えを整理し、発想を広げるための存在」と語ります。この思想が、全社員が主体的に使う“文化としての生成AI”を形づくる起点となりました。

2. スピードと安全性を両立する導入設計
AI導入においてタイミーが重視したのは、「早く動くこと」ではなく「正しく進むこと」でした。

Google Workspaceを軸にしてGeminiやNotebookLMといった安全性・安定性の高い基盤を全社で採用しつつ、CursorやDevinなど現場主導のツール検証も並行。統制と裁量のバランスを取りながら、全社で安心して試せる環境を整備しました。タイミーではROIだけでなく、“継続的な学びの仕組み”を重視しています。

3. 経営層が“試している姿”を見せることで文化を育てる
タイミーは、導入初期から経営層が率先してAIを試す姿勢を見せました。「完璧に使いこなす姿」ではなく、「自分たちが使う姿」を示すことで、社員が安心して挑戦できる文化を育てています。

Slackでは生成AI活用の成功・失敗を共有するチャンネルが設けられ、社員が互いの使い方から学び合う風土が定着。 AIリテラシー=スキルではなく態度という考え方が、組織全体に浸透しています。

4. “普段使い”を前提に、全社員が自然に使える環境をつくる
AIを“特別な業務ツール”ではなく、日常的に使える仕組みとして整備。Gemini、NotebookLMなど、既存の業務環境に自然に組み込みました。

社員が「意識せずに生成AIを使う」状態を目指し、会議の議事録生成、採用資料作成、ナレッジ検索などを自動化。AIが作業を担い、人が対話と創造に集中する協働の形が定着しつつあります。

5.“時間を取り戻す”ことで、ミッションを実現する
タイミーは生成AIを“人の時間を取り戻す仕組み”として位置づけています。「作業を減らすことではなく、思考や学びに時間を使えるようにすることが目的」と考え、AIを活用して人が本来の価値を発揮できる余白を生み出しました。

この発想は、同社のミッション「『はたらく』を通じて、人生の可能性を広げる」と直結しており、AIを通じて“人間らしい働き方”を再設計する試みでもあります。タイミーはさらに“人の可能性を拡張する経営”としてAI活用を進めています。

テクノロジーを冷たいものではなく、使う人の温度で変わる存在として設計する。その思想と実装力が、タイミーの“全社員のためのAI”を支えています。

しかし、自社でこれを実践しようとすると、

「うちの組織に合ったAIの活用法が分からない」
「現場にどうやってAIを浸透させればいいのか?」
「AI導入後の定着をどうサポートすればいいのだろう?」
「効果的な研修プログラムをどう設計すればいい?」

といった壁に直面するケースも少なくありません。実際、多くの企業様から同様のご相談をいただいています。

私たちSHIFT AI(AI経営総合研究所)は、こうした「研修を実施したが定着しない」「知識はついたが業務活用が進まない」という課題解決を得意としています。

貴社の業界特性や組織文化に合わせた研修プログラムの設計から、社員のスキルレベルに応じた段階的な育成プラン、研修後の定着を促す伴走型サポート、成果を見える化するKPI設計まで、生成AI活用に必要なプロセスを一気通貫で支援します。

「生成AI研修を検討しているが、何から始めればいいか分からない」
「過去に研修を実施したが、思うような成果が出なかった」
「自社に最適な研修プログラムを知りたい」

そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの研修プログラムの詳細をご覧ください。500社以上の支援実績から導き出した、貴社の成功に直結する研修ノウハウをご提供します。

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