AIで画像や文章を作れる時代になり、業務でも生成AIの活用が広がっています。 一方で、「生成AIは本当に安全に使えるのか」「AIを使って著作権侵害などのトラブルにならないか」と不安を感じたことはないでしょうか?

実際に、AIが生成したコンテンツをめぐって炎上や訴訟に発展した事例が国内外で報告されており、企業は注意して活用する必要があります。

本記事では、生成AIに関する具体的なトラブル事例7選を紹介しながら、その原因や背景、リスクを避けるための実践的なポイントをわかりやすく解説します。

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生成AIとは?トラブル事例を防ぐための基本理解

生成AIは便利で強力なツールである一方、その仕組みや特徴を正しく理解していないと、思わぬトラブルにつながることがあります。

ここでは、そもそも生成AIとは何か、なぜ急速に普及したのか、従来のAIとどう違うのかを整理し、安全に活用するための前提知識を解説します。

生成AIの仕組みと特徴

生成AIとは、大量のデータを学習して、文章・画像・音声などのコンテンツを自動的に生み出すAI技術です。ChatGPTや画像生成AIのMidjourney、音声合成AIなどがその代表例です。これらのAIは、人間の表現パターンや文脈を理解・模倣することで、まるで人が作ったかのような成果物のアウトプットを可能にしています。

例えば、「オフィスで働く人の画像を作って」「男性の声でナレーションを用意して」などの指示を出せば、画像や音声を生成してくれるのです。まだまだ精度にすぐれないこともありますが、人に代わってコンテンツを生み出す手段として注目されています。

従来のAIとの違いとは

生成AIと従来型AIの最大の違いは、「アウトプットの柔軟性」にあります。従来のAIは、与えられたルールやパターンに基づいて判断を行うため、定型業務や数値予測などに強みを発揮してきました。一方で、生成AIは学習した膨大なデータから新たな文章や画像などを作り出すことができ、非定型で創造的な業務に対応できるという特性があります。

つまり、ゼロから何かを生み出す力を持っている点で、大きな進化を遂げているといえるでしょう。

生成AIの実際に起きたトラブル事例7選

ここでは、実際に起きた生成AIトラブルの事例を紹介します。

  1. アメリカ|AI生成記事の誤情報・盗用問題
  2. アメリカ|画像生成AIを巡る著作権侵害訴訟
  3. アメリカ|ChatGPTが生成した架空判例の引用事件
  4. アメリカ|AI音楽生成の著作権訴訟
  5. アメリカ|ChatGPTの誤断で教授がクラス全体を落第
  6. 韓国|社内の機密情報を誤って入力し流出
  7. 日本|WebサイトにAIが生成した誤情報を掲載

あなたの業務や立場に近いリスクを想像しながら、事例ごとの原因と影響をぜひ確認してください。

アメリカ|AI生成記事の誤情報・盗用問題

2023年、CNETやBankrateといった米国の大手メディアが、AIで自動生成された記事を告知なく公開していたことが明らかになりました。これらの記事には誤情報の記載や、他記事からの無断引用が含まれていたため、社内の記者が強く反発。結果的に、CNETは一部記事の削除と公開停止に追い込まれました。

この問題は、AIによる記事生成が正確性や著作権の観点で十分な配慮なしに使われたことで起きたトラブルです。AIの出力をそのまま信頼するのではなく、編集者やライターが最終チェックを行う必要性を示す事例として、業界に警鐘を鳴らしました。

出典:「AIが作成した記事」で波紋のCNET、従業員が労働組合を結成して対抗する理由 | WIRED.jp

アメリカ|画像生成AIを巡る著作権侵害訴訟

2023年、米国で著作権を持つイラストレーターや写真家たちが、画像生成AI「Stable Diffusion」などの開発元を著作権侵害で提訴しました。訴訟では、学習データに無断で作品が含まれていたことが問題視され、AIが作り出す画像に「元の作品に酷似した要素」がある点が争点となっています。

この訴訟は、AIが学習に用いるデータの適法性や、生成物の著作権帰属を問い直す重要なケースです。イラスト制作や写真加工など、クリエイティブ領域でAIを使う企業にとって、法的リスクを正しく認識することの必要性を示しています。

出典:ゲッティイメージズ、画像生成AI「Stable Diffusion」開発元を提訴–著作権侵害で – CNET Japan

アメリカ|ChatGPTが生成した架空判例の引用事件

2023年、米国で弁護士がChatGPTを使って作成した訴状に、実在しない架空の判例が記載されていたことが明らかになり、大きな波紋を呼びました。弁護士はAIの生成内容をそのまま引用し、実際には存在しない裁判例を複数件提示していたのです。

この事件は、生成AIの出力に事実確認を行わなかったことが招いた典型的なトラブルです。「AIが言ったから正しい」と思い込まず、必ず裏取りが必要であることを強く印象づけました。

出典:ChatGPTで資料作成、実在しない判例引用 米国の弁護士 – 日本経済新聞

アメリカ|AI音楽生成の著作権訴訟

2023年、音楽出版社や作曲家たちが、AIにより作曲された楽曲が自らの既存作品に酷似しているとして、AI開発企業を相手取って著作権侵害訴訟を提起しました。特に、AIが訓練に使ったデータセットの中に、著作権保護下の楽曲が無断で含まれていたことが問題視されています。

この訴訟は、音楽のように「感性」や「類似性」が争点になる領域において、AIによる創作と著作権の境界線がどこにあるのかを問う重要な議論となりました。

AIで楽曲や音源を生成する企業やにとって、生成物の出所や著作権保護の意識を持つことが今後ますます求められるでしょう。

出典:ASCII.jp:米3大メジャーレコード会社、音楽生成AI「Suno」「Udio」を著作権侵害で提訴

アメリカ|ChatGPTの誤用でクラス全体が不合格に

2023年、米テキサスA&M商科大学で、ある教授がChatGPTを盗作検出目的で誤用したことで、クラス全員を不正とみなして「不合格」としました。AIで確認したところ、すべてのレポートがAIによる生成と判定されたため、教授は学生全員に追試または単位の放棄を迫る判断を下したのです。

しかし、ChatGPTには生成コンテンツの出所を判別する機能がなく、本来は盗作判定に適していないツールです。一部の学生がGoogleドキュメントの履歴などで潔白を証明し、大学側も調査を開始しましたが、この事件は学術的信頼をAI誤用で揺るがす事例として注目されています。

出典:ChatGPTの誤断で教授がクラス全体を落第させることに | Ubergizmo JAPAN

韓国|社内の機密情報を誤って入力し流出

サムスンの半導体部門では、生産性向上のために試験的にChatGPTの利用が認められていました。しかし、運用期間中に3件の情報漏洩が発生。いずれも、コードや議事録といった業務に関連する機密情報をChatGPTに入力してしまったことが原因でした。

ChatGPTなどのAIは入力された内容を学習に使うことがあります。必要な情報以外は入力しないなど、機密情報を漏らさないための対策が必要であることを示す事例です。

出典:サムスン、ChatGPTの社内使用禁止 機密コードの流出受け | Forbes JAPAN

日本|WebサイトにAIが生成した誤情報を掲載

福岡県の魅力を紹介する自治体後援のキャンペーンサイトにて、生成AIを活用して作成された記事の中に、実在しない観光名所が紹介されるという問題が発生しました。

Web制作会社が生成AIを用いて記事を作成した結果、誤った観光情報が含まれていたことが指摘されたのです。その結果、誤情報は削除されるとともに、サイトは閉鎖されました

この事例は、生成AIが事実と異なる情報を生成するリスクを示しています。また、AIが生成した誤情報の発信が大きな損害につながることもわかるでしょう。

出典:生成AIで福岡のPR記事作成→“架空の祭りや景色”への指摘が続出 開始1週間で全て削除する事態に – ITmedia AI

生成AIの問題点とは?トラブルを招く原因

生成AIは業務効率化を支える一方で、著作権や誤情報など、実用面でのリスクも浮き彫りになっています。このパートでは、なぜ生成AIが問題を引き起こすのか、よくある原因や構造的な課題をわかりやすく解説します。

著作権の侵害が起こる

まず、生成AIによって出力された画像や文章が、既存の著作物や人物の権利を侵害してしまうリスクが考えられます。画像生成AIが学習した元のデータに、著作権のあるイラストや写真が含まれていた場合、その影響を受けた作品が無意識に出力されることがあります

特に注意が必要なのは、キャラクターや実在の人物に似たビジュアルを生成するケースです。知らずに使った画像が実は誰かの著作物に酷似していたといった事態が発覚すれば、企業の責任が問われかねません。

業務で生成AIを活用する際は、出力物をチェックし、権利の問題をクリアした状態であることを確認しましょう

無許可でデータ学習に使ってしまう

生成AIを使うとき、意外と見落とされがちなのが「入力内容の取り扱い」です。特に、無料版のAIサービスでは、ユーザーが入力した内容が自動的に学習データとして再利用されることがあります

この設定を知らずに、社内資料やクライアント情報などを入力してしまうと、意図せずその情報が他人への出力結果に反映される可能性もあります。

これは、「入力された情報を学習に使う」ことを明記しているサービス利用規約を読んでいなかったために起こる無自覚な情報漏洩とも言えます。契約書、提案書、設計図などの機密文書を入力しないよう注意が必要です。

生成された情報が誤っている可能性がある

生成AIは非常に便利な反面、誤情報を出力する可能性は指定できません。情報が最新のものではなかったり、そもそも内容が間違っている場合があります。

その情報を元にした記事や提案資料を納品した結果、企業の信頼を損ねたり損害賠償を請求されたりするなどのトラブルにつながるかもしれません。

AIが出した情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、事実確認・裏取りを欠かさないことが、トラブル回避の第一歩です。

生成AIを使う前に押さえておきたい3つの注意点

生成AIの利用方法を誤ると大きなトラブルにつながります。事前に対策を実施した上で、安全に生成AIを運用しましょう。

ここでは、生成AIを安全に使うための視点を整理します。

社内での利用ルールを明確にする

生成AIを使う際に社内・チーム内で最も重要なのが、「何を入力してよいか/してはいけないか」などのガイドラインを明確にしておくことです。入力内容によっては、社内情報の漏洩や、学習データへの意図しない提供につながる可能性もあります。

顧客情報や未発表のアイデア、取引先名などの入力は禁止事項に含めておくべきです。また、どのツールを使ってよいか、無料版と有料版の使い分け方なども明文化しておくと混乱を防げます。

ルールは策定するだけでなく、運用されて初めて意味を持ちます。社内での共有や定期的な見直し、研修の実施を通じて、安全な運用体制を築いていきましょう

コンテンツを学習させる際は許可を得る

イラストや写真など、誰かが作ったコンテンツをAIに学習させる際には許可を得ることが重要です。著作物に酷似したコンテンツの生成だけでなく、訴訟などの法的なトラブルに発展する可能性があります。訴訟になるだけで企業のイメージが悪化する可能性は否定できないでしょう。

他人が作成したコンテンツを利用する場合は、許諾を得てから使うことを心がけましょう。

AIで作られたコンテンツは人の手で確認する

生成AIによる文章や画像は一見自然に見えても、事実誤認や権利侵害を含む可能性があるため、成果物をそのまま使用するのは危険です。

文章では、専門性が高いテーマでの用語誤用、情報源のないデータ提示、無断引用が含まれていることがあります。画像の場合も、著名人に似た顔や実在企業のロゴに類似した要素が混ざってしまうケースがあり、思わぬトラブルの原因となります。

生成結果に満足して終わりにせず、「誰かに誤解を与える要素がないか」「出典確認できるか」を人の手で確認することが大事です。コンテンツのチェックを社内のフローに組み込むことが効果的でしょう

生成AIトラブルを防ぐための法律と著作権の基礎知識

生成AIによって作られたコンテンツには、著作権や学習データの利用に関する法的な課題がつきまといます。

ここでは、国内外のルールや最新の法改正の動きを整理し、必要な理解を深めていきます。

AIによる生成物は誰のもの?著作権の考え方

生成AIによって作られた文章や画像には、「誰に著作権があるのか?」という疑問がつきまといます。現行の日本の著作権法では、著作権は「人間の創作によるもの」にのみ発生すると定められており、AIが単独で作り出したコンテンツに著作権は認められていません。

つまり、AIが生成したコンテンツには原則として著作権が存在せず、誰でも自由に使えるという扱いになる可能性が高いです。ただし、AIの生成物を基に人間が編集・構成し、創作性が加わった場合は、その部分に著作権が認められる可能性があります。

一方で、AIが著作権侵害となる素材を元に生成していた場合は、企業側にも責任が及ぶリスクがあるため注意が必要です。AIを活用する際は、その出力物の権利関係にも意識を向け、商用利用時には十分な確認を行いましょう。

参考:著作物って何?公益社団法人著作権情報センター
参考:A I と 著 作 権|文化庁HP

AIが学習に使ったデータが違法だった場合は?

もし、違法に集めたデータで学習したAIが生成したものを使ってしまうと、そのコンテンツまで著作権侵害と見なされる可能性があります。

著作権の侵害と見なされた場合、訴訟などのトラブルに発展し、損害賠償を請求されるなどのトラブルにつながるかもしれません。金額はケースによって異なりますが、数十万から数百万円になることが一般的です。損害の金額によってはそれ以上になることも考えられます。

企業の経営に打撃を与える可能性があるため注意が必要です。

参考:著作権侵害の賠償金はどのくらい?ポイント・請求手順・対処法も徹底解説|春田法律事務所

国内の法改正の動き

日本では生成AIの利用をめぐる法整備が本格化しています。2023年、日本では文化庁が「生成AIと著作権に関する検討会」を立ち上げ、AIの学習や出力に関するルールづくりが始まりました。

まだ検討が進められている段階ですが、生成AIの利用について法律が整備されていくことが予想されます。現在違法ではない行為も違法になる可能性は否定できません。日頃から著作権の侵害に配慮するなど、安全な利用を心がけておくことが重要です

参考:文化審議会著作権分科会法制度小委員会 「AIと著作権に関する考え方について」 【概要】

まとめ:生成AIで起こるトラブルを知り、安全にビジネスへ活かす力を手に入れよう

生成AIは、業務の効率化やクリエイティブ支援など、ビジネスにおける可能性を大きく広げてくれる存在です。しかしその一方で、著作権侵害や誤情報の拡散、意図しない情報漏洩といったトラブルも発生しており、「知らなかった」では済まされないリスクが潜んでいます。

今回ご紹介した事例や注意点は、企業に起きてもおかしくないリアルなリスクです。だからこそ、活用前にルールを定め、仕組みや法的な視点を理解したうえで、安全かつ戦略的に導入することが重要になります。

生成AIを恐れず、正しく使いこなすことが、信頼されるビジネスの第一歩です。今後も安心して活用を進めていくために、知識と対策を備えていきましょう。

SHIFT AIでは、AIを安全に活用するための支援をしています。AIの機能や使い方などを学べるeラーニングコンテンツの提供や導入支援の相談を実施しています。AI活用をお考えの方はぜひお気軽にお問い合わせください。

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