現在、生成AIや画像解析AIなど、さまざまなAI技術が実務に取り入れられ、AI開発のニーズが高まっています。AIを取り入れることで業務効率化やコスト削減などさまざまなメリットが期待できます。
しかし、既存のパッケージツールでは解決できない業務課題を抱え、独自のAI開発に関心を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業のAI開発事例12選を中心に、AIで実現できる代表的なシステムや導入までの手順、体制づくりのポイントまで紹介します。社内業務の効率化や差別化を図るための一歩として、AI開発の可能性を現実的に検討したい方は是非ご一読ください。
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AI開発のニーズが高まる理由と背景

業務効率化や人手不足の解消を目指し、AI技術を活用したシステム開発が急速に進んでいます。ChatGPTの登場以降、AIはより身近な存在となり、「AIで何ができるのか」を具体的に検討する企業も増えてきました。
従来のITツールでは対応できなかった現場課題に対して、AIは柔軟な処理能力や高い予測精度を発揮しています。その影響で、パッケージではなく自社に合わせたAIを構築しようとする動きが強まっています。
営業部門の問い合わせ対応や製造工程の不良検知など、実務に根ざしたAI導入は生産性向上に大きく貢献しています。
社内のデータやノウハウをもとに開発したAIは、他社が模倣できない強みとなり、競争優位性をもたらします。
さらに、AI開発を通じて社員のデータリテラシーが高まれば、DXや自動化といった取り組みにも良い循環が生まれるでしょう。
このように、AI開発は単なる仕組みの導入ではなく、企業の成長戦略を支える基盤として注目されています。
AIで何を作れる?開発できるシステム6選

AIの開発と聞くと難しく感じるかもしれませんが、近年はさまざまな業務シーンで活用できるシステムが登場しています。
実際に企業が開発・導入している代表的なAIシステム6種を、機能や用途とあわせてご紹介します。
会話AI:問い合わせや社内対応を自動化する
会話AIは、顧客対応や社内の問い合わせ業務を効率化するためのツールとして注目されています。自然言語処理技術を活用し、ユーザーの質問に対して適切な回答を自動で提供することが可能です。チャットボットをイメージするとわかりやすいでしょう。
これにより、従業員は繰り返しの対応から解放され、より付加価値の高い業務に集中できます。24時間対応が可能となるため、顧客満足度の向上にも寄与していくでしょう。
画像解析AI:製造・監視業務を自動化する
画像解析AIは、製造業や監視業務において、目視検査や監視作業を自動化する技術です。高精度な画像認識により、不良品の検出や異常の早期発見が可能となり、品質管理の向上やコスト削減に貢献します。
例えば、製造ラインでの製品検査や、監視カメラ映像の解析によるセキュリティ強化など、多岐にわたる活用が進んでいます。導入にあたっては、既存のカメラシステムとの連携や、AIモデルの学習データの整備が重要なポイントとなります。
文章生成AI:議事録・メール作成を支援する
文章生成AIは、会議の議事録作成やビジネスメールの下書き作成など、日常的な文書作成業務を効率化するツールです。音声認識と自然言語処理を組み合わせることで、会議内容を自動でテキスト化し、要約や整理を行うことができます。
これにより、従業員の作業負担を軽減し、業務のスピードアップが図れます。また、メール作成においても、定型文の自動生成や内容の提案が可能となり、コミュニケーションの質と効率の向上に寄与します。
予測AI:売上や人材リスクを分析・提案する
予測AIは、過去のデータをもとに将来の動向を予測し、経営判断を支援する技術です。売上や顧客来店数の予測に用いられる場合が多いでしょう。
売上予測では、季節性やトレンドを考慮した精度の高い予測が可能となり、在庫管理や生産計画の最適化に役立ちます。また、顧客来店数を予測すれば、従業員の離職予測や配置の最適化を行い、組織の安定運営をサポート可能です。
自律学習AI:業務を継続的に最適化する
自律学習AIは、業務プロセスを継続的に学習・改善し、最適化を図る技術です。「AIエージェント」とも呼ばれ、外部ツールと連携しながら自律的にタスクをこなします。人間のように複雑なタスクを行えることから、生成AIから一歩踏み込んだAIと言えるでしょう。
製造業における生産ラインの最適化や、サービス業における顧客対応の改善など、さまざまな分野での活用が期待されています。
IoT連携AI:現場の状況をリアルタイム最適化する
IoT連携AIは、センサーやデバイスから収集したデータをリアルタイムで分析し、現場の状況を最適化する技術です。これにより、設備の稼働状況の監視や異常検知、エネルギー使用の最適化などが可能となり、現場の効率化とコスト削減に貢献します。
また、リアルタイムでの情報共有により、迅速な意思決定が可能となり、組織全体の対応力向上が期待されます。導入に際しては、IoTデバイスの選定とネットワーク環境の整備が重要な要素となります。
AIの開発・活用事例13選

ここからは、実際に企業がどのようにAIを開発・活用し、業務変革やサービス向上につなげているのかを紹介します。
- 【TOPPAN】開発期間を70%短縮した生成AI活用例
- 【セブンイレブン】商品企画のスピードをAIで加速
- 【パナソニックコネクト】社内向けAIアシスタントを独自開発
- 【ビズリーチ】レジュメ作成を自動化するGPT機能を開発
- 【MUFG】独自「ChatGPT」を開発し業務DXを推進
- 【住友化学】社内向け生成AIサービス「ChatSCC」を構築
- 【三井不動産リアルティ】成約価格を瞬時に算出する査定AIを開発
- 【LINEヤフー】社内業務効率を高めるAIアシスタントを開発
- 【日本コカ・コーラ】体験型店舗に生成AIを活用しブランド価値を強化
- 【KMバイオロジクス】社内業務にAIチャットボットを導入・構築
- 【SBI生命】AI電話自動応答システムの導入
- 【代々木ゼミナール】AI採点技術で記述式教材を自社開発
- 【ソフトバンク】通信インフラに特化した生成AI「LTM」を開発
開発背景や導入目的、得られた成果に着目することで、自社に適したAI活用のヒントが見えてくるはずです。「開発すべきか」「どう取り組むか」を検討する際の参考事例として、ぜひご活用ください。
【TOPPAN】開発期間を70%短縮した生成AI活用
TOPPANホールディングスは、社内のプログラム開発業務に特化した生成AIを構築し、システム開発期間の最大70%短縮を実現しました。
同社が構築したのは、オープンソースの大規模言語モデル(LLM)を活用した自社開発の生成AIです。
自社サーバー上でセキュアに運用可能な基盤を整備し、システム開発業務に即した構成でAIモデルを開発しました。これにより、プログラムコードの要約や自動生成といった業務プロセスを効率化し、エンジニアの作業時間を大幅に削減しています。
特定領域に特化したAIモデルとしたことで、少ない学習データでも高精度な出力を実現し、情報の自動更新にも対応できるようになりました。
現在は、社内の開発支援にとどまらず、研究支援業務や社外向けサービスへの展開も視野に入れた活用が進められています。
出典:TOPPAN、生成AI活用でシステム開発期間を最大70%短縮 – ITmedia NEWS
【セブンイレブン】商品企画のスピードをAIで加速
セブン-イレブン・ジャパンは、商品企画プロセスに生成AIを導入し、従来の約10分の1にまで開発期間を短縮する取り組みを進めています。
この新たなシステムでは、販売実績データやSNSの投稿をAIが分析。消費者のニーズやトレンドを即時に把握できるようになりました。結果、これまでの会議ベースの意思決定から脱却し、生成AIが仮説の立案から企画書の作成までを支援することで、スピードと精度の両立を実現しました。
すでに管理職クラス約1,000人を含む9,000人の社員が先行導入しており、2024年春からは実務担当者にも活用を広げています。今後は、プライベートブランド商品だけでなく、店舗運営や加盟店支援にもAIを展開し、業務の再現性と効率化を図るとしています。
生成AIを軸にした迅速かつ精度の高い商品開発体制の構築が、セブンイレブンの次なる競争力となっていると言えるでしょう。
出典:セブンイレブン、商品企画の期間10分の1に 生成AI活用 – 日本経済新聞
【パナソニックコネクト】社内向けAIアシスタントを独自開発
パナソニックコネクトは、OpenAIのGPTモデルをベースにした社内向けAIアシスタント「ConnectAI」を独自開発し、13,400人の全社員に展開しています。
ConnectAIは、社内ポータルやニュースリリースなどの公開情報を学習しており、社内情報の検索と特化しているのが特徴です。業務利用の結果、資料作成・データ収集・集計作業といった非定型業務が大幅に効率化され、業務時間の短縮につながりました。
今後は社外秘データの取り込みや個人の職務に応じたパーソナライズ機能の実装も進められる予定です。
出典:パナソニックコネクト、社外秘情報にも対応する「自社特化AI」展開へ – Impress Watch
【ビズリーチ】レジュメ作成を自動化するGPT機能を開発
即戦力人材の転職サイト「ビズリーチ」は、GPTモデルを活用したレジュメ自動作成機能を独自に開発しました。
この機能は、登録後のユーザーが4つの質問に答えるだけで、業務内容を自動的に整理・文章化できる仕組みです。内容には、ビズリーチが蓄積してきた職務経歴データとノウハウが組み込まれており、スカウト担当者が評価しやすい構成・表現になるよう最適化されています。
東京大学マーケットデザインセンターと同社との共同検証の結果では、GPTツールを活用して職務経歴書を更新したユーザーは、スカウト受信数が平均で40%増加したという結果も出ています。
出典:ビズリーチ「GPTモデルのレジュメ自動作成機能」を開発 東京大学マーケットデザインセンターと共同で、GPTツールの性能評価を発表
【MUFG】独自「ChatGPT」を開発し業務DXを推進
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、セキュアな行内環境で活用できる独自のAIを開発し、業務のDX推進を本格化させています。
マイクロソフト社のAzure OpenAI Serviceを活用し、入力内容が外部に学習されない安全な仕組みを構築。これにより、金融機関におけるAI活用の最大課題であるセキュリティ要件をクリアしました。
導入初期から稟議書作成支援、レポート要約、社内手続き照会など110件以上のユースケースが挙がっており、実装も段階的に拡大。全行員が使える環境整備と並行して、「どのように質問すれば効果的な結果が得られるか」といったプロンプト設計のガイドライン作成にも取り組んでいます。
【住友化学】社内向け生成AIサービス「ChatSCC」を構築
住友化学は、社内業務の生産性向上と独自データの有効活用を目的に、全従業員6,500名が利用できる生成AIプラットフォーム「ChatSCC」を構築・展開しました。
GPT系の大規模言語モデル(LLM)をベースに開発され、自社環境内でセキュアに運用されている点が特徴です。
業務文書の作成・校正、プログラミング支援はもちろん、研究データの分析や技術アイデアの創出といった高付加価値領域にも対応可能。試験導入では200パターン以上の業務で最大50%以上の効率化を確認しています。
今後は、社内ナレッジとの連携や分野特化型モデルの構築も視野に、DXを基盤とした競争力強化と新規ビジネス創出を目指しています。
出典:社内向け生成AIサービス「ChatSCC」の運用を開始~飛躍的生産性向上と独自データの有効活用を目指す~ | 事業・製品 | 住友化学株式
【三井不動産リアルティ】成約価格を瞬時に算出する査定AIを開発
三井不動産リアルティは、エクサウィザーズと共同で、所有マンションの推定成約価格を即時に算出する「リハウスAI査定」システムを開発しました。
同社の全国トップクラスの売買仲介実績に基づく膨大な成約データをAIが学習し、立地や階数、築年数などの住戸情報に応じて高精度な価格を提示できる仕組みです。
AIが判定した住宅価格は、人が査定した場合と比べて約5%しか違わず、高精度で価格を提示できています。また、価格情報に加え、周辺での購入検討者数などのデータも表示されます。
不動産売却を考えるユーザーが知りたい情報をまるっと知れる形になっており、利便性向上や問い合わせ窓口の混雑解消が期待されています。
【LINEヤフー】社内業務効率を高めるAIアシスタントを開発
LINEヤフーは、独自のAIアシスタント「チャットAI」を開発し、ソースコード生成や情報検索、文書翻訳など社内業務に幅広く活用しています。導入から8カ月で累計38万時間の業務時間削減を達成しました。
さらに、社内文書を基にAIが回答するRAG(検索拡張生成)型ツール「SeekAI」も開発し全社導入しました。各部門が独自のアプリケーションを構築し、研修資料の作成や開発基盤の理解促進などに貢献し、導入2カ月で9,000時間相当の削減効果が確認されています。
生成AI未経験者でも簡単に使える設計と、社内コンテストなどによる活用促進施策が、社員のリテラシー向上と定着を後押ししています。
出典:日刊工業新聞「LINEヤフー、独自AIアシスタント活用 効率化で業務時間削減」
【日本コカ・コーラ】体験型店舗に生成AIを活用しブランド価値を強化
日本コカ・コーラは、生成AIを活用して1万通りのキャラクター設定を持つ「話すコーラ」を開発しました。
期間限定で原宿にオープンした体験型店舗「LIVING MART by Coca-Cola ZERO」では、缶1本ごとに出身地や職業、特技などのプロフィールを設定。
冷蔵ケースに並ぶコカ・コーラ ゼロが「私を連れて帰って」と語りかける演出も加わり、来店者の体験に没入感を与えました。
AIの開発を通して、同社へのエンゲージメント強化や印象アップにつなげた事例だと言えるでしょう。
出典:「話すコーラ」を生成AIで開発 背景にコカ・コーラのマーケ戦略転換
【NTTデータ×エクサウィザーズ】電子カルテ×AIで「患者ジャーニー」を可視化
NTTデータとエクサウィザーズは、電子カルテ情報をAIで解析し、患者の治療経過や処方の変遷を可視化するサービスの共同開発を開始しました。
分析した情報は各製薬会社や医療機関に個人が特定できない状態に加工して提供されます。これにより、製薬企業はどのような患者にどの治療が行われているかを把握し、新薬の開発や適切な投与タイミングの設計に活用できます。また医療機関も、患者ごとに最適な治療方針を立てる判断材料として利用可能です。
今後は、疾患の早期発見や重症化リスクの予測などへの応用も見据え、医療の質と精度を高めるデータ活用が進められています。
出典:エクサウィザーズと臨床における疾患・治療実態を把握するサービスの共同開発を開始 | NTTデータ株式会社
【SBI生命】AI電話自動応答システムの導入
SBI生命は、生命保険料控除証明書の再発行受付にAI電話自動応答システム「MOBI VOICE」を開発しました。
証明書の再発行依頼が集中する繁忙期には、オペレーターの業務負担が課題となっていましたが、本システムの導入により24時間自動受付が可能に。コール数の約25%をAIが自動対応する結果につながりました。加えて、外部ツールとも連携させ証明書の発送手続きを自動化し、手続きの処理時間も大幅に短縮されました。
オペレーターと顧客双方の負担軽減を実現しており、DX推進の好事例として注目されています。
【代々木ゼミナール】AI採点技術で記述式教材を自社開発
代々木ゼミナールは、理化学研究所と共同で「記述式AI採点」技術を活用した現代文トレーニング教材を開発しました。
同社は、記述式問題の採点に手間がかかるという課題を抱えていました。そこで、AIによる即時採点と講師による動画解説を組み合わせた教材を2021年にリリース。AIの即時採点により復習の質が向上し、生徒の効率的な記述力強化が実現しました。
教育現場の負担を軽減しつつ、学習効果を高める先進的な取り組みです。
出典:【業界初】代ゼミが「記述式を AI 採点する現代⽂トレーニング」をリリース代々木ゼミナール
【ソフトバンク】通信インフラに特化した生成AI「LTM」を開発
ソフトバンクは、モバイルネットワークの設計や運用を効率化するため、通信業界向けの生成AI基盤モデル「Large Telecom Model(LTM)」を開発しました。
自社が保有するネットワークデータやノウハウを活用し、基地局設定の最適化に特化したAIモデルを構築しています。
PoC(概念実証)として実施した検証では、専門家の設定と90%以上の一致率を示し、数日かかっていた作業を数分で終えられることが確認されました。
今後は、ネットワーク最適化エージェントや設計支援AIへの応用も進める方針です。
出典:通信業界向けの生成 AI基盤モデル「Large Telecom Model」(LTM)を開発ソフトバンク
AI開発にかかる費用

AIを開発するにはどれくらいの費用や期間がかかるのか?これは多くの企業にとって気になるポイントです。
ここでは、AI開発に想定される費用の目安を整理し、自社に合った体制づくりのヒントをお伝えします。
まず、AI開発は内製か外注かでコストが変わります。内製はエンジニアの人件費(月60〜100万円×数名分)に加え、クラウド環境やライブラリ整備のコストが発生します。
一方、外注では数百万円から数千万円のプロジェクト契約が一般的で、スピードと専門性を重視したい企業に向いています。長期的にAI開発を継続する予定がある場合は内製が有利ですが、初期は外部パートナーの知見を借りるハイブリッド開発体制が現実的です。
また、費用は開発期間によっても変わります。システムの規模にもよるので一概には言えませんが、開発期間が長いほど費用は多くかかるでしょう。
まとめると、AI開発には数百万円前後の費用がかかると考えていいでしょう。かなりまとまった資金が必要になるため、費用を抑えるためには、既製品を導入してカスタマイズするなどの工夫が効果的です。
AI開発費用の早見表(規模・期間別の目安)
開発規模 | 開発内容の例 | PoC期間の目安 | 開発費用の目安 |
小規模(限定業務) | チャットボット、問い合わせ分類AI | 1〜2ヶ月 | 約100万〜300万円 |
中規模(部門単位) | 書類分類AI、採用面接AI | 3〜6ヶ月 | 約500万〜1,000万円 |
大規模(全社導入) | 社内文書検索AI | 6ヶ月〜1年 | 1,000万〜3,000万円以上 |
AI開発におけるPoC(概念実証)とは?

AI開発には課題設定から検証まで、PoC(概念実証)と言われるプロセスが欠かせません。ここでは、PoCとは、期間や本番導入までのフローを見ていきます。
PoCとは?
PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、AI開発に着手する前に「本当にその技術が自社の課題解決に使えるのか」を、少ないコストと期間で確かめるための検証プロセスです。実用性や精度、業務への適合度などを段階的に評価します。
さまざまな検証方法がありますが、試作品となるAIを開発してちゃんと機能するかテストする、実際に社内の一部署でスモールに導入するなどの方法があります。
PoCの実施期間
AI開発の初期フェーズでは、いきなり本番環境に導入するのではなく、まずPoCを実施するのが一般的です。
期間の目安は3〜6ヶ月程度で、要件整理やデータ収集、AIモデルの構築とテストを含みます。この段階で得られた知見をもとに、本番導入に向けた改善点を洗い出すことができるため、PoCは成功確率を高めるための重要なプロセスです。
業務部門や外部ベンダーと密に連携しながら進めることで、後工程での手戻りを防ぎ、スムーズなAI導入につなげることができます。
PoCから本番導入までの4ステップ
続いて、PoCから本番導入までのステップを整理していきます。
STEP1:PoC(概念実証)
小規模な環境でAIの有効性を短期間で検証します。解決したい課題を明確にし、少量のデータを用いて初期モデルを構築。KPIを設定し、効果を定量的に評価する段階です
STEP2:本番導入準備
PoCの成果と課題を踏まえ、本番環境に適した仕組みを整備していきましょう。モデルの再学習やセキュリティ・インフラ対応を進め、業務フローへの組み込み方針やマニュアルを整えます。
STEP3:本番導入・スモールスタート
限定的な業務領域で運用を開始し、実際の業務フローと連携させながら効果を検証します。またこの段階でラブル発生時の対応体制も構築しておきます。
STEP4:展開・運用最適化(MLOps)
別部署や他業務への展開を進めながら、MLOps体制(優れた機械学習システムを実現するための手法や概念)を整備します。継続的なモデルの再学習や監視を通じて、運用の安定性と精度の向上を目指しましょう。
AI開発で失敗しないためのポイント

AI開発には高い期待が集まる一方で、「開発したが使われなかった」「目的が曖昧なまま進めてしまった」といった失敗例も少なくありません。PoC(概念実証)の段階で課題と目的を正確にすり合わせておくことが、開発の成功率を左右します。
ここでは、AI開発にありがちなつまずきポイントと、それを避けるための実践的な視点をご紹介します。
課題と目的の設定
AI開発の出発点は「課題の明確化」と「目的の言語化」です。
目的が「DXを進めたい」「業務を効率化したい」など漠然としたものであると、システム要件がブレやすくなり、最終的に活用されないリスクが高くなります。
PoC段階では特に、「誰が、どの業務に、どんな成果を期待して使うのか」を具体的に定義することが不可欠です。
「業務時間を○○%削減したい」など定量的な目標設定があると、外注先との認識共有もスムーズになり、導入後の評価指標にもつながります。
社内の協力を得る
AI導入は技術の問題だけでなく、社内理解と協力体制の構築が成功の鍵を握ります。導入対象の業務部門がAI活用に懐疑的な場合や、データ提供に消極的なケースでは、開発が頓挫する恐れがあります。
「業務の一部がAIに置き換わる」ことに対して不安を抱く社員も多いため、PoCを通じて小さな成功体験を共有することが、社内の安心感と協力を引き出す助けになります。
「AIはあくまで業務を支援するパートナーである」というメッセージを継続的に伝えることで、現場の心理的ハードルを下げていくことが求められます。
まずはスモールスタートで試験導入する
AI導入は「いきなり全社展開」ではなく、「スモールスタート」が基本戦略です。
全体最適を初期から目指すと、コストも工数も膨大になり、実装前に頓挫するリスクが高くなります。
まずは小規模な業務プロセスに絞り、試験導入を通じて成果と課題を明確化することが重要です。
初期段階でのPoCの設計と実行により、必要な学習データ量やモデルの限界、業務フローとの相性が把握でき、無理のない展開計画が描けるようになります。
外注先と密に連携しておく
AI開発は高度な専門性を伴うため、外部ベンダーとの協業が不可欠です。しかし、要件の共有不足や進捗報告の不透明さから、「完成したものが想定と異なる」という事態に陥ることもあります。
要件定義の段階で、業務上のゴールを外注先としっかり共有しておくことが重要です。また、「自社とベンダーの分担を柔軟に調整できるハイブリッド開発」の体制を選ぶと、予算や社内リソースに応じた柔軟な対応が可能になります。
開発の途中でも定期的に意見交換を行い、仕様の見直しや技術的な課題への対処を前提とした設計にしておくことで、プロジェクト全体を安定して運用できます。
運用フェーズを見据えて準備する
開発が終われば完了、ではありません。AI開発は運用・改善の継続こそが本番です。そのためにも、初期の設計段階から「MLOps(機械学習運用管理)」の観点を取り入れ、運用後の学習・監視・更新まで見据えた体制構築が不可欠です。
開発から導入後の運用までを一貫して考えることで、AIを一時的な取り組みではなく、継続的に価値を生み出す仕組みに育てることができます。
AI開発であるよくある質問(FAQ)

最後によくある質問を整理します。
Q1. 社内に十分なデータがなくてもAI開発はできる?
少量のデータでもPoC(概念実証)からスタートすることは可能です。近年は、既存のオープンデータや事前学習済みモデルを活用することで、学習データの不足を補う方法も増えています。
まずは小さな業務範囲から試すスモールスタート型のPoCを検討してみるといいでしょう。
Q2. 開発は外注と内製、どちらがいい?
一概にどちらが良いとは言えませんが、初期段階では外部パートナーの支援を受けながら進めるハイブリッド型がおすすめです。
外注でPoCを進めながら、社内にAIリテラシーや運用体制を整え、将来的に内製へと移行する企業が増えています。
Q3. PoCに失敗したらどう対応すればいい?
PoCは成功だけが目的ではありません。たとえ望んだ成果が出なくても、「なぜ効果が出なかったか」という検証結果が次の改善に活かされます。
PoCの段階で課題を特定することこそが、本番導入の精度を高める重要なステップです。
自社に合ったAI開発でビジネスを成功させよう
AI開発は、ツールの導入とは異なり、自社の業務や課題に合わせて設計・構築するプロジェクト型の取り組みです。効果的に活用するためには、現場の課題を見極め、段階的に導入を進める姿勢が求められます。
また、AI開発を進める上では、開発体制や予算、運用リソースに応じて内製か外注かの判断軸を明確にし、現実的なロードマップを描くことも重要です。スモールスタートなど、リスクを抑えた進め方も多くの企業が実践しています。
ビジネスの本質に寄り添ったAI開発こそが、業務改革や顧客体験の向上につながる鍵です。国内企業のAI開発事例を参考にしながら、自社に本当に必要な技術を見極め、着実に成果へとつなげていきましょう。
SHIFT AIではAI活用のeラーニングコンテンツやワークショップを提供しています。AIの基礎知識や使い方などを身につけられる内容になっています。AI開発後に従業員が現場で活用を進める際に役立つはずです。無料相談を実施しているので、興味のある方はぜひお問い合わせください。